フォロワーシップとは、組織としての成果を最大化するために、チームメンバーがリーダーを支援する能力のことです。
皆さんには「良い部下」はいますか?また、自分は上司にとって「良い部下」ですか?
強い組織を作るために、リーダーとそれを支援する人々の信頼関係が大切なのは言うまでもありません。
しかし、それは「リーダーシップ」だけで築けるものではなく、その周りの人々の力に大きく左右されるのです。
今回は「フォロワーシップ」について学ぶことにより、リーダーを支援する人々の在り方と、日本企業の課題について考察します。
<<あわせて読みたい>>
メタバースとは?メタバースの語源や意味、具体例をわかりやすく解説!
DXとは?なぜDXと略すの?デジタルトランスフォーメーションの意味や定義をわかりやすく解説
目次
「フォロワーシップ」とは
以前はアメリカを中心にリーダーシップ論ばかりが研究されてきましたが、1990年代の初め、組織力の向上のためにはチーム全体の力が必要であり、リーダーシップ論だけでは不十分だという考えが起こり始めました。[1]
そうした中、カーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授が、著書『The Power of Followership(1992年)』で初めてこの概念を「フォロワーシップ」という言葉で表現したのです
ここでいうフォロワーとは、リーダーを支援する周辺の人々のことで、会社で言えば部下やチームメンバーを指します。それでは、フォロワーにはどのようなタイプがあるのか見てみましょう。
フォロワーの5つの類型
ロバート・ケリー教授は、著書の中でフォロワーを5つのタイプに分類しています。分類の基準としたのは、「貢献力」と「批判力」という2軸からなるマトリクス図です。[2]
貢献力とは、自らの実力を発揮してリーダーを支援し、 組織の目的達成に貢献する力のことです。評価の基準は、「積極的に関与しているか」がポイントになります。
それに対して批判力とは、指示を受けるだけではなく自らの意見を述べたり、必要であればリーダーの方針を正すことのできる力です。評価の基準は「主体的に行動しているか」です。
この2つの基準をもとにフォロワーを分類したものが、下記5つのタイプです。
1.模範型フォロワー「協働者」
貢献力「高」(積極的)、批判力「高」(主体的)の理想的なタイプです。
主体的、かつ積極的に動ける良きフォロワーであるだけでなく、時にリーダーシップを発揮する事もできる、将来のリーダー候補と考えられるでしょう。
2.孤立型フォロワー「破壊者」
貢献力「低」(消極的)、批判力「高」(主体的)の評論家タイプです。
批判するばかりで自らは積極的に動かないため、周囲から孤立する事も多いでしょう。リーダーやメンバーと信頼関係を築くことが出来れば、「協働者」となるポテンシャルも持っています。
3.順応型フォロワー「従事者」
貢献力「高」(積極的)、批判力「低」(依存的)のイエスマンタイプです。
一見良きフォロワーに見えますが、リーダーへの依存度が高いため、このタイプが多い組織は発展性が低くなることがあります。指示通り都合よく動いてくれるので、このタイプばかりを重宝するリーダーが多いことが問題視されています。
4.消極型フォロワー「逃避者」
貢献力「低」(消極的)、批判力「低」(依存的)の強制労働者タイプです。
自ら考えることをせず、指示されたことを嫌々ながら最低限こなすだけの人々です。フォロワーシップの考え方には当てはまらない組織との関わり方です。
5.実務型フォロワー「実践者」
貢献力、批判力ともに「中」の凡庸なタイプです。
自らの業務の範囲内でフォロワーシップを発揮します。ストレッチした目標に挑戦することで、「協働者」を目指すことが可能です。
「フォロワーシップ」の重要性
ロバート・ケリー教授の研究によると、組織が出す結果に対してリーダーが及ぼす影響力は1割~2割程度で、残りの8割~9割はフォロワーの力に左右されると言われています。[3]
たとえリーダーがどんなに素晴らしいビジョンを示すことができたとしても、メンバーがそれをかみ砕いて具現化することができなければ、まさに「絵に描いた餅」と言わざるを得ません。
また、リーダーの決定に対しメンバーが常に従順に従うだけの組織では、もし誤った方向に進みだしても誰にも止められず破滅の一途を辿る恐れがあります。
組織力を向上させるには、トップの資質もさることながら、メンバー全員がフォロワーシップをどれだけ発揮できるかにかかっていると言っても過言ではないでしょう。
「リーダーシップ」との関わり方
フォロワーシップとは、リーダーとの関わりの上で成立する概念であり、単独では組織への影響力を発揮することはできません。
例えば、リーダーの役割の一つが「決定する」ことであるのに対し、フォロワーの役割は「提言する」(健全な批判をする)ことであるため、場合によってはリーダーと対立するような構図に見えることもあるでしょう。
しかし、ここでリーダーが過度に自己防衛の態度をとったり、フォロワーの提言を無視、または排除したりすると、せっかくのフォロワーシップが発揮されないばかりか、組織の向上力は低下してしいます。リーダーとフォロワーそれぞれがお互いの役割を理解し、積極的に影響を及ぼしあうことで組織は活性化されるのです。
「フォロワーシップ」の対象
前述のとおりフォロワーとは、リーダーを支援する人のことですので、リーダーを持つ人はすべてフォロワーシップの対象となります。
また、筆者の場合もそうですが、チームメンバーにリーダーシップを発揮しながら、同時に上司に対してはフォロワーシップを発揮する立場にある人も多いでしょう。
まずは、自分自身が上司に対して良き「協働者」となることによって、自分のチームではフォロワーの役割を理解した上でリーダーシップを発揮することができるのではないでしょうか。
<<あわせて読みたい>>
日本企業の現状と課題
これまで「フォロワーシップ」について学んできましたが、この考え方は今からすでに25年以上前に、ロバート・ケリー教授などによって提唱されたものです。
それによると、フォロワーに必要なのは「貢献力」と「批判力」の両方であることがわかりますが、もともと昔から日本人にはリーダーを批判するという意識が薄く、現在でもあまり根付いているとは言えません。
そのため、米国におけるフォロワーシップの定義では「批判力」となっていますが、日本では「提言する力」として用いられることが多いのも事実です。
「扱いやすい部下」=「良い部下」とは限らない
ここで筆者の仕事上の経験を一つご紹介しましょう。
数年前、部署異動で前任者の部下を引き継いだ際、新しく部下となるメンバーの評価一覧表を見せてもらったのですが、その評価項目の中に「マネジメントのし易さ」というものがあったのです。
その評価項目は前任者が独自に作成したものだったのですが、反対意見を述べる人は「マネジメントが難しい」とされて評価が低くなっており、重要なタスクを任されていないようでした。つまり、前述の「フォロワーの5つの類型」に当てはめると、評論家タイプの「破壊者」とみなされていたのでしょう。
私が着任した後も、そのメンバーは施策に対し意見する事が多く、確かに煙たい存在ではありました。しかし、よく考えてみると、彼の得意分野であるミス対策においては、非常に的確な指摘を行っていることが分かったのです。
そこで、彼をミス対策プロジェクトの主担当に抜擢したところ大いに活躍し、周囲からも一目置かれる存在となったばかりか、リーダーである私の右腕と称されるまでに成長したのです。その様子を見た前任者が、「本当に同一人物ですか?」と目を丸くしたのを覚えています。
扱いが難しいからといって敬遠したり排除するのではなく、その意見に耳を傾けて対話を重ねることで「破壊者」から「協働者」に成長させることができた、よい事例の一つと言えるでしょう。
日産自動車での事例
日産自動車といえば、代表的な日本企業の一つと言えるでしょう。しかし近年、日産では検査における不正や前会長であるカルロス・ゴーン氏の不正疑惑などが報じられており、経営陣と現場との認識の違いや、コーポレートガバナンスの問題も指摘されています。
「もしカルロス・ゴーンがいなかったら、今頃日産は無くなっていただろう」
そう多くの人が語るように、1999年に来日してからの数年間で、瀕死の状態であった日産自動車を復活へと導いたゴーン氏の功績には目覚ましいものがありました。[4]
しかし一方では、自分の意にそぐわない者は排除し、周りにはイエスマンだけが残ったと評価するメディアもあります。[5]
前述の「フォロワーの5つの類型」で、理想的なフォロワーとは、貢献する力と批判する力をバランス良く発揮して組織の成果を出そうとする「協働者」であることを学びました。
しかし、批判的な人物を排除し、自分に同調するイエスマン以外は周りに置かないようなリーダーだったとしたらどうでしょう。従順に貢献するだけでリーダーを批判することのできない「従事者」ばかりが揃うこととなり、リーダーが自身の行動を顧みる機会が失われてしまうのではないでしょうか。
フォロワーの存在意義
もし、リーダーが誤った方向に進んでいると思ったら、皆さんはどういう行動を取っていますか?
自分の意見をきちんと伝えられているでしょうか。それとも、反対だけして後は知らぬ振りをしたり、表面上は黙ってリーダーに従いながら、陰では同僚と愚痴を言いあったりしているでしょうか。
リーダーに意見するというのは、勇気と気力のいることですし、嫌われて今後の活動に影響が出るんじゃないかと不安になるかもしれません。
しかし、今回学んだ「フォロワーシップ」の観点から見ると、「貢献力」と「批判力」をバランスよく発揮し、リーダーを支援することこそがフォロワーにとって真の役割であり、存在意義なのです。
そのためには、まずは上司と積極的に関わり、本音で話ができる環境を築くことが大切です。
<<あわせて読みたい>>
まとめ 「フォロワーシップ」を理解して、良いリーダーを目指そう
今回はフォロワーの在り方を「フォロワーシップ」の観点から考察しました。その中で、部下がフォロワーシップを発揮するためには、まず上司がフォロワーの真の役割を理解することが必要だと感じました。
せっかくフォロワーシップを発揮しようとしている部下を潰してしまうことの無いよう、対話を重ねて良いフォロワーを育てることがリーダーの役割なのです。
その上で、組織の全員がフォロワーとしての役割を意識し、リーダーを支援することで強い組織を作り上げることができるのです。
<<あわせて読みたい>>
参照
[1] 株式会社日立総合計画研究所_フォロワーシップ
http://www.hitachi-hri.com/keyword/k055.html
[2] Types of Followership
https://i1.wp.com/onoff.ishin159.info/wp/wp-content/uploads/2015/03/followership_types.png
[3] 日本の人事部_フォロワーシップ
https://jinjibu.jp/keyword/detl/210/
[4] 週刊ダイヤモンド 2018/12/15号
特集 日産 最悪シナリオ 「ゴーン・ショックの歴史的評価」P42
[5] SankeiBiz_「イエスマンだけ残り、ガバナンスに問題」 日産元取締役・奥野信亮氏インタビュー
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/181123/eca1811230700002-n3.htm