データをもとにマーケティングや商品開発、経営の方向性を決める「データドリブン」が話題になっています。
いわゆるGAFAは、データを駆使することで巨大化してきた企業ともいえます。
DXとセットで語られることの多いデータドリブンですが、導入しろ、といきなり言われても何ができるのかピンとこない経営層も多いことでしょう。
そこで今回は、データドリブンの必要性、そして導入事例などについて紹介します。
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目次
データドリブンが必要な理由「多様性」
「データドリブンが必要なのは、多様化するニーズに応えるため」
データドリブンについては、このような説明がよくなされています。
しかし「多様性」とは何なのか、いまひとつ漠然としてはいないでしょうか。
まず、このような統計があります。消費者が商品やサービスに求める要素の変化です。
図1 消費者の意識の変化(出所:「2019年版中小企業白書」中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/05Hakusyo_part3_chap1_web.pdf p336
一昔前は、安さ重視が強調されていました。
しかし近年増えているのは、「利便性消費」「プレミアム消費」です。
便利にモノが手に入る、あるいは何かを購入・消費するにあたって特別感を得られる、といったことが価格よりも重視されているのです。
これが「多様性」の正体とも言えるでしょう。
人によってライフスタイルは違うため何を便利と感じるかは違います。また価値観も違うため、どのような対応を「特別感がある」と感じるかも異なります。
従来のやり方では、顧客ひとりひとりのニーズを満たすには膨大な作業が必要でした。
「そんな細かいことにかまっていたらキリがない」
というのが本音でしょう。
しかし顧客が求める「そんな細かいこと」を合理的に勧める施策として注目されているのが「データドリブン」なのです。
コンピューターそのものの性能、また通信技術が大幅に向上したことも背景にあります。以前なら格納すらできなかった大量のデータを記録・処理することができるようになっていることも大きいでしょう。
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データドリブンの導入事例
データドリブン、といってもデータには様々な種類があります。
どんなデータをどのように使うか、それは業態によっても異なるかもしれませんが、企業での導入事例をご紹介します。
来場者ひとりひとりに異なるレコメンド
データドリブンで顧客満足度の向上をはかっているのが、「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」を運営するUSJです。
広いパーク内で来場者がどのような行動をしているか、リアルタイムの位置情報データを来場者の了承を得ることで把握します。そしてスマートフォンのアプリを使い、効率的なグッズの販売や、来場者ごとに異なるアトラクションをリコメンドする手法を採っています[1]。
例えば、持ち帰るお土産というよりはパーク内で楽しむためのキャラクター付きカチューシャなどは、入場前に売るのが最も効果的です。そこで、朝、パークの入り口付近にいる人にこれらのグッズを買ってもらうなど、その時間帯でないと意味がないリコメンドを発信しています。
来場者にとっても、入園前から気分が上がるといったメリットがあります。
また、来場者の行動を5つに分類しています。絶叫アトラクションばかり乗るクラスタ、鑑賞系の世界観重視のクラスタなどを特定し、それぞれに見合ったコミュニケーションを取っています。
来場者からすれば、自分の好みに合ったナビゲーションをしてくれるわけですから、広い園内で自分の好みの遊び方をできるメリットがあります。
「好みの多様化」に対しデータドリブンで応え、顧客満足度を上げる戦略です。
また、朝や午前中のエクスプレスパスの利用情報をもとに需要予測ができるようになり、当日の販売量を調整することもできるようになったといいます。
ビッグデータで電波状況を改善、データ分析で潜在ニーズへの気づき
また、ソフトバンクは以前から、無線ネットワークの構築にビッグデータを使用しています。国内で集まる月間約10億件のログデータを解析して電波がつながりにくい場所を特定、対策を打つことでネットワークを広げています[2]。
そしてデータ分析が商品開発に奏功したのがJTBです。
もともと出張向けの商品は、社内ではなんとなく男性サラリーマンが想定されていました。
しかし、女性が出張目的でどんなところに泊まっているかを解析したところ、女性の方が男性よりも宿泊単価が10%も高いことがわかったのです[3]。
そこで誕生したのが「出張女子」をターゲットにした広告などのアプローチです。これにより、成約率は45%向上したといいます。
いずれの企業にも共通するのは、データを利用して顧客の動きや現場の様子、顧客傾向を「見える化」したということです。勘と経験に頼るのではなく、現実と向き合うことができるツールともいえます。
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データドリブンが自社に与える脅威
マッキンゼー・アンド・カンパニーは、データドリブン経営がもたらす潜在利益は世界で1000兆〜1500兆円になると分析しています[4]。日本のGDPの2〜3倍の規模にあたります。
特に生産性価値が大きい分野としては、営業、マーケティングと製造、サプライチェーンにおいてそれぞれ350兆〜600兆程度の価値が存在するとしています。
そして日本におけるデータドリブン経営について、データ主導の意思決定は広がりつつあるも、全社改革と認識している企業はまだ少ない、とした上で、このような厳しい指摘をしています。
「GAFAやデータドリブン経営を実現するベンチャー企業が台頭しているからといって、自社が破産するとは考えられない」と反論する方もいるだろう。
しかし、よく目を凝らして見てもらいたい。自社の社員がベンチャー企業に転職するケースが増えていないだろうか。ベンチャー企業と提携した競合他社に少しずつ市場シェアを奪われていないだろうか。そうして、じわじわと真綿で首を絞められるように競争力を失えば、数年で挽回不可能な劣勢に立たされる可能性も否めない。 |
<引用:「ハーバード・ビジネス・レビュー」2019年6月号 p23>
後れを取ると、人材というリソースにまで影響が及ぶということです。
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まとめ データドリブンについて
いいものを作れば売れる、という時代はすでに過去のものになっています。
モノを作って売る、という事業もサービス業に近づいていると考えるのが良いでしょう。それが近年よく耳にするD2Cであり、OneToOneマーケティングと呼ばれるものです。
そして、データはただ集めるだけでは役に立ちません。必要なことは点と点を線で結ぶことです。
開発から素材、仕入れ、製造、流通、顧客の好みまでを線で繋ぐことで初めて価値を持ちます。
また、データドリブンに期待される効果としては、部門ごとに別々、五月雨に施策を実行していては縦割りの組織は変化できません。
データという共通言語は社内の壁を壊し、全社の意思疎通、業務の効率化にも繋がるため無駄を防ぐという潜在価値も持っています。
データドリブンの導入には大きな組織改編を伴うこともありますが、「これがネックになっている」という言い訳をしていては後れを取り戻すことさえできないでしょう。
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参考
[1]「USJ、リアル行動データでパーク内でのサービス拡張へ」日経XTREND
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/watch/00013/00533/
[2]「電波品質改善の取り組み:ビッグデータの活用」ソフトバンク
https://www.softbank.jp/mobile/info/personal/news/service/20140409a/
[3]「JTBが進めるデジタル変革、質的分析と量的分析が切り開く旅行の未来」ITmediaマーケティング
https://marketing.itmedia.co.jp/mm/articles/1906/10/news022_2.html
[4]「ハーバード・ビジネス・レビュー」2019年6月号 p24