2021/02/17

「理不尽な上司や部下」との仕事はどう進める?効果的なコミュニケーションの考え方

「まったく、最近の若いもんは・・・」

若い世代の理解できない考えや行動を見ていると、そう感じることも多いものです。
自分も駆け出しの頃にはよく言われたものだという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ところが、秒速の時代とまで言われる今となっては、少し歳が離れるだけで考え方がガラリと変わるということも珍しくありません。

認識がズレてしまっている相手と、どう接していけばいいのでしょうか。

 

疲れを倍増させてしまう上司の一言

 

なかなか部下が思うように動いてくれないというのは、いつの時代も上司にとっては悩みの種です。
しっかり指導や指示をしなければという責任感や義務感は大きいでしょう。

しかし、だからといって上司の考えを無理に押し付けようとしているとも受け取られかねない発言には注意が必要です。
ちょっとした一言で組織を鼓舞するどころか、逆に疲弊させてしまうことになってしまうからです。

以下に示すのは、養命酒製造が都内で働くビジネスパーソンを対象に行った疲れに関する調査の結果です。


引用)「東京で働くビジネスパーソンの疲れの実態に関する調査2017」養命酒製造株式会社 P10
https://www.yomeishu.co.jp/health/survey/pdf/20170719_tokyo_kakincho.pdf

上司からどのようなセリフを言われて疲れが倍増したのかを調べた結果では、「常識でしょ/当たり前でしょ」が、多くのビジネスパーソンを疲れさせている実態が明らかになりました。
この記事をお読みの方の中にも、このランキング内の言葉を言ったことがあるという方は多いのではないでしょうか。

これらの言葉は仕事においてだけでなく、日常でもよく口にされるものばかりです。

上位の3つの言葉をよく見ると、いずれも上司と部下の間で認識の統一がうまくいっていない様子が読み取れます。
「常識」や「当たり前」という言葉で疲れが倍増してしまう背景には、上司の指示や説明に納得できずに不満を抱えてしまっている部下の姿があると考えられます。

また「そんなこともできないの?」という言葉についても、職務においてどれくらいの能力水準を満たす必要があるのかとうことが曖昧で、ここでも認識がズレてしまっていると考えられます。
認識のズレをそのまま放置してしまうと、トラブルのもとになりかねません。
かといって強引に認識を統一しようとするのも、組織の疲弊を招いてしまいます。

上司と部下のコミュニケーションがうまく取れていて、必要な前提をそろえるということができていれば、無駄に組織を疲弊させずに済むはずです。
組織での活動が円滑に進められるためには、必要な前提の統一が欠かせません。

 

一歩間違えばパワハラに

 

部下と接するうえで気をつけなければならないのが、パワハラです。
同じ言葉であっても、相手によって受け取り方は異なります。
自分がどう思うのかではなく、相手はどう受け取るのかという点が大事です。

自分は指導のつもりでも、行き過ぎてしまうとトラブルになってしまいかねません。
パワハラにまでなってしまうケースとは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

以下に示すのは、行き過ぎた言動や指導が問題となり、裁判となった事例です。

事案① 上司が送ったメールの内容が侮辱的言辞として、損害賠償請求が認められた事案
概要・ポイント Xは、A社のBサービスセンター(SC)で勤務するところ、その上司である、Yが、Xに対し「意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います」などと記載された電子メールを、Xとその職場の同僚に送信した。

参考)https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/judicail-precedent/archives/58

事案② 上司の部下に対する指導が典型的なパワハラに相当するものであり、その程度も高いものであったとされた事案
概要・ポイント ①B部長は、市役所に勤務する公務員として、常に市民のため、高い水準の仕事を熱心に行うことをモットーとしており、実際、自ら努力と勉強を怠ることなく、大変に仕事熱心で、上司からも頼られる一方、部下に対しても高い水準の仕事を求め、その指導の内容自体は、多くの場合、間違ってはおらず、正しいものであった。

②B部長は、元来、話し方がぶっきらぼうで命令口調である上、声も大きく、朝礼の際等に、フロア全体に響き渡る程の怒鳴り声で「ばかもの。」、「おまえらは給料が多すぎる。」等と感情的に部下を叱りつけ、それ以外に部下を指導する場面でも、部下の個性や能力に配慮せず、人前で大声を出して感情的、かつ、反論を許さない高圧的な叱り方をすることがしばしばあり、実際に反論をした女性職員を泣かせたこともあった。

③B部長は、②のような指導をしながら、部下をフォローすることもなかったため、部下は、B部長から怒られないように常に顔色を窺い、不快感とともに、萎縮しながら仕事をする傾向があり、部下の間では、B部長の下ではやる気をなくすとの不満がくすぶっており、このような不満は、健康福祉部の職員の間にもあった。

参考)https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/judicail-precedent/archives/48

参考)それぞれ「あかるい職場応援団」(厚生労働省)内の裁判事例を抜粋して作表
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/

このような状態にまでなってしまうと、部下の疲れを倍増させるどころか、組織全体の士気の低下にもつながりかねません。
「指導」か「叱責」かの線引きは、なかなか難しいところです。

一度言っても聞き入れないからと何度も同じことを言って強引に聞かせようとするのは、よくありません。
「押してダメなら引いてみろ」という言葉もあるように、やり方を変えてみるというのも大事です。

何度言っても分からない相手に苛立ってしまうと、冷静な判断が難しくなります。
そうなってしまうと、どう適切に対処すべきなのかを考えるのが困難になります。
パワハラにならないようにするためにも、柔軟な対応が重要になってくるでしょう。

 

行動経済学の観点から見た「常識」とは

 

「常識」と呼ばれるものは、そもそも何なのでしょうか。
それを解き明かすヒントを与えてくれるのが、行動経済学です。
人間には無意識下に判断を下すシステムⅠと、意識的に判断を下すシステムⅡが存在するとされています。[1]
常識の形成には、この2つのシステムが大きくかかわっていると考えられます。

システムⅠでは、無意識下で自動的に判断が行われ、あまり疲れを感じずに済みます。
一方のシステムⅡでは、思考は意識的に行われ、状況の変化に応じて柔軟に対処できます。
意識的に判断を下すシステムⅡでは、判断スピードが遅く、疲労感や負担感が生じてしまいます。

そこで人間の脳は、システムⅠを活用し無意識的に負荷の小さい方法を取るようになると言われており、そのような傾向は「認知的節約」と呼ばれています。[1]
このように負荷の小さな方法を取ることによって、判断のスピードを向上させ消費されるエネルギーも少なくすることができます。

さらに、認知的節約による不合理行動として、
・うまくいった行動を繰り返す「習慣化」
・多数派の意見に合わせてしまう「同調行動」
・心のダメージが小さい選択をしようとする「後悔回避」

と呼ばれるものが出てきます。[1]

これらが組み合わさることによって、常識が形成されていきます。

うまくいったことを繰り返すことで、失敗してしまうことによる時間や労力を減らすことができます。
また、多数派に合わせることで、自分で考える手間も省けます。
後悔回避という点においても、自分で決めて失敗するよりも、他人の決定に従って失敗したほうが精神的なダメージは少なくて済みます。

このように、常識に従った方が楽であるというメリットがある反面、もちろんデメリットもあります。
それが、よく知られているように、過去の常識に縛られてしまうというものです。

変化する方が合理的である場合においても、失敗することに対する恐怖心がまさってしまい、変化しないという選択肢を取ってしまいます。
このような傾向は「現状維持バイアス」として知られており、常識に縛られてしまう要因の一つです。[1]

 

認識のすれ違いを防ぐには

 

常識とは、認知的節約に基づくものです。
過去にうまくいったことを繰り返したり、所属する集団に合わせることで、考えることを節約しているということは、ご理解いただけたかと思います。

常識といっても、絶対的なものではありません。
技術革新や価値観の変化、所属する集団の違いなどによって、いくらでも変わり得ます。
常識とされる考え方を相手に押し付けてしまうと、疲れを倍増させてしまうというのは、冒頭のアンケート調査で示されているとおりです。
アンケート調査においては、上司に頼りたいときに突き放されるようなことを言われると疲れが倍増してしまうと分析されています。[2]
「そんなこともできないの?」や「前にも言ったよね?」という言葉を見ても、突き放してしまっているといのが読み取れます。

それでは、疲れを倍増させないためには、何が必要なのでしょうか。
最近、ビジネススキルとしても注目を集めるようになってきているのが「傾聴」です。
もともと傾聴は、コーチングや心理カウンセリングの分野で用いられてきたものです。

相手の話にひたすら耳を傾けることで信頼関係を築き上げ、相手の成長を促すことで、自力で問題を解決できるようにサポートします。

そこで大事になってくるのが、「受容」や「共感」です。
一見すると、簡単にできそうに思えるかもしれません。
相手の話を聴けるようにするためには、相手をちゃんと受け止められるようにする必要があります。

自分の常識や基準に相手を従わせようとするだけでは、うまく従わせられなかった時に、関係に亀裂が生じかねません。
認識のズレをいかに把握し、それにどう対処していくのかが重要になってきます。

参照
[1] 参考)「知識ゼロからの行動経済学入門」川西諭著 P26~35,56~57
[2] 参考)「東京で働くビジネスパーソンの疲れの実態に関する調査2017」養命酒製造株式会社 P10
https://www.yomeishu.co.jp/health/survey/pdf/20170719_tokyo_kakincho.pdf
・「東京で働くビジネスパーソンの疲れの実態に関する調査2017」養命酒製造株式会社 P10
https://www.yomeishu.co.jp/health/survey/pdf/20170719_tokyo_kakincho.pdf
・「あかるい職場応援団」厚生労働省
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/
・「ファスト&スロー」ダニエル・カーネマン著

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