2020/07/01

テレワーク時代の働き方に潜むハイコンテクストの罠、ローコンテクストの必要性とは

先日、クライアントからの相談を受けながら、ふと「言葉のすれ違い事件」を思い出しました。
それは、ある会話で使われた「大丈夫」という言葉に、筆者が翻弄されたことです。

筆者の仕事は、社労士とライター。
日々、クライアントや関係者とコミュニケーションをとりながら、業務を遂行しています。
顧問先のなかには、契約から現在まで、一度も対面したことのない社長もいます。
物理的な距離が原因の場合もありますが、実際に、「対面する必要がない」というところが最大の要因です。

とある日、いつものようにSNSで仕事の確認をしていました。
相手は、筆者の原稿をチェックする編集長で、こちらも直接会ったことはありません。
筆者から、新規の原稿について、
「この内容で執筆できれば、貴社の評価向上に貢献できると思う」
という趣旨のメッセージを送りました。

すると編集長から、
「大丈夫」
と、返信がありました。

このとき筆者は、「大丈夫、キミでは無理だから」と受け取りました。
しかし編集長は、「大丈夫、もう十分貢献してもらってるから」というつもりで、返信したそうです。

ライター業は、基本的にメッセージのやり取りのみで完結します。
編集長からの指示は的確なため、業務上の支障はありませんが、筆者の決意表明ともとれる発言を一蹴された「すれ違い」に、ひどく心を痛めたものでした。

テレワークが進む昨今、フィジカル環境ではなく、デジタル環境下でのやり取りが急増しています。
文字や文脈に依存する傾向を踏まえ、これからの傾向と対策を考えてみます。

 

テレワークにおける「単語事件」

 

システム開発会社を経営する顧問先の社長から、雑談を兼ねて、テレワークでの失敗談を聞いた時のことです。
システム系の仕事は比較的リモートワークがしやすいため、コロナの影響が拡大する前に、テレワークへと切り替えていました。

「うちの仕事は、わりとドライに進められます。業務も、指示書や設計書で作業の指示をしますし。
ですから、ウェットな環境はこれからも必要ないかもしれません」

システム系の仕事は、知識集約型産業と思いきや、労働集約型産業の側面が強いものです。
豊富なITナレッジを持ったシステムエンジニアたちが作業をしますが、積もり積もるとマンパワーという結論に至るからです。
多数のSEを抱える社長は、コミュニケーションのすれ違いから起きた、ある出来事について話してくれました。

「つい先日、女性社員とその上司から謝罪を受けました。ちょっとしたITツールの作成を依頼したのですが、『期日までに出来上がりませんでした』と」

話を聞くと、社長から依頼を受けた上司が、部下へ「社内向け集計ツール」の作成を指示。
しかし、終盤に、部下から変更の提案を受けたため、提案された内容への変更を承諾しました。
ところが、出来上がったものは当初の指示通りのものだった、という内容でした。

なぜ部下は、承諾された変更を無視し、当初の指示通りに進めてしまったのでしょう。

実はその部下は、筆者の友人でした。
友人から、リアルタイムでその「ミス」について相談を受けていたため、手に取るようにミスの発生過程が理解できました。

「何度もテストしながらそのツールを作成したの。私の解釈が合ってるのか不安だったから、上司に、『これはルール上Aだと思うので、Aで作りました。しかし、過去を参考にすると、今後のためにはBにしたほうが良いかもしれませんが、どうしますか?』ってメッセージしたの。
上司の返答は、『いいです』だった」

この「いいです」の一言が、すべての元凶となりました。
友人は
「提案されたBはいらない、当初のAでやる」
と受け止めたのです。

その結果、期日までに仕上げた「ITツール」は、上司が要望したツールではなく、仕事としては「失敗」に終わったのでした。

 

空気を読む文化

 

日本には「空気を読む」という文化があります。
「言われなくても感じて行動する」という「ハイコンテクスト文化」が根強く存在します。

ハイコンテクストは、コンテクスト(知識、文化、価値観、言語)が共通認識となっている状況を指します。
「以心伝心」の言葉に表されるように、言葉にしなくても理解し合えます。

一方、コンテクストの共通項が少なく、より言語に依存してコミュニケーションを行う状況が、ローコンテクストです。
お互いの「当たり前」が通用しません。

これらコンテクスト文化は、アメリカの文化人類学者エドワード・T・ホールが、世界の文化を「ハイコンテクスト文化」と「ローコンテクスト文化」に分類し比較したことで有名となりました。

日本社会はこれまで、ハイコンテクスト前提で成長してきました。
企業においても同様に、カルチャーフィットする人間で、会社が組織されてきました。
ハイコンテクスト社会では、組織する人たちの知識や価値観が近いため、多くのコミュニケーションを介さずとも、意思の疎通が図れます。
そこから、お互いを思いやる気持ち、いわゆる「おもてなし」の文化が根付いたといえます。

しかし、ここへ来て、テレワークやリモートワークという「新しい働き方」へ舵が切られつつあります。
その結果、「空気を読む」ことも「察する」ことも困難となります。
つまり、今後はローコンテクストでのコミュニケーションがマストとなるのです。

実際に、緊急事態宣言解除後に実施したテレワークの実態調査によると、全国平均で25.7%の正社員がテレワークを実施しているという結果が出ました[1]。
これは、3月上旬の実施率と比べ、約2倍の増加です。

また、企業規模別(従業員数別)のテレワーク実施率をみると、従業員数が多い企業ほどテレワーク実施率が高くなっています(図1)。
テレワークが進み、デジタル環境下での就労が当たり前になると、コミュニケーションに対して、これまで以上の努力と工夫が必要となるでしょう。


図1:パーソル総合研究所/第三回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査「企業規模別(従業員数別)テレワーク実施率」
https://rc.persol-group.co.jp/research/activity/data/telework-survey3.html

そして、今後、テレワークが加速されると予想される裏には、若年層や女性の「テレワーク継続希望」率の高さがあげられます(図2)。
約7割の正社員が、今後もテレワークを希望しており、前回調査(4月前半)から比べても16.2%の上昇となりました。


図2:パーソル総合研究所/第三回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査(テレワーク継続希望)
https://rc.persol-group.co.jp/research/activity/data/telework-survey3.html

働き方改革やダイバーシティに象徴される、「働き方の多様性」や「多様な人材の積極的な活用」につながるテレワーク。
一緒に仕事をするメンバーは、年齢、性別、国籍、はたまた文化や宗教など、一人として同じ人はいません。
自分の当たり前が、相手の当たり前とは限らないことを理解し、「ローコンテクスト重視」の作業方法を身に着けることが必要となるでしょう。

 

それでもコミュニケーションは重要

 

企業というものは、そもそも「ゲゼルシャフト(機能体組織)」を基本とします
企業という組織自体に目的があり、そこで働く人は企業の利益のために活動します。

ゲゼルシャフトに対し、家族や友人といった、本質的に結合する集団を「ゲマインシャフト(共同体組織)」と呼びます。
これらの概念は、ドイツの社会学者フェルディナント・テンニースが提唱しました。

つまり、「仕事をする=目的を達成する」ために集まった労働者や関係者にとって、感情的な結びつきは求められていません。
あくまで、与えられた業務を遂行することが目的なのです。

しかし、ピーター・ドラッカーはこう言います。
「働く者が満足しても、仕事が生産的に行われなければ失敗である。
逆に仕事が生産的に行われても、人が生き生きと働けなければ失敗である[2]」

やはり、仕事へ取り組むにあたり、やりがいや喜びを感じることは大切です。
相手の顔が見えないデジタル環境において、唯一の接点となるのは「文字」です。
相手が必要とする情報を、適切な表現で提供することは、双方の信頼関係を築くだけでなく、スムーズな業務遂行へとつながります。

前出の友人と、例の上司について議論した結果、
「いいです」
ではなく
「B、いいですね」
と返答してくれていたら、あのミスはなかったという結論に落ち着きました。

しかし、
「その前に、私が確認すればよかった。それまでの流れから、つい、Aでいいのだと決めつけてしまった」
と反省する友人の意見も、そのとおりです。

時間的、空間的自由を手に入れられる、テレワークという働き方。
そのためには、「見えない相手に、正確に伝える」というマインドが必要となることを、お忘れなく。

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[1]パーソル総合研究所/第三回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査(緊急事態宣言が解除された後のテレワーク実施率)https://rc.persol-group.co.jp/research/activity/data/telework-survey3.html
[2]引用:Peter F. Drucker/マネジメント(エッセンシャル版)p57