労働に関する法律はいくつも存在しますが、企業側が理解しておくべきものの1つに、労働契約法があります。
もし、正しく把握していない状態で労働者と労働契約を締結すると、のちのちトラブルに発展して企業が不利益を被るかもしれません。
また、労働者と適切な関係を構築するためにも、労働基準法との違いを理解しておくことも重要でしょう。
そこで本記事では労働契約法について、
- 概要や目的
- 違反した場合
- 押さえておくべきポイント
- 労働基準法との違い
- 企業側の注意点やトラブルへの対処法
などを解説していきます。
目次
労働契約法とは
労働契約法とは、企業側が労働者を雇用する際に結ぶ労働契約について、基本的なルールを定めた法律です。
法律の内容を大まかに分けると、下記のようになります。
項目 | 内容 |
第1条~5条 | 総則(労働契約法の基本) |
第6条~13条 | 労働契約の成立及び変更 |
第13条~16条 | 労働契約の継続及び終了 |
第17~20条 | 期間の定めのある労働契約 |
目的・背景
近年、就業形態の多様化が進み、労働者の労働条件を個別に決めたり、変えたりするケースが増加・複雑化していることを背景に、個別労働関係紛争が増加傾向にあります。
このような状況下で労働契約法は、労働者と企業との間で結ばれる労働契約についてルールを定めることによって、合理的な労働条件の決定や変更がスムーズに行われることを目的としています。
また、これにより労働者を保護し、安定的な労働関係に貢献することが目的です。
(参考:労働契約法のあらまし丨厚生労働省)
労働契約法と混同されがちな法律との違い
労働契約法と混同されがちなものが「労働基準法」です。
ここでは、両者の違いを見ていきましょう。
労働基準法との関係
労働基準法とは、昭和22年に制定された、労働条件に関する最低基準を定める法律です。
労働者の生存権を保障することを目的として、労働契約や賃金の支払いの原則、休日・年次有給休暇、割増賃金などについて定めています。
労働基準法は国家と事業主との関係を定める「公法(※1)」ですが、労働契約法は労働者と雇用主の関係を定める「私法(※2)」である、という点で異なります。
※1:公法…国や地方公共団体同士、国・地方公共団体と個人との関係を定める法律
※2:私法…個人同士の関係を定める法律
(参考:労働基準に関する法制度丨厚生労働省)
関連記事:労働基準法とは?基本的な要点・ポイントをわかりやすく解説
労働契約法と就業規則との関係
法律ではありませんが、「就業規則」との関係について見ていきましょう。
労働契約法9条では、下記のように就業規則を変更する際の原則が定められています。
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。
(引用:労働契約法丨e-Gov)
つまり、労働者が不利益を被るような就業規則の変更を行う場合、労働者の合意が必須条件ということです。
「労働者の合意」を得る方法は、下記の2つが挙げられます。
- 労働者個人からの同意を得る
- 労働組合との間で労働協約を結ぶ
労働契約法に違反した場合は?
労働契約法は私法であるため、罰則は設けられていません。
ただし、罰則がない場合でも違反前の労働契約の内容は無効となります。
また、労働紛争に発展して労働者からの民事訴訟となった場合は、損害賠償の支払いが必要になるリスクがあります。
労働契約法で押さえておくべきポイント
ここでは、労働契約法において最低限押さえておくべきポイントをみていきましょう。
無期労働契約への転換
期間の定めのある労働契約(有期労働契約)は、契約期間の満了時に契約が更新されずに終了するケースがある一方で、労働契約を複数回繰り返す(反復更新)ことがあります。
これにより、長期間にわたり有期労働契約が続き、有期雇用労働者は「次は更新されないかもしれない」という雇止めの不安を抱くことになり、安心して働くことができない点が問題視されていました。
このような状況を改善すべく、有期労働契約が5年にわたり反復更新された場合、有期契約労働者の申請によって、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換される仕組みが設けられました。
「雇止め法理」の法定化
「雇止め」とは有期雇用契約において、雇用期間を更新せずに契約を終了させることです。
そして「雇止め法理」とは、客観的に合理的な理由が無く、社会通念上相当であると認められない場合、雇止めを認めないというルールです。
従来は裁判の判例上でルールが守られていましたが、法改正によって条文として定められるようになりました。
不合理な労働条件の禁止
同じ使用者に雇用されている場合、正当な理由がない限りは、雇用形態を問わず労働条件を同一にしなければならないとするルールです。
給与や労働時間だけではなく、服務規程や教育訓練、福利厚生などの全ての労働条件が適用されます。
関連記事:同一労働同一賃金ガイドラインとは?概要やメリットを解説
まとめ
労働契約法は社員とのちのち揉めないようにするためにも必要になります。
正しく運用し、のちに誤解が生じないよう労務の方は適切に処理をしましょう。