近代からリーダーシップの研究は盛んに行われており、これまでに様々な理論が登場しました。
その中の1つが行動理論です。
リーダーシップにおける行動理論は1940年代に登場した理論ですが、現代社会でも、十分に参考になる部分が多いと考えられます。
そこで本記事では、リーダーシップ行動理論について徹底解説していきます。
行動理論を取り入れるメリット・デメリットや活用方法も紹介しているので、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
リーダーシップ行動理論とは?
リーダーシップ行動理論とは、優れたリーダーと一般的なリーダーを区別する行動にフォーカスした理論のことです。
「リーダーは後天的に作ることができる」という前提に基づいた考え方で、どのような行動がリーダーを優秀にさせるのかが研究されました。
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特性理論の失敗が背景にある
リーダーシップ行動理論の背景には、行動理論が登場する以前の主流だった特性理論の失敗があります。
リーダーシップ特性理論とは、優れたリーダーに共通する性格や資質にフォーカスした理論となっています。
この理論は、たしかに「研究」という意味では合理的です。
しかし、仮に優れたリーダーの特性を解明できるようになったとして、それを実践に持ち込むのは難しかったのです。
このリーダーシップ特性理論は「先天的な要因で優秀なリーダーが決まる」という前提に基づいた考えなので、再現性がありません。
一方、リーダーシップ行動理論は「後天的な要因で優秀なリーダーを育成できる」という前提に立っているので、特性理論に比べて遥かに実践的な理論だったのです。
リーダーシップ行動理論の種類
代表的なリーダーシップ行動理論として「PM理論」と「マネジリアルグリッド論」が挙げられます。
ここでは2つの行動理論を解説していきます。
PM理論
PM理論は日本の心理学者・三隅二不二によって1966年に提唱された理論です。
PMは「目標達成能力(Perfofmance)」と「集団維持能力(Maintenance)」のことで、この2つの要素を基に、三隅はリーダーシップタイプを以下の4つに分けました。
- PM型
- Pm型
- pM型
- pm型
最も理想的なのがPとMが共に高いPM型で、PM型のリーダーは成果を挙げられると共にチームをまとめる力もあります。
Pm型は結果を出せるけどチームをまとめられないリーダーで、逆にpM型はチームをまとめられるけど結果を出せないリーダーです。
そしてpm型は結果を出せずチームをまとめることもできないリーダー失格型だとされています。
PM理論のメリットは、リーダー人材を分類した後にフィードバックしやすい点にあります。
例えば、あるリーダー人材がPm型だった場合は、必然的に、Mを強化する流れになります。
それだけでなく、Pが強いのであれば「プレイングマネージャーとして現場に配置する」という選択肢も出てきます。
PM理論は、分類した後のフィードバックが容易になった点で、優れた行動理論だと言えるかもしれません。
マネジリアルグリッド論
マネジリアルグリッド論は、テキサス大学の教授であるブレイクとムートンにより提唱された理論です。
マネジリアルグリッド論では、リーダーの行動スタイルを「生産業務に対する関心」と「人間に対する関心」の2軸に分けて、それぞれの軸をさらに9段階に分けて、リーダーを分類します。
これによって生まれる81のグリッドを2人は「マネジリアルグリッド」と呼び、典型的な5つのリーダーシップに分類しました。
以下の通りです。
- 1・1型:放任型リーダー
- 1・9型:人情型リーダー
- 9・1型:権力型リーダー
- 9・9型:理想型リーダー
- 5・5型:妥協型リーダー
マネジリアルグリッド論とPM理論の違いは、PM理論は「能力の高さ」で分類したのに対して、マネジリアルグリッド論は「関心の強さ」で分類した点です。
そしてマネジリアルグリッド論でも、基本的には9・9型である理想型リーダーが最も理想的なリーダーだとしています。
リーダーシップ行動理論のメリット3選
リーダーシップ行動理論を取り入れるメリットは以下の3つです。
- 特性理論よりも具体化しやすい
- 要因となる人物を特定しやすい
- 人材のリーダーシップスタイルを特定しやすい
それぞれ詳しく解説していきます。
関連記事:リーダーシップを発揮するための実践行動とは?役職別に具体例を紹介!
メリット①:特性理論よりも具体化しやすい
リーダーシップ行動理論は、特性理論よりも具体化しやすいと言えそうです。
特性理論は、優秀なリーダーの資質や性格にフォーカスした理論なので、抽象的なものになる傾向があります。
例えば「几帳面な性格」が優秀なリーダーの共通点だとしても、具体的にどういった行動が「几帳面」に該当するのかが曖昧です。
一方でリーダーシップ行動理論は、優秀なリーダーに共通する特定の行動にフォーカスしているため、非常に具体的だと言えます。
同じ几帳面でも「お金を細かく管理できる」という具体的な行動で分析できるので、より再現性が高い理論になっています。
具体化しやすいということは、再現性が高く、実践的であるということです。
メリット②:要因となる人物を特定しやすい
リーダーシップ行動理論は、チームの成功要因・失敗要因となる人物を特定しやすいメリットがあります。
先ほどから述べている通り、リーダーシップ行動理論は具体的な行動にフォーカスしているため、要因となる人物を特定しやすいのです。
例えば、チームが成功する行動要因が「アイデアの提案」だとするなら、実際にアイデアを提案したメンバーが成功要因ということになります。
このように、リーダーシップ行動理論で分析を進め、要因となる人物を特定できるようになれば、ポテンシャルの高そうなリーダー人材を発掘できる可能性があります。
メリット③:人材のリーダーシップスタイルを特定しやすい
リーダーシップ行動理論は、特性理論に比べて、人材のリーダーシップスタイルを特定しやすいと言えます。
特性理論はあくまでも資質や適性を分析するのに対し、行動理論は特定の行動の結果を評価できるため、スタイルを特定しやすいのです。
具体的なリーダーシップスタイルは以下が挙げられます。
- コーチ型
- ビジョン型
- 奉仕型
- 専制型
- 放任型
- 民主型
- ペースセッター型
- 変革型
- 取引型
- 官僚型
それぞれのスタイルで改善すべきポイントや伸ばすべき能力が異なってくるため、早い段階でリーダーシップスタイルを特定した方が、リーダー人材の育成を効果的に実施できる可能性があります。
リーダーシップ行動理論のデメリット3選
リーダーシップ行動理論のデメリットは以下の3つです。
- 外的要因を疎かにしてしまいがち
- 組織構造を疎かにしてしまいがち
- 変化の激しい現代社会で活用しづらい
それぞれ詳しく解説していきます。
関連記事:リーダーシップに経験は必要不可欠?経験以外で身につけることは可能なのか
デメリット①:外的要因を疎かにしてしまいがち
リーダーシップ行動理論は、基本的に「人材の行動」のような人材の内的要因のみにフォーカスした理論です。
しかし実際のビジネスシーンは、仕事内容や業界特性によって求められる対応が多岐に渡ることがほとんどです。
はたして「優秀なリーダーに共通する特定の行動」が、あらゆるシーンでも対応できるオールマイティなものなのでしょうか。
答えは「No」です。
ビジネスは内的要因と同じくらい外的要因が重要な要素となっています。
行動理論では外的要因に関連したシチュエーションの分析に対応できないのがデメリットです。
デメリット②:組織構造を疎かにしてしまいがち
リーダーシップ行動理論は、ある特定のリーダー人材の行動を分析する理論です。
もちろん、チームの成果を発揮するのに優秀なリーダーは必要ですが、それと同じくらい、どのようなメンバーでチームが構成されているかも重要な要素です。
同じ営業チームでも、どんな手段を使ってでも結果を出すメンバーが集まっているのか。
それともメンバーで協力することで結果を出すメンバーが集まっているのかで、リーダーに求められる行動が異なってくるはずです。
リーダーシップ行動理論では、リーダーの行動にフォーカスするだけで、チームメンバーや組織構造に着目することが基本的にありません。
組織構造を疎かにしてしまいがちなのもリーダーシップ行動理論のデメリットです。
デメリット③:変化の激しい現代社会で活用しづらい
以上の2つのデメリットがあるため、変化が激しく、求められる行動が常に変化する現代社会において、リーダーシップ行動理論は活用しづらいと言えます。
例えばネット広告業界では、プライバシー保護促進によるターゲティング広告のパフォーマンス低下や、TwitterのAPI有料化などで、外的要因が著しく変動しています。
現代社会は、一般従業員でさえも、柔軟な行動が求められる状態なのです。
「特定の行動」を分析する前に「優秀なリーダーに共通する行動」が変動してしまう現代社会で、リーダーシップ行動理論は活用しづらいと言えます。
行動理論の次の理論「条件適合理論」とは?
以上の3つのデメリットを解消するために登場した理論が、条件適合理論です。
条件適合理論とは「組織が置かれる環境によって優秀なリーダーの定義が変わる」という考え方で、リーダーの行動だけでなく、置かれている環境にも注目するのが特徴です。
理論の正当性を裏付ける根拠となる研究が欠けているのが欠点ですが、「行動と環境の2つを考慮する」という理屈は、現代社会でも十分に参考になるでしょう。
リーダーシップ行動理論の3つの活用方法
リーダーシップ行動理論の活用方法は以下の3つです。
- リーダー候補人材の分析
- 自社が求めるリーダー像の言語化
- 自社のリーダー人材のバランスチェック
それぞれ詳しく解説していきます。
関連記事:リーダーシップ力とは?リーダーに求められる7つの力
方法①:リーダー候補人材の分析
リーダーシップ行動理論の活用方法として挙げられるのが、リーダー候補人材の分析です。
PM理論やマネジリアルグリッド論を活用すれば、リーダー候補人材を分析することができ、どのようなリーダー人材に育てればいいかを早期段階で決定できます。
PM理論で言う「P」が高いのであればプレイングマネージャーがいいでしょうし、「M」が高いのであれば中間管理職がいいかもしれません。
目標地点が決まったら、それに合わせて人材育成計画を策定できます。
方法②:自社が求めるリーダー像の言語化
リーダーシップ行動理論は、自社が求めるリーダー像の言語化にも役立ちます。
なぜなら、リーダーシップ行動理論では「特定の行動」がフォーカスされているからです。
「自社が求めるリーダーはこのような行動を取るだろう」というように言語化できると、リーダー人材の育成計画を立てる際に、重要な材料になる可能性があります。
自社が求めるリーダー像を言語化する時は、行動にフォーカスするといいかもしれません。
方法③:自社のリーダー人材のバランスチェック
リーダーシップ行動理論は、自社のリーダー人材のバランスチェックに活用できます。
PM理論で自社に所属しているリーダー人材全員を分析できれば、PとMのバランスが整っているかどうかを確認できるためです。
実際に分析し、あまりにもどちらかに偏っている場合は、何かしらの問題が起きる可能性があるでしょう。
リーダーシップ行動理論でリーダー人材のバランスをチェックすることで、未然に問題を防ぐことができ、場合によってはパフォーマンスが向上する可能性があります。
リーダーシップ行動理論の成功事例
ここではリーダーシップ行動理論の成功事例を紹介していきます。
関連記事:リーダーシップの育成方法を5つ紹介!注意点もあわせて解説
事例①:日立
総合電機メーカーである日立製作所は、PM理論におけるpM型リーダーが多かったことから、課題設定力や成果に直結しないパフォーマンスに課題を抱いていました。
この分析を参考にして、日立は社内研修コンセプト「志」を開始します。
その結果、pM型リーダーをPM型リーダーにすることに成功し、グローバル社員が増加したことで、1兆円規模の国家プロジェクトの輸出に成功しました。
事例②:ジョンソン・エンド・ジョンソン
世界的なヘルスケアメーカーであるジョンソン・エンド・ジョンソンは、一人一人の社員がリーダーシップを発揮できるように、2012年に「Our Talent Philosophy」を発表しました。
人材育成計画を見ると、管理職にはマネージャー研修とコーチング研修が導入されており、それぞれP機能とM機能を養えるプログラムになっていることがわかります。
業績を出すためのマネジメントスキルと、良好なチーム環境を築くためのコーチングスキルを高められる研修プログラムがいいのかもしれません。
事例③:本田技研工業
世界的な輸送機器メーカーである本田技研工業は、創業者の本田宗一郎がP機能(ものづくり)、常務取締役だった藤沢武夫がM機能(経営、マネジメント)にフォーカスするスタイルで、世界的な企業に成長しました。
本田技研工業のように、エンジニアが創業者の企業では、P機能とM機能が分離されているケースが見受けられます。
Appleも、優れたアイデアとビジョンを持つスティーブ・ジョブズと、経営力に優れたティム・クックの両輪で世界的な企業に成長したと言えます。
このことから、P機能とM機能を同一のリーダーが保有しなくてもいい可能性が考えられます。
ただし、P機能とM機能を分離させるとしても、リーダー人材を見極めるPM理論による分析は必要だと思われます。
まとめ
それでは本記事をまとめていきます。
- リーダーシップ行動理論は「優秀なリーダーに共通する行動」を分析・研究する理論
- 特性理論に比べると行動理論の方が具体的
- 行動理論は外的要因を考慮に入れないのがデメリット
「優秀なリーダーに共通する行動」にフォーカスする点は、現代でも十分に活用できると考えられます。
例えば、近年登場した人材評価手法であるコンピテンシー評価が典型例です。
ただし行動理論は、ビジネスシーンにおいて重要な「外的要因」がフォーカスされないのがデメリットです。
行動理論を活用する際は、その行動のシチュエーションについてもしっかり議論するのが良さそうです。