なぜか社員の士気が上がらない。どうも部下がモチベーションを持てない。
マネジメントを始めて、モチベーション不足に悩む管理職がいます。
創業時には、社長が強い意思を持っている組織でも、会社が大きくなるほど、個々人はモチベーションが持ちにくくなります。
こんな中、まず管理職がすべきことは、「そもそも何のために仕事をするのか」認識してもらうこと。
つまりみんながどこに向かっているのかがわかるような、わかりやすいメッセージを出すことです。
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目次
メッセージを出すのが経営者・マネージャーの仕事
多くの会社にはコーポレート・スローガンやミッションステートメント、社訓があり、会社や組織が進む方向を言語化しています。
例えばトヨタ自動車は2009年の危機に際して、「もっといいクルマをつくろう。 」というスローガンを上げました。
2009年3月の連結決算でトヨタは戦後初となる赤字に陥る。連結販売台数も大幅に落ち込むという惨憺たる業績での新年度方針演説に、当時副社長だった豊田章男はスーツ姿の幹部社員が並ぶなか、作業着で登壇した。
同年6月に社長就任が内定していたとはいえ、その姿に多くのトヨタ社員が違和感を覚えたはずだ。そして発せられたのが「もっといいクルマをつくろう」という言葉だった。 そこには豊田章男の覚悟と決意が滲んでいた。
[1]トヨタ自動車 トヨタイムズ #01「もっといいクルマをつくろう」
非常にシンプルで明快なメッセージは、心に訴えかけます。このように、全社で、あるいは部署ごとに、シンプルなメッセージを出せればいいのですが、コトはそんなに単純ではありません。
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業務内容が増えていくとメッセージが出しにくくなる
創立して年数が経った会社では、だんだん業務内容が増えていきます。
会社が複雑になればなるほど、経営者は強いメッセージが出しにくくなります。
従業員も自分の会社がどこに向かっているのかが見えにくくなるため、スタッフはモチベーションを持ちにくくなってしまうのです。
いくら精神論で「頑張れ」と説き伏せても、
「自分の仕事が何に向かっているのかが明確にならない」
という会社で、人がパフォーマンスを出すことは難しいでしょう。
部署も同じで、今惰性でつづけている仕事には、かつて作ったスローガン、昔必要だった定例会議など、実はもう役目を終わっている仕事があるかもしれません。
「あれも」「これも」と手を出していくと、メッセージが伝わりにくくなります。
家庭でも、引っ越したときはシンプルでも、だんだん生活するとモノが増えていきますが、同じことです。
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なぜアップルは製品ラインナップを大幅に絞ったのか
ここで面白いのが1990年代から2000年代にかけてのアップルです。
当時のアップルは非常に業績が悪く、このままでは潰れるのではないか、と人々に心配されている状態でした。
ライバルのマイクロソフトから資金を出してもらう始末です。
ところが経営にスティーブ・ジョブズが戻ってくると、ものすごい勢いで製品を整理し始めました。それまでのアップルには本当に山ほどの製品があって、どれがなんのラインナップなのか、確認するのに苦労するほどでした。
ところがスティーブ・ジョブズは、それをたったの4ラインナップに減らしてしまいました。
開発中と言われていた新製品や新技術も次々に止めてしまい、「本当にこれだけで戦えるの?」というほどシンプルにしたのです。
こうしてリソースを減らすことで、何をしている会社なのかがわかりやすくなってきました。
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ありとあらゆる物をシンプルにする
この時、ジョブスがシンプルにしたのは製品だけではなかったようです。
彼の下でかつてシニアマネージャーを務めていた元アップルの松井博さんは、「僕がアップルで学んだこと」(アスキー新書)で以下のように書いています。
アップルをアップルたらしめている最も強力な仕組み、それは「シンプル志向」です。(中略)
アップルの製品がシンプルなのはよく知られていますが、シンプルなのは製品だけではなくありとあらゆるものがシンプルになっています。
このようにアップルは参入事業や製品のラインナップが極端に少ないため、意思決定に際して考慮すべきことが非常に少ないのです。このシンプルさは企業の動きを機敏にします。例えば、12ものまったく異なる事業に対して共通のブランド・イメージを確立するのは容易ではありません。
[2]「僕がアップルで学んだこと」(アスキー新書)42-44ページより
スティーブ・ジョブズは、製品だけではなく、参入事業、組織図など、あらゆるモノを「シンプル志向」にしたのです。
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整理整頓しなければいけないのは、仕事内容も同じである
松井さんはまた、こうも書いています。
アップルの組織図が公開されることはありませんが、もしも公開されることがあったなら、あまりのシンプルさにあっけにとられることでしょう。
[3]「僕がアップルで学んだこと」(アスキー新書)42-44ページより
これはスティーブ・ジョブズがいた当時の話なので、今は少し違っているかもしれません。
その上で、シンプルなことのメリットは多く、意思決定が機敏になり、メッセージが出しやすくなるなど、たくさんあります。
しかし「シンプルにする」には、それまでやっていた何かをやめる決断が必要です。
つまり、スティーブ・ジョブズがやった仕事は大量の何かを「やめる」ことだったのです。
一方、当時ライバルとみなされていたソニーは、多数の子会社を抱え、保険から海外子会社、ゲーム機部門、映画や音楽制作、銀行業までやっていました。
こんなふうに多数のことをやり始めると、当然ながら強いメッセージ性をうちにくくなってしまいます。
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伝統を断ち切るには「批判」を受ける度量がいる
実は、一番難しいのはここです。
今まで続けてきた伝統を断ち切って「やめる」のは並大抵のことではありません。
それまで従事してきた人たちが「思い入れ」を抱えていることもあるでしょう。
既得権益を手放したくない人もいるかもしれません。
しかし、やめない限り、企業のやることは、どんどんどんどん増え続けます。
例えば、かつて「改善」のために始めたことの中には、時代にあわなくなってやめた方が良いものが出てきているはずです。
ジョブスが戻ってからのアップルは、それまでのパソコンに当たり前だったフロッピーディスクを廃止し、当時珍しかったUSBを採用します。
さらに製品ラインナップを大幅に整理したり、大規模なリストラをしたり、開発中の目玉技術を中止にしたりと、かなり大幅な断行をしました。
当時、ジョブスのこの決断には当然ながら、社員をはじめファンやメディアからは当然たくさんの批判があったのです。
しかし彼はそんなものは気にもせず、結局フロッピーディスクを業界から無くしてしまいました。
会社が古くなればなるほど、大きくなればなるほど、「やること」「モノ」が増えていきます。
そして、いつの間にか、こうしたことやモノの管理に大量な時間が使われていき、メッセージを出しにくくなっていくのです。
それを避けるには、仕事をできるだけシンプルにすることです。
そのためには、「思い切って(続いてきた)「何かを止めること」も含まれるかもしれません。
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参照
[1]トヨタ自動車 トヨタイムズ #01「もっといいクルマをつくろう」
https://toyotatimes.jp/series/toyoda_words/001.html
[2-3]「僕がアップルで学んだこと」(アスキー新書)42-44ページより
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