2020/03/24

起業に関するリスクは結局「信用がない」=「手元のカネが足りない」に行き着く

先日、古い仕事仲間たちと久しぶりに飲む機会があった。
皆、損保やメガバンクに勤める一流のビジネスパーソンで、率直に言って稼ぎも良い。
しかし酒も良い感じで回ってきたころ、1人がこんなことを言い出した。
「アラフィフになって、人生の先も見えてきたので独立を考えている」

すると他の2名も「実は、俺も考えていた」と言い出す。
そして仕事への不満や、今までやりたかったけどできなかったことへの後悔で話は盛り上がり、3人で会社を起こせばきっとうまくいくとまで言い出した。
そして、
「お前はどう思う?会社を起こして毎日自由で楽しいだろ?」
と、私に独立への賛否を求めてきた。

会社の作り方や苦労話を聞かれることは別に珍しくもないので、特に意外性はない。
そして、
「誰かと一緒じゃないとリスクを取れないと思うなら、止めたほうが良い」
「今の勤め先で、起業したつもりでリスクを恐れず本気を出せ。その方が成功できる可能性が高い」
と水を差し、盛り上がった話は急に終りを迎えた。
強い思い入れでもない限り、恵まれた環境を捨て苦労することが目に見えている起業に挑戦する意味など、全く無い。

 

起業に関するリスクは結局「与信」に行き着く

 

では、実際に会社を起こした人たちは、起業に際し何に苦労をしているのだろうか。
下記のデータは、中小企業庁が帝国データバンクに委託し集計した、実際に起業した経営者による「起業時及び起業後の課題」についてのアンケート調査の結果だ。

(出所)中小企業庁「起業の促進に向けた課題と取組」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h23/h23/html/k311300.html

なお左端の「資産調達」は、本文中の記載からも「資金調達」の誤字で間違いないので、資金調達であることを前提に話を進めたい。そしてその資金調達が、起業家の多くをもっとも悩ませている起業時の課題となっている。
以下、
・質の高い人材の確保
・起業に伴う各種手続き
・販売先の確保
・仕入先の確保
と続く。

このうち、「起業に伴う各種手続き」などは正直、大した問題ではない。
会社の登記であれば、今の時代、司法書士が格安で請け負ってくれる。許認可が必要な事業を始める場合であっても、時間をお金で買ったほうが遥かに安上がりだ。弁護士や司法・行政書士を頼る方が賢明で、それでも解決しない許認可であれば起業そのものを再考したほうが良い。

しかし、その他の項目は到底、僅かなお金と時間で解決できるような問題ではない。
・資金調達
・質の高い人材の確保
・販売先の確保
・仕入先の確保
いずれもが、「経営者(会社)への信頼の欠如」すなわち「与信」が足りていないことに、そもそもの問題の原因があるからだ。
この問題の解決に、「起業前に、有名な会社で責任ある地位に在った」などという事実は何の足しにもならない。いわずもがな、有名企業の部長クラスが3人集まって起業したところで、何の意味もない。
だからこそ、「誰かと一緒じゃないとリスクを取れない」と思うのであれば、起業など止めたほうが良い。

少し筆者のお話をすると、私の起業直前のポジションは地方の中堅企業のCFOであった。
第三者割当増資や銀行借入れなど、デットやエクイティを合わせると調達した資金はざっと20億円はあるだろう。
大手証券会社出身で、CFOとして取り組んだM&Aなど資本異動・資金移動も含めると正直どれほどになるのかよくわからない。
しかしそこまで資金調達や資金繰りに精通していたにも関わらず、起業に際し、日本政策金融公庫に申し込んだわずか数百万円の起業資金すら、私は貸付を拒否された。
それどころか、法人登記が完了し初めての登記簿を受け取ったその足で赤い色のメガバンクに足を運んだ時には、法人口座の開設すら拒否された。

それまで、私にとって銀行借入れや口座開設、クレジットカードの発行という「信用の供与」は、頼まれて仕方なく応じるものだった。
しかしそんな「与信」は全て、自分が所属している組織と、その経営トップに対し所与されていたという事実を嫌というほど思い知った。

結局私は、個人的な積立を続け、個人の信用情報が蓄積されているであろう緑色の銀行に足を運び、やっと法人口座の開設に応じてもらえた。
また、僅かずつ売上を積み上げて、計画通りに事業が立ち上がった後に、日本政策金融公庫からもまとまった起業資金を融資してもらうことができた。
ここまできてやっと、私は自分の浅はかさと、赤い都市銀行、日本政策金融公庫の両行に対し、起業に際し世間知らずの自分を厳しくジャッジしてくれたことに感謝することができた。

 

与信の積み上げはまだまだ終わらない

 

しかし言うまでもなく、話はこれで終わるわけがない。
むしろ、最初の生存条件、つまり資金繰りをなんとか確保して、会社としてはやっとスタートラインだ。
そしてやっと「人並みの悩み」を持てるようになるが、それが冒頭のアンケートの通りで
・質の高い人材の確保
・販売先の確保
・仕入先の確保
と言ったような問題になる。
そしてここでも、経営者個人と会社への与信で、選択できるカードが決まる。

例えば、質の高い人材の確保。
スタートアップの会社では、よほど事業に将来性があるか、あるいは経営者個人に強烈な魅力でもない限り、有能な人材がスタートアップの報酬できてくれるはずなどない。
やむを得ず派遣や請負で仕事を頼むことになるが、当然のことながらその条件は極めて厳しい。
仕入先の確保も、わかりやすい例で言えばクレジットカードの手数料率だ。
クレジットカードの手数料は、取扱高でその利率は大きく変わる。もちろん、中小零細の取扱高では最高利率の手数料を取られる。ヘタに値下げ交渉をしようものなら、笑いながら契約を切られる。
しかし取扱高が大きくなってくると、やがて求めなくても手数料率の引き下げを打診されるようになる。
さらに取扱高が大きくなれば、別の決済代行業者がより安い手数料率を約束し営業してくるようになる。
要するに、世の中では与信の乏しい法人など誰からも相手にもされないが、与信の大きくなってきた法人は求めなくても、どんどんとチヤホヤされるようになるということだ。
このようにして会社は、人材、仕入先、販売先の全てで、成長のスパイラルアップの最初のステージに、やっと立つことができるようになる。

残酷なようだが、資本主義のルールにはほとんどの場合、「弱きを助け、強きを挫く」などという価値観は存在しない。
スーパーで買い物をする時ですら、お徳用パックを買えば割安になるのが商売の基本ルールだ。
銀行借入れでも、貧乏でお金がない中小零細の方が、大企業よりも高い金利が設定される。
信用があり、たくさんのお金を動かし、希少な価値を提供してくれるパートナーから順番に大事にされる。もちろん、法やモラルに反していないことが前提であることは言うまでもないが、例外はほとんど存在しない。

そのような意味で起業とは、中小零細は厳しい条件で戦い、大企業はアドバンテージだらけのルールの中で戦うことが許される、理不尽極まりない無理ゲーである。
その経営者には、大企業の10倍仕事をするか、10倍の知恵を絞ってやっと、その背中が見えてくるような生き方が求められる。
だからこそ、私は起業の相談を持ちかけられた場合、
「今の勤め先で、起業したつもりでリスクを恐れず本気を出せ。その方が成功できる可能性が高い」
とアドバイスする。
恵まれた環境で死にものぐるいになって戦う方が遥かに勝ち目がある上に、仮に仕事に失敗しても大企業では、社長をグーで殴りでもしない限り食い扶持を失うこともない。

 

リスクを怖がっている限り起業などできない

 

最後にひとつ、興味深いデータを見て欲しい。

(出所)中小企業庁「起業の促進に向けた課題と取組」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h23/h23/html/k311300.html

これは、起業をした人が実際に起業に際しどこから資金を調達したのか。
またその際の資金はいくらであったのかを表した図だ。
ご覧のように、ほとんどの起業家は自己資金もしくは親戚や友人からの借金だけで起業している。
またこのグラフからはわかりにくいが、自己資金で起業した経営者の手持ち資金の中央値は、たったの400万円であることがリンク先から確認できる。
つまりほとんどの起業家は、頑張れば20代でも貯められるような僅かなお金だけを手持ち資金として、会社を起こしたということだ。

さらに驚くべきは、筆者もそうであったように、起業に際し公的機関や政府系金融機関からお金を借りることができた起業家はわずか17%、6人に1人であるという事実だろうか。
もちろん、自らの意思で借りなかった人も含まれている数字とは言え、公的な起業制度を頼りながら余裕を持って起業できる人など、ほとんどいないというのが現実のようだ。
これらの事実は、起業家という存在はおそらくどこかリスクに鈍感で、成功することだけを考えて会社を起こしている現実を表している。
言い換えれば、まとまったお金がないと起業できないと考えリスクに怯えているうちは、起業など絶対にできないということだ。

いろいろと身もふたもないことを言ってしまったが、本稿ではその上で、
「リスクを恐れず起業しよう」
というメッセージで終わりたいと思う。
そしてそのようなメッセージを、世界的なストレージサービス「Dropbox」の創業者、ドリュー・ヒューストン氏のスピーチが教えてくれる。
同氏は、母校であるMIT(マサチューセッツ工科大学)の卒業式に来賓として招かれた際に、
「人生には、成功するためのカンニングペーパーが存在する」
と言う言葉で、卒業生たちに語り始めた。
そのカンニングペーパーに書かれている「成功法則」はたったの3つ。

 “There would be a tennis ball, a circle, and the number 30,000.”[1]

文字通り、「テニスボール、サークル、30,000という数字」だが、このうちサークルと30,000の意味についてはここでは割愛したい。
そしてテニスボールについて、

”They remind me of a dog chasing a tennis ball: their eyes go a little crazy”[1]
(テニスボールを追いかけている犬の目は、狂気に満ちている)

と説明し、「自分にとっての人生のテニスボールを見つけよう」と呼びかけた。

つまり、人生で成功したければ、狂気に満ちた目で追いかけられる何かを見つけようということだ。
夢中になり、時間を忘れ、心から楽しめる何かだ。
それを仕事にすることができたら、成功できないはずなど絶対にない。

リスクが怖い、誰かと一緒じゃないと起業できないと思っているなら、きっとそれは人生のテニスボールではない。
余計なことなど考える間もないほどに夢中になれるテニスボールを見つけることができた時こそ、本気で起業を考えてみてはどうだろうか。

【識学からのお知らせ】
リーダーシップが育つロジカルなマネジメント手法を学んでみませんか?
<ご訪問 or Web会議で体験できます>
1000以上の企業が受講した「識学マスタートレーニング」を無料で体験しませんか?
今申込むと『伸びる会社は「これ」をやらない!』書籍をプレゼント

識学マスタートレニングは「学びながら実践」します。
平均して3ヶ月ほどで「売上向上」「離職率の低減」など目に見える成果が上がっています。


お申込み・詳細は こちらお申し込みページをご覧ください

[1]MIT NEWS「Drew Houston’s Commencement address」
http://news.mit.edu/2013/commencement-address-houston-0607