社長や管理職にとって、頼りになる「しっかり者」の事務担当者は、なにより心強い存在。その一方で、そういったメンバーの離脱に頭を悩ませたこともあるのではないでしょうか。
まずは後任が採用できるのか?
採用できたとしても退職までの期間内に優秀な事務担当の業務の引継ぎが完了するのか?
そして、その後任者が全く「頼りにならない」なんてことも珍しくありません。
依頼した仕事が期限に間に合わなくても、ミスをしてもただ「申し訳ございませんでした」を繰り返すだけ。「なんて無責任なんだ!結局俺が全部やらないと駄目なのか!」と心の中で叫ぶ・・・そんな時、皆さんはどうやってこの局面を乗り越えてきましたか?果たしてそれは最良の方法だったのでしょうか?
少し考えてみましょう。
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私の失敗談:ある勘違い上司の話
「しっかり者」の事務担当者の育て方のお話の前に、まずは私の失敗談を聞いてください。
「え、辞めちゃうの?」
今から10年以上も昔の話です。
当時の私が所属していた会社は、リーマンショックの煽りを大きく受け、大幅な人員削減に着手せざるを得なくなっていました。
当時、支店長だった私には、右腕ともいえる「しっかり者」の事務担当者がいました。
彼は、私が支店長になってから採用し、直下で5年程勤めており、私ともツーカーの間柄。私以上に「なんでも知っている」、非常に頼りになる優秀なメンバーでした。
当然、この人員削減も彼と共に進めていました。20人いた支店メンバーはいよいよ5人に。彼は当然一緒に残って、少数精鋭部隊として共に焼け野原の中でも戦ってくれる、そう信じて疑うことはありませんでした。
そんな中、私に冷や水を浴びせられるようなことがありました。
彼が、突然退職意向を伝えてきたのです。
「え、辞めちゃうの?」
私は平静を装いながらも、内心では冷や汗が止まりません。
(どうしよう…。)
業務への不安もありましたが、それ以上に信頼していたメンバーを失うショックと、漠然とした不安が胸の底に広がるのを感じました。
さて、どうしよう。
リーマンショックで業務が極限まで減っていたので、まずは支店長である自分が一連の仕事を引き受けました。
幸い、支店が小規模な時から支店長をやっていた事もあり、事務仕事全般を把握できていました。細かい手続きのやり方や、本部への連絡ルールの確認を行えば、本部間接部門のサポートもあり業務自体は滞ることなく、進めることができたのです。
そうこうしている内に、必死に営業活動を続けてきてくれたメンバーの頑張りが功を奏して、支店の売上が回復し始めました。
そして、私も業務量の増加と供に、自分で事務作業をやっている場合ではなくなってきたのです。
そんなある時、本社採用の「頼りない」新人が不在の支店の事務担当の席を埋めるために送り込まれてきました。
成果の上がらない社員を育てるのは得意だと思っていたが・・・
その当時、私は部下育成が得意だと思っていました。
成果の上がらない営業マンが複数拠点でさじを投げられ、たらい回しになって配下に配属された時も、得意のマイクロマネジメントで、常に同行営業を繰り返し、夜中まで得意先に入り浸り、その営業マンを支店売上ナンバーワンの営業マンに変え、全社表彰を受けさせたこともありました。
「ほらみろ、どんな社員でも俺の手にかかれば成長するんだ!」と吹いて回っていました。
今思えば、天狗の鼻が伸びきったような状態だったのですが、当時は知る由もありませんでした。
そんな調子なので、今回も、本部で「使えない」とレッテルを貼られた新人の配属の相談を上司から受けると、「任せておいてください!」と自信満々で引き受けました。
そして、その新人の席を自分の隣に置き、朝から晩まで細かく指示を出し続け、全ての仕事をチェックし続けました。
予想外の結末
しかし、結論から言えば、その部下が「しっかり者」になることはありませんでした。
納期を守らない。ミスは多発する。注意すると、「申し訳ございませんでした。」とうつむく。反省の態度こそ示すものの、仕事の精度が上がる気配は一向にありませんでした。
ここぞという踏ん張り時は、こっちも心配なので一緒に休出したり残業したりするものの、それでも仕事の精度は上がりません。私がやり直すこともありましたし、本部から指導を受ける頻度が減ることもありませんでした。
当然、こちらの語気も荒くなります。
「謝るのはいいよ。本当に申し訳ないって思ってるのか?ちゃんとやってくれよ!」
滾々と説教を繰り返し、私のストレスも頂点に達していました。
6ヶ月ほどその状態が続いたある日、私は突然本部の人事部長から呼び出されたのです。
「残業を無理強いしていないですか?また、強い言葉で叱責をしていないですか?パワハラを受けているという訴えが匿名の部下からありました。周囲もその状況を証言しています。」
「え?」
思いもよらぬ言葉に、私は頭が真っ白になりました。
誤解していた、部下育成
私は、ある部下のことに思いを馳せていました。
それは、自分で育てあげたと思っていた営業マンのことです。
彼は全社表彰されたにもかかわらず、それからその後すぐに退職しました。思い返せば、彼は在籍中体調を崩すことも多く、いつも辛そうな顔をしていました。彼は最後まで自分で考えたり、権限を主張してくることはなく、ただ毎日私に「申し訳ございません」と言い続けていたのです。
私は、本当に彼を「成長」させられたのでしょうか?
仕事を楽しいと思っていたのかな、と想いを巡らせますがそういった様子はなかった気がします。
私の部下育成は決定的に間違っていたのです。
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同じミスをする管理職を一人でも減らす為に
時がたち、私は過去の反省から“正しい”マネジメントを教える識学講師となり、ある社長に出会いました。
そして、こんな相談を受けたのです。
「頼りにならない新人の経理担当がいるので、席を隣において管理育成をしようと思っています。どう思いますか?」
私は、過去の自分の失敗が脳裏によぎり、はっきりと以下の事をお伝えしました。
①まず、部屋を別にしてください。
②そして、コミュニケーションは毎朝5分だけとってください。
その内容は、
- 昨日のやるべき事が全てできたか。(出来ていないなら何を改善するのか。)
- 本日のやるべきことの確認。(それを遂行する上での弊害や必要な権限、不明なルールは無いか)
の2つに絞ってください。
そして、もしミスがあれば、その場で二度とそういったミスを犯さないことを約束させてください。
また、評価については、四半期ごとの作業タスクの一覧とそれを期限通りにミスなく出来たかを管理できる表を作り、それで評価をしてもらいました。
社長には、その通りに管理を行っていただきました。
1ヶ月後、「部下の調子はどうですか?」とお伺いすると
「納期漏れがなくなり、ミスも出ない。わからないことがあったら、今までは相談もせずそのまま放置していたのが、今では自分から確認にくるようになりました。見違えるほど“しっかり者”になってきました。ありがとうございます。」
と回答をいただきました。
識学では、部下の「やり方」に口を出さずに「結果」で管理をするように指導しています。
それは、どんな部門、どんな業種においても、共通しています。
もっと詳しく知りたい方は、是非一度識学の門を叩いてみてください。自己流の「管理方法」は、誰かを傷つけているかもしれません。
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