2020/06/25

毎日仕事もせずに飲み歩き遊んでいる経営者は、いったい何をしているのか

かつて筆者が番頭を務めていた、ある中堅メーカーでの話だ。

その会社では毎晩のように経営トップが飲み歩き、朝から赤い顔で出社することも珍しいことではなかった。
時には私も付き合わされ、なかなかバカな飲み方をする経営トップに呆れたことも一度や二度ではない。
しかし多くの場合、飲み仲間は取引先であり、それが仕事に繋がっていることも理解をしていた。
そのため、飲み歩きにまでプライベートがないことを、やや気の毒にも思っていた。

しかし社員は、経営トップをそんな目ではみない。
実際私の耳に直接、
「あの人、いつも仕事をせずに飲み歩いてますよね?」
「仕事してないのに給料ばかり一番取って。不公平だと思いませんか?」
「そのくせ、中途半端に現場に口を出すからうっとおしいんです。会社に来なければいいのに。」
など、女子社員を中心に相当な悪口を入れてくるものも多かった。

私はそのたびに、
「まあ確かに、もう少し上手い見せ方はあるよね。でも逆に、経営トップが本当に何もせずに遊び歩いてるとして。それでも組織が崩壊せず売上が立ってるとしたら、それって凄いことだと思わない?」
と返していたのだが、
「取締役は甘すぎます!もっと厳しく社長に言って下さい!」
と返されることがほとんどだった。
どちらの立場の「正義」も理解できるだけに、こんな時は本当に辛い。

ではなぜ、経営トップの「遊び」は、こんなにも理解されないのだろうか。

 

経営計画を立てても、何も得るものなど無い

 

中小企業庁が小規模事業者を対象に調査した結果によると、経営計画を立てたことがあるという経営者は、ほぼ半分しかいないそうだ。


出典:中小企業庁「経営計画の策定状況等について」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H28/h28/shoukibodeta/html/b1_2_3_2.html

さらにこの数字を深堀りすると、経営計画を立てたことがあるという経営者も、本当に意味のある経営計画を立てているとは思えない実態が見えてくる。


出典:中小企業庁「経営計画の策定状況等について」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H28/h28/shoukibodeta/html/b1_2_3_2.html

上記のように、経営計画を立てるもっとも大きな動機は
「補助金申請で必要となったから」
である。
平たく言って、「言われたから作った」だけで、この動機ではおそらく二度と、立案した計画を見ることはないだろう。

さらに、全体としては2位の
「業績を向上させたいから」
も、それを1番に上げた経営者の割合でいうと非常に少ない。
「融資を受けるために必要となったから」
の方が1番の割合としては多く、この辺りが経営者の嘘偽りの無い本音であることが垣間見える。
つまり、自発的に経営計画を立てることにメリットを感じている小規模事業経営者など、ほとんどいないということである。

もし本当に経営計画を立てることが企業の生存に僅かでも有利に働くのであれば、もっとも弱い存在である小規模事業者が経営計画を立てない理由はない。

にも関わらずこの数字であるなら、経営計画を立てることは企業の存続に何も有利に働かないという仮説すら成立するのではないだろうか。

経営計画を立てるということは上場企業では義務的であるものの、その「非常識さ」を指摘する声は昔から多い。
それもそのはずで、この経営計画の立案、すなわち「予算を管理する」という概念は1920年代にアメリカで生まれた概念だ。
デュポン、ゼネラルモータース、シーメンスといった大企業が、最初に取り入れたとされている。

ビジネス環境の変化を考えると、100年も前に考え出された考え方が現代でもそのまま通用するはずがないだろう。
実際に20世紀の終わりには、欧州を中心に「脱予算論」「超予算経営」という概念が広がり始めた。[1]

その内容は予算を立案することの弊害、すなわち
・予算そのものが目的化し、変化に対応できない
・予算が社員への圧力として働き、本来の目的を達成するためのツールとして機能しない
・しかも立案に膨大な手間がかかる
といったものへの批判から始まっている。
中でも経営者であれば、予算立案に感じる大きな矛盾は、
「予算そのものが目的化し、変化に対応できない」
という点ではないだろうか。

ここで一つ、奈良県の中小事業者が始めた、ユニークな取り組みを紹介してみたい。
個人商店のとんかつ屋だが、ある日お店の駐車場に、以下のような張り紙を掲示した。


(画像撮影:筆者)

普通に営業しているとんかつ屋さんが、いつでも、誰でも、お腹いっぱい無料で食事を提供するという呼びかけである。

寄付金などで賄われNGOなどが運営する子ども食堂は、近年全国で設置が進んでいる。
しかし、営利目的で運営している飲食事業者が、子供に限らず、
「困窮している人であれば、いつでも無料で食事を提供します」
などと呼びかける取り組みは、前代未聞だ。
率直に言って、こんな取り組みはどれだけリスクがあるか限定できない上に、慈善事業ではメシは食えない。
なおかつこのお店は、全国チェーンなどではなく1店舗だけの文字通り小規模事業者なので、場合によってはこの取り組みの結果として経営が傾くこともあるだろう。

しかし結果としてこの取り組みは、ツイッターでバズり、全国紙やテレビ局が取材することになり、多くの人の共感を呼ぶことになった。
そして、このような取り組みができるお店をこそ支援しようと、文字通り「食べて応援」という人がお店に殺到し、圧倒的な知名度を獲得している。

あくまでも結果ではあるが、提供した無料の食事よりも遥かに大きなプラスの効果を得ることになったのではないだろうか。
今や、同店のツイッターアカウントは4.5万フォロワーを数え、小規模飲食事業者とは思えない発信力を持つに至った。

とんかつ店まるかつ@奈良
https://twitter.com/marukatsunara

しかしこの店主。
実はこうした試みは初めてではない。
無料食堂が「たまたま当たった」わけでもない。意図的な施策なのだ。

平成30年の北陸・福井豪雪で同地域が大きな被害を受けた際には、同地域からお店に来た人に食事の大幅割引サービスを打ち出し、SNS上で話題になった。
その後も次々にさまざまにユニークな施策を打ち出したが、そのうちの一つがこの
「まるかつ無料食堂」
だった。

このような経営者の経営方針は、計画立ててできるものではない。
あるいはできたとしても、どの程度のコストが予想されて、その結果としてどの程度のプラスの効果があるのかなど、数字に置き換えられるわけがない。
結果としてバズった今でも、その効果によるものがどの程度のものであるのか、線引きすることも難しいだろう。
しかし、経営者の経営センスの結果であることは疑いようがない。

従来的な予算管理型の経営計画の立案をしていても、このような事業の展開は決してできない。

 

毎日仕事もせずに飲み歩き遊んでいる経営者は、いったい何をしているのか

 

話を冒頭に戻し、経営者の多くはなぜ、遊び歩いているのかということについてだ。
かつて懇意にさせて頂いた冷凍食品大手の経営者は、

「うちの経営トップは、一緒に大阪の街を歩くと、いつの間にかいなくなってしまうから困る」
と笑っていたことがある。

おもしろそうな店舗、おもしろそうなディスプレイ、おもしろそうな商品の販売をしているお店を見かけたら次々に入ってしまい、いつの間にか見失ってしまうことを楽しそうに振り返ってくれたものだ。
時にはぼったくりバーのようなところに吸い込まれてしまい、大損をしたこともあったそうだ。

多くの中小零細企業の経営者、あるいはベンチャー企業と呼ばれる会社の経営トップも、これに近い。

会社という存在は、現状維持を企図したらほとんどの場合、衰退する。
永続的に勝てるマーケット、商品、サービスなど無いのだから当たり前だ。

顧客のリクエストは常に変わり続け、飽きてしまい、また同業他社がキャッチアップするのだから、常に泳ぎ続けなければ死んでしまうマグロのようなものである。
しかし、どのように泳ぎ続け進化したら生き残ることができるのかなど、正解はどこにもない。
その結果として経営者は、顧客の嗜好、マーケットの変化、世の中の動きを常に仕入れ続け、僅かでも正解に近づこうと悪あがきする。

言い換えればこれは、
「いまメシを食えている仕事を、経営トップがやりだしたらヤバイ」
ということだ。
そして経営トップは、足元の業務を手伝いもせずに、いつも外でロクデモナイことをして遊んでいるように見える。
中には「まるかつ無料食堂」などという、とんでもなくリスキーなことを始めてしまうおもしろ経営者までいる。
しかしそれが、経営トップの仕事だ。

逆に言えば、経営トップであるにも関わらずルーティンの業務にだけ没入しているような経営者は、成長を放棄していると自戒したほうが良いということだ。
そして遊び回っているばかりの経営トップをみて
「いつも遊んでばかりいる」
と考える社員、とりわけ経営幹部と言われる立場にいる人は、本当にそれは
「経営トップの個人的な遊興」
なのか。
一度、そんな価値観で観察してみてはどうだろうか。
また違った、経営トップの一面を発見できることがあるかも知れない。

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参照

[1]文教大学大学院「予算不要論の背景と論点」
http://www.bunkyo.ac.jp/faculty/gs-info/ITNL/3_shimura200510.pdf