個人の好みが多様化する中、マスへの訴求だけでは顧客を掴むことが難しくなりつつあります。
そこで、新しいマーケティングの概念として「ファンベースマーケティング」があります。
一部のコアファンを盛り上げることで確実な収益や周辺への浸透を狙うというもので、近年注目されています。
ある意味では、マスへの訴求と逆の手法と言えるかもしれません。
コロナ禍でも効果が期待されるファンベースマーケティングについての基礎知識とカラクリなどについて紹介します。
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目次
ファンベースマーケティングとは
ファンベースマーケティングとはその名の通り、ファンをベースにして中長期的に売り上げを増やしていく方法です。
そして意味合いとしては、新規のファン獲得に重点をおくということではなく、今いる「ファン」を盛り立て、最大限活用することです。
タレントやスポーツチームなどがそうであるように、
「ファンは、自発的にチケットやCD、グッズを買ってくれるから力を入れる必要はないのでは?」
「新規顧客の開拓に力を入れた方が良いのではないか?」
と考えられがちですが、ファンベースマーケティングはそれらとは違う発想から生まれたものです。
「新規顧客を自動生成する」と言っても良いかもしれません。
マスへの露出が「外から」のアプローチによって消費者にアプローチする手法だとすると、ファンベースは「ファンの力」により、顧客の「内部から」周辺へと広げ、顧客を獲得していく手法だと言えるでしょう。
なぜこのような手法をとるのでしょうか。
それには、様々な理由があります。
まず一つ目に、このような統計があります。
世界最大の広告会社と言われるエデルマンの調査では、日本人は世界で一番、自分が働いている企業を信頼していないというものです(図1)。
図1 自分が働いている会社に対する信頼度比較
(出所「エデルマン・トラストメーター」エデルマン・ジャパン) p41
https://www.slideshare.net/EdelmanJapan/2016-57835685
日本は最下位で、自分が働いている会社に対する信頼度は40%しかありません。
そのような中では、残念ながら社員の力を期待できないと経営層が感じ、ファンの方がよほど良い広告マンになると考えているのかも知れません。
もう一つ、ファンベースマーケティングが依拠しているのは「パレートの法則」です。
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パレートの法則とファンの力
ビジネスの世界でよく知られている理論のひとつに「パレートの法則」というのがあります。
いわゆる「80:20」の法則です。
企業の売り上げの8割は2割の社員によって生み出される、という話をよく耳にするかと思いますが、これはパレートの法則によるものです。
売上という軸で見ると、2割の商品が店の利益の8割を生み出している、2割のコアファンが売り上げの8割を生み出しているということです。
つまり、8割の利益を生み出す2割のコアファンから継続的に利益を生み出すことの重要性を説いているのがファンベースマーケティングの考え方です。
実際、その状況を利用したのがカゴメです。
カゴメは売上の不振に悩まされた時、「&KAGOME」というコアファン専用コミュニティサイトの運用に乗り出しました。
カゴメの主力商品はトマトジュースですが、その売上を解析したところ、2.5%のコアファンだけで売り上げの約3割を占めていることが判明したといいます[1]。
中には、年間で8万円分購入している人もいたといいます[2]。
こうしたコアファンに対して能動的に働きかけ、手放さないための施策です。
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共感を超えた「熱狂」へ
ファンベースの第一人者、佐藤尚之氏はファンベースの拡散力についてこう述べています。
「世の中に商品や情報やエンタメが溢れかえっている今、『自分にぴったりの商品』や『まさに今の自分に有益な情報』や『自分のツボにハマるエンタメ』にいったいどうやって出会えばいいのだろう。
(中略)
でも、友人が薦めるなら話は別だ。
なぜなら、友人とは『価値観が近い人』だからである。
価値観が近い友人がツボにはまるコンテンツは自分もツボにはまる可能性が高いし、価値観が近い友人が愛用しているモノは自分も愛用する可能性が高いし、価値観が近い友人が熱中するコトは自分も熱中する可能性が高いからだ。」引用「ファンベース-支持され、愛され、長く売れ続けるために」p72-73
必ずしも友人と価値観が近いわけでない、という意見もあるかもしれませんが、現代ではSNSで価値観の近い人たちのコミュニティが出来上がっています。
そこでは、コミュニティのメンバーが同じモノやコトにはまる可能性は高いのです。
また、一般顧客と違い、「ファン」には、このような特徴があります。
- 好きなもの、気に入っているものについて、周囲に普通よりも熱量を持って語る
- ファンクラブという場所で同じ価値観の人と語り合う時間があれば、自分が好きなものに対して自信を持ち、他人に薦める
- モノやコトの購入同期には、「応援」という気持ちも強く込められている
こうした熱量、単なる「共感」ではなく「熱狂」の領域にコアファンを到達させることで、その周辺にいる消費者たちを巻き込んでいこうというのがファンベースマーケティングです。
なお、カゴメは、総株主のうち99.5%が個人株主であり「ファン株主」となっています。
「&KAGOME」は会員募集ではなく、個人株主と通販利用者にのみ告知する形でオープンしました。
会員募集キャンペーンなどは展開せず、最初からコアファンを狙い撃ちにしているのです。
結果、一般顧客がカゴメ商品を月平均で100円購入するのに対し、個人株主は月1300円購入するといいます[3]。
売上を支える大きな存在です。
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まとめ ファンベースマーケティングについて
例えば宣伝動画をYouTubeにアップしてそれが話題になり、バズを呼び起こしたとしても、瞬時の出来事で終わってしまうことは少なくありません。
「いい動画」として出回るものの、そこで終わってしまい商品購入、ましてやリピートにつながらない事例は多くあります。
せっかくお金をかけて打ち出した一大キャンペーンも、1発で終わってしまってはリピーター獲得には繋がりません。
ファンベースマーケティングでは「コアファンの好意や熱意」を最大の資産と捉えています。
なお、2020年度末までのサービスですが、カルビーはコアファンを対象に「じゃがり校」という学校を模したサイトを10年間に渡り設置していて、ファンを生徒にして新商品の「共創」を行っています。
1年かけてファンと共創した商品が年間トップを記録することが多いという力を持っています[4]。
コアファンを熱狂に巻き込むには、商品を軸とした顧客の関係だけでなく「人」「価値観」を前面に押し出すべきだと佐藤氏は指摘しています。
宣伝を「一方的に語りかけるもの」から「ファンとのコオミュニケーション」に切り替えていくという発想は、コロナ禍で「コミュニティへの帰属」「コミュニケーション」を求める消費者との関係をコアなものにするひとつの手法となり得るでしょう。
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参照
[1]「顧客と能動的につながる、カゴメのコミュニティサイト」宣伝会議
https://mag.sendenkaigi.com/senden/202001/the-identity-of-the-community/017792.php
[2][3]「ファンベース-支持され、愛され、長く売れ続けるために」佐藤尚之著、ちくま新書 p45、p140、p204