CSRとは企業の社会的責任のことですが、ボランティア活動のようなものだと思ってはいませんか?
本来、さまざまなメリットのあるCSRですが、短期的な視点での取り組みは、コストが増加するだけに終わってしまいます。
今回はCSRに関するわかりやすい解説と、取り組むメリットなどを詳しく解説していきます。この記事を読むことで、
- CSRの意味がわかる
- CSRに取り組むことで得られるメリットがわかる
- CSRに取り組む企業の具体的な事例がわかる
ようになります。CSRのメリットには企業イメージの向上だけではなく、その他にも数多くの恩恵があるので、ぜひ本記事を読んで取り組んでみてください。
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目次
CSRの意味とは?
CSRとは「Corporate Social Responsibility」の略で、日本語訳をすると「企業の社会的責任」といった意味になります。一般的には、企業が活動を続けるなかで生じる社会的責任を指しています。
企業の主な目的は利潤の追求です。しかし、利潤の追求が先行し過ぎると環境や社会に対する負荷が大きくなってしまいます。そこで、企業活動の際に企業が自社中心の活動をしないように、社会や環境、消費者、投資家などステークホルダーに配慮した意思決定をすることをCSRと言います。
簡単に言えば、「利益だけを追い求めるのではなく、社会や環境にとっても価値のある意思決定をするべき」という考え方を指しており、このような考えに基づいて行われる企業活動を「CSR活動」といいます。
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日本におけるCSR活動
日本におけるCSR活動の多くは環境保護です。具体的には環境に対する負荷の低減や、生存が危うい生物の保護活動、樹木を植えるといった活動が挙げられます。
続いて多いのが文化に対する支援や、人権保護です。地域に密着したイベントを行ったり、文化的な価値があるものの維持・保全を行っています。例えば、地域の価値ある無形の文化や寺院など、歴史的に貴重な文化財の保護が挙げられます。
今後、日本に求められる活動は貧困対策です。日本における貧富の差は欧米ほど顕著ではありませんが、それでも六人に一人は貧困だとされています。貧困は親から子へと引き継がれていくケースが多いため、社会が協力してこの負の連鎖を断ち切らなければなりません。
特に子どもの貧困や、複雑な事情を抱えた子どもに対する支援は急務だと言えるでしょう。
ボランティア活動との違い
CSR活動の内容を聞くとボランティア活動と同じようなものだと思われる方もいるかもしれません。しかし、CSRとボランティアは異なるものだということに注意しましょう。
CSRの本来の役割は、企業が活動する際に社会に与える負荷や負担に対して、責任を持って対応することです。したがって、企業が生み出す社会的負担とは関係のない慈善活動を行ったとしても、それはただのイメージ戦略に過ぎない可能性があります。この場合、持続可能な社会につながることはありません。
CSRが重要視されるようになった理由
CSRが重要視されるようになったのは、2000年代に入ってからだとされており、1970年代に起きた環境破壊や公害問題の頻発、相次ぐ食品偽装事件などが理由として挙げられます。
このような不祥事を受け、ちょうど2000年代に発達したインターネットにより情報が拡散されやすくなったこともあり、同じ考えを持つ個人やNGOといった組織が力を持ち始めたのです。その結果、消費者団体や世間から企業に対して厳しい目が向けられ始めました。
また、失墜した信頼を取り戻すために企業側も、ステークホルダーの求めに応じたCSR活動をし始めるようにもなったのです。
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CSRとよく混同されがちな概念に「サステナビリティ」や「SDGs」がありますが、これらはどのように違うのでしょうか?
CSRとサステナビリティの違い
最近よく耳にする「サステナビリティ」ですが、これはCSRよりも以前に提唱されています。
サステナビリティとはそもそも「持続できる」や「維持できる」「耐えられる」といった意味を持つ言葉です。しかし、最近では「環境や社会、経済の持続可能性」といった文脈で用いられることが多くなっています。
また、サステナビリティな視点をもって企業が活動することは「コーポレート・サステナビリティ」と呼ばれています。
サステナビリティは社会や環境、経済を持続可能な状態にすることを基点とした概念ですが、CSRはサービスや事業活動によって社会的な責任を果たす、企業を基点とした概念です。
CSRとSDGsの違い
SDGsは「持続可能な開発目標」を指しており、2015年に開かれた国連サミットで採択されました。
地球上の誰一人として取り残さないことを目標に掲げており、いくつものゴールが設定されています。SDGsに期待されていることは、先進国の積極的な取り組みです。
SDGsはサステナビリティを実現するための目標と言えます。
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CSR活動の大切さや重要視されている理由はわかりましたが、なぜ企業はコストを払ってまでCSR活動に取り組むのでしょうか? その理由は下記の4つのメリットがあるからです。
- 企業に対する印象や企業価値の向上
- ステークホルダーからの信頼が得られる
- 優秀な人材の確保ができる
- 従業員満足があがる
それでは1つずつ解説していきます。
企業に対する印象や企業価値の向上
まず1つ目のメリットは、企業のイメージや企業価値が上がることです。
東京商工会議所のCSRに関するアンケート調査の結果、中小企業の55.7%が、大企業の63.3%が、CSRに取り組む目的や理由として「企業イメージの向上」と答えています。
そして、実際にCSR活動を行う中小企業の79.7%、大企業の98.3%がそのメリットとして、「企業イメージの向上」を挙げているのです。
このように多くの企業が企業イメージを良くするためにCSR活動に取り組み、実際にメリットとしてイメージの向上を感じています。企業イメージが良くなれば、提供する商品やサービスへの信頼や安心につながり、その結果、企業のブランドや価値、業績の向上にも結びつくのです。
(参考:「企業の社会的責任(CSR)」についてのアンケート調査│東京商工会議所)
ステークホルダーからの信頼が得られる
続いてのメリットは、顧客や取引先、株主などのステークホルダーからの信頼を得られることです。
CSR活動を長期的に行っている企業はイメージが良くなることはお話しましたが、その結果、利害関係者からの信頼にもつながります。実際、先程の東京商工会議所のアンケートでも中小企業の56.7%と大企業の44.1%が、CSR活動のメリットとして「販売先・納入先との関係強化」を挙げています。
ステークホルダーとの関係が良好になれば、それだけビジネスを円滑に進められるため、業績に間接的に影響を与えるはずです。
優秀な人材の確保ができる
CSRによって企業の印象が良くなると、そこから優秀な人材を集められるというメリットにつながります。
社会から「この企業は社会的な責任を果たし、社会貢献をしている」と受け止められていれば、求職者にも「ここで働きたい」と感じさせることが可能となり、多数の人材を集められるため、優秀な人材の採用ができます。
従業員満足が上がる
そして最後のメリットは、従業員満足度を上げられることです。
東京商工会議所のアンケートでは中小企業の52.9%、大企業の72.9%が、CSR活動のメリットとして「従業員の満足度の向上」と回答しています。企業のステークホルダーといえば取引先や株主などが重要視されがちですが、自社で働く社員も利害関係者であることを忘れてはなりません。
従業員にとって自分の仕事の意義を感じられることは、非常に重要となります。なぜなら、仕事に対する意義はモチベーションを上げる働きがあり、その結果、生産性の向上につながるからです。
また、満足度が高い従業員が多いほど企業活動も正常化し、それが信頼感の向上、求職者へのアピールにつながり好循環を生み出します。
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CSR活動をするデメリットとは
CSRによるメリットはいくつもありますが、一方で下記のようなデメリットも存在するので注意しましょう。
- コストが増える
- 人材が足りなくなる
それでは1つずつ解説していきます。
コストが増える
まず挙げられるデメリットは、コストの増加です。
東京商工会議所のアンケートによると中小企業の73.8%、大企業の81.1%がCSRに取り組んだことにより生じたデメリットとして「コストの増加」と回答しており、8個ある回答項目のなかで最も多くなっています。
CSR活動は直接的に利益や売上に貢献するわけではなく、本業とは関係のない事業にお金をかけることになるため、短期的にはコストが増えてしまいます。したがって、まだ創業したばかりの企業や、リソースが乏しい企業は取り組むのが難しいかもしれません。
ただし、長期的に取り組むことができれば、先程挙げたメリットを享受できるため、余裕がある場合は短期的なコスト増加には目をつむり、長期的な投資をしていくことが望ましいでしょう。
人材が足りなくなる
2つ目のデメリットは人手不足に陥る可能性があることです。
東京商工会議所のアンケートでは、中小企業の51.8%と大企業の48.6%がCSRのデメリットとして「人手の不足」を挙げており、先程の「コストの増加」の次に多い結果となっています。
昨今ではあらゆる業界で人手不足が深刻化しており、そのなかで本業とは関係がなく、さらに直接利益につながらないCSR活動に人材を割くのは厳しいと考える企業も数多く存在しています。
長期的に見ればメリットの多いCSRですが、長期的に取り組める体力のない企業にとっては難しい判断となります。
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誰もが聞いたことがあるような有名企業はほとんどの場合、自社の課題に適したCSR活動を行っています。ここでは下記の3社の事例を紹介します。
- 富士フィルム
- ブリジストン
- 武田薬品工業
それでは1つずつ解説していきます。
富士フイルム
富士フイルムではCSRを下記のようにとらえています。
富士フイルムグループの考えるCSRとは、誠実かつ公正な事業活動を通じて企業理念を実践することにより、社会の持続可能な発展に貢献することです。
富士フイルムでは下記のように幅広い分野でCSR活動に取り組んでいる点が特徴です。
- 環境
- 健康
- 生活
- 働き方
- サプライチェーン
- ガバナンス
例えば環境分野においては、自社製品の使用から廃棄に至るプロセスを対象として、二酸化炭素の排出削減や資源の有効活用を行っています。
また、富士フイルムの原点ともいえる写真フィルムは、製造する際に「膨大な綺麗な水と空気」が必要であるため、その環境負荷に対する社会的責任を果たすために環境保護を基点とした活動をしています。
ブリヂストン
世界的なタイヤメーカーであるブリヂストンはグローバルCSR体系「Our Way to Serve」に基づいて社会貢献活動を行っており、下記の3つの分野を重点的に取り組んでいます。
- Mobility(モビリティ)
- People(一人ひとりの生活)
- Environment(環境)
具体的には、使用済みタイヤをリサイクルするための企業間での情報共有や管理、タイヤに使用される天然ゴムの持続可能な利用や、環境に配慮したサプライチェーンを実現するための活動などを行っています。また、タイヤメーカーとしてのノウハウを生かした免震ゴムの開発、ゴム農園の森林回復支援などにも取り組んでいます。
(参考:社会貢献活動│ブリヂストン公式HP)
武田薬品工業
大阪に本社を置く製薬会社、武田薬品工業では「すべての人々が医療にアクセスできる世界の実現を目指して」というスローガンを掲げてサステナブルな活動をしています。
具体的には発展途上国など医療に関するインフラが整備されていない地域において、医療にアクセスしやすいように取り組んでいたり、公衆衛生の整備などを行っています。
このような取組みを長期的に続けることで、先進国だけではなくアフリカやアジアにおける貧困地域でも数多くの人の健康に貢献しているのです。
長期的にCSR活動に取り組むことでメリットを教授する
マネジメントの提唱者であるピーター・ドラッカーは著書で「企業の社会的責任」について「社会的責任の問題は、企業活動から生じるものと、社会自体の問題として生じるものがあり、どちらもマネジメントにとって重要だ」としています。
つまり、企業活動により招いた社会問題だとしても、そうではないとしても、企業が社会に存在する以上は無視してはいけないということです。
CSRはただ企業イメージを向上させられるだけではありません。社会問題に関心を持つことで、自社にとって未知の社会問題に対してリスクヘッジが可能になるのです。
日本においてもCSR活動を行う会社は増加傾向にあります。まだ取り組んでいない場合は、長期的な視野を持って取り組んでみてはいかがでしょうか?
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