決算期を変更することで、より効率的に経営を行うことができる場合があります。
日本では大手や上場企業が3月を決算期としているイメージがありますが、決算期は企業の特徴に合わせて設定した方がメリットは増えるものです。
また、実際に企業を経営する中で起業当時とは変わった状況もあることでしょう。今回は、決算期の変更のやり方と注意点について解説します。
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目次
決算期とは
決算期の変更について説明する前に、まずは決算や決算期について確認していきましょう。
決算とは
第一に「決算」とは、企業経営の1年間の総括のようなものです。企業は決算期に向けて1年間の収支を算出し、利益と損失を把握します。決算期は1年間の業績を振り返る機会でもあります。次年度の予算決めや指標の立案、改善点を模索する基盤にもなるでしょう。
決算期の決め方
日本では公的機関の予算編成が3月決算であるため、それに合わせて決算期を3月にしている企業が多く見られます。そのため、「他社と足並みを揃えるため」といった理由で、起業時に3月決算に設定するケースがあります。しかし、実のところ決算期は経営者が任意で決めることが可能です。取引先に公的機関がない企業の場合は、3月決算や12月決算にこだわる必要はないでしょう。
決算ではかなりの労力を割くことになるため、決算期の決め方としては「繁忙期を避ける」というのがおすすめです。事業内容によっては、特定の月を繁忙期と断定できない場合もあります。その場合は、年間の中でも忙しいシーズンを避けて決算期を決めるのが良いでしょう。
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決算期変更のメリット
次に決算期変更のメリットについて見ていきましょう。決算期変更のメリットは主に4つあります。
節税になる
決算期を変更して得られる最大のメリットは、「節税になる」という点です。
例えば、決算月に多大な利益が出ると、決算後に支払うべき税金まで跳ね上がってしまいます。節税対策のために決算期を変更し、大きく利益が出た月の計算は翌年に持ち越す、という方法を取る企業は多くあります。
節税対策を目的とした決算期変更は、複数の節税対策を組み合わせることで効果が倍増します。同時に取り組むことが望ましい節税対策としては、役員報酬の変更のほか、「経営セーフティー共済 (中小企業倒産防止共済)」の活用、生命保険での「簿外資産の積み立て」などがあります。
資金繰りをコントロールできる
資金繰りをコントロールできるようになるのも、決算期変更のメリットです。法人税は決算日の2カ月後までに納税する必要があります。
そのため、例えば「決算月の真っ只中に大きな利益が出そうだ」と予想できた場合、事業年度が始まる段階で決算期を早めることで、予期せぬ大きな売り上げ分を来期に持ち越せます。これによって、決算日の2カ月後に収めるべき納税額が跳ね上がるのを避けることができるのです。
売掛金の回収ができるのは、売り上げのあった月の1〜2ヶ月後となることが多いでしょう。そのため、ピークの時期の2ヶ月後くらいが最も資金繰りの良い時期になります。また、期末に現金残が多ければ、来期に向けて資産を購入したり、従業員に賞与を支給することで税金対策も可能です。
役員報酬変更のタイミングを変えられる
役員報酬は原則で「毎月一定金額」であることが定められているため、同じ決算期内で増減させることができません。これは、法人が利益を調整するために役員報酬を増減させることを防ぐためです。役員報酬を上げることだけでなく、「役員報酬を下げて法人利益を増やす」という変更も「業績悪化改定事由」に関わるため、それなりの理由や要件が必要とされます。
役員報酬変更のタイミングを変えたい場合、「決算期末日から3ヶ月以内に株主総会を開催する」というのが一般的です。つまり、期が変わると共に株主総会で役員報酬の支給額を変更できるということです。
決算業務に余裕が持てる
決算月が繁忙期にあたってしまうと、通常の業務が忙しいところに、決算特有の慎重な作業がのしかかってきます。経理担当者が他の部門も兼任しているような中小企業の場合は、特に大変なことになるでしょう。決算予測や節税対策をする際は、経営者や経理、税理士などを集めての打ち合わせも不可欠です。決算期を時間的に余裕のある時期に変更することで、各部門の連携や決算業務に余裕が生まれ、ミスの防止にも繋がるというメリットが得られます。
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決算期変更の際の注意点
決算期の変更は多くのメリットもあると同時に注意点もあります。決算期変更を考える際は以下の注意点を頭に入れておきましょう。
変更手続きに時間と手間がかかる
決算期を変更する際、「手続きに時間と手間がかかる」というのは明らかです。決算期は登記事項ではないため、手続き自体は難しいものではありませんが、定款変更などの作業は発生します。また、決算期は早めることはできても遅らせることはできません。決算期を変更すれば当期は12ヶ月未満となるため、決算までの期間も当然短縮されます。そのたびに決算事務の負担が増すことを考えると、何度も決算期を変更することは現実的ではないでしょう。
前年との比較が難しくなる
決算期を変更すると事業年度は短くなります。そのため、前年までの財務データをスライドさせて数値を比較することは難しくなるでしょう。企業の業績の変化を確認するために、事業年度別に損益計算書を比較することは珍しくありません。決算期変更後は前期と当期の期間が異なるため、損益計算書上の数字を単純に比較しても業績の良し悪しは判断できなくなります。この場合、前期の数値を2/3倍することで簡易的な比較は可能です。しかし、月ごとで売上や費用の発生に変動がある場合は、あまり参考にならないので注意が必要です。
納税が前倒しになる
決算期延長を申請していない場合、法人税・地方税・消費税の納付期限は決算期末の2ヶ月後となります。決算期を変更すると、事業年度は1年未満となる一方で納税期限は変わりません。納税が前倒しになるということは、一時的にまとまったお金が必要になるということなので資金繰りに影響が出るケースもあります。このデメリットは、「期末に売り上げが大きく跳ね上がり、納税額が増えそうだ」と予想できる場合、決算期を変更して節税することで軽減できます。とは言え、納税が前倒しになることに少しでも不安を感じる場合は、決算期変更の可否を慎重に検討するべきだと言えるでしょう。
税金の計算が複雑になる
法人税法において、減価償却資産の償却限度額の計算は「事業年度が1年であること」が前提です。そのため、決算期を変更した事業年度は月数に応じて計算時の調整が必要となります。
法人の場合、消費税の計算期間を判定する「基準期間」は、基本的に「前々事業年度の課税売上」を参照します。1年未満の事業年度が発生すると、決算期変更後の事業年度における「基準期間の課税売上」は、「前々事業年度の課税売上」とすることができなくなります。つまり、決算期を変更した事業年度以降も、税金の計算時には留意が必要となります。
また、中小企業の所得に対する軽減税率は年800万円まで適用されますが、変則決算の場合は該当する800万円を事業年度の月数に応じて調整・計算しなければなりません。さらに、事業年度が1年未満の法人は、住民税均等割の計算や事業税の軽減税率、地方自治体ごとの超過税率など、年額で示されている項目の調整も必要となります。
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決算期変更に必要な手続き
ここからは実際に決算期変更する際に必要な手続きについて説明します。
株主総会の開催
決算期変更にあたり定款を変更する際は、株主総会を開催して特別決議をとる必要があります。株主総会には発行済株式総数の過半数を有する株主が出席し、そこで3分の2以上の賛成を得ることで「事業年度の変更」が成立します。特例有限会社の場合は、議決権の4分の3以上の賛成が求められます。決議後は、決議内容を記載した「株主総会議事録」を作成します。小規模グループ企業の場合は株主総会を行わず、必要書類として株主総会議事録のみ作成するケースもあります。
定款の変更
事業年度の変更時に登記は不要ですが、定款の変更は必須となります。定款の変更は株主総会議事録と合わせて初めて完了します。定款変更後は、最初の事業年度を1年6ヶ月以内までに設定することが可能です。
異動届の提出
事業年度は登記事項にあたらないため、法務局への届け出は必要ありません。ただし、所轄の税務署や都道府県税事務所、市区町村役所へ「異動届出書」と「定款変更の決議をとった株主総会議事録のコピー」を提出する必要があります。その他、必要な場合は主要取引先や金融機関への連絡を行います。
なお、許認可事業を行っている場合は、管轄の省庁等への届け出を要することもあるので注意しましょう。異動届出書は、国税庁のWebサイト(https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/010705/pdf/2801h006.pdf)にて取得できます。
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まとめ 決算期の変更は十分検討した上で行おう
経営の状況に合わせて決算期を変更するのは有効な手段です。変更手続きにあたり、時間と手間を割く必要はありますが、届け出費用など金銭面の負担はありません。
もちろん、「節税できる」「資金繰りに余裕が生まれる」といったメリットだけではなく注意点も存在します。決算期変更については、自社におけるメリット・デメリットをしっかりと検討するようにしましょう。
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