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パワハラは、労働問題の中でも特に見聞きする機会が多いトピックです。
さまざまな場所でその危険性や注意喚起がされているにも関わらず、パワハラが原因のトラブルは後を絶ちません。
パワハラを防ぐには、そもそもの意味や定義のほか、もたらされるトラブルや対処法について押さえておく必要があります。
本記事ではパワハラについて詳しく解説します。
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目次
パワハラの意味、定義
経営者
まずはパワハラの意味や定義についての紹介です。
パワハラとはパワーハラスメント(power-harassment)の略語です。
以下に当てはまる行為はパワハラに該当します。
- 職場における優位性に基づいて行われる
- 業務の適正な範囲を超えている
- 身体的もしくは精神的な苦痛がある、就業環境を害されている
それぞれの内容について具体的に解説します。
[参考|厚生労働省「パワーハラスメントの定義について」]
職場における優位性に基づいて行われる
パワハラの定義のひとつが、職場における優位性に基づいて行われることです。
代表的な例として、上司による部下への攻撃的な行為が挙げられます。
部下にあたる人は上司に対して苦痛を感じていても、仕事への影響や恐怖心などから、逆らえないケースが多いです。
また優位性とは上司部下のように単純な上下関係だけでなく、能力差に由来するケースも存在します。
豊富な知識を持つ部下がそれを武器にし、上司は仕事のために我慢を強いられる事例もあります。
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業務の適正な範囲を超えている
職場での叱責や攻撃的な印象を受ける行為には、指導が目的の場合も少なくありません。
したがって業務の適正な範囲を超えているかどうかも、パワハラ行為か判断する際の基準となります。
当てはまる行為の例として以下が挙げられます。
- 業務において明らかに必要ない行為
- 業務上の目的から逸脱している・目的遂行の手段として不適当な行為
- 必要以上に行われており、社会通念的な許容範囲を超えている行為
例えば指導という名目であっても、人格否定など不要な内容が混ざる、繰り返しかつ長時間実施される場合、パワハラ行為に当てはまる可能性が高いです。
身体的もしくは精神的な苦痛がある、就業環境を害されている
明らかな苦痛がある行為や、就業環境を害する原因となる行為の場合、パワハラに該当します。
身体的・精神的な苦痛は、能力の発揮を妨げる原因です。
攻撃的な行為が原因で苦痛を感じている場合、パワハラに該当する可能性が高いと言えます。
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モラハラとは?パワハラとの違いと適切な対処法5選日本におけるパワハラの実態
パワハラ行為の危険性は長年問題視されていますが、未だに横行している現場は少なくありません。
厚生労働省は定期的にパワハラ実態調査を実施しています。
その中で「パワハラを受けたことがある」という質問に対し「経験あり」と回答した人の割合は以下の通りです。
- 平成24年度調査:25.3%
- 平成28年度調査:32.5%
- 令和2年度調査:31.4%
また、パワハラを受けたと認識していても、対処のための行動として「特に何もしなかった」と回答した人もいます。
パワハラに対して何もできず、耐えるだけの被害者が多いのが日本における実態です。
[参考|厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査について」]
パワハラの種類:厚生労働省による分類
経営者
ひとくちにパワハラといっても、内容によっていくつかの種類に分類されます。
厚生労働省による分類は以下の通りです。
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し
- 過大な要求
- 過小な要求
- 個の侵害
それぞれの意味や具体例について紹介します。
[参考|厚生労働省「パワーハラスメントの定義について」]
身体的な攻撃
身体的な攻撃とは、文字通り身体的な暴行行為を指します。
殴る蹴るなどの行為はもちろん、胸ぐらをつかむ、人に向かって物を投げつける行為も身体的な攻撃の例です。
パワハラか否かの判断基準として、前述した優位性の有無が関係します。
上司が部下に対して行う暴力行為は、非常に高い確率でパワハラに当てはまります。
しかし同僚間など明確な力関係がなく、業務外でのトラブルで攻撃が行われた場合、パワハラではなく単なる喧嘩として判断されるケースがほとんどです。
精神的な攻撃
精神的な攻撃とは身体への暴力ではなく、精神的な痛みを与える攻撃行為を指します。
具体例として以下の行為が挙げられます。
- 人格を否定する言葉をかける
- わざと他者から見える場所で叱責する・暴言を吐く
- 威圧的な発言を行う
また、ルールを守らない・過失によるトラブルを起こしたなどの従業員に対して強い口調で叱責する場面もありますが、こちらはパワハラに該当しません。
業務において必要な範囲を超えた過度な指摘がパワハラです。
人間関係からの切り離し
人間関係の切り離し行為もパワハラの一種です。
当てはまる行為の例をいくつか紹介します。
- 明確な理由なく、会議などの場から外す
- 別室での業務を指示し隔離する
- 会話を制限・禁止する
ただし以下のような行為は業務の範囲として、パワハラ行為に当てはまりません。
- 機密事項などの理由により会議に参加できる人員が限られているため除外する
- 研修や特別な業務などのために別室を用意する
- 業務時間中の私語を制限する
業務上必要な行為と説明できない場合、パワハラと考えられます。
過大な要求
その人のレベルを遥かに超えた業務や必要以上の作業量強制などは、過大な要求としてパワハラに該当します。
具体的な行為の例は以下の通りです。
- 専門知識や経験が必要な業務を命令する
- 過剰なノルマを設定した上、達成できなかった場合に厳しい罰を設定する
- 勤務時間内に終えるのが不可能な量の仕事を与える
成長のためにやや難しい業務を指示する、目標基準としてノルマを設定するなどの行為であれば、過度な要求には当てはまりません。
過小な要求
達成が明らかに困難である過度な要求だけでなく、容易に達成できる過小な要求もパワハラに該当します。例えば以下のような内容です。
- 勤続年数が長く経験豊富な従業員に対し、新人でも対応できるような雑用・業務のみを与える
- 他の従業員に比べ明らかに少ない量の仕事のみ割り振る、もしくは仕事を与えない
- 成長や挑戦のチャンスを与えない
閑散期で業務自体が少ない、当人の体調が思わしくないなどの理由によりって簡単な業務しか指示できないケースは、パワハラになりません。
個の侵害
個の侵害とは必要以上にプライベートに立ち入る行為です。いわゆるプライバシーの侵害を意味し、以下のような行為がパワハラに該当します。
- 当人の思想や宗教などを無理やり聞き出す
- 家族やパートナーなど人間関係について必要以上に口出しする
- プライベートの過ごし方を強引に詮索する
また個人的な内容を、許可なく別の人に暴露する行為も個の侵害です。
社員のプライベートについて把握が必要な部分もありますが、外部への流出は必ず防がなければなりません。
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『上司の常識や当たり前』を理不尽に部下に押し付けていませんか?パワハラを避けるためのコミュニケーションの注意点や事例を解説パワハラがもたらすトラブル
経営者
パワハラ行為そのものが問題ですが、さらなるトラブルをもたらす恐れが非常に強いことから、大きな問題となっています。パワハラがもたらすトラブルの代表例として以下が挙げられます。
- パワハラ被害者への大きな影響
- 生産性の低下
- 雰囲気の悪化
- 訴訟・企業イメージ低下も当然有り得る
いずれのトラブルも対処が困難な上、企業や関係者に対して強い悪影響を受けます。それぞれの内容について詳しく解説します。
パワハラ被害者への大きな影響
パワハラのトラブルとして、被害者に大きな影響を与える点が挙げられます。
パワハラは被害者のスムーズな業務を阻害し、快適な就業環境を害する行為です。
また業務以外の部分にも影響を与える恐れがあります。考えられるトラブルの具体例は以下の通りです。
- うつ病などの精神疾患
- ストレス性の病気
病気まではいかないとしても、強い不安や職場に対する恐怖が原因で、プライベートまで緊張を強いられるケースは珍しくありません。
パワハラのターゲットとなった被害者は職場にかかわらず、さまざまな面で悪影響を受けるのです。
生産性の低下
生産性の低下も、パワハラによって引き起こされる大きなトラブルです。
パワハラが発生する職場環境は、コミュニケーションの量が不適当、もしくは質が良くないと考えられます。
すなわち職場の連携が上手く取れていない状態です。
そのような環境の中では快適な業務が実現せず、結果として生産性も下がってしまいます。
生産性の低下は会社全体の業績悪化につながります。
業務が上手くいかずストレスが増し、さらに職場環境が悪化する、このような負の連鎖が続く恐れがあるでしょう。
パワハラは当事者だけでなく、会社全体に悪影響をもたらすのです。
職場の雰囲気の悪化
パワハラの横行によって職場の雰囲気が悪化する恐れもあります。
当然ですが、パワハラが起きている職場は健全とはいえません。直接的にパワハラ行為を受けていない人も、自分へのパワハラを恐れて必要以上の緊張・恐怖心を持ってしまいます。
常に悪い意味での緊張感が漂う状態になり、仕事への集中が難しくなるでしょう。
訴訟・企業イメージ低下も当然有り得る
パワハラは法律で明確に禁止されている行為であり、訴訟に発展したケースも存在します。
またパワハラの事実が露呈すれば大きな社会問題となり、企業イメージの低下も免れません。
訴訟が起きると対応のために時間や手続きが必要となり、その間は業務に割けるリソースも小さくなってしまいます。また、企業イメージの低下は業績に直接的な影響があり、そのうえ信頼を取り戻すのは困難です。
訴訟や企業イメージ低下を防ぐためパワハラに対処する考え方は、打算的過ぎる印象を受けるかもしれません。しかし、リスクに対する理解や認識は、抑止力として非常に効果的です。
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セクハラ・パワハラの定義とは?企業の対処法を解説パワハラの対処法
経営者
令和2年6月にパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が施行されました。
これにより大企業はパワハラ対策が義務化されており、令和4年4月からは中小企業にも適用されます。
しかしパワハラ防止法には罰則が存在しないため、強制力もありません。
対処のためには自発的な行動も必要なのが現状です。
パワハラの対処法として以下の3つが挙げられます。
- パワハラと感じる行為・言動を記録しておく
- 外部へ相談、法的手段を用いる
- 我慢せず退職・転職する
それぞれの方法について解説します。
パワハラと感じる行為・言動を記録しておく
パワハラと感じる行為や言動の記録は非常に有効です。
パワハラについて会社や外部へ相談する際、証拠が多いほど対処しやすなります。
言い換えると、たとえパワハラ行為が事実だとしても、証明できなければ具体的な対処が難しいのです。
パワハラを受けたら詳細に記録し、相談をする際に活用しましょう。
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外部へ相談、法的手段を用いる
パワハラ行為を止めるためには、外部への相談、場合によっては法的手段を用いる必要があります。
パワハラ加害者の上司や人事部などへの告発は、同じ組織内であるためすぐに実施できる方法です。
しかし相談した上司もパワハラ体質という恐れや、職場の規模によっては相談できる人が存在しない、また会社内で話題に出すこと自体に抵抗を感じる、という場合もあるでしょう。
このような場合は警察や弁護士など、外部の専門家に相談します。
訴訟を起こし慰謝料の請求をするなど、法的手段の実行も考えられます。
我慢せず退職・転職する
パワハラが横行する環境である以上、そこは最適な職場ではありません。
我慢せず退職・転職をし職場環境を変えるのも、快適な業務を実現させる上で非常に効果的です。
成長のために必要な叱責・苦痛も確かに存在しますが、それに該当しないからこそ「パワハラ」なのであり、我慢して受け続けてもメリットがないのです。
パワハラ行為を受ける期間が長いほど、心身への悪影響が大きくなります。
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内部統制とは?コーポレートガバナンスとの違いから実例まで徹底解説パワハラ防止のため企業がやるべきこと
専門家
パワハラ防止のためには、企業による対策も欠かせません。
企業がやるべきこととして以下が挙げられます。
- 就業規則の整備
- パワハラに関する研修実施
- 相談窓口の設置
- 人事的措置、場合によっては解雇
これらは最低限欠かせない内容です。それぞれについて解説します。
就業規則の整備
就業規則への規定は、パワハラ防止法の中で明確に義務付けられているため、パワハラ行為に対する自社の方針や対処法、具体的な措置を明記し、従業員へ周知しなければなりません。
パワハラ行為への対処は、基本的に就業規則の内容に準じて実施されます。
そのため、就業規則内に対処法の明記がなければ、パワハラを行った人に対する処分も難しくなってしまいます。
パワハラによるトラブルが発生した場合に迅速な対応ができるよう、まずは就業規則の整備が重要です。
パワハラに関する研修実施
パワハラを発生させないためには、パワハラに関する従業員の理解を深める必要もあります。
そのためにはパワハラに関する研修を実施し、パワハラに該当する行為や引き起こされるトラブルの例を解説するのが効果的です。
特に管理職など上の立場にいる人は、パワハラと指導の区別が難しいと感じているケースも見られます。
パワハラを恐れるあまり指導が足りない状態も、適切な職場環境とは言い難いです。
研修実施により、パワハラの防止や正しい指導行為が期待できます。
相談窓口の設置
相談窓口の設置も効果的な方法です。
「日本におけるパワハラの実態」でも紹介したように、パワハラ被害を受けても何もできない人は少なくありません。
相談できる場所がわからない、自分が我慢すれば良いと思い込んでしまうなどの理由が考えられます。
このような事態を防ぐためには、安心して相談できる窓口の設置が有用です。
専門家
人事的措置、場合によっては解雇
パワハラ行為が明らかになったら、まずは注意程度に留めるのが一般的です。
しかし改善が見られずパワハラが続くようであれば、人事的な措置を取る必要があります。
人事的措置の内容は会社の就業規則によって異なりますが、減給や出勤停止などが一般的です。
犯罪行為に該当するレベルと考えられる場合、刑事責任に発展するケースも否定できません。
場合によっては解雇処分も実施されます。
[参考|労働問題.com「パワハラ行為に対していかなる懲戒処分ができるか?」]
パワハラが問題になった事例
パワハラによるトラブルは、ニュースなどで取り上げられるケースもあります。
中でも以下の2つはパワハラが問題となり、社会的に注目を浴びた事例です。
- 群馬県警:署長によるパワハラ
- トヨタ自動車:高裁による労災認定
それぞれの経緯や最終的な結果、社会に与えた影響などを紹介します。
群馬県警:署長によるパワハラ
群馬県警の富岡署において、署長によるパワハラ行為が行われていた事例です。
2021年3月に署長に就任しましたが、それから9月までの間に複数の署員に対して高圧的な言動や無視といった行為を繰り返していました。
パワハラ行為が原因で精神疾患の診断を受けた署員が複数名おり、中には病気休暇を取った人もいます。
パワハラを行っていた当事者は内部処分により、警務部理事官への異動処置が取られました。
[参考|YAHOO!ニュース「パワハラで富岡署長を更迭 執拗に追及、無視 「指導の一環のつもりだった」 群馬県警」]
トヨタ自動車:高裁による労災認定
トヨタ自動車の男性社員が2010年に自殺した事件に関して、名古屋高裁は上司によるパワハラや業務内容が原因として労災認定を行いました。
男性は業務報告などのたびに上司から大声で叱責されるという、精神的な攻撃を強く受ける環境にいました。
家族によって労災補償が求められましたが、当初は業務と自殺が関係ないとされ不支給という結果になり、2020年7月に名古屋地裁で行われた一審でも、業務との因果関係は認められないとされています。
しかし、2021年9月の控訴審判決で一審判決が取り消され、ようやく労災認定が行われました。
[参考|日本経済新聞「トヨタ社員自殺、高裁が労災認定 上司のパワハラなどで」]
まとめ:パワハラの放置は厳禁!適切な対処が必要不可欠
パワハラは被害者はもちろん、職場全体にも悪影響を及ぼす行為です。
健全な職場環境を実現させるためには、必ず防止しなければなりません。
記事では、パワハラ行為を防止する方法としてさまざまな内容を紹介しました。
大切なのはパワハラを放置せず、迅速かつ適切な対策を行うことです。就業規則の整備や相談窓口の設置など、企業がやるべき行為は多く存在します。
パワハラ行為に対する十分な対処をし、快適な職場を実現させましょう。
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