コンティンジェンシー理論とは、組織がよい成果をあげるためには「環境」や「コンテクスト」に適応した構造になることが必要であるという理論です。
簡単に言うと、「組織の在り方を環境や状況に適合させる」ということです。
社会福祉の分野でもよく語られるコンテンジェンシー理論ですが、コロナ禍、VUCAの不安定な時代だからこそ再度見直すべきだとの主張が出ています。
本記事では、コンティンジェンシー理論の定義、生まれた背景、メリットと限界をわかりやすく解説します。
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目次
コンティンジェンシー理論とは
コンティンジェンシー理論とは、組織がよい成果をあげるためには「環境」や「コンテクスト」に適応した構造になることが必要であるという理論です。
ここでいう「環境」に以下は二つの意味があります。
- 一般環境:政治、経済、文化、社会
- タスク環境:企業、ディーラー、顧客
「コンテクスト」とは、企業内で内部組織に影響を及ぼす要素のことで、組織の目標、戦略、技術、規模などを指します。
コンティンジェンシー理論は、組織の在り方を環境や状況に適合させるという側面から、「環境適合理論」や「状況適合理論」と呼ばれることもあります。
リーダーシップの観点では、どのような環境・状況にも適合する「唯一最適なリーダーシップ・スタイル」というものは存在しないという見解に立っています。
つまり、環境やコンテクストに応じて有効なリーダーシップのスタイルは異なるということです。
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コンティンジェンシー理論と条件適合理論の違い
コンティンジェンシー理論と類似した意味を持つ理論に「条件適合理論」があります。両者の意味は以下の通りです。
- コンティンジェンシー理論:組織の在り方を環境や状況に適合させる
- 条件適合理論:行動理論の示唆する能力のみが組織を最適化するのではなく、環境条件に適応した行動が、組織を最適化できる
ほとんど同義のように見えますが、コンティンジェンシー理論は条件適合理論の「ひとつ」という違いがあります。
条件適合理論に該当する理論としては、コンティンジェンシー理論の他に、「パス・ゴール理論」「SL理論」があります。
コンティンジェンシー理論がコロナ禍に注目される理由
コロナ禍になり、私たちの当たり前は大きく変化しました。
例えば、マスクをつけるという行為は日本では比較的よく見られましたが、海外では元々マスクをつける文化がほとんどなかった国があります。
しかし、私たちは環境要因に否応無しに対応していかなければなりません。
企業も同様です。今までは部下をすぐに隣で指導することができましたが、コロナ禍でリモートワークが進む中で、部下が何をしているのかわからない上司も出てきています。
このような中では、部下に対しては曖昧な指示ではなく、的確な指示を出し、上司は部下のタスクを管理する必要があります。
コンティンジェンシー理論が注目されるのは、上記のような急激に変化する環境への、早急な対応が必要になった理由があります。
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コンティンジェンシー理論誕生の背景
コンティンジェンシー理論は、1960年代に生まれた理論で、バーンズ&ストーカー、ウッドワード、ローレンス&ローシュ、フィドラーなどによって提唱されました。日本では1980年代に、加護野忠雄などによって論じられています。
それでは、これらの研究者が「環境や条件によって、有効な組織の在り方が異なる」という考えを提唱した背景について見ていきましょう。
「コンティンジェンシー理論」以前のリーダーシップ論
コンティンジェンシー理論が生まれた背景として、まずはそれ以前のリーダーシップ論を二つご紹介します。
リーダーシップ資質論(~1940年代)
リーダーシップ資質論は、古典的なリーダーシップ論の一つであり、1940年代頃まで主流とされていた理論です。
「リーダーは作られるものではなく、生まれながら持つ資質である」という考え方で、優れた才能のある人こそがリーダーと成り得るとされていました。
古くはプラトンの「国家論」においても「英知を持ったリーダーが国を治めよ」と唱えられています。
リーダーシップ行動論(1940年代~1960年代)
リーダーシップ行動論は、1940年代頃から提唱されたリーダーシップ論です。
それ以前のリーダーシップ資質論とは反対に、「リーダーとは行動によって作られるものである」という考え方に基づいています。
「機能論」または「職能論」とも言われ、訓練によって組織を導くための行動を身につけた人がリーダーになるとされました。
組織力を向上させるには、実際に課題を達成する機能(Task)と、人間関係に配慮し、集団を維持する機能(Relation)が必要であるという考え方です。
時代の変化とリーダーシップ論
1960年代になると、技術の発展やニーズの多様化により、企業などの組織においては生産や販売のプロセスがより複雑化していきました。また、企業の多国籍化に伴って、その事業は広範囲な地域にまたがり、より複雑な経済的・文化的条件の下で営まれるようになっていました。
そのように多様で複雑な環境では、あらゆる状況に有効な「唯一最適なリーダーシップ・スタイル」を求めていた従来のリーダーシップ論では対応できなくなってきたのです。
多様化の時代に対応すべく、リーダーシップ論においても様々な異なる条件の下での研究が行われるようになり、その中で生まれたのが「コンティンジェンシー理論」です。
それでは、どのような研究が行われてきたか、代表的な事例を三つご紹介します。
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コンティンジェンシー理論の歩み①:バーンズ&ストーカーの『有機的組織』
一つ目の例は、イギリスの社会学者バーンズと、心理学者ストーカーによって行われた、エレクトロニクス分野における事業組織の構造についての研究です。
バーンズとストーカーは、イギリスの20の企業を調査し、それらの組織構造と業績の関係について考察しました。
その研究においては、官僚的な「機械的組織」と柔軟な「有機的組織」という両極端な二つの組織構造を定義し、異なる状況下でどのように機能しているかを調べたのです。
「機械的組織」の特徴としては、官僚的な組織構造で、情報や権限が上位者に集中しており、指示・命令的なリーダーシップが取られる事などが挙げられます。
「有機的組織」とは、官僚的ではなく、情報や権限が組織内に分散しており、支援的なリーダーシップが取られる組織であると定義しました。
この研究では、技術革新などを含め変化が激しく、顧客ニーズが多様化している環境では、個人が自発的に判断し行動する「有機的組織」が有効であるとしています。
また、外部変化が穏やかな環境であればピラミッド構造を持つ「機械的組織」が有効であるとも主張しています。
つまり、これらの二つのタイプは一方が他方よりも不変的に有効だというものではなく,
その有効性は市場環境や利用技術などの外部的な要因によって変化するということです。
そのため、状況に応じて望ましいリーダーシップのスタイルが異なるということも分かりました。
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コンティンジェンシー理論の歩み②:ローレンス&ローシュの『組織の条件適応理論』
二つ目は、ハーバードビジネススクールの教授であるローレンスとローシュによる研究をご紹介します。
「コンティンジェンシー理論」という呼び名が一般化するようになったのは, ローレンスとローシュが1967年に著した『組織の条件適応理論』がきっかけとなっています。
この研究では、ローレンスとローシュは環境の異なる三つの業種を対象に、「分化」と「統合」という観点から組織の構造と業績の関連性を調査しています。
そして結果として、組織内部の状況やプロセスが外部環境に適合していれば、高業績を上げることができると結論付けたのです。
またその上で、企業組織の内部状態・プロセス・外部状況はぞれぞれ異なるため、有効な組織化へむけた「唯一最善の方法(only one best way)」は存在しないとの見方を示しました。
よって、リーダーシップの観点においても、どのような環境・状況にも適合するリーダーシップ・スタイルは存在しないという見解に立っています。
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コンティンジェンシー理論の歩み③:フィドラーの『コンティンジェンシー・モデル』
それでは三つ目に、リーダーシップ・スタイルという概念を取り入れた例として、1964年にフィドラーが提唱した「コンティンジェンシー・モデル」をご紹介します。
リーダーを取り巻く3つの「状況変数」
フィドラーの「コンティンジェンシー・モデル」とは、リーダーシップ・スタイルは集団が置かれている課題状況によって異なるという理論です。
この理論では、リーダーシップの有効性に関わる条件を「状況好意性」という概念で定義しており、その「状況変数」として以下の3つの要素を定義しています。
- リーダーが組織の他のメンバーに受け入れられる度合い
- 仕事・課題の明確さ
- リーダーが部下をコントロールする権限の強さ
フィドラーは、この3つの変数が高い場合にはリーダーシップを発揮しやすい状況であり、低い場合にはその反対であると提唱しています。
LPC(Least Preferred Coworker)
フィドラーは、リーダーの最も苦手な同僚に対する対応をLPCという指数で計測しています。つまり、苦手な同僚を好意的に評価するリーダーを「高LPC」、苦手な同僚を避けようとするリーダーを「低LPC」と定義したのです。
そして、前述の3つの「状況変数」と組み合わせることにより、組織の業績は下記の数式で表されると考えました。
「組織の業績」=「LPC」×「状況変数(リーダーと集団の関係、課題の明確さ、リーダーの権限の強さ)」
「状況好意性」と2つのリーダーシップ・スタイル
また、フィドラーはリーダーシップ・スタイルを「タスク中心・指示的なスタイル」と、「人間関係中心・非指示的なスタイル」の2つに分け、下記のように考えています。
- 「状況好意性」が非常に高い、または非常に低い場合には、「タスク中心・指示的なスタイル」が有効。
- 「状況好意性」が高くも低くもない場合には、「人間関係中心・非指示的なスタイル」が有効。
このように、フィドラーは状況によって有効なリーダーシップスタイルが異なることを提唱したのですが、この考え方は、後に多くの研究者によって引き継がれていきました。
例えば、1977年にハーシーとブランチャードが提唱した「SL理論」は、フィドラーの提唱した状況要因をさらに掘り下げて、部下の成熟度に着目し発展させたものです。
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コンティンジェンシー理論のメリット
コンティンジェンシー理論のメリットは以下の2点です。
- 環境に柔軟に対応できる
- ボトムアップでの声が上がりやすくなる
コンティンジェンシー理論を採用することで、上下関係に必要以上に留意しない関係性が築き上げられるため、環境に柔軟に対応できるようになります。
また、変化する対応に柔軟に対応するため、物事を柔軟に考える「ジェネラリスト的観点」を社員が身につけることができるのはメリットです。
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コンティンジェンシー理論の批判者:ドナルドソン
コンティンジェンシー理論は、刻々と変化する環境に対応できるのはメリットですが、課題点があると捉える学者もいます。その一人が「ドナルドソン(Donaldson)」です。
ドナルドソンが指摘したのは、コンテンジェンシー理論が孕む以下3つの問題でした。
- そもそもの事業の不確定性まで考慮していない
- 「環境に適合した」と判断する基準が曖昧
- 環境への対応には解がいくつもある
つまり、コンティンジェンシー理論には、企業の事業自体のSTP分析、実務的な問題がまだ解決されていないと言う指摘でした。
上記の問題を解決する理論をドナルドソンは「ネオ・コンティンジェンシー理論」と称し、提唱しています。
コンティンジェンシー理論の欠点、限界
コンティンジェンシー理論は環境に早く対応できる組織として注目を集めていますが、限界があります。
それは、コンティンジェンシー理論の前提が「ヒエラルキー組織」を前提としていないことです。
元々ヒエラルキー型で上司と部下との立ち位置を明確にし、トップダウン形式で物事を決めていた企業にとってはフラット型の組織となることで意思決定が遅くなるリスクがあります。
コンティンジェンシーがルールを改定し、ルールが軽んじられるリスクがあるのです。
このため、既にヒエラルキー組織で十分に利益が出ている企業は、リーダーが環境への対応を決定し、トップダウン形式で組織を一部変更した方が早いことがあります。
まとめ コンティンジェンシー理論について
冒頭に述べたように、コンティンジェンシー理論は現在すでに古典的な理論として扱われており、伝統的なコンティンジェンシー理論では網羅できない部分も指摘されています。[5]
2008年に、野中郁次郎氏(当時一橋大学名誉教授)は『私と経営学』という記事の中で、「コンティンジェンシー理論を現代経営学の中で位置づけると、もはや死んだ理論であるとも言われている。」と述べています。
この理論では「すべてはコンテクスト(組織の内部環境)に依存する」とみなされますが、実際は、同様の内部環境であってもすべて同じ結果になるというわけではないからです。
しかし野中氏は、「コンテクストをより能動的に捉えなおせば、コンティンジェンシー理論が生きているとみなすことができる」という見解も示しています。
また近年でも、ローレンスなどのコンティンジェンシー理論提唱者に影響を受けた研究者は多く、現代経営学へ大きな影響を与えていると述べています。
コンティンジェンシー理論が提唱された時代と比べ、現代はさらに変化のスピードが加速しています。その中で組織を成功へ導くためには、今の時代に「条件適応」するための、新しいコンティンジェンシー理論が必要とされているのではないでしょうか。
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参考
リーダーシップのコンティンジェンシー理論における フォロワーの再考
http://repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/29259/rke038_1-02.pdf
<学界展望> 経営組織論の新展開
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/repository/00172598.pdf
野中郁次郎 私と経営学 コンティンジェンシー理論
http://www.mri.co.jp/NEWS/magazine/club/05/__icsFiles/afieldfile/2008/10/20/20080201_club06.pdf