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それ、コスプレですよ!アフターコロナのテレワーク時代、ニューノーマルになるビジネスマナーとは

それ、コスプレですよ!アフターコロナのテレワーク時代、ニューノーマルになるビジネスマナーとは

日本人のビジネスパーソンは、全員、常に清潔なハンカチを3枚、持ち歩いていると信じて疑わないアメリカ人がいました。
それが常識だとビジネスマナー本に書いてあったというのです。

1枚は自分が使うため。2枚目はスペア。
では、3枚目は……?
ビジネスで会った人がハンカチを忘れて困っていたら貸してあげるため!

「あなたも、そうでしょう?」
「わたしですか? わたしなら、いつもバッグに4、5枚は入っていますよ」
「4、5枚? すごい! さすがァ!」
と、なぜかハイテンションになった彼。

いえ、私の場合は、そうじゃないの。昔しょっちゅう忘れてたから、「ハンカチ、また忘れちゃいそう」っていう強迫観念が強いんです。それで、ハンカチを目にすると、条件反射的にバッグにつめこんじゃうので……とは、ちょっと言いにくい雰囲気でした。

今回は、その「3枚目のハンカチ」のお話です。

 

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 非の打ちどころのないパフォーマンス

 

こんな動画を観たことがあります。
テーマはビジネスマナー。

とにかく顧客企業には失礼のないように、相手を立てて、くれぐれも阻喪のないようにと繰り返し伝えられた後のシーンです。

若い女性社員が自社で階段を下りようとしている。
ちょうどその時、下から顧客企業の重役が上がってくるのが見えた。
女性社員と重役とは顔見知りです。
業者の平社員が上、お得意様のお偉いさんが下という、あり得ない空間構図。

まずい!
客のクセにどうしてエレベーターを使わないのだ。
いや、違う、そこじゃない!
こういうときには、一体、どうすればいいのだろう……。
思わず身を硬くし、固唾をのんで、モニターを見つめます。

すると、その女性社員は、にこやかに会釈したかと思ったら、滑るように階段を駆け下り、次の瞬間にはお得意様の下の段にすっくと立っている。
そして、上半身を45度傾けて最敬礼。
続けて、ときびりの笑顔でアイコンタクトをとりながら、弁舌爽やかにこう言うのです。
「鈴木専務、お久しぶりでございます。日ごろは大変お世話になっております」
そして、再び45度の最敬礼。

アクロバティックな動線、きりっと口角が上がった口元、定規で測ったかのように見事な再現性を誇る傾斜角度。
ふう~っと息を吐きだしながら、脳裏に鮮やかなそれらの残像に暫し圧倒されていました。
そして、それらと入れ替わりに訪れた妙なデジャブ感……。

 

 何かに似ていると思ったら

 

唐突ですが、「方言コスプレ(コスチューム・プレイ)」をご存じでしょうか。

生まれ育った地域で使われていて、自然に身につけている方言を「リアル方言」としましょう。
方言コスプレで使われるのは、リアル方言とは異なるバーチャル方言で、「日本語社会で生活する人々の頭の中にあるイメージとしての〇〇方言」です [1]

イメージなので、本場のリアル方言とは少し違う場合があったとしても、「ちゃうちゃう!」などとネイティブがつっこむ問題ではありません。

そのバーチャル方言を、「その場その場で演出しようとするキャラクター、雰囲気、内容に合わせて臨時的に着脱する」 のが方言コスプレ [1] 「方言萌え」などにみられるように、ある意味、方言をファッション化、オモチャ化するという時代性を背景に生じた言語現象で、現在では日本語学の研究対象にもなっています。

例えば、相手の行為を咎めるとき、豪快でおおらかな坂本竜馬キャラを演じて雰囲気を和らげる。
「そりゃあ、いかんぜよ」

友だちの部屋で空腹を覚えたとき、素朴でイノセントなイメージの東北系バーチャル方言を装着して、ちょっといたいけなキャラを演じる。
「オラ、ひもじいだ。何がめぐんでけれ」

友だちのギャグにつっこみを入れるときは、もちろん、バーチャル関西弁で。
「なんでやねん! ほんま、しょうもなっ!」

何かに似ていると思ったら、これだった!
動画を観た後のデジャブ感の正体は、この方言コスプレでした。

方言コスプレで用いるバーチャル方言は、「イメージとしての〇〇方言」、つまり、ステレオタイプの方言であるというところがポイントです。

 

 ビジネスマナーは方言コスプレと相似形

 

コスプレのコスチュームはなにも衣服やヘアスタイル、メイクとは限りません。
上でみたように、方言の場合もあります。
コスプレの原点は、「装う」こと。
そうであれば、ビジネスマナーの多くもまたコスプレであると筆者は考えます。

例えば、動画の女性社員。
彼女の行動様式―一連の動作、パフォーマンスも、相手に対する自身の立場、その「あるべき姿」を演じるコスプレです。
「3枚目のハンカチ」もしかり。
そのステレオタイプなあり方は、方言コスプレと相似形。

ビジネスマナーは、ビジネスパーソンの行動特性の集大成でありエッセンスです。
したがって、そこには、ビジネスパーソンがビジネスをどう捉えているのか、そのマナーによって何を実現しようとしているのか、何をヨシとし、なにを回避しようとしているか等々の価値観が内包されているはずです。

しかし、その反面、ビジネスマナーがビジネスパーソンの行動特性を規定しているという側面もあり、この2つは往還的です。

例えば、冒頭の動画にしても、どうして重役を見かけたそのときに、とりあえず、「あ、鈴木専務…」と声をかけてはならないのか。
どうしてあれほど素早く垂直下降しなければならないのか。
どうしてお辞儀は45度の最敬礼でなければならないのか。
どうして自分の判断と感性で対応してはならないのか。
つまり、どうしてあのような様式でなければ相手に敬意を表すことにならないのか。

そうした素朴な疑問の答は、「それがマナーだから」、「それが慣習だから」でしょう。
つまり、あのようなビジネスマナーは、本質、実質から既に外れている、形骸化したステレオタイプなのです。
コスチュームはステレオタイプ故にコスチュームたり得る。
バーチャル方言がそうであるように、です。

 

 コスプレに潜む危険性

 

深く考えたわけでもなく、したがって納得しているわけでもないのに、マナーという「集団規範」から逸脱しないように気を配り従順に従うという態度は、社会心理学的にいうと、「同調」です。
同調は集団からの圧力を感じた場合に生じることが多く、そういう意味では、周囲に合わせようとするその態度は、一種の対人スキルともいえます [2]。

でも、ここで注意しなければならないのは、こうしたビジネスマナーのあり方は危険だということです。
ビジネスマナーの指し示す方向性が何を意味するかも考えずに、マナーにさえ従っていればいいという態度は、個々人の自由な発想や判断を妨げ、単一の価値観でメンバーを拘束する危険性があります。
先ほどみたように、ビジネスマナーにはビジネスパーソンの行動特性を規定するという側面がありますが、その規定のあり方がまず問題なのです。

筆者がみる限り、日本のビジネスマナーの大半は、相手に好印象を与えるためのテクニックです。
そのために、相手を過度に気遣い、尊重する。
それは本質的な意味における「相手への敬意」とは似て非なるものであると筆者は考えます。
ある種の「交渉術」、「処世術」といってもいいかもしれません。
好印象を抱いてもらい、相手の心をつかむ、そのためのテクニックを極端なまでに「良識的な行動」に落とし込み、マニュアル化したものがビジネスマナーの大半だといってもいいでしょう。
そのような行動様式が必要なのは、それによって良好な人間関係を築き、その信頼関係によってビジネスを円滑に進めようという意図があるからです。

確かに信頼関係はビジネスに限らず、どのような分野にあっても人間関係の基本でしょう。
でも、常に相手を立て、控え目な態度で、とにかく衝突を避けようとする価値観は、またそうした価値観に縛られた集団は、どのような成果をもたらすでしょうか。

表1 「これからの企業・社会が求める人材像」 経団連(左)・経済同友会(右)
出典:*3 経済産業省(2017)産業人材政策室「人材像WG 参考資料集」 p.8
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/jinzairyoku/jinzaizou_wg/pdf/006_s01_00.pdf

上の表1で経済界がどのような人材を求めているかみると、まず、課題設定力・解決力、自らの意思を論理的に発信する力などが挙げられています。
それは、予定調和を目指す現在のビジネスマナーとは相容れない価値観です。

もちろん、すべてのビジネスマナーが問題だと主張したいわけではありません。
むしろ、ビジネスマナーの指し示す方向性、そこに内包されている価値観に無自覚なまま、そこにとりあえず乗っかり依存しようとする姿勢にこそ問題があるのではないかというのが筆者の考えです。

コスプレ中の自分の姿を鏡に映し出してみると、今まで気づかなかったことが見えてくるかもしれません。

 

 そして、次のフェーズ、ニューノーマルへ

 

現在、新型コロナウイルス感染拡大防止策の一環として、テレワークが推奨されています。
東京商工会議所が行ったアンケート調査(2020年3月13日~31日)の結果によると、テレワークを実施している企業は26.0%、実施検討中は19.5%でした [4]。

テレワークの推進自体はもともと政府が推奨していたことですが *5、新型コロナ禍の影響で、俄かにクローズアップされた感があり、今後、さらに普及が進む可能性もあります。

そうした状況の中、さまざまなデジタルツールが開発され、「テレワーク営業」も珍しくない時代が到来しつつあります。
それに付随して、既に一部のビジネスマナーは刷新されつつあるでしょう。

知らず知らずに纏っているコスチュームを一旦、脱いで点検してみる。
そして、新たなフェーズに相応しいビジネスマナーを構築する。
今こそ、ビジネスマナーを見直す絶好のチャンスではないでしょうか。

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参照

[1]田中ゆかり(2011) 『「方言コスプレ」の時代』 岩波書店
[2]山岸俊男(2015)『徹底図解 社会心理学』 新星出版社
[3]経済産業省(2017)産業人材政策室「人材像WG 参考資料集」
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/jinzairyoku/jinzaizou_wg/pdf/006_s01_00.pdf
[4]東京商工会議所(2020)「ニューリリース:『新型コロナウイルス感染症への対応に関するアンケート』調査結果を取りまとめました~テレワークを実施している企業は26.0%、実施検討中は19.5%~」
https://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=1021764
[5]総務省(2020)「テレワークの推進」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/

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