優秀の若手社員の退職は、その場だけでなく中長期的にも、企業にとって痛手となります。
それも、突然であることが多いのが特徴です。
彼らはどのような理由で退職するのでしょう。
そして、デキる若者の退職を防止する方法はあるのでしょうか。
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目次
退職の決め手は「○○の欠如」
エン・ジャパンが1万人のユーザーを対象に行った「退職のきっかけ」についての実態調査[1]があります。
この中で、退職を考えたきっかけとして多いもの(複数回答可)としては、
第1位 やりがい、達成感を感じない(41%)
第2位 給与が低かった(41%)
第3位 企業の将来性の疑問を感じた(36%)
というものでした。
しかも、職場に退職理由を伝えるタイミングが急なのが特徴です。
転職経験者が退職理由を会社に伝えたタイミングは「退職を決意した時」というのが、若い世代ほど多くなっています。
その割合は、
20代 40%
30代 35%
40代 31%
という結果です。
さらに、退職理由を伝えるタイミングが「退職を決意したとき」「退職希望日の1ヶ月前」を合わせると、
20代では60%、30代で55%、40代で56%にのぼり、これは全体的に高い水準にあります。
唐突と言えるタイミングでの退職が多く、急な欠員だけでなく、引き継ぎが十分にできないといった事態が生じています。
また、企業がさらに頭を抱える点として、退職の意向を伝える相手が、
上司 65%
同僚 14%
先輩 8%
となっているのです。
上司ではなく、同僚や先輩に退職の意向を伝えており、それが間接的に上司の耳に入り「寝耳に水」で余計にバタバタする、ということもしばしばあるのです。
ただ、意外なことに、退職の意向を伝えるのが「転職先から内定を得たとき」というのは案外少なく、
20代 3%
30代 5%
40代 7%
となっています。
ただ、これは、次の就職先も決まらないまま「現状から逃げる」形で退職している可能性もあります。
また、表向きは円満退職のために「家族の事情」と伝えながらも、本当の内情は違うということも多々あるでしょう。
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「連鎖退職」の危険性
さて、優秀な若手が退職すると、その影響は実は一時的なものでは済みません。
「連鎖退職」の可能性があり、それが企業の傷口を広げてしまいます。
筆者がよく通っていたバーでは、20代の若いバーテンダーに店長を任せているのですが、歴代優秀な店長が多い店でもありました。
ただ、ある時から、一つの傾向が現れるようになり、オーナーが度々頭を抱えていました。
飲食店の場合、若い人であればあるほど、「独立して自分の店を持ちたい」という意欲があります。
ホテルなどで経験を積み、雇われ店長を経験し、独立していく、というパターンで、数年単位の店長交代がありました。
それは彼らにとってもステップアップですから、オーナーはそのことを常々承知しています。
ある時、これまでにない優秀な店長が現れました。
20代半ばですが、客から見ても、その優秀さがわかるほどでした。
その店長が、独立準備のために店を辞める、という話を聞きました。
もちろん、常連客の一人としては、その門出を祝いました。
しかし、事態は思っていた以上に深刻だったのです。
店長の退職と同時に、一緒にいたアルバイトも含めて従業員が一気に辞めてしまったのです。
流石にこの時はオーナーも、私の知る限りでは、見たことのない弱りようでした。
私を店外まで見送るふりをしながら、実は、常連の私を相手に弱音を吐きたかった、ということがしばしばありました。
飲食店、特にバーテンダーの世界は、「客は人についていく」という傾向があります。
長年の常連が多い店とはいえ、その店長や従業員たちの作る雰囲気が好きで集まった客は、彼の退職と同時に来店の頻度が減るため、店の雰囲気がガラリと変わってしまうのです。
しかも、例えば提供する料理もバーテンダーが仕込むため、店長が変わるごとにメニューが変わります。
同じ名前のものでも内容や味がガラリと変わり、「ああ、あのおつまみ、もうないのか」と、残念に思うことがありました。
当然、カクテルの味も変わります。
そこからは、オーナーにとってはこれまでにない試練になりました。
人材確保が間に合わず、「つなぎ店長」が店を任されて、客が増えるとオーナー自らがカウンターに立つ日もありました。
なんの引き継ぎもなく、勝手がいまいちわからないままに突然店に立たされた方にも戸惑いはあるでしょう。
店長だけが経験あるバーテンダーで、他は「普通の」学生アルバイトで補っていた時期もありました。
こうなると、客が増えると店長ひとりで一気に酒を作ることになり、ゆっくりとした接客ができなくなってしまうのです。
また、「普通の」アルバイトは、業界に執着がないため、自分の都合で辞めてしまいます。
このように、思わぬ影響が次から次と出てきたのです。
彼らの一斉退職は、
「この店長だから働きやすかった」というのが理由です。
店というより、「人」が作る環境の影響が大きいのです。
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若手が求める「やりがい」
「連鎖退職の一例」としてバーを挙げましたが、これは今や、特定の業界の話だけではありません。
現在の若手の転職のあり方として、2つのポイントが、このバーの話と一致します。
まず、ひとつ目として「人」の影響です。
リクルートキャリアの調査[2]を見てみましょう。
「転職先への入社を決める際に、誰から影響を受けたか」という質問(複数回答可)に対して「影響があった」「やや影響があった」と答えた人の割合は、
配属される職場の職場長責任者 44.9%
入社企業の人事 32.4%
友人・知人 27.4%
入社企業の経営者 23.9%
といった具合で、転職者は「会社」ではなく「人」についていくという傾向が明らかになっています。
もう一つは、何を「やりがい」と感じるかです。
こちらもリクルートキャリアの調査[3]ですが、「転職で実現したいこと」に関する項目について「あてはまる」「どちらかというとあてはまる」との回答が多かったのは上から順に、
仕事のやりがいを感じられる 95.1%
経験や能力が活かせる 91.6%
専門性やスキルの習得等、仕事を通じて成長できる 90.6%
であり、「年収が上がる」(78.4%)を上回っています。
これは、学習意欲の高さを反映したものと思われます。
バーテンダーが「雇われ店長」を脱し、次のステップを求めるのと同じです。
そして、「組織の中で立場を上げる」ことよりも、興味が湧いたものを学べる場所へ、そちらが面白いとなると学んだことを活かせる場所へ、という転職を繰り返していると考えられます。
それも、幅広い分野に関心を持ち、自分の興味やキャリア形成に役立つ最新のものに敏感です。
私も、件のバーで色々な若者と会話をする機会がありました。
彼らの話を聞いていると、チャレンジ精神が旺盛です。
最初の企業で身につけたことや合間を縫って勉強した経験を活かすために、早い段階で起業することが多いことに驚きました。
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まとめ 若手の退職を防ぐ方法
「終身雇用」という概念がない彼らは、「仕事中心」の生活を嫌います。
しかし、学べる場所や、それを実行に移せる場所があれば、仕事を「学びの場」として、生活の一部として、楽しんで続けます。
残業や長時間の拘束を嫌う理由のひとつは、ここにあります。
自分たちの学んだことやアイデアを真摯に受け止めてくれたり、実行する場所を提供してくれる場所となると最良の環境でしょう。可能であれば事業として許可してしまうのです。
新しいことを学んだからといって、本業にはなんの関係もない、的外れなことを言う社員だけではありません。
ここで思い出したいのは、カーネギーの言う「人に好かれる6原則」です。
1)誠実な関心を寄せる
2)笑顔を忘れない
3)名前を覚える
4)聞き手にまわる
5)関心のありかを見抜く
6)心からほめる
また、重要なのは、優秀な人材であっても、会社が彼らのレールを敷いてはいけないということです。
会社側が描く「彼ら像」を押し付けるのではなく、彼らが関心や興味から自由に描くレールの行き先を見守ることが重要です。
彼らの本業以外での学びから、会社にとっても成長のきっかけを掴める可能性があります。むしろそれを「楽しみだなあ」という心構えが上司には求められます。
だいたいにおいて、「デキる」人間は、「何をやらせてもデキる」ものです。彼らの求めるものを、まず「与え」、企業が彼らから学ぶという姿勢が必要です。
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参照
[1]「1万人が回答!「退職のきっかけ」実態調査―『エン転職』ユーザーアンケート―」(エン・ジャパン株式会社、2019年9月)
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2019/19432.html
[2]「リクルートエージェント 転職決定者アンケート集計結果」(株式会社リクルートキャリア、2018年6月)
https://www.recruitcareer.co.jp/news/20180626_01.pdf
[3] 「リクナビNEXT 登録者アンケート集計結果」(株式会社リクルートキャリア、2018年7月)
https://www.recruitcareer.co.jp/news/20180726.pdf