組織で上に立つ人間にはリーダーシップが求められています。とはいえ、性格的になかなか上手くリーダーシップを発揮できない人も多いでしょう。
しかし、リーダーシップの種類とは一つではありません。実はこれまでに多くのリーダーシップ理論が発表されていて、そのどれが合うのかは、その人の立場や性格によって変わるとされています。
まずはそのリーダーシップ理論の要素と、その時代による変遷を観てみましょう。
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目次
リーダーシップ理論の要素と変遷
初期のリーダーシップ理論は、偉人や英雄をリーダーとして取り上げ、その性格、行動や役割、状況に応じて異なるタイプといった点を取り上げるものでした。例えばイギリスの歴史家Thomas Carlyleの「英雄崇拝論 [1]」では、ナポレオンらについて分析をしています。
20世紀に入ると、リーダーの素質は先天的なものなのか後天的に獲得された性質なのかという議論が始まります。初期は先天的だとするする研究が多く、「偉人説」「特性理論」といったものが支持されて来ました。例えば南カリフォルニア大学リーダーシップ研究所教授などを歴任した経営学者で、「本物のリーダーとは何か[2]」の著者としても有名なWarren Gamaliel Bennisは、90名の成功したリーダーにインタビューを行うなど、リーダーに必要な資質を特定するべく「特性理論」を研究していました。
一方、特性を身につけるというのはなかなか難しい上、結局は少ない人数から特性を導き出すのには無理もあるため、むしろリーダーシップを特徴付ける活動や行動に焦点を当てる研究が1960年代以降進みました。リーダーシップ・スタイルを5つに分類する 「マネジリアル・グリッド」や、リーダーシップの主な機能(計画を立てる、立ち上げる、コントロールする、支援する、情報を提供する、評価する)と責任分野(業務、チーム、個人)に焦点を当てた、行動中心型リーダーシップなどです。
こういうことがわかってくると、リーダーを取りまく環境の変化によって、同じ人物でもリーダーとして上手く行く場合と行かない場合があることがわかってきました。
これが「SL理論」や「コンティンジェンシー理論」です。
例えばSL理論に深く関わったPaul Hersey とKenneth H. Blanchardは「入門から応用へ 行動科学の展開[3]」の中で、リーダーシップには状況によって使い分けられ、独裁的スタイルの「指示型」、コーチングのようなスタイルの「説得型」、フォロワーと共同で意志決定を行う「参加型」、そしてタスクのみ設定して実行はフォロワーに任せる「委任型」の4つのスタイルがあるとしています。気をつけるべき点としては、どれかができれば良いのではなく、あくまでも4つを状況に応じて使い分ける必要があります。
リーダーが組織を変革する事の重要性が認識されるようになったのは1970年代に入ってからです。政治史の研究家だったJames MacGregor Burnsは「Leadership[4]」の中で、リーダーとフォロワーの間に相互にメリットが存在する「交換型リーダーシップ」と、両者がお互いに動機を理解し合い、刺激し合うことで新たなレベルに達することができる「変革型リーダーシップ」の2つがあるとしました。
ここから組織変革におけるリーダーシップ論が発展し、後述する「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」や、心理学者のDaniel Golemanらが提唱する心の知能指数「EQ」などが生み出されてきました。
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様々なリーダーシップ
それでは数あるリーダーシップ理論の中から、3つの理論を詳しく紹介しましょう。
ティッピング・ポイント・リーダーシップ
まずは「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」です。「ティッピング・ポイント」とは「転機」という意味で、ターニング・ポイントと同じ意味を持っています。ただし、ターニング・ポイントよりも、より大きな変化を表します。この概念はジャーナリストのMalcolm Gladwellが提唱したもので、ファッションの流行の現れ方が感染症の広がりに似ていることに着想を得たものです。ある一定の量に達すると、急激なカーブを描いて広がり始めますが、その広がり始めるポイントです。
リーダーが効果的で革新的な手法をグループ内に広げようとした場合、ある一定人数が実践し始めると、ファッションの流行と同じように、一気に広がっていくのです。これはビジネス・スクールとして知られるインシアードの教授であるW. Chan KimとRenee Mauborgneが提唱しました。
彼らはハーバード・ビジネス・レビュー誌に「Tipping Point leadership[5]」という論文を発表し、その中で4つの要素が中心となると報告しています。それらは「意識」「政治」「資源」「意欲」の4つで、それぞれ「マネージャーが常に問題に触れているようにする」「内部の反対者を黙らせ、外部の反対者は入れない」「当初は問題の多い分野に集中させる」「組織内のさまざまなレベルに合ったメッセージを送る」です。
実際に、ニューヨーク市警察(NYPD)で実践され、低賃金や危険な労働環境などで意欲を失っていた職員の意識変革に成功しました。
ポジティブ・リーダーシップ
次に「ポジティブ・リーダーシップ」です。これは、世の中をポジティブに捉えるという「ポジティブ心理学」の台頭に伴い現れてきました。先駆者としてはスペインのIEビジネス・スクールのLee Newmanがいます。
彼は「Rethinking Thinking Through Positive Leadership [6][7]」の中で、組織のすべての階層で、個人やチームがより良く考え、行動するような組織を築くことにより達成される優位性を「行動優位性」と呼び、これを実現するためのリーダーシップとして「ポジティブ・リーダーシップ」を提唱しています。
Newmanは組織の持続的な競争優位性を維持するのは難しいのですが、行動優位性は獲得できるとしています。ですので、組織は行動優位性で他者に対して優位に立ってビジネスをした方が良い、という考え方をしています。そのためにはポジティブ・リーダーシップが有効であるということです。
ポジティブ・リーダーシップには3つの要素があるとNewmanは言います。
1つ目は「マインドウェア・トレーニング」です。これを行う事で、リーダーは自らの意志決定プロセスを理解し、より良い思考を行えるようになります。
2つ目は「弱みの改善ではなく、強みの強化」です。チームの強みを認識し、それを基にして仕事をデザインしていくべきだとしています。
最後の3つ目は「プロフェッショナル・フィットネス(プロとしての健全性)」に注意することです。自身や周囲の人が学んだことを日々の業務に適用することで、これを達成しようというものです。
これらは既に業績の良い企業が、更に上を目指すための手法として活用することを念頭に置いています。先ほどの「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」が組織を大きく変革することを目的としていたのとは違い、組織をさらに良くしていくために使われるべきものです。
レベル5リーダーシップ
最後に紹介するのは「レベル5リーダーシップ」です。これはマッキンゼー・アンド・カンパニー社でコンサルタントを務めていたJames C. Collinsが提唱したもので、「リーダーシップには5つのレベルがある」とする考えです。
彼は「それなりに良い企業と偉大な企業の差は何か」を考え、研究を進めていく内に、この差はリーダーシップの違いから生まれている事に気がつきました。それぞれのレベルは、「レベル5リーダーシップ[8]」の中で、次の通りだとしています。
レベル1:個人の能力を中心としたレベル。自身の組織や才能を用いて組織に貢献できる
レベル2:チームスキルを中心としたレベル。効果的にグループで仕事ができる
レベル3:管理的な能力を示すレベル。他の人々を共通の目標へと向かわせて方向付け、仕事をさせる
レベル4:ビジョンを明確に伝え、業績に繋げるレベル。一般的な概念で言うところのリーダーシップ
レベル5:レベル4に加え、謙虚さと強い意志を持つ。自分のエゴや自己利益を組織ニーズに服従させる。全てを組織のために捧げる。
レベル4のリーダーシップを持っている人物が中心にいる企業は「まあまあ良い」企業で、「偉大な」企業のリーダーは、リーダーシップのレベルがレベル5に達しているというのです。組織のために全力を尽くし、一方でそんなに外部からはほとんど目立たない存在です。
ではどの程度まで組織を中心に置いているかというと、Collinsは「Thinkers50 リーダーシップ[7]」の対談で次のように答えています。
「会社を偉大にするために必要であれば、兄弟もクビにするような人です。自分の命をも最悪の状態にさらします。CEOの座を退くことすらします。」
一見非情とも思えるくらいまで完全に会社に賭ける人、それがレベル5のリーダーシップを持っている人だとしています。
ここに紹介したリーダーシップ理論はごく一部ですし、それぞれ使えるシーンは異なります。自分が直面している状況に合わせたリーダーシップ論を使う様にしましょう。
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リーダーシップに必要な要素
では、リーダーシップに必要な要素にはどの様なものがあるのでしょうか。いくつものリーダーシップ理論を見てみると、幾つかの項目が必ず現れてきます。
状況に応じて「指示型」「説得型」「参加型」「委任型」を切り替えることや、「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」「ポジティブ・リーダーシップ」のどちらを使うか、も含め、状況をより的確に判断できなくてはいけません。つまり「状況認識」に取り組む必要があるのです。
次に、リーダーだけでは組織は何もできません。ですから組織内のフォロワーとの「人間関係」を築かなければいけません。
その上で、組織内のフォロワーに対して目標を設定する必要があります。つまり向かうべき目標を指し示すのです。「ビジョン」を描く必要があります。
さらにそのビジョンを達成するための手順を示す必要もあります。「創意工夫」を促すこととされています。
最後に、成功に対しては報酬を与えるなどして、モチベーションをコントロールする必要があります。もちろん何よりも、自身が高いモチベーションを維持しなくてはいけません。
どの様なリーダーシップ論を持ってきたとしても、これらがしっかりとできなければ、組織は動かないということを頭に入れておきましょう。これらは「リーダーシップの教科書[9]」を参考にすると良いでしょう。
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新しいリーダーシップ論
最後に、新たに出て来たシーダーシップ論としてスイスのビジネス・スクールIMD教授であるGeorge Kohlrieserらが提唱している「セキュアベース・リーダーシップ[10]」を紹介しましょう。ちなみに「セキュアベース」とは「安全基地」を意味しています。
この書籍の中で著者らは「セキュアベース・リーダーシップ」を「フォロワーを思いやり、守られているという感覚と安心感を与えると同時に、ものごとに挑み、冒険し、リスクをとり、挑戦を求める意欲とエネルギーを持たせる。そうすることで、信頼を獲得し、影響力を築く方法(第1章2項より引用)」と定義しています。
つまり、フォロワーが通常期待できる以上の能力を発揮できるようにするため、自らリスクを取れるよう安全地帯の役割を果たすということです。もし組織が新たなことにチャレンジするような雰囲気にない場合、それは誰もリスクを取りたがらないことが原因かもしれません。その場合、あなたがリーダーとしてなすべきことは、セキュアベース・リーダーとして、フォロワーがリスクを取りやすい環境を整えることなのです。
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参照
[1] “On Heroes, Hero-Worship, and The Heroic in History” Thomas Carlyle, 1841(「英雄崇拝論」 老田三郎訳 岩波書店,1949年など)
[2] “Leaders: Strategies for Taking Charge” Warren Gamaliel Bennis and Burt Nanus, 2003(「リーダーとは何か」 伊東奈美子訳 海と月社, 2011年)
[3] “Management of Organizational Behavior” Paul Hersey, Kenneth H. Blanchard, 1969(「入門から応用へ 行動科学の展開」 山本成二、山本あづさ訳 生産性出版, 2000年)
[4] “Leadership” James MacGregor Burns, Harper & Row, 1978.
[5] “Tipping Point Leadership” W. Chan Kim and Renee Mauborgne, Harvard Business Review 2003 April(「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」 DIAMONDハーバード・ビジネスレビュー, 2003年12月号)
[6] “Rethinking Thinking Through Positive Leadership” Lee Newman, https://www.iedp.com/Blog/Positive_Leadership. (リンク切れのため、[7]を参照のこと)
[7] “Thinkers50 Leadership” Stuart Crainer and Des Dearlove, 2013(「Thinkers50 リーダーシップ」 東方雅美訳 プレジデント社, 2014年)
[8] “Level 5 Leadership: The Triumph of Humility and Fierce Resolve” James C. Collins, 2001(「レベル5リーダーシップ」 DIAMONDハーバード・ビジネスレビュー, 2001年4月号)
[9] “HBR’s 10 MUST READS ON LEADERSHIP” by Harvard Business Review, 2011(「リーダーシップの教科書」 ダイヤモンド社, 2018年)
[10] “UNLEASHING ASTONISHING POTENTIAL THROUGH SECURE BASE LEADERSHIP” George Kohlrieser, Susan Goldsworthy and Duncan Coombe, 2012(東方雅美訳 プレジデント社, 2018)