経営者の方であれば、CAGR(年平均成長率)という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
CAGR(年平均成長率)は投資だけではなく、企業価値を算定する際にも利用できる考え方です。
本記事では、CAGR(年平均成長率)とは何か、実際の計算方法、活用方法までをわかりやすく解説します。
- CAGRは複利計算をベースにした成長率の考え方
- エクセルでの計算の仕方もわかる!
- PER、PBRとあわせて活用できるのもメリット
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目次
CAGR(年平均成長率)とは?
CAGR(年平均成長率)とは、複利計算を用いた成長率の考え方です。
例えば、売上1億円の企業が3年間で売上を1.5億円まで伸ばした場合、毎年売上は14.47%ずつ伸びたといえるので、CAGRは14.47%となります。
もう少し詳しく確認していきましょう。
CAGR(年平均成長率)の意味
CAGR(年平均成長率)とは、企業の複数年の成長率から、1年あたりの幾何平均(比率や割合で変化するものの平均)を求めたものをいいます。
英語でCompound Annual Growth Rateと表現し、その頭文字をとってCAGRとなります
この際、約1,600万円ずつ売上が伸びたと表現できそうですが、この計算方法では企業の成長率は図れません。
なぜなら、実際は伸びた売上ぶんが年々積み重なっていくからです。
この際、CAGRを使って成長率を表現する必要があります。
CAGR(年平均成長率)の元になる複利計算とは
CAGR(年平均成長率)では、『その企業がどれだけ売上を伸ばしたのか』を数値化するもので、複利計算の考え方がもととなっています。
複利計算とは、計算方法の一つで、元本についた利子に対して追加で利子がつく仕組みを指します。
経過年数 | 元本 | 利子 | 増加額 |
0年目 | 100万円 | 3% | 0円 |
1年目 | 103万円 | 3% | 3万円 |
2年目 | 106.09万円 | 3% | 3.09万円 |
3年目 | 109.27万円 | 3% | 3.18万円 |
同じ利子なのに増加額が少しずつ増えています。
これは、元本金額が毎年大きくなっていることが理由です。
このように元本(元になる数)が増えるほど、増加額も大きくなります。この考え方が、複利計算です。
CAGR(年平均成長率)の計算方法
年平均成長率は、数年間の成長率に対し、平均で何%ずつ伸びたのかを算出したものです。
先ほどの複利計算の例で考えてみると、「3年間で100万円を109万円にするには毎年利子は何%だといいのか?」という考え方です。
N年間で、売上をX%伸ばした場合のCAGR(年平均成長率)の求め方は以下のようになります。
CAGR(%) ={ X/100 ^ ( 1 / N ) – 1 } × 100
式に数値を当てはめるだけでCAGRの計算ができます。
Excelで数式を作成する
ここからは実際にCAGRを計算してみましょう。
毎回手計算していると時間がかかってしまうため、基本的にはエクセルを利用して計算します。
ここでは仮に、1年目に1,000万円、2年目に1,100万円、3年目に1,200万円、4年目に1,400万円の売上があった企業を例として考えてみましょう。
CAGR(%)=(N年目の売上/初年度の売上)^(1/(N-1))-1
今回は例として4年目から1年目の3年間でCAGRがどのくらいになったのかを計算するため、「N年目の売上」「初年度の売上」「N年」の部分に該当の値を入力すると以下のような式になります。
=(E2/B2)^(1/(4-1))-1
入力したら表記を%に変更、もしくは表示された値に100を掛ければCAGRが求められます。
仮にExcelを使わないと、どのように計算できるのでしょうか。
1.まずは3年間の成長率を出します。
1,400(万円)÷1,000(万円)×100=140%
2.次にCAGRの式に当てはめて計算します。
CAGR(%)={ 1400/1000 ^ ( 1 / 3 ) – 1 } × 100=11.87%(小数点第3位切り捨て)
計算式に当てはめて計算もできますが、Excelに式を入力しておけば計算式の代入部分を変更するのみでよいため、時間をかけずに行えます。
ExcelでPOWE関数を用いる
CAGRを計算する方法として、POWER関数を用いる方法もあり、計算式は以下のようになります。
CAGR(%)=POWER(N年目の売上/初年度の売上,1/(N-1))-1
同様に「N年目の売上」「初年度の売上」「N年」の部分に該当の値を入力すると以下のような式になります。
=(E2/B2)^(1/(4-1))-1
こちらも入力したら表記を%に変更、もしくは表示された値に100を掛ければCAGRが求められます。
ChatGPTを用いる
ChatGPTでプロンプトを用いることで、CAGRを自動で計算するコードを作れます。
以下の内容について「初期値」「最終値」「期間」に自社が計算したい値を入力し、ChatGPTで計算してみましょう。
なお、こちらのコードは年平均成長率(CAGR)を計算するPython関数を示しています。
def calculate_cagr(initial_value, final_value, years):
“””
この関数は初期値、最終値、および年数を使用してCAGR(年平均成長率)を計算します。
:param initial_value: 初期投資額または事業の初期価値
:param final_value: 最終投資額または事業の最終価値
:param years: 投資期間または成長期間(年単位)
:return: CAGRの値(%)
“””
cagr = ((final_value / initial_value) ** (1 / years) – 1) * 100
return cagr
# 例: 初期値が1000、最終値が1400、期間が3年の場合
initial_value = 1000
final_value = 1400
years = 3
cagr = calculate_cagr(initial_value, final_value, years)
print(f”CAGR: {cagr:.2f}%”)
上記をコピーして入力すると、ChatGPTから以下のように出力されます。
同時に、以下のように回答が出力されます。
Excelで計算する際には計算式のなかにあるセルの値を変更する必要がありましたが、ChatGPTの場合はテキスト上で値を入力するのみで計算できます。
若干ではありますが手間が省けるでしょう。
CAGR(年平均成長率)を活用するメリットとは
CAGR(年平均成長率)は、以下の5つのことが可能になります。
- 成長率の比較ができる
- 来期の売上を予測できる
- 長期の安定性を予測できる
- 業界のCAGR(年平均成長率)がわかる
- 特殊要因の分析ができる
それぞれわかりやすく解説します。
①成長率の比較ができる
まずは成長率の比較ができます。
年商が1億円の会社と年商が100億円の会社を比較した際、両社とも売上が伸びている場合、単年の売上高の数字だけでは「どちらのほうが勢いがあるのか」の比較ができません。
もちろん比較する際は業歴、業種も大きく関わりますが、CAGR(年平均成長率)は、どちらが今後伸びそうな会社なのかの一つの指標にはなります。
②来期の売上を予測できる
CAGR(年平均成長率)を計算することで、来期の売上がどの程度まで伸びるかを予測することが可能になります。
例えば、特殊要因がない状態でCAGR(年平均成長率)が10%、今期の売上が10億円だとすると、順調に売上が推移すれば、来期は売上がおよそ11億になるだろうと予測できます。
もちろん期によって何かしらの特殊要因があるのが会社経営ですが、それでもおおよその売上見通しを立てられるのはメリットです。
③長期の安定性を予測できる
CAGR(年平均成長率)を使うことで、会社の長期の安定性がわかります。
短年で出したCAGR(年平均成長率)と、長期年数でみたCAGR(年平均成長率)を比較することで、安定した成長をしているのかどうかがわかります。
長期間にわたって安定した成長が見られているのであれば、今後も同様の成長が見込まれるだろうと想像できます。
一方で、直近の伸び率が悪いのであれば、何かしら原因があると想像ができ、要因分析に繋げられます。
④業界のCAGR(年平均成長率)がわかる
CAGR(年平均成長率)でとる年数の長さを固定し、同業界の会社を分析することで、大体の業界のCAGR(年平均成長率)を出すことができます。
また、それをもとに業界分析や他社の分析にも繋げることができます。
例えば、所属する業界の中で自社のCAGR(年平均成長率)が低い場合には、その要因分析をする必要が出てきます。
この際、企業規模によってもCAGR(年平均成長率)は変わってくることもあるので、比較をするなら同規模の会社と比較をするようにしましょう。
⑤特殊要因の分析ができる
CAGR(年平均成長率)を用いることで特殊要因の分析に繋げられます。
例えば、CAGR(年平均成長率)の値が10%前後なのに、ある年だけ企業の成長率が3%だった場合には、その年に何か特殊要因が発生したことがわかります。
逆に、ある年だけ成長率が高かった場合にはその要因を分析すれば、その後の企業価値向上にも活かせます。
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CAGR(年平均成長率)を活用する際の注意点・デメリットとは
CAGR(年平均成長率)を利用すれば企業分析や他社分析などに活かせますが、一方でCAGR(年平均成長率)のデータが参考にならないパターンもあるので、注意が必要です。
以下CAGRを利用するデメリットを4つ説明します。
- 売上が安定しない企業では使えない
- 急激な成長をしている企業には使いづらい
- 将来の予測はあくまでも目安
- 成熟した企業には使いづらい
①売上が安定しない企業では使えない
売上が安定していない企業に対しては、CAGR(年平均成長率)を利用してもあまり意味がありません。
例えば、毎年売上が大きく変動する業種に対して、CAGR(年平均成長率)を適用したところで、何年間のCAGR(年平均成長率)を取るかで数値が大きく変わってきてしまいます。
このような企業を分析するときは、売上高成長率を見ても意味がありません。
それよりも、どういった外部要因が働いたときに売上が伸びるのか、逆にどのような要因で売上が落ちるのかを確認し、今期の売上予想を立てるほうがよいでしょう。
②急激な成長をしている企業には使いづらい
急激な成長をしている企業をCAGR(年平均成長率)で分析するのは十分ではありません。
急激に売上高が伸びているということは、それに伴い売上債権も大きくなっているはずです。
売上債権が伸びれば自然と運転資金は大きくなるので、借入などが膨らんでいる可能性があります。
企業の売上が急激に伸びているのを確認したら、安定性を確認するため、他の科目に違和感がないかもチェックするようにしましょう。
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③将来の予測はあくまでも目安
将来の予測はあくまでも目安でしかありません。このため、予測した売上高については参考程度に考えておきましょう。
実際の月次売上は首尾よく進んでいるのかなど確認を怠らないようにする事が大切です。
④成熟した企業には使いづらい
成熟した企業にはCAGR(年平均成長率)を使いづらいのもデメリットです。
全ての企業は基本的に売上を伸ばすことに注力していますが、売上を伸ばさなくても安定的に利益を出している企業もあります。
特に、成熟した企業は既に盤石な取引先を持っているので、売上はそれほど伸びていないが、利益は十分に出している企業もたくさんあります。
逆に、どれほど売上が伸びていようとも利益がなかなか上がらない企業もあることも確かです。
このため、成熟した企業と、今伸びているベンチャー企業とをCAGR(年平均成長率)で比較してもメリットはありません。
CAGR(年平均成長率)の活用例
CAGR(年平均成長率)はその特性上、過去の要因分析や未来の数値達成のための巡航スピードを知るために利用されます。
あくまでも目安ではありますが、未来の目標達成のために1年ごとにどれ程成長していれば数値を達成できるのかがわかるのはメリットといえます。
ここからは、CAGR(年平均成長率)がどう活用されているのかを2つ紹介します。
- 中期経営計画に利用される
- 投資の検討に利用する
(1)中期経営計画に利用される
CAGR(年平均成長率)は中期経営計画に利用されることがあります。
中期経営計画とは、企業が中期間のスパンで目指すべき目標と、対する現状とのギャップを埋める計画のことを示します。
期間は明確に定められてはいませんが、大体3〜5年程度で計画を作ることが多いです。
中期経営計画は、5〜10年の比較的長期の目標を達成するために、売上、営業利益、純利益、ROEなどの具体的な数値化をしたものが多いです。
達成できたか否かを明確にするために、定量的な目標が使われるケースが多いのが特徴です。
どのように利用されるのか?
CAGR(年平均成長率)は中期経営計画における巡航速度を示す数字として利用されます。
このため、おおよそ年平均で何%ずつ成長していけば中期経営計画を達成できるのかを示すベンチマークとしての利用が期待できます。
「最低限、毎年これだけ成長していれば確実に計画に届く」を示すので、社内での営業目標の数値の参考になります。
一方で、売上を伸ばすために企業が新製品の発売、販路拡大、M&Aを画策している場合、その時期に応じて売上は大きく変化します。
このため、あくまでもCAGR(年平均成長率)をベンチマークに、新しい施策をいつ導入すれば数字を達成できるかを計画するのが一般的です。
具体例
NECの中期経営計画では、2020年度の売上収益29.94億円に対し、2025年の売上収益目標を35億円として目標が立てられています。
この中で、各セグメントごとに売上の目標数値を出していますが、目標に対するCAGR(年平均成長率)は資料にも掲載されています。
ステークホルダーに対し、数値を達成するための目安として年にどのくらいの成長が必要なのかをCAGR(年平均成長率)を使って示しているのがよくわかる事例です。
ほかにも東京海上グループの中期経営計画では、目標の数値を達成するには「CAGR(年平均成長率)+何%」必要なのかという視点で、CAGR(年平均成長率)が使われています。
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(参考:東京海上ホールディングス株式会社 | 東京海上グループ中期経営計画2023)
(参考:日本電気株式会社 | 2025中期経営計画 )
(2)投資の検討に利用する
CAGR(年平均成長率)は、投資を検討する際にも利用されます。
CAGR(年平均成長率)は、該当企業がどれほど勢いがある企業かを判断する材料になるからです。
売上が伸びている企業であればあるほど、その後も企業価値は伸びていくと期待できます。
ただし、投資を検討する際は、そもそもの株価が割安なのかなど、他の指標も検討する必要があるでしょう。
ここでは、CAGR(年平均成長率)以外にも使える指標とその使い方を3つ紹介します。
PERとは
PERとは株価収益率の略称です。一言でいえば、株価が「一株あたりの当期純利益」の何倍になっているのかを示しています。
つまり、PERを見ればその株価が当期純利益に対して、割安なのか割高なのかがわかるということです。
例えば、1株あたりの純利益が50円・株価が500円だとするとPERは10倍になります。
PERが10倍というのは、1株を買った際に、その投資の回収にかかるのは10年ということです。
このため、PERが20倍と10倍の企業があるとすると、10倍の方がお買い得だといえます。「PERが低ければ、それだけお買い得な株」ということです。
PBRとは
PBRとは株価純資産倍率の略称です。PBRが企業の当期純利益の何倍かを表すのに対して、PBRは1株あたり純資産に対する株価の値段を示します。
例えば、1株あたりの純資産が1,000円、株価が2,000円の企業だとすると、PBRは2,000÷1,000=2倍となります。
このため、PBRは値が低ければ低いほどお得だといえます。
しかし、PBRが1倍を切っている場合にも注意が必要です。
株価が会社の解散価値を上回っているのでお得に見えますが、例えば赤字が続いている企業の場合は純資産が減り、PBRは今後上昇してしまうかもしれないからです。
PERとPBRを組み合わせる
投資を検討する際には、PERとPBRを組み合わせて投資の検討をすることが必要です。
どちらかの値だけに注目するのではなく、CAGRも合わせて総合的に検討をすることが必要です。
3つの指標を組み合わせて検討することで、より明確な投資判断ができるようになります。
M&AにもCAGR(年平均成長率)が利用できる
M&Aを検討する際にCAGR(年平均成長率)を利用することができます。
狙っている会社の成長率が高い場合、今後も成長が見込める企業だと判断できます。
また、いくら将来有望な企業だと思っても、株価が高すぎたらM&Aを躊躇してしまうことでしょう。
こうした際に、PER、PBRも組み合わせて総合的に判断をすることで、M&Aをすべきか否かの判断もしやすくなります。
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まとめ CAGRについて
本記事では、CAGR(年平均成長率)とは何か、実際の計算方法、活用方法までをわかりやすく説明しました。
また、CAGR(年平均成長率)と合わせてPER、PBRを使用することで、M&Aのタイミングまでを検討することもできます。
今後M&Aを検討する際、ぜひ役立ててみてください。
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