今、人材育成や目標達成のためにコーチングを取り入れる企業が増加しています。しかし、コーチングは専門の知識やスキルが必要な特殊な技能で、実際にどういったことが行われているのかなどは、あまり一般的には知られていません。
この記事では、コーチングの効果や歴史、メリット・デメリットなどを解説していきます。
この記事を読むことで、コーチングの
- 意味や効果がわかる
- ティーチングやカウンセリングとの違いがわかる
- メリットやデメリットがわかる
ようになります。ぜひコーチングについて理解を深めて、自社で応用できるかどうかなどの参考にしてみてください。
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目次
コーチングとは? 定義や意味を解説
コーチングとは、簡単に言うと目標を達成するためのツールであり、コミュニケーション方法です。相手との対話や質問などのコミュニケーションを通して、モチベーションを上げたり相手の実力を最大限に引き出して、目標達成に導くことをコーチングといいます。
コーチという言葉はもともと「馬車」という意味を持っており、「人が望む地点まで送り届ける」という文脈で用いられていました。それが現在では意味が転じて、人が目標を達成するまで支援して導く行為を「コーチング」というようになったのです。
コーチングの効果とポイント
コーチングを受ける人(クライアント)は下記のような効果を得ることができます。
- 新たな発見や気づきを得られる
- 物事を多面的に見られるようになる
- 凝り固まった固定観念や思い込みをなくすことができる
- 目標達成に対するモチベーションが高まる
このとき、コーチングにおいて重要なのは「本人の自主性を重んじること」です。コーチをする者が対象者に無理やり行動を起こさせるのではなく、あくまで本人が積極的に行動するように促します。その際、コーチは対話や傾聴することを通して、本人が成長するように導くのです。
したがって、立場的にはコーチ(コーチングをする人)がクライアントより上になって教えるということにはなりません。コーチは教えるのではなく、質問をして傾聴するという受け身のコミュニケーションを通して、相手自身から新たな行動や考えを引き出していくものであり、その結果として良い効果が得られるのです。
仕事で用いられるコーチングの価値
近年ではビジネスの世界でもコーチングが用いられるようになっており、対象者のモチベーションを引き上げ、能力を最大限まで高めるコミュニケーション方法として注目されています。組織の研修や人材育成にも「コーチング型マネジメント」として使われることがあります。
またコーチングでは、下記の3つの考えがもとになっています。
- 人間の可能性に限りはないこと
- 問題への答えはクライアント(対象者)のなかにあること
- コーチはクライアントが自分で答えにたどり着くためのパートナーに徹すること
この3つの考えに基づき、コーチングを通して対象者に下記の3つの力や能力を身につけてもらうことが目的とされています。
- 自分で答えにたどり着く能力
- 自発的、積極的に課題に取り組み考える姿勢
- 今までにしてこなかった考え方や価値観を受け入れる姿勢
しかし、コーチングはすぐに結果が出るものではありません。また、相手(対象者)にその気持ちや能力がない場合はいくらコーチングをしても結果が出ないこともあります。したがって、コーチングをする際は、結果が出るまで長い時間がかかることを想定して取り組むことを心がけましょう。
また、ビジネスにおけるコーチングの効果は、下記のようなものがあります。
- 手取り足取り教えなくても、新人社員が自分で答えを導き出せるようになる
- 新人社員が仕事に対して積極的になる
- 新人社員と上司とのコミュニケーションが円滑になる
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コーチングの歴史や起源
コーチングの始まりは、1950年代にハーバード大学の助教授をしていたマイルズ・メイス(Myles Mace)氏が執筆した書籍「The Growth and Development of Executives」です。この本の中でマイルズ氏はコーチングについて「マネジメントにおいてコーチングは重要なスキルである」と綴りました。
1980年代以降には多数の書籍にてコーチングが紹介されるようになり、さらに1990年代に入ると、アメリカでは下記のようなコーチ育成機関が続々と誕生しています。
- Coach University
- Co-Active Training Institute
間もなく、非営利団体ICF(International Coaching Federation,国際コーチング連盟)が設立されました。この団体の目的はコーチングの質の維持・向上にあり、ICF設立と同時にコーチングは世界に広がっていったのです。
当時、このようなコーチングのトレーニングを行っていたのはコーチングを生業としているプロがほとんどでしたが、少しずつマネジメントの技術として、ビジネスの世界や他の業界へと広まっていきました。その結果、医療・教育関係者が取り入れたり、組織開発のために企業が導入するようになっています。
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コーチングと混同されがちな言葉
コーチングと混同されがちな言葉に「ティーチング」と「カウンセリング」があります。これら2つの言葉の違いについて解説していきます。
ティーチングとコーチングの違いとは
ティーチングとは、知識やノウハウ、技術・技能といったスキルを、相手に直接的に指導して「教える」ことを指します。課題や問題に対する答えを直接教える教師と生徒のような関係になり、一方的な関係といえます。
対してコーチングは「教える」ということはしません。問いかけや傾聴を通して自分で答えを探させるというアプローチを取るのがコーチングであり、クライアント自身が持っている資質や素養を引き出して目標達成に導くのです。
ティーチングのメリットは、教える側が一人しかいないとしても、一度に複数人に教えられることです。また、答えそのものを伝えて教育するので、成長が早く効率的という点もメリットとなります。
しかし、ティーチングに依存してしまうと、対象者が教える側の言うことを聞くだけになり、自分で考えて動くことがなくなってしまうというデメリットも生まれます。
ティーチングは特定の業務手順や業界知識、PCスキルといった分野では効果を発揮するので、使用用途を考えて活用しましょう。
カウンセリングとコーチングとの違いとは
カウンセリングも混同されがちですが、コーチングとの違いは目的や対象者、アプローチの方法にあります。
カウンセリングは、なにか悩みや不安を抱えている人や相談相手が必要な人を対象に、その人が抱えている問題や課題の解決または解消が目的です。また、そのアプローチの仕方は一方的に教えるわけでも、質問をするだけでもありません。
対象者とカウンセラーの双方向のコミュニケーションをもって、より望ましい解決策を模索していきます。
対してコーチングは目標達成に向けてクライアントを理想の状態に導くことが目的となり、アプローチの仕方は未来志向となっているのです。
コーチングに求められるスキルやその学び方
コーチに求められる最も基本的なスキルは下記の3つです。
- 傾聴
- 質問
- 承認
それでは1つずつ解説していきます。
傾聴
傾聴とは、相手と信頼関係を構築するために耳や目、心を使って相手の話を親身になって聴くコミュニケーション法のことです。話している内容だけでなく相手の姿勢や表情などからも何を考えているか、感じているかを読み取ることが重要になります。
傾聴をする際は、相手を否定せずにまずは受け止める「受容」と、相手の考えに対して同じように感じる「共感」をします。その結果、相手は自分の思考が整理され、自分自身をより理解できるようになるのです。
コーチングにおける傾聴では、下記の3つがポイントになります。
- 相手の話をよく聴く
- 相手の姿勢やしぐさから思考や感情を読み取る
- 相手の思考や感情に共感する
こうすることでクライアントはコーチに対して心を開けるようになり、信頼関係を深くすることができます。
質問
傾聴をしたあとは適切な質問をします。
質問の目的は、傾聴でわかったクライアント自身の問題や課題に自分自身で気づいてもらうことなど、新しい気づきを得てもらうことです。
傾聴でわかった問題をそのままクライアントに教えてしまった方が早いと感じるかもしれませんが、一般的に人は他人に自分の問題を指摘されると、素直に聞き入れることが難しくなってしまいます。
だからこそ、自分で気づかせることで、素直にその問題の克服に動きやすくなるのです。
質問のポイントは、「オープン・クエスチョン」を用いた形で質問することにあります。オープン・クエスチョンとは相手が自由に答えられる質問のことを指し、反対に「はい・いいえ」でしか答えられない質問を「クローズド・クエスチョン」といいます。
例えば「あの仕事はもう終わりましたか?」という質問はクローズド・クエスチョンになり、相手は「はい・いいえ」でしか答えられず、そこで対話が終わってしまうのです。この場合は「あの仕事の調子はどうですか?」と質問することで、相手は自由に答えられるため、気づきを得られるチャンスを増やせます。
承認
そして最後のスキルが「承認」です。
承認では、クライアントの良い点やうまくいったことを見つけて、それを相手にわかるように伝えたり褒めることが重要になります。
簡単に言うと、長所を見つけて褒めて、モチベーションを上げるスキルです。
人は意外と自分の良い点やうまくできたことについては鈍感なところがあり、「できて当然」「これは当たり前」と思ってしまいます。そこで、それは「当たり前ではなく、あなたの能力ですよ」と伝えてあげることで、クライアントは自分の能力に気づけるようになるのです。
また、承認をする際は下記の3つがポイントになります
- 気づいたらすぐに行う(印象に残るため)
- 具体的に伝える(曖昧だと伝わらないため)
- ブレずに伝え続ける(一貫性がないと何が良いのかがわからなくなるため)
このように褒めていくことで、クライアントは望ましい行動を繰り返すようになる一方で、望ましくない行動が減っていき、目標達成への近道となります。
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コーチングを行うメリット
コーチングを行うメリットは下記の2つです。
- 行動を変えることができる
- 新人と信頼関係をつくれる
それでは1つずつ解説していきます。
行動を変えることができる
コーチングを行うと、クライアントの行動を変えることができるというメリットがあります。
コーチングでは目標達成に向けて成長を促しますが、コーチングを受ける前と比べて行動が変わらなければ成長はありません。しかし、人は簡単には変われないからこそ、コーチングが必要になるのです。
例えば、目標達成のためのチャレンジが失敗した際に、そのまま落ち込んでいては成長には繋がりません。しかし、ここで失敗の原因を探ったり、もう一度トライするような行動変容を起こすことができれば、目標を達成する確率は飛躍的に向上します。
さらに、そこから自信や自発的な行動も生まれて、さらなる成長が可能になります。
新人と信頼関係をつくれる
会社に入ってくる新人と信頼関係をつくることは、仕事を円滑に進める上では必要不可欠です。コーチングでは新人と上司というような立場の違う人同士の関係を良好にするメリットがあります。
コーチングでは立場の上下をなくして対等に接するため、「上司と部下」という固まった関係からでは見えない部下の成長を発見できます。その点を褒めたり、言葉に出して承認することで、部下は自分のことを見てくれていると感じ、上司のことを信用するようになるのです。
その結果、部下は思っていることや、仕事の相談などを気軽に話してくれるようになるため、信頼関係がより深まり、仕事が円滑に進むようになります。
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コーチングを行うデメリット
さまざまなメリットのあるコーチングですが、デメリットも存在します。それが下記の2つです。
- 成否がコーチ次第
- 効率が悪い
それでは1つずつ解説していきます。
成否がコーチ次第
まず1つ目のデメリットは、コーチングが良い結果で終わるか、そこそこの結果で終わるかはコーチの腕次第ということです。コーチングはコーチ個人の能力に依存しているため、コーチの腕が悪ければ結果も悪くなってしまいます。
例えば、クライアントの話を傾聴していたとしても、コーチがなんのリアクションも示さなかったら、クライアントは不信感を持ってしまいます。このため信頼関係が作れず、うまくコーチングができなくなってしまうのです。
また、コーチの腕が良かったとしても、コーチとクライアントの相性が悪い場合などは、十分な結果が得られないこともあるため注意しましょう。
効率が悪い
コーチングはクライアントと一対一でのコミュニケーションを通して行うものであるため、一度に多人数を相手にできません。また、結果が得られるまでに長期間が必要になります。このことから、コーチングは効率が悪いというデメリットが挙げられます。
コーチングでは少しずつクライアントの行動を変えていくため、どうしても時間がかかってしまうのです。
一度に多人数を相手に、かつ短期間で何かを教えたい場合はティーチングの活用を検討しましょう。
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まとめ コーチングについて
コーチングはビジネスにも使える人材育成の方法で、今、積極的に取り入れようとしている企業が増えています。
しかし、コーチングをすること自体が目的になってしまい、本当の目的を見失ってしまうケースや、自社が抱えている課題とコーチングという手法の相性が悪いケースもあるため注意しましょう。
あくまでも目的や目標の達成がゴールであり、コーチングはそれを実現する手段の1つに過ぎません。大切なのは相手の話を傾聴したり、気づきを与える質問をして、問題の解決に導くことです。
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