事業ドメインの設定は、ビジネスや企業が成長していくためには必要不可欠です。その理由は、事業ドメイン次第で経営資源の投入・分散の仕方やライバル企業が変わるからです。
そのためにも自社が持っているコア・コンピタンスを明確化して、事業の適切な多角化や経営資源の有効活用をしていかなければなりません。ここで重要になるのが事業ドメインの設定です。
この記事を読むことで
- 事業ドメインの意味がわかる
- 事業ドメインの設定の仕方がわかる
- 事業ドメインの成功・失敗事例がわかる
ようになります。事業ドメインについて理解を深めて自社のビジネスを成長させるための参考にしてみてください。
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目次
事業ドメインとは?
事業ドメインとは事業を「誰に、何を、どのように」展開していくのかを決める経営戦略です。企業は大きくなっていくと、さらに成長するためにいくつかの事業を持ち始めます。
ところが、複数の事業を多角的に手掛けていく時に、企業の方向性が決まっていないと事業全体にまとまりが生まれません。その結果、経営資源を投入する際に選択と集中ができなくなり過度な投入・分散をしてしまいます。
ここで事業の活動領域、つまり事業ドメインをあらかじめ定義しておくことが重要です。「誰に向かってどのようなビジネスをしていくのか?」「ビジネスの範囲はどこまでなのか?」といった基準が決まり、判断や戦略の失敗を避けられます。
なぜ事業ドメインを設けなければならないのか?
事業ドメインを設定することが重要な理由は、事業を明確化してリソースの選択と集中ができるからです。現代は状況が目まぐるしく変化してビジネス課題が山積し続ける環境にあります。そのなかで事業を成長させ、競争相手を引き離すには経営資源の適切な配分が必要です。
日本は少子高齢化が進み労働人口も減っていくため、新規事業に対してむやみに人的資源を投入することも難しくなっています。このように常に経営資源は限られており、効率的・合理的な投入や分散をしていかなければなりません。
したがって、事業ドメインを適切に設けることで企業の活動領域を明確化することは、今後の展望を左右する非常に重要な仕事だといえます。
事業ドメインの定義で活動領域が決まる
事業ドメインをどのように定義するかで、顧客や商品、競争相手が決まります。例えば本屋さんの場合を考えてみましょう。「自分たちは本屋だ」という定義の場合、顧客は「本を買いに来た人」、売る商品は「本」で、競争相手は「他店の本屋さん」ということになります。
しかし、お客さんのなかに本だけでなくノートやペンを買いに来る人がいても、その人は本だけしか買えないので不便です。そこで事業ドメインの定義を「自分たちは学ぶ人を支え、日常生活の不便を解消するビジネスをしている」に変えてみるとどうでしょう。
売る商品は本だけではなく文房具や生活雑貨も扱えるようになり、顧客は本以外を求める人も対象になるため事業が拡大できます。
ディズニーは映画やテーマパーク、キャラクタービジネス、グッズ販売など手広く事業を展開していますよね。それが可能な理由は事業ドメインが「夢の国」というテーマのもとに展開するエンターテイメントだからです。もしディズニーの事業ドメインが「テーマパーク」に絞られていたら、他の事業はできなかったでしょう。
このように、事業ドメインは本や食品といった商品単位で考えるのではなく、「顧客が何を求めているか」をもとに設定します。
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事業ドメインが成功・失敗した事例
ここで紹介する、事業ドメインの成功事例と失敗事例は下記の4社です。
- セブン-イレブン
- タニタ
- 富士フィルム
- コダック
特に富士フィルムとコダックは、事業ドメイン1つで企業の命運がわかれることがよくわかる事例なのでとても参考になります。
「近くて便利」なセブン-イレブン
「近くて便利」、これがセブン-イレブンの事業ドメインです。コンビニが提供しているものといえば一般的に食品や雑誌などの「物」をイメージしますよね。しかし、セブン-イレブンが提供しているのは「便利」です。
実際、セブン-イレブンでは物を買うだけではなく、公共料金の支払いや荷物の受け取りなど非常に便利なサービスを展開しているうえに本当に「近く」にあります。もし事業ドメインが「物を売ること」に限定されていれば今の便利なセブン-イレブンはなかったでしょう。
「計測機器」から「食堂」へつなげたタニタ
今でこそタニタは「タニタ食堂」で有名な企業になりましたが、もともとは計測機器をつくるメーカーでした。そこからタニタは事業ドメインを「人々の健康を作る」に定義し直し、できたのがタニタ食堂です。
タニタ食堂の成功によりタニタは新規顧客と新規事業を獲得しました。しかし、もし事業ドメインを再定義せずに「計測機器メーカー」として経営を続けていれば、タニタ食堂の成功はなかったでしょう。
事業ドメインで成功した富士フィルム
富士フィルムは名前にある通り、もともとは写真フィルムのトップメーカーでした。しかし現在の事業領域はヘルスケア、マテリアルズ、イメージングと幅広く事業を多角化し、さらなる成長を遂げています。
フィルム産業が衰退していくなかで、もし富士フィルムが「ウチはフィルム屋だ」と事業ドメインを変えようとしなければ次項で紹介するコダックのようになっていたはずです。しかし富士フィルムは事業ドメインを再定義しました。
そして自社のコア・コンピタンス(企業の強み)である高機能材料や3次元構造化の高度な技術などを有効活用し事業を多角化して生き残ったのです。
事業ドメインで失敗したコダック
コダックは富士フィルムに並ぶ世界トップレベルの写真フィルムメーカーで、デジタルカメラに使われる技術の発明もしています。しかし、富士フィルムとは異なり市場の変化に対応しきれず、コダックは事業ドメインの再定義に失敗し倒産してしまいました。
両者とも高度な技術を持っていましたが、コダックは技術を転用して新規事業に乗り出さなかったことが原因です。つまり、コダックは自社を「フィルム屋」と定義していたことにより、デジタル化に乗り遅れてしまいました。
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事業ドメインを設定するCTMフレームワークとは?
CTMフレームワークとは事業ドメインを設定するための用いられるフレームワークです。これは、考案したのはハーバード・ビジネススクール教授であり経営学者のフレデリック・エーベルで、別名エーベルの三次元事業定義モデルとも呼ばれています。
例えば運送会社なら「荷物の配送サービス」というような、商品やサービズを軸とした設定になります。しかしこの場合は今行っている事業については理解しやすいですが、競争相手との差別化や、事業の多角化の展望までは見えてきません。
そこでCTMフレームワークで分析して事業ドメインを定義する企業が増えてきました。CTMフレームワークでは、以下の3つの軸をもとに分析していきます。
- 顧客軸(誰に?)
- 技術軸(何を?)
- 機能軸(どのように?)
それでは詳しく解説していきます。
顧客軸(誰に?)
顧客軸では「それは誰に向けたサービス、商品なのか?」という質問に答えていきます。具体的にすることは、顧客が住んでいる場所や年齢、性別、趣味、嗜好、家族構成などの属性を分析する、市場の細分化です。
こうすることで、自社のサービスは「誰に」向けると効率がいいのか、価値を高くできるのかがわかります。さらに自社の強みを活かした新規顧客を獲得することも可能です。
技術軸(何を?)
続いて、「どのような技術を用いて商品・サービスを展開していくのか?」という質問に答える技術軸です。この分析を進めていくと競争相手にはない自社独自の強みや技術が明確になります。したがって、中核となる強みのコア・コンピタンスと似たような意味です。
新しく事業を創出するにも役立ち、実際に先に述べた富士フィルムでは、自社が持つ高い技術力というコア・コンピタンスを活かした新規事業を成功させることができました。
機能軸(どのように?)
そして最後に「自社の商品やサービスでどのような機能や価値を提供していくのか?」という質問に答えるのが機能軸です。機能軸を突き詰めることで、ハイクラスな商品やサービスに繋げられ新しい顧客の開拓もできるため、事業ドメインの定義にとっては非常に重要な軸になります。
ここまで顧客軸と技術軸で「誰に、何を?」を明確にしたうえで、どのような価値を提供するのかを明らかにしていくということです。このような分析をする結果、事業ドメインの適切な定義が容易になりますが、分析をしなければ長期間耐えられる事業ドメインを設けることはできません。
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事業ドメインを設けるメリットや目的とは?
事業ドメインを設定するメリット・目的は以下の3点です。
- 競争相手の明確化ができる
- 売上アップに貢献できる
- 企業の安定化につながる多角化ができる
それでは1つずつ解説していきますので、是非参考にしてみてください。
競争相手の明確化ができる
顧客軸、技術軸、機能軸を分析して事業ドメインを設けることで、ライバル企業も明確になります。その結果、ライバルの立場に立って考えられるようになるため、競争優位に立つことが可能になるのです。
売上アップに貢献できる
事業ドメインを明確化すると、適切な顧客に適切なアプローチができるようになるため、より多くのお客さんに自社の価値を感じてもらえます。わかりやすくいうと、好かれるべき人に好きになってもらえるということです。
お客さんは商品やサービスに対して感じた価値にお金を払っています。つまり、価値を感じなければいくら安くても買うことはないし、価値さえ感じることができれば高くても買うのです。
例えば、全く品質が同じサービスが2つあったとします。1つは品質について何も語っていないサービスA、もう1つは品質の高さについて自信をもって語っているサービスB。この場合、品質は同じでもサービスBの方が高く売ることができます。
サービスBのように事業を展開していけるようになるため、売上をあげることつながるのが事業ドメインの適切な定義です。
企業の安定化につながる多角化ができる
適切な事業ドメインを設定できれば、自社の強みを効率的に用いることができる新規事業を立ち上げることが可能です。その結果、富士フィルムがしたような新しい顧客や市場の開拓ができるようになります。
このような経営資源を最大限に活かせる多角化は、企業の安定した成長につなげられるため、事業ドメインの設定は重要なのです。
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事業ドメインと関連する言葉
事業ドメインと関連する言葉に「経営理念」と「市場セグメンテーション」があります。その違いを解説していきます。
経営理念と事業ドメインの違い
経営理念とは、企業をどのように経営していくかといった基本的な方針であったり、経営に対する創業者の思いや価値観を示す言葉です。したがって、経営理念は事業ドメインよりも抽象度の高い概念であり、事業ドメインを含む場合もあれば事業ドメインと同じといったこともあります。
例えば、株式会社サイバーエージェントの経営理念は「21世紀を代表する会社を創る」で、アマゾンジャパンの経営理念は「地球上で最もお客様を大切にする企業」となっています。まさに創業者の思いが伝わってきますが、「誰に、何を、どのように」といった事業ドメインとは少し異なっていますね。
市場セグメンテーションと事業ドメインの違い
市場セグメンテーションとは、対象となる顧客の趣味・嗜好や属性を分析したうえで分けて市場を細分化することで、自社にとって魅力的な市場に効率的に事業を展開するマーケティング用語です。
例えば、ヤナセの事業ドメインは「クルマではなく、クルマのある人生を提供する」ですが、市場セグメンテーションで対象となるセグメントは「30代から40代の結婚している男性」となります。
こうしてみると市場セグメンテーションと事業ドメインは全く別物であるとわかるのではないでしょうか。
まとめ:事業ドメインの重要性は日に日に高まっている
あらゆる商品やサービスが消費者に行き渡り、モノが売れにくい時代になってきています。だからこそ今後ますます重要になっていくのが事業ドメインの設定です。もしあなたのビジネスが軌道に乗らない場合、今一度事業ドメインを再定義してみましょう。
事業ドメインを設けなかったり、適切に設けることができていないと経営資源を効率的に配分できなかったり、商品単価を上げることができないなどのデメリットばかりです。
事業ドメインを再定義することで、自社の強みや方向性、競争相手が明確化します。
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