2020/01/13

『サーバント・リーダーシップ』の本に学ぶ、おとなしい人でもリーダーが務まる理由

学校の教室で、多くの友人に囲まれて、自信満々でみんなを引っ張っている人を羨ましく思ったことはありませんか。
リーダーシップを、もともとの性格や資質の問題と考える人もいるかも知れません。
カーネギーやドラッカーなど、定番のリーダーシップ論を読んで、かえって自信を失った経験がある人も、いるかも知れませんね。

しかし「こんな自分がリーダーなんて……」と遠慮しているあなたにも、実は本物のリーダーシップが眠っている可能性が高いのです。リーダーシップに苦手意識があるあなたが、もし仮にリーダーの立場を任されたときにでも、勇気づけられ、実際に役立てられる『サーバント・リーダーシップ』という考え方を、具体例を交えつつご紹介します。

 

人に尽くし、全体を支え、組織に貢献するリーダーシップ

 

『サーバント・リーダーシップ』(英治出版)は、頑張っている組織メンバーの潜在能力を最大限に引き出せるように尽くし、支え、環境を整えられるリーダーこそ、みんなに慕われることを説く本です。

その著者であるロバート・K・グリーンリーフ氏は、ハーバード・ビジネススクールの客員教授などとしても教鞭を執った、組織研究の第一人者です。かつては、米国の電信電話会社「AT&T」に勤務していた企業人としての経歴もあります。

彼は、リーダーを「サーバント(召使い)」であるべきだと再定義を行い、世界的な反響を集めました。なぜなら、リーダーには組織のみんなを率先して引っ張れるだけの確固たる自信やカリスマ性、指導力などが必須だと考えてきた、大半の人々が意表を突かれたためです。
グリーンリーフ氏自身、「サーバント」と「リーダー」は相矛盾する概念だと認めています。ただ、この世界もまた、矛盾に満ちて混沌としていると説き、その上で、混沌からの創造物であるサーバント・リーダーシップ論と、それを実行に移すリーダーに期待しているとも述べているのです。

さらにグリーンリーフ氏は、生まれながらのサーバントには「他人が何を求めているか、その気持ちを推し量る能力」があり、それをもとに他人の要望や欲求に対して奉仕するため、多くのメンバーに慕われるリーダーになれる資質があると主張しています。この主張こそが、サーバント・リーダーシップの神髄的な論拠です。

たしかに、生まれながらのリーダーも、組織全体に奉仕をします。しかし、それは良心の呵責や一般的な期待に沿っているだけであり、グリーンリーフ氏は「奉仕するふりをしているだけ」だと説明しています。[1]

今では世界屈指のアパレルメーカーとして、海外でも影響力を広げるユニクロ(株式会社ファーストリテイリング)の柳井正会長も、グリーンリーフのサーバント・リーダーシップ論を絶賛しています。そして「社員は全員、サーバント・リーダーになるべきだ」と提唱しています。

ここからは、サーバント・リーダーシップを経営の基本に据えている、国内外の企業経営者の実例を3つ、ご紹介します。

 

【実例1】企業ビジョンを従業員が考案した『スターバックス・コーヒー』 [2]

 

1996年から2008年まで、『スターバックス・コーヒー』の取締役を務めたハワード・ビーハー氏こそ、シアトル発の地方コーヒー店チェーンにすぎなかった同社を、世界屈指の規模と知名度を誇る、一大コーヒーショップブランドにまで高めた立役者です。

この『スターバックス・コーヒー』の企業ビジョンは、ビーハー氏が取締役に就任した直後に定められました。「人々の心に活力と栄養を与えるブランドとして、世界で最も知られ、尊敬される企業になる」と謳われています。

ただ、このビジョンは、ビーハー氏が定めたものでありません。最初は従業員が考えたアイデアが、社内で洗練され、やがて世界中のチェーン店全体で共有されるようになったものです。そして実際に「世界で最も知られ」たコーヒーチェーンにまで、ビジョン通りの成長を遂げたわけです。

こうしたボトムアップ型のビジョンこそ、社内で共感され、共有しやすくなる例です。
このビジョンから、「人を大切にする」という、スターバックス・コーヒーのコア・バリュー(企業文化)も派生して仕上がりました。それに伴い、店内外でコーヒーを楽しむ顧客たちの満足度が、着実に向上していったとされます。

ビーハー氏は、すべての従業員に「サーバント・リーダー」に関する小冊子に目を通すよう薦めています。

 

【実例2】社員の可能性を信じ、任せられる社長 『加賀電子』 [3]

 

東証一部上場の電子部品・エレクトロニクス商社、「加賀電子」の創業者である塚本勲会長は、1968年の創業当時から「会社は私のものではない。皆が稼ぎに来る場所、つまり皆のものだ」という意識を持っていたそうです。
「会社は皆のもの」という経営者の意識も、サーバント・リーダーシップ論と通底するところが多いのです。
「会社は皆のもの」を実践する意味で、塚本氏は「全員経営」のコンセプトを打ち出しました。
具体的には会社の細かい経費もすべて社員全員に公開し、経営にやましいところがないと「ガラス張り」にしてみせたのです。
それは、社長が会社の金で公私混同の贅沢をしないという、塚本氏が自分自身の清廉さを求める覚悟の表れでもあります。

さらに、若い従業員の発想や行動力に任せて、大半の権限や裁量を従業員に委譲したことも「全員経営」の具体例といえるでしょう。
塚本氏は、従業員と飲み交わすときはレストランや居酒屋ではなく、必ず自宅に招くそうです。
家主がまだ帰宅していないのに、社員らが先に飲んで待っているような雰囲気が、風通しのいい開かれた社風を創り上げ、創業からわずか十数年で上場を果たすほど、右肩上がりの急成長を遂げた原動力にもなったのでしょう。
従業員も経営陣の一角であると認め、フラットな関係で付き合う加賀電子の塚本会長は、まさにサーバント・リーダーシップを体現しています。

 

【実例3】飼育員の創意工夫で生まれた、画期的なコンセプト 『旭山動物園』 [4]

 

年間入園者数では日本国内で第3位、北海道旭川市の旭山動物園は、地方都市にある動物園としては最も多くの人々が訪れ、道外にもファンがいる人気の施設です。
しかし、1990年代には入園者が急減し、いつ閉園となってもおかしくないほどの深刻な経営危機に見舞われていました。当時の園長だった小菅正夫氏は、飼育員からキャリアを重ねて出世した叩き上げの経営者です。

小菅氏は、旭山動物園の現場で働き続けているうち、その根本的な問題点をいくつも気づくようになっていました。たとえば、飼育員が入園者のことを気にせず、動物のことばかり見ている閉鎖的な雰囲気です。
当時、動物園が「サービス業」であるとの意識が、園内に全く共有されていなかったのです。
そのわりに、飼育員は担当の動物の生態なども、それほど深く理解していません。若手の頃の小菅氏は、ある飼育法を不思議に思って、先輩飼育員にその理由を尋ねたそうです。

しかし、「俺に聞くなんて10年早い」と一蹴されてしまう始末。じつは、ベテラン従業員も飼育法の根拠を深く理解しておらず、先輩から習ったタスクをただ淡々とこなしていたにすぎなかったのです。
園長となった小菅氏は、来園者の満足度と売上げを向上させる組織改革を進めるため、「園内のスタッフが一丸となって、何を実行すればいいか、徹底的に話し合える雰囲気」を、少しずつ創り上げました。
慣れない方針に最初は戸惑っていたスタッフ達でしたが、まずは全員が「各自でできることを徹底してやる」と決めて、取り組んでいったのです。

そして、飼育員全員が「できることをする」ところから始まったのが、現在の旭山動物園を特徴づけている画期的なコンセプト「行動展示」です。
動物の姿を見せるだけでなく、実際に「走る」「飛ぶ」「泳ぐ」「食べる」様子などの自然な生態や驚くべき潜在能力などを、来園者の目の前で見せる展示法です。
動物の自然な生態を詳しく具体的に知っている飼育員にしか実現できません。
行動展示の採用は、小菅氏のひらめきや指示によるものではありません。
もともと、口下手で客前のプレゼンテーションが苦手な飼育員が、実際に動物がエサを食べている様子を、大勢の来園者に披露したところから始まり、そこから発展していったのです。
それはまさに、スタッフを支えて、従業員の自主性や自発的アイデアに任せた、小菅氏によるサーバント・リーダーシップの成果といえます。

現在の旭山動物園は、昭和時代のピーク期を遙かに上回る人数の来園者で、いつも賑わっています。

 

まとめ


リーダーシップは、組織上層部の特権ではありません。むしろ、めざすべき指針が不明確で、混沌としている時代だからこそ、組織を構成するメンバー全員が参加できるサーバントリーダーシップが求められているのではないでしょうか。
ロバート・K・グリーンリーフ著『サーバント・リーダーシップ』は、500ページを超える大部の本ですが、リーダーシップに悩む読者が、必要な箇所を辞書のように引くような使い方をされることも多く、世界中の組織で参考にされています。

参照
[1] 『サーバント・リーダーシップ』英治出版 p.52,55
[2] 『サーバント・リーダーシップ実践講座』真田茂人 中央経済社 p.89~91
[3] 『サーバント・リーダーシップ実践講座』真田茂人 中央経済社 p.101~103
[4] 『サーバント・リーダーシップ実践講座』真田茂人 中央経済社 p.106~107