キャリア形成における「ステップバック」について、その意味やメリットを詳しく知っているでしょうか。
ステップバックは組織にとってよい点もありますが、使われ方によっては人材流出につながってしまい、組織を弱体化させてしまうケースもあります。
この記事ではステップバックの意味や方法、企業側・従業員側の注意点を紹介します。
しっかりと把握して、優秀な人材が流出してしまう前に、手を打ちましょう。
目次
ステップバックとは「キャリアの後退」のこと
ステップバックとは「後退すること」を指します。
現在置かれている立場や収入を手放しても、自分を成長させて夢の実現に近づけたり、目標を達成するためにあえて一時的な後退を選ぶことです。
言葉のイメージから「左遷」「降格」「減給」といったネガティブ要素を思い浮かべるかもしれませんが、ここでいう「後退」とは将来、自分を理想の方向へ導くための戦略的な行動です。
自分のキャリアを長期的にとらえたうえでの、前向きな動きといえるでしょう。
ステップバックを選択する3つの理由
それではなぜ、現在の地位や立場を手放してまで、別の道を選ぼうとするのでしょうか。
ここからはステップバックを選択する理由を3つ紹介します。
1.昇格や昇進を望んでいないから
仕事をするからには給料を上げようと奮闘する人がいる一方で、金銭的に不自由をかんじていなかったり、地位や名誉を重要視しない従業員もいるでしょう。
後者のような人は残業して上司にアピールしたり、年収をあげたりするよりも、「定時で退社できること」「業務の負荷がないこと」を重視している傾向があります。
自分に負荷をかけてエネルギーを使いすぎるよりもむしろ、ステップバックをして、自分の時間を確保しながら働き続けたいと考えているのです。
2.ひとつの会社で専門性を高めるのが難しいから
業界での専門性を高めたいと考えている場合、ひとつの会社にいるだけではどうしても経験が足りないと思ってしまうときがあるでしょう。
そのため、たとえ現在の会社で順調にキャリアを積んでいたとしても、転職して同業他社での業務も経験し、より専門性を上げたいと考えるケースもあります。
実際に取り扱う商品が増えたり、より自分にとって魅力的と思える上司と巡り合ったりと、社会人として力をつける要素が得られることはあるものです。
3.妊娠や体調面で仕方がないから
妊娠や介護など自分自身が置かれた立場や、長時間働くのが体力的に難しいなどの理由で現在の職務を続けるのが負担であると考えてしまうときがあるでしょう。
そのようなときは時短勤務をしやすい部署に異動したり、負担がなく進められるチェック作業や入力の仕事をメインでおこなうなどの職務変更をすることがあります。
このように、ステップバックは持続的に働ける方法をあえて選択して、心身のバランスをとる方法としても機能します。
ステップバックをする3つの方法
ここではステップバックの方法を3つに絞って紹介します。
1.配置転換する
長期的な視点でキャリアを形成するにあたり、組織全体の動きや業務の流れを把握したり、業務の効率化をしたりといったプロセスがプラスに働くことがあるでしょう。
そのために、ステップバックとして他部署に配置転換し、新しい視点や知識を手に入れる方法があります。
短期的に見ると何もわからない状態で進むため、生産性は落ちるかもしれません。
しかし長期的には組織を俯瞰してみられるようになるため、重要なポストに就いて指示する役割を担う可能性を秘めているといえます。
関連記事:配置転換とは?効果的な方法や注意点、違法になるケースを解説
2.職種を変更する
一生のうちに経験できる職業は限られており、本人が食わず嫌いをしているだけで、本当はほかの職種に適性があるというケースは往々にしてあります。
そのため、企業のなかで職種を変更することもひとつの選択肢です。
例えば営業で外回りをしている人が何らかの理由で一時的に事務職を経験すると、思った以上に向いていた、ということもあるでしょう。
営業経験があるからこそ、実務を頭に入れたうえで、バックオフィスとしてうまく連携をとった働き方ができるかもしれません。
これまで経験していなかった仕事をすると自分の適正に気付き、企業をよくするためのメンバーとして、新たな可能性を探れます。
3.転職する
終身雇用制度が崩壊しつつあり、労働人口が減少している現在では転職でキャリアを形成するのも、ひとつの方法です。
例えば今の収入や地位が満足できるものであっても、規模の小さい企業に転職して、より多岐にわたる業務を経験したいと思うときもあるでしょう。
一時的にデメリットがあったとしても、あらゆる経験を積み、業界で生き残る人材になるために力をつけられます。
ステップバックにおける企業側の注意点
ここからは従業員がステップバックする際に、企業側が気をつけるべきことを3つ紹介します。
ステップバックに対応する制度を整える
従業員のなかには、妊娠や出産、介護や体調などを理由に一時的に働けない状態になる人がいます。
仕事が嫌になってしまったり人間関係で問題があったりするケースでなければ、会社を辞めずに働き続けたいと思うでしょう。
そのため、企業は従業員が退職してしまう前に、一時的に残業や時短勤務のとりやすい職位へ変更できる制度を整えるようにしましょう。
すると優秀な人材が会社に長くいてくれるようになるため、知識やスキルが貯まりやすくなります。
これこそが、ステップバックのよい活用方法といえるでしょう。
関連記事:離職率を下げるための施策とは?従業員の定着率を高める10の施策
不本意な異動とならないようにする
ステップバックは自らの意志により、おこなわれるものでなければなりません。
なぜなら企業側の指示となると、パワハラととらえられたり従業員と企業の間で軋轢を生んでしまったりする場合があるからです。
不本意な異動や変更とならないよう、社員面談でまずは本人の意志や希望をヒアリングするようにしましょう。
従業員のキャリアプランを把握したうえで、適切にすり合わせをして異動可否を明確にすると、納得感を与えられます。
この納得感は、社員が置かれた立場で仕事をまっとうする原動力となるでしょう。
経験を共有する
ステップバックは「後退」の意味があり、なんとなくネガティブなイメージでとらえられることもあります。
そういったイメージを払拭するためには、以下のような項目で、ステップバックした社員の経験を共有するようにしましょう。
- なぜそのような選択をとったのか
- その結果、どのような視点が持てるようになったのか
- どのように仕事の進め方が変わったのか
ステップバックが企業にとってもメリットがあると認識されると、他の社員も制度を利用しやすくなります。
選択肢が広がることで、従業員が長く企業に居続けるイメージが湧きやすくなるでしょう。
ステップバックにおける従業員側の注意点
次に、ステップバックをする際に従業員側が気をつけるべきことを3つ紹介します。
理由を明確にする
ステップバックは本来、長期的なキャリア形成を前提としておこなわれるため、一時の感情に流されて選択するものではありません。
まずは従業員が自分自身に不足している経験や能力を洗い出し、ステップバックを選択する理由、目的を明らかにしましょう。
目的を明確にすると選択肢が定まり、長期にわたって仕事の質を上げるために後悔のないアクションをとれるでしょう。
マイナスな要素も受け入れる
ステップバックをすると短期的には現在の地位や年収を失い、役職がない状態から再スタートしたり、年収が大幅に下がってしまうケースもあるでしょう。
そのため一時的に経験するであろう、精神面や金銭面のマイナスな要素も受け入れられるようにしておくことが、重要です。
例えば、収入が減少することを受け入れるための十分な貯蓄があるか確認したり、先に待ち受けるであろう試練と対処法を検討したりといった対策が必要です。
あえて選択してマイナス面も受けているという心持ちでいれば、ステップバック後も挫けずに業務をこなせるでしょう。
失敗してもリスタートできる条件がある
物事がすべてうまくいけばよいのですが、必ずしも理想どおりになるとは限りません。
例えば転職するために離職した場合、年齢やスキルによっては転職先が決まらなかったり、思うように昇進できなかったりと、厳しい現実を突きつけられるときもあるでしょう。
そのような事態を避けるため、思うようにいかなかったとしても挽回できるような年齢やスキル、資格といった条件があるかを確認しましょう。
万が一を想定しておくと心が焦らずにいられるため、自分でコントロールできないようなモチベーションの低下を防げます。
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ステップバックを適切に理解し人材の流出を防ごう
ステップバックと聞くとネガティブなイメージにとらえられるかもしませんが、キャリア形成にとって重要なフェーズになる可能性を持つ行動です。
その一方で企業側にとっては人材が流出してしまう事態になりかねないため注意が必要です。
社内の制度が追いついていないと、優秀な人材が他社へ流れてしまい、相対的に企業の競争力が落ちてしまうかもしれません。
そのような事態を避けるために、企業側もステップバックの知識を得るとともに、従業員が希望した際には適切に後押しできるような制度を構築しましょう。