パスゴール理論とは、メンバーがゴールを達成するために、リーダーがどのようなパスを出せば良いのかを考えるものです。
企業において、個々の従業員が精力的に目標達成に向けて活動できるかどうかは大切な要素です。そのために、リーダーポジションにいる者はチームメンバーへ働きかけて仕事に対する動機づけを高めていかなければなりません。
「適材適所」の名の下に、個々に適した業務に配置できれば最善なのでしょうが、人員の都合上それは難しいというケースも多いでしょう。シビアな状況の中でいかにチームを導いていくか。
それにはリーダーシップ論の1つであるパスゴール理論の知見が役に立つでしょう。
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目次
パスゴール理論とは
パスゴール理論の提唱者であるハウスは、リーダーシップが有効に働くかどうかは、リーダーの取る行動が部下をいかに動機づけられるかどうかにかかっていると考えました。そして部下を動機づけるには、部下やチームメンバーが目標(ゴール)を達成するために、明確な経路(パス)を指し示すことができるかどうかによるとしたのです。
しかし、TPOによって適切な服装が異なるように、メンバーに対する効果的な動機づけのアプローチも状況によって変化すると考えるのが自然です。シチュエーションに応じて柔軟にリーダーとしての行動スタイルも変えていく。これがパスゴール理論のキーポイントなのです[1]。
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4つのリーダーシップ
パスゴール理論では4つのリーダーシップを状況に応じて使い分ける必要があるとしています。それぞれご説明します[2]。
指示型リーダーシップ
リーダーが期待していることや規則をメンバーに理解させ、課題の達成方法やプロセスを具体的に指示・指導する行動を取ります。一挙手一投足において細かく指示を出し、メンバーの意見は採用しません。
支援型リーダーシップ
リーダーは細かく指示を出さず、メンバーにとって快適な職場環境をつくりだそうとするアプローチです。仕事以外の内容でコミュニケーションを取るなど心地よい雰囲気をつくる、可能であれば福利厚生や給与などの待遇を向上させるなどの対応が挙げられます。
参加型リーダーシップ
業務の遂行や課題解決に際し、メンバーに相談して彼らの提案を活用する行動を取ります。最終的な決定はリーダーにありますが、その内容についてはメンバーの意見を十分に聞き、その意思をくみ取る必要があります。
達成志向型リーダーシップ
メンバーの能力を信じ、ハードルの高い目標を設定して、メンバーに全力を尽くすよう求める行動を取ります。細かい指示は出さず、叱咤激励や課題達成に伴う魅力的な未来を提示することで動機づけを行います。
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2つの状況要因
ご説明した4つのリーダーシップの内どれを採用していくか、その目安となるのが以下の2つの状況要因です。
職場要因
業務の内容や職場の環境がこれに当てはまります。以下の3つが主な要素です。
・業務内容:業務遂行の手順が明確かあいまいか、単純か複雑か
・公式的な権限体系:指揮系統が明確かどうか
・職場のチームワーク:集団が統一的に行動できているかどうか
メンバー要因
各個人の能力や価値観がこれに該当します。具体的には以下の3つを考慮する必要があります。
・認知能力:メンバーが自認している業務遂行能力
・経験:業務に対する見識やノウハウの深さ
・自立性:自身で行動を決められるか、周囲に影響されるか
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状況に合わせたリーダーシップで目標達成まで導く
2つの状況要因に基づく6つの要素。これらを加味して4つの適切なリーダーシップから適切な行動を選択することで、メンバーの効果的に動機づけと目標達成への生産的な行動へつなげていくことができるでしょう。
〈パスゴール理論の全体像〉
参照:https://leadershipinsight.jp/explandict/パス・ゴール理論%e3%80%80path-goal-theory-of-leadership
状況別に考える有効なリーダーシップの選択
では、4つのリーダーシップは具体的にどのような状況で効果を発揮するのでしょうか。リーダーシップごとに有効に機能するシチュエーションをまとめましたので参考にしてみてください。
指示型リーダーシップが効果的な状況
指示型が最も効果を発揮するメンバーは新人です。どのように行動すれば円滑に業務を進むかわからないメンバーに対しては、明確な道筋を示すことが安心と信頼につながります。反対に右も左もわからないのに「自分で考えてみて」と自主性を尊重したところで、困り果てて動けなくなるだけでしょう。
またチーム内でいさかいが起きて意見がまとまらない時、あるいは緊急自体で迅速な対応が求められる時にも指示型リーダーシップによって明確な道筋を示すことが重要です。特にメンバーが、意思決定権が自分にないと考えている、つまり自立性が不足している時には一層大切なアプローチとなるでしょう。
支援型リーダーシップが効果的な状況
支援型リーダーシップが有効に働くのは、職場の指揮系統がハッキリしていて、なおかつ業務がルーチンワークである場合です。ファストフード店の現場スタッフや工場のライン工、一部の事務職員などが典型例でしょう。これらの業務は基本的に毎日同じ事の繰り返しなので、業務そのものの面白みがない、あるいは薄れている状態です。つまり、仕事そのものでモチベーションを喚起しづらい状態にあり、リーダーがそれを補うために裏方に徹して環境を整える必要があるのです(1)。
業務内容が明確、つまり「いちいち言われなくてもわかる状態」なので、指示型のように細かい指導を行うと余計なお世話と受け取られかねません。もちろんルーチンワークをこなせる能力のついていない新人は別ですが、ある程度の経験を重ねたメンバーには過度に口を出すべきではないでしょう。その意味で、メンバーの習熟度合いには常に気を配る必要があります。
参加型リーダーシップが効果的な状況
参加型ではメンバーから意見を求めることになります。したがって、このリーダーシップが効果的に機能するためにはメンバーが、
・業務への参加意欲と自立性が高いこと
・有効な意見を出せるだけの経験とスキルを有していること
この2つを満たしている必要があります。特に中堅からベテランのスタッフが当てはまるでしょう。新規プロジェクトの開発や日常業務の改善などを主導する際に、これらの要素を持つメンバーの意見に耳を傾けると、彼らのモチベーション向上につながります。
なお、参加型リーダーシップを使用するのは、課題解決に十分な時間がある時に限った方が無難です。即時的に対応を迫られる状況でメンバーの意見を伺ってはリーダーとしての信頼性を疑われるからです。
達成志向型リーダーシップが効果的な状況
達成志向型リーダーシップが有効に働くケースは、
・業務遂行の方法が不明確あるいは難題である
・メンバーが課題を達成できる能力を秘めている
・メンバーが業務遂行に対して意欲的かつ自立的である
この3つが条件となります。たとえば、能力が非常に高く意欲的なメンバーに新規事業の企画・開発を任せるような場面では達成志向型リーダーシップが有効に働くでしょう。リーダーは具体的な方策に関して口を出さず、過程や結果に対して率直に評価し、メンバーが成果を出すことに対しての期待感や目標を達成することの意義などを伝えるのみに留まります。
仮に意欲があっても、能力が不十分であれば達成志向型を用いるべきではないでしょう。目標を達成することが難しいからです。また、能力はあっても意欲に欠けるメンバーの場合、指示を出してくれないリーダーに不満を感じ、結果、動機づけには繋がらない可能性が高いです。
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まとめ 「パスゴール理論に学ぶ、メンバーの目標達成の助け方」リーダーシップ論
まったく同じ人間、まったく同じ状況が存在しない以上、それらに対応するためリーダーシップも常に変えていく必要があります。そして適切なリーダーシップを取るためには、職場やメンバーの現状を正確に把握することが必須条件です。
独りよがりにならず、個々のメンバーや職場の状況についてしっかり観察することが目標達成をもたらすリーダーシップの第一歩となるのではないでしょうか。
仕事や部下の状況に合わせて、リーダーは適切なパスを出せるようになりましょう。本記事で紹介したパスゴール理論を活用してみましょう。
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参照
[1]https://globis.jp/article/2237
[2]池田光編著「図解きほんからわかるリーダーシップ理論」イースト・プレス、2011年
[3]http://r-cube.ritsumei.ac.jp/repo/repository/rcube/1700/be414_03kokubo.pdf