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アフターコロナを生き残るには ある飲食店が仕掛けた地域創生のイノベーションとは

アフターコロナを生き残るには ある飲食店が仕掛けた地域創生のイノベーションとは

筆者の職業は社会保険労務士で、主に、顧問先企業へ労務コンプライアンスの徹底とHR(Human Resources)の助言を行っています。
今般のコロナショックでは多くの顧問先がダメージを受けましたが、今のところ廃業をした顧客はいません。
そして中にはむしろ、この逆境をバネにイノベーションを起こそうとしている顧問先すらあることに、驚いています。
潤沢な資金があるわけでも、補助金や給付金でまかなっているわけでもありません。
にもかかわらずなぜ、営業を続けさらにイノベーションに取り組む前向きな力を発揮することができるのか。
その答えがこれまでの経営方針にあり、これからのシナリオにありました。

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地産地消へのこだわり

顧問先Fは練馬区でピッツェリアを経営しています。
練馬区といえば練馬大根に代表される「都市農業」が盛んな区で、農地の広さは23区内最大です。
総人口74万人(2020年4月1日時点)を超える練馬区は、池袋へのアクセスも良好で、ベッドタウンとしても魅力ある街です。

そんな「都会&農業」が実現する練馬区で、Fオーナーは「地産地消」を徹底してきました。
過去にナポリで修業を積んだ同氏は、ピッツァの世界大会で優勝歴のある、業界では有名なイオーロ(ピッツァ職人)です。
当時の経験を生かし、
「ここ練馬で、食材、人材、お金を循環させ、地元を元気にさせることが僕の目標」
と、いつも笑顔で語っています。
「地産地消」を実践し、さらに「スローフード」を通して人々の食生活を豊かにしたいという夢を持ち続けています。

なおスローフード(Slow food)とは、1986年にイタリア・ピエモンテ州にあるブラ(Bra)という小さな町が発祥とされています。
手軽にすぐ食べられる「ファストフード(Fast food)」の対義語として生まれました[1]。

スローフードは、多忙な現代人の食生活を見直す運動で、
「消えつつある郷土料理や質の高い食品を守ること」
「質の高い食材を提供してくれる小規模な生産者を守っていくこと」
「子どもを含めた消費者全体に、味の教育を進めていくこと」
という3本柱から成り立っています[2]。

「野菜の栄養価は収穫したてがもっとも高い。輸送コストもセーブできるので、東京近郊で育った野菜は人気がある。これが“都市農家”の強み」
と、Fオーナーは言います。そして新鮮な地元野菜を使った料理を、お客さんに届ける。
――これこそが地産地消を含むスローフードの極みです。

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守るべき食文化とは何なのか

話は変わりますが日本全体が少子高齢化に苦しむ今、農業従事者の高齢化はどのくらい進んでいるのでしょうか。
図2は、就農形態として
「主たる仕事が農業(基幹的農業従事者)」
「農業経営のために雇用された人(常雇い)」
の年齢別のグラフです。

図2:農林水産省/平成31年農業構造動態調査(調査結果の概要)年齢別基幹的農業従事者(販売農家)と常雇い数(農業経営体)の構成割合(全国)p6
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files/data?sinfid=000031887632&ext=pdf

一目瞭然ですが、基幹的農業従事者[3]の80%が60歳以上です。
主たる仕事が農業である人々の少子高齢化は深刻です。
また農業技術の次世代への伝承、耕作放棄された農地の活用、さらには農業の自動化・機械化の促進、販路拡大など、「農業」で収益を確保するための課題は山積と言えるでしょう。

このような中でどうすれば、食文化の根源的な担い手である「地域の食材」を、農家を守ることができるでしょうか。
地域の食材が死ねば、地域の食文化も失われます。
練馬大根が失われたら、三浦大根で代用すればよいというわけではありません。
この考え方が徹底しているEUには、
「原産地呼称保護(PDO:Protected Designation of Origin)」
「地理的表示保護(PGI:ProtectedGeographical Indication)」
「伝統的特産品保証(TSG: Traditional Specialty Guaranteed)」
という制度があります。[4]

詳細は割愛しますが、
・ 特定の場所、地域、まれに国を原産地としていること
・ 生産工程のすべてが一定の地理的領域で行われていること
・伝統的な慣行に沿った生産、加工方法または組成から生じる産品・食品であること
・伝統的に使用されてきた原料または成分から生産された産品・食品であること
などなど、食文化の担い手が守らなければならないことを明記し、法律として制定しています。

かつて日本では、発泡性のワインのことを全てシャンパンと呼んでいましたが、今はスパークリングワインとなったのはこの制度のためです。

シャンパンとは、単に発泡性の白ワインのことではありません。

「シャンパン」はフランスのシャンパーニュ地方でつくられ、かつフランスのワインの法律(AOC法:原産地呼称管理法)に規定された条件を満たしたもののみ名乗ることができる名称です。条件にはつくられる地域やぶどうの品種、栽培や伝統的製造方法(メソード トラディショナルと呼ばれる製法で、シャンパン製法とも呼ばれる)、アルコール度数などの項目があります。

引用:SUNTORY:「シャンパン」と「スパークリングワイン」とはどう違うのですか?https://www.suntory.co.jp/customer/faq/001818.html

とあるように、特定の地方、特定の材料と条件、特定の製法でのみ作られたものを差します。
このようにして、「本物の味」すなわち「食文化」は守られていきます。
逆に言えば、食文化を守り抜くとはこれほど大変なことなのです。

であれば、今まさに日本の農業、すなわち「本物の食文化」が危機に瀕していることがおわかり頂けるのではないでしょうか。

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業界の垣根を超えた絆

話を戻し、練馬区のピッツェリアオーナー、F氏の話です。
コロナショックの影響で、飲食店へ野菜を販売していた農家は販売先の飲食店が休業し、作物の販路が絶たれようとしていました。

学校の休校、リモートワークによる社員食堂の閉鎖など、普段は大量の食材を必要とする場所が閉鎖してしまうと、農家は多大な損失をこうむることになります。
高齢者が多い農家は、この状況が続けばとても耐えることができず多くの方が廃業してしまい、食文化は永遠に失われるでしょう。

この事態にFオーナーは、地元の小売店や仲卸に呼びかけ、相談を受けた農家の作物をすべて、市場へ送り出しました。
「農家が育ててくれた野菜を、決して無駄にはしない」
ピッツェリア開業当初から、スローガンのように言い続けていた言葉を思い出しました

外出自粛要請により、「外食」の機会は減少しました。
しかし、その分「内食(家庭で調理)」「中食(弁当などをテイクアウト)」のニーズが急増しています。
そのため、飲食店向けの作物の販路を、小売店へ切り替えることを提案したのです。
結果、「野菜を店舗に納品するなり、即完売」でした。
プロ仕様に育てて頂いていた「本物の野菜」を惜しげもなく一般小売店に流したのですから、“奪い合い”状態になったのも当然と言えるでしょう。
飲食店は飲食店、農家は農家、と境界を設けるのではなく、隣接する業界同士が協力しあい「飲食業界を守っていこう」という壮大なスケールのチャレンジがスタートしたのです。

そして、この流れは農家×飲食店にとどまらず、地域全体を巻き込んでのプロジェクトへと発展しています。
練馬区の農家、飲食店、美容室、内科・歯科クリニック、商工会議所、サッカーチーム、そして子どもたちが協力し、
「医療従事者応援プロジェクト-食の力でエールをおくる」
を立ち上げました。

“コロナ禍の最前線で働く、地域の医療従事者へ向けてランチを支援する”
というもので、小さな町医者へは毎日、大きな病院へは週1回、規模に応じたランチを提供しています。
お金の寄付ができる人は寄付をし、農家と飲食店は食材とランチを作り、クリニックは訪問看護車両を提供し、それぞれの役割を果たしながら医療従事者へランチを届けています。

この一連の行動から、「日ごろの連携や関連性」が有事にどれほど生きるのかを知ることができます。
皮肉にもそれらがコロナ禍で証明されたわけですが、アフターコロナの世界には、”広範で効率的なサプライチェーン”ではなく、地域の、あるいは隣接する業種同士の「より密な連携」が進んでいくのかも知れません。

「人は食べなきゃ生きていけない。食材はかならず、どこかのルートで消費者へとどく。その手伝いを僕ができるならやる。自分の店のことだけ考えてたら、アフターコロナまで生き残れない」
と、Fオーナーは言います。

コロナ禍で表面化した「農家×飲食店×地域」という連携体制は、ピンチをチャンスに変える新たな構図となるでしょう。
そしてその変化こそが、予想もつかないようなイノベーションモデルとなるかもしれません。

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不可逆的なフェーズからの未来

新型コロナウイルスの影響で、多くの飲食店は深刻なダメージを受けており、必然的に“変化”を求められています。
ならばその変化を利用することで、“新たな変化を創出”しなければ生き残れないでしょう。

飲食店に限らず、あらゆる業種で求められる変化として、メンバーシップ型からジョブ型への雇用スタイルの移行、営業や就職活動のオンライン利用、キャリアの複線化、オフィスのあり方などが考えられます。
ドラスティックな変化を避けてきたこれまでを覆す変化が、必要となるかもしれません。

“自然淘汰とは、強いものが生き残るのではなく、変化に対応できたものが生き残る”
と、ダーウィンは言います。

コロナ急性期をそろそろ終えつつあるいま、不可逆的なフェーズに立たされていることを受け入れ、これからの経営のあり方へとシフトチェンジする機会にしてみませんか。

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参照

[1]参考:フードシステム研究 第16巻4号 2010.3
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jfsr/16/4/16_4_4_52/_pdf
[2]参考:東北農政局/安全・安心な食生活:スローフード運動ってなに?https://www.maff.go.jp/tohoku/monosiritai/syokutaku/syokuzai.html
[3]参考:農林水産省/用語の解説
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h23_h/trend/part1/terminology.html
[4]ジェトロ・ブリュッセル事務所「EU の地理的表示(GI)保護制度」https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/07001948/EU_GI_Report2015.pdf

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