人生100年時代と言われる中、定年退職年齢も少しずつ引き上げられています。
もし本当に平均寿命が100歳を超えるのであれば、将来的には定年退職年齢が80歳を超えても不思議ではないでしょう。
一方で、定年退職とは別に、役職定年と呼ばれる制度もあります。
はたして役職定年は、働き方改革が進んでいくこれからの社会でどのような立ち位置になるのでしょうか。
本記事では役職定年について徹底解説していきます。
役職定年を取り入れるメリット・デメリットや、役職定年者を活用する方法も紹介します。
ぜひ最後まで読んでみてください。
関連記事:【弁護士が解説】「70歳定年制」に関する法規制の現状 改正高年齢者雇用安定法とは
目次
【管理職の定年】役職定年とは?
役職定年とは、一定の年齢に達した役職者がその役職から外れる制度のことを指します。
つまるところ役職定年とは「管理職の定年」なのです。
役職定年が広まった背景としては、定年退職年齢の引き上げが挙げられます。
定年退職年齢が引き上げられてしまうと、管理職の年齢も徐々に引き上げられ、人件費が高騰したり、パフォーマンスが低下したりする可能性があるためです。
そこで企業は、管理職の定年である役職定年を設けるようになったのです。
そのため、高年齢者雇用安定法で定められている定年退職とは異なり、役職定年は法律で規定されているわけではありません。
あくまでも企業が独自に決めたものです。
関連記事:定年退職とは?定年年齢や関連する法律、企業が取り組むべきことを解説
役職定年のメリット3選
役職定年のメリットは以下の3つです。
- 人件費を削減しやすい
- 組織の新陳代謝が進む
- キャリア形成しやすい
それぞれ詳しく解説していきます。
メリット①:人件費を削減しやすい
役職定年の最大のメリットは、人件費の削減です。
終身雇用と年功序列の文化は、全盛期に比べれば弱まっているとは言え、まだまだ根強く残っています。
年齢が上がれば上がるほど、人件費は増加する傾向にあると言えるでしょう。
一方で、役職定年であらかじめ上限となる年齢を決めておけば、年功序列による人件費高騰の影響を最小限に抑えられます。
シニア層の従業員の人件費を最適化したい場合は、役職定年を導入するのがいいかもしれません。
関連記事:役職手当とは?相場や決め方、支給する際の注意点などを解説
メリット②:組織の新陳代謝が進む
役職定年を導入することで、組織の新陳代謝を加速させることができます。
あらかじめ役職定年を定めておけば、若手従業員が「自分が次の管理職になる!」というようにモチベーションを高めるようになるためです。
また、変化の激しい現代社会では、組織も常に変わり続ける必要があります。
その点で、役職者が変わることになる役職定年の導入は、組織の新陳代謝を促す効果が期待でき、大きなメリットになるのではないでしょうか。
メリット③:キャリア形成しやすい
実際に役職に就いているシニア人材からすると、あらかじめ役職定年が定められている方が、キャリア形成しやすいメリットがあります。
管理職は比較的報酬は良いものの、責任が重く、非常に忙しいため、セカンドキャリアを考える時間がありません。
しかし、あらかじめ役職定年がわかっていれば、余裕を持ってキャリアを考えられるようになります。
企業としても、役職定年を定めておくことで、次世代のリーダー人材を育成する計画を立てやすくなるメリットがあります。
役職定年のデメリット3選
役職定年のデメリットは以下の3つです。
- シニア人材のモチベーションが低下する
- 少子高齢化社会にマッチしづらい
- パフォーマンスが低下する可能性がある
それぞれ詳しく解説していきます。
関連記事:【知らないとまずい】「2025年より65歳定年が義務化」は本当か?企業が知っておくべき対応
デメリット①:シニア人材のモチベーションが低下する
役職定年のデメリットとして挙げられるのが、シニア人材のモチベーション低下です。
役職定年は「一定の年齢になったらその役職から外れる」制度となっていますが、これは事実上の降格だと言えます。
このシステム上、どれだけ良い業績を出しても降格することが決まってしまっているため、モチベーションが低下しやすいのです。
役職定年を導入する際は、シニア人材のモチベーションを高められる方法を別途で検討する必要があります。
デメリット②:少子高齢化社会にマッチしづらい
役職定年は少子高齢化社会にマッチしづらいと言えます。
若者が少なくシニア人材が多い現代では、シニア人材の活用が急務です。
しかし、そこで役職定年を導入してしまうと、シニア人材が長く働くことが難しくなってしまいます。
はたして本当に役職定年を導入した方がいいのか、検討する必要があるでしょう。
デメリット③:パフォーマンスが低下する可能性がある
役職定年を導入することで、パフォーマンスが低下する可能性があります。
役職定年は業績関係なしに、年齢だけで役職から外されるため、優秀なシニア人材が役職に就けなくなってしまいます。
また、引き継ぎに失敗してしまうと、前任者が持っていたノウハウを継承できなくなってしまうのも大きなデメリットです。
役職定年を導入する際は、パフォーマンスが低下しないように、計画的な人材育成・引き継ぎを進める必要があります。
役職定年の廃止が相次いでいる3つの理由
メリットもあればデメリットもある制度ですが、現状では役職定年は廃止傾向にあります。
その理由は以下の3つです。
- 管理職人材が少ないから
- ジョブ型雇用制度とマッチしないから
- 窓際族をカットしたいから
それぞれ詳しく解説していきます。
関連記事:定年後再雇用とは?制度の概要や導入・運用する際の注意点を解説
理由①:管理職人材が少ないから
役職定年の廃止が相次いでいる理由として、管理職人材が少ないことが挙げられています。
現在、多くの企業で管理職人材の不足が問題になっています。
この状況の中で、定年退職する前にシニア人材を管理職から外してしまうのは非常にもったいないことです。
「管理職人材には少しでも長く管理職を務めてほしい」というのが企業側の本音だと思われます。
理由②:ジョブ型雇用制度とマッチしないから
役職定年は、近年導入が進められているジョブ型雇用制度とマッチしません。
従来の雇用制度は、やはり年功序列型だったと言えます。
1つの企業に長く勤めて、少しずつ昇進していくのが一般的でした。
しかし、近年導入されているジョブ型雇用制度は、年齢は一切関係なく、能力や役割でのみ昇格・昇進が決定されます。
このような状況において、年齢で制限をかける役職定年はマッチしないと思われます。
理由③:窓際族をカットしたいから
役職定年の最大の問題は、役職定年後のモチベーション低下に尽きます。
役職定年により事実上の降格を告げられたシニア人材は、モチベーションを維持できず、実質的な仕事を与えられない窓際族になる可能性があるのです。
結果としてコストもかかるため、それであれば役職定年を廃止して、定年退職年齢ギリギリまでキビキビと働いてもらった方が、まだマシだと言えます。
役職定年の現状
ここでは役職定年の現状について解説していきます。
関連記事:『定年後も働く時代に』人生100年時代においてビジネススキルを身につけるための心構えとは
役職定年制の導入率は16.4%
人事院が2017年に発表した『役職定年の有無別、動向別企業数割合』によると、役職定年制を導入している企業は16.4%とのことです。
そう考えると、役職定年を導入している企業はあまり多くないと言えそうです。
一方で、従業員数500人以上の企業では30.7%となっているため、規模が大きければ大きいほど、役職定年を導入する傾向にあると言えます。
また、役職定年を導入している企業の中で、今後も継続を考えていると回答したのが95.6%とのことなので、実際に導入・運用している企業においては、現時点で廃止を考えている企業はほとんどないことがわかります。
ただし、これらのデータは2017年時点のものです。
働き方が変化していく現代では、また違った数字になっている可能性もあります。
役職定年で業務内容が変わる
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の『65歳定年時代における組織と個人のキャリアの調整と社会的支援』によると、役職を降りたあとの主な仕事は「担当部署の主要な業務」が52.8%となっています。
それ以降は「社員の補助・応援(20.3%)」「部下マネジメント等の管理業務(10.8%)」「所属部署の後輩社員の教育(5.4%)」と続きます。
こうして見ると、役職定年者の約半分は、自身が長年培った知識・ノウハウを生かして仕事に取り組んでいるようです。
また、役職定年後は後輩社員のサポートに回ることがあるのがわかります。
役職定年後は給料が下がる
公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団が2018年に発表した『50代・60代の働き方に関する調査報告書』によると、役職定年で全体の9割以上が年収減となり、全体の4割の人が年収50%未満になっているようです。
また、この年収減により、モチベーションが低下するシニア人材も一定数いるようです。
給料減少は企業の人件費削減にそのまま繋がると考えられるので、何とも言えないところではあります。
役職定年者を活用する方法
役職定年者を活用する方法は以下の3つです。
- 新しい肩書きを用意する
- 役職定年後のキャリアを提供する
- 役職定年前のサポートを充実させる
それぞれ詳しく解説していきます。
方法①:新しい肩書きを用意する
役職定年者を活用する方法として、まず挙げられるのが新しい肩書きです。
役職定年者は事実上の降格なので、自分のアイデンティティが失われた錯覚に陥ることがあります。
実際、大抵の場合は「〇〇部長」というように呼ばれていたはずで、それが失われてしまうことを考えると、職場の居心地も悪くなります。
そのため、新しい肩書きを用意することは、モチベーション維持の観点から意義があると言えます。
新しい肩書きの具体例は以下の通りです。
- 専任課長
- 専門部長
- 相談役
- 調査役
特に法律的な規定があるわけでもないので、社内の雰囲気に合った新しい肩書きを用意するのがいいでしょう。
方法②:役職定年後のキャリアを提供する
役職定年で役職から外れたシニア人材は、全盛期に比べるとパフォーマンスが低下している可能性がある一方で、知識やノウハウは他の若手社員に比べて充実していると考えられます。
そこで、役職定年後にはこれまでのノウハウを活用できる専門職のキャリアを提供するのもいいでしょう。
具体的には以下のようなキャリアが挙げられます。
- 専門知識を生かして現場で働き続ける
- ノウハウを継承するために新任者のサポートに就く
- 部下の育成に専念する
このように、専門知識が活かせるキャリアを提供できれば、モチベーションの低下を防ぎ、かつ自社の利益にもなることでしょう。
方法③:役職定年前のサポートを充実させる
役職定年が待ち受けているシニア人材が不安に感じるのは、役職定年後のキャリア構築と老後資金です。
つまり、未来に対してポジティブな気持ちで向き合えないからこそ、モチベーションが低下しているとも言えます。
だからこそ、役職定年前に企業がシニア人材をサポートする必要があります。
キャリア構築に関しては、キャリアデザイン研修や越境学習を促すことで、これまでのキャリアとは全く異なるキャリアの可能性を提示します。
また、役職定年後に副業・兼業を解禁すれば、キャリアの選択肢も大幅に広がるでしょう。
そして、この副業解禁は、老後資金の問題も同時に解決できる可能性があります。
老後資金に関しては、企業年金の受給額や、役職定年後の賃金を開示しておくことで、より確度の高いマネープランを構築できるようになるはずです。
このように、役職定年前のサポートを充実させられれば、モチベーションの低下や精神的な不安を、可能な限り抑えられるのではないでしょうか。
まとめ
それでは本記事をまとめていきます。
- 役職定年は、一定の年齢に達した役職者がその役職から外れる制度のことで、つまるところ「管理職としての定年」
- 役職定年を導入することで、企業側としては「新陳代謝を促せる」「人件費の削減」などのメリットがある
- 役職定年はシニア人材からするとデメリットの方が多いと考えられる
- 役職定年を導入する場合や役職定年者に対するサポートが必要
役職定年は、正しく活用できれば、企業の経営体質を改善できる可能性がある手段の1つです。
一方で、少子高齢化の現代では、シニア人材には長く働いてもらいたいのが本音だと言えます。
自社に役職定年が必要なのか・可能なのかを見極めることが大切です。
また、もし役職定年を導入・継続する場合は、役職定年者のサポートが必要だと言えます。
制度を今一度見直して、従業員が納得できる役職定年制を構築するようにしましょう。