現在、日本における15歳以上の人口「労働力人口」は減少し続けており、人手不足だと答える企業が増加しています。
特に、これまで新型コロナウイルスの影響によって客足が遠のいていた業界では、規制緩和によって一気に客数が増えたことで深刻な人手不足に悩まされています。
本記事では、人手不足に陥っている業界やその原因、解消法を解説します。
参考:労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)|総務省統計局
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目次
深刻な人手不足に陥っている業界
深刻な人手不足に陥っている業界は下記4つです。
- 宿泊業
- 運輸業
- 建設業
- 医療・福祉業
それぞれの現状や今後の予測を紹介します。
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宿泊業
宿泊業は、新型コロナウイルス対策が緩和されたことによるインバウンド増加を受け、業績面では回復の兆しが見えていますが、その需要増に対応しきれず、人手不足の旅館やホテルが増加しています。
2021年9月時点で人手不足だと答える企業が28.3%だったのに対し、2年後の2023年9月には、62.5%と大きく上昇しています。
もともと他業界と比較して給与水準が低く、シフト制で就業時間が不規則であるため、人手が集まることが難しいとされています。
現在、都市部がメインとなっている外国人観光客も、これから地方へ広がっていくことを考えれば、旅館やホテルの人手不足問題の加速は免れないでしょう。
参考:旅館・ホテルの 4 割超が「増収」へ 2022 年度市場は 3 兆円台回復予想|株式会社帝国データバンク
運輸業
現在、運輸業はインターネット販売やフリマアプリなどの利用増加に伴い、人手不足が起こっています。
国は、インターネット通販の利用増加による人手不足を解消するため、新規配送業者も参入しやすいように規制緩和を行いました。
しかし、それによって低価格で仕事を請け負う零細企業が増えたために「多重下請け構造」を作る事となり、結果として運輸業を行うドライバーの賃金が低下、従業員が集まらず人手不足となっているのが現状です。
売主、買い主が共に個人である「CtoC市場」も増加すると見込まれているため、より人手不足が深刻化していくと考えられます。
さらに、運輸業界で働く人の約半数は40〜54歳と高齢化してきており、29歳以下の若年層は全体の10%以下です。
十分にスキルを持った人材も、10〜20年後には定年を迎えるため、将来的にも危険な状態です。
参考:規制緩和とトラック運送業の構造|公益財団法人 国際交通安全学会
建設業
国内における建設活動を出来高ベースで表した「建設投資額」は2015年以降、上昇し続けており、建設業の需要は高まっています。
しかし、厚生労働省発表の「建設労働需給調査」によると、2022年11月時点での建設業に関わる8種の職種で働き手が1.3%不足となっており、調査月から翌々月以降の労働者確保については2割超企業が「見通しが立たない」としています。
また、国土交通省発表のデータによると「製造業」の賃金がピークを迎えるのが50〜54歳であるのに対し、建設業では45〜49歳と40代後半に達します。
他業界と比較しても給与水準が低いことも原因の1つでしょう。
また、危険で過酷な作業であるというイメージを持たれることもあるため、給与水準を上げたり、業界全体のイメージを向上させることが必要です。
参考:令和4年度(2022年度) 建設投資見通し 概要|国土交通省
医療・福祉業
少子高齢化の深刻化に伴い、医療・福祉分野の需要は高まっています。
しかし、時間外労働や休日出勤、夜勤など労働時間のバラつきに加え、担当患者や利用者の状態が急変することで、業務が定時に終わらないことも多くあります。
このような過酷な労働環境が人手不足の原因の1つです。
業務改善のためのシステム導入や賃金の引き上げなど、過酷な労働環境でも働きやすい環境を整えることで希望する方も増加するでしょう。
人手不足によって起こる問題
人手不足によって下記2つのような問題が起こる可能性があります。
- 労働環境の悪化
- 事業縮小
1つずつ詳しく解説します。
労働環境の悪化
人手不足が起こることで、一人あたりの労働時間や負担が大きく増加します。
負担の増加に伴い、残業時間の増加や有給休暇取得数の減少、スキルアップの機会減少などに繋がり、従業員の働きがいやモチベーション低下が起こります。
モチベーションが低下すれば、業務が効率的に進まないだけでなく、仕事自体が嫌になり、離職するかもしれません。
一人でも離職すればその分の業務が残る従業員へ回されるため、一人あたりの労働時間が増加し、別従業員の離職へとつながるという悪循環に陥る可能性が高くなります。
事業縮小
当然ですが、企業は事業の売上によって営業を継続できています。
人手不足に陥り、会社運営ができないほど業績が下がってしまえば、営業時間の短縮やサービスの削減などを行い事業を縮小する他ありません。
最悪の場合、倒産する可能性もあります。
人手不足の解決方法
人手不足解決方法は下記のものが挙げられます。
- 従業員の育成
- 採用制度の見直し
- 業務の外注
自社で取り入れられるか検討してみましょう。
従業員の育成
日々作業や業務に追われている中で培われるスキルや能力もありますが、従業員の性質を考えて指導することで、より高いレベルへと成長させることができます。
そのために、下記のポイントを押さえておきましょう。
- 従業員の性格や現状の能力を把握する
- 適切な目標設定、達成状況を見える化する
- 指導を行う上司の研修をする など
従業員のレベルが上がり、業務を効率的に進められるようになれば、人手不足を解消できるかもしれません。
自社の問題を見極めるためにも重要な施策です。
採用条件の見直し
人手不足で採用活動を行う場合、欠員補充を目的とすると失敗しやすくなります。
欠員補充を目的とすると、前任者のレベル感や現在行っている業務に即対応してもらいたいと考えてしまうためです。
しかし、即戦力レベルの人材が採用試験を受けにくることは少なく、来たとしても他社との奪い合いになります。
また、能力だけで採用を決めてしまえば、自社の理念に共感する人物でない場合も多々あるため、すぐに離職する可能性もあります。
現在の採用条件を見直して、重点的に考えたい部分とある程度でいい部分の差を明確に決めておきましょう。
業務の外注
人手不足が長期間継続すると、離職に繋がる恐れがありますが、自社に見合う人材はすぐに見つかるわけではありません。
さらに、中核業務や新規事業開拓に向けた時間を捻出できなければ、事業縮小も免れないでしょう。
時間のかかる業務や重要度の低い業務は、外注するのも1つの手段です。
事業が拡大すれば、より多くの人の目に止まり、社員を希望する人材も増える可能性もあります。
ただし、マニュアル作成や業務フローの見直しなどで別途作業が発生し、一時的に業務量が増加するため、現在の業務の中で進められるのか、慎重な検討が必要です。
まとめ
現在人手不足が起こっている業界は偏っていますが、少子高齢化による労働人口の低下が深刻化すれば、その業界だけでなく、他の分野でも課題となっていくと考えられます。
組織を存続させるため、新入社員や長期的に勤務してくれる人材を獲得できる工夫は必ずしておきましょう。
また、現在働いている従業員も永遠にいるわけではなく、人手不足が長期化すると離職する恐れもあります。
業務効率化ツールの導入や業務の外注を行い、負担を軽減できるような工夫を必ず行いましょう。