「コンプライアンス」という言葉は、近年ではかなり聴き馴染みのある言葉になってきた感があります。インターネット・メディアの発達による情報拡散速度の飛躍的な向上によってレピュテーションの重要性が増すにつれ、コンプライアンスの重要性についても社会に浸透しつつあると言えるでしょう。
コンプライアンス遵守を実践するには、コンプライアンスの意義について適切に理解しておくことが不可欠です。しかし、その意義は必ずしも世間で正しく理解されているとは限りません。たとえば、類義語として「法令遵守」がありますが、コンプライアンスと法令遵守は、互いにどのように位置づけられるのでしょうか。
本稿では、コンプライアンスの重要性について解説します。
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目次
辞書における「コンプライアンス」の定義
『三省堂 大辞林 第三版』によれば、コンプライアンスは以下のように定義されています。
コンプライアンス [4] 【compliance】
① (要求・命令などへの)承諾。追従。
② 法令遵守。特に、企業活動において社会規範に反することなく、公正・公平に業務遂行することをいう。
③ 服薬遵守。処方された薬剤を指示に従って服用すること。
④ 〘物〙 ひずみと応力の比で表される物質定数。弾性率の逆数。物体の変形のしやすさを表す。
企業活動における文脈で用いられることを想定する定義となっているのは上記の②ですが、上記の②では、コンプライアンスと法令遵守は等しいもの、あるいはコンプライアンスが法令遵守の一部を構成するものであるというように読めてしまいます。
しかし、弁護士である筆者が経験してきた法務・コンプライアンスの現場の実態に鑑みると、これは適切な定義とは言えません。
実際には、今日におけるコンプライアンスという概念は、法令遵守よりもはるかに広い範囲をカバーするものとして捉えられています。以下で詳しく見ていきましょう。
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法令遵守とコンプライアンス、違反の場合の効果から考える
コンプライアンスと法令遵守の違いは、これらに違反した場合の効果から考えると明らかになります。
法令遵守に関する違反の効果はわかりやすく、法的な制裁を受けるということになります。たとえば、会社や役員が刑事訴追を受けたり、罰金・課徴金・民事上の損害賠償等を課せられたりといった内容になります。
一方、コンプライアンス違反の効果は、必ずしも法的な制裁を受けるということにとどまりません。コンプライアンス違反の効果として最も重大なものは、社会的評判(reputation)の毀損・低下です。
いったん企業イメージが毀損・低下してしまうと、これを回復するのは至難の業です。ここにコンプライアンス遵守の重要性がクローズアップされる所以があると言えるでしょう。
当然ながら、法令に違反する行為を行った場合にも、その事実が世間に知れ渡れば、会社の評判は毀損・低下します。その意味で、法令遵守もコンプライアンスの一部をなす要素であるということができます。
しかし、法令違反とまでは言えない行為であっても、その行為が社会的相当性を逸脱していると判断される場合、たとえば社内規程違反や、顧客の利益を害して自社を利する行為、法令による規制を潜脱することを意図しているとみなされるような行為などについては、「コンプライアンスの観点から問題のある行為」と考えられています。
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コンプライアンス違反事例としてのハラスメント
コンプライアンス違反の代表事例がハラスメントです。
ハラスメント行為の悪質性には幅があり、法的には刑事・民事上の責任を負うレベルに至っていないものも多く含まれています。
しかし、一度「ハラスメント行為が行われている会社である」という評判が立ってしまうと、売り上げや採用活動に影響が出てしまい、営業面で大きな損害が発生する可能性が高いと言えます。したがって、コンプライアンス遵守の観点から言えば、社内でのハラスメント行為を撲滅する必要性は非常に高いと言うことができます。
しかし、ハラスメント行為は「受け手が嫌だと感じるかどうか」が基準となるものと説明されるのが通常であるため、ある行為がハラスメントに該当するかどうかは、客観的な視点から見るとかなりあいまいなところがあります。
ハラスメントに限らず、コンプライアンス違反に該当する可能性がある行為を精査する際には、法令などの定まった基準への該当性を検討するだけでは足りず、「社会から見てどうか」というあいまいな部分を含んだ観点から検討し、判断する必要があります。
では、コンプライアンス違反を防ぐためには、どのような取り組みをすべきでしょうか。
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広範化するコンプライアンス、適切に遵守するために
①現場へのコンプライアンス意識の浸透
先に述べたとおり、コンプライアンスはあいまいかつ広範な概念であり、定まった基準に当てはめて考えられるものではありません。
したがって、現場担当者のレベルでコンプライアンスについての意識を高く保持し、「この行為はコンプライアンス違反に該当しそうだぞ」ということを敏感に察知できる感性を育んでおく必要があります。
そのためには、社員教育を徹底することが重要です。社内研修等において、コンプライアンス違反の事例を用いたケース・スタディを行い、社員のコンプライアンス意識を高めるのが有効でしょう。
②コンプライアンス部門によるチェック体制の強化
現場担当者のレベルで察知しそびれてしまった問題につき、独立したコンプライアンス部門がレビューを行うことにより、二重の包囲網でコンプライアンス違反を防ぐことが肝要です。
コンプライアンス部門の機能を充実させるために、コンプライアンス担当者の増員、特に各現場における取引にも精通したコンプライアンス担当者の採用・育成を行うことが重要となります。現に、筆者が弁護士として見てきたコンプライアンスの現場では、コンプライアンス担当者の人員増強の動きが活発に起こっています。
まとめ
以上の要点をまとめると、次のようになります。
・コンプライアンスは法令遵守のみならず、社会的相当性から逸脱した行為を行わないというより広い範囲をカバーする概念であり、多くの場合その基準はあいまいである。
・コンプライアンス違反を察知し、未然に防ぐために、現場レベルでコンプライアンス意識を向上させるとともに、コンプライアンス担当者の人員増強を行い、二重のチェック体制を充実させるべき。
コンプライアンス遵守は、それ自体が企業の収益を生むものではありませんが、reputationの維持・向上という企業活動にとって最も重要なテーマの一つと直結しているので、企業にとってコストをかけてでも強化しておく価値のある領域と言えるでしょう。
今後重要性をますます高めていくであろうコンプライアンスに関して、一度立ち止まって自社の体制について考えてみてはいかがでしょうか。
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