近年、「脱炭素社会」や「カーボンニュートラル」という言葉をよく聞くようになりました。
これからのビジネスにおいては避けては通れない問題でもあるため、正確に理解しておく必要があるでしょう。
本記事では、脱炭素社会に関する基本的な知識から、各国の目標や取り組み、日本の課題などを解説していきます。
目次
脱酸素社会・カーボンニュートラルとは?
2021年10月、イギリスのグラスゴーで国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開かれました。
そのなかで行われた首脳級会合では、日本の岸田総理が「2050年までのカーボンニュートラルを実現し、2030年度までに2013年度と比べて温室効果ガスを46%減らす」と宣言しました。
また、2020年10月には、当時の菅義偉首相が「2050年までに温室効果ガスのゼロにする」とも宣言し、脱炭素社会を目指すことを宣言しています。
このように、近年よく耳にするようになった「脱酸素社会」や「カーボンニュートラル」という言葉ですが、これらの言葉の意味をあなたは正確に理解しているでしょうか?
ここではまず、この2つの言葉について解説していきます。
脱炭素社会=温室効果ガス排出量をゼロにすること
まず「脱炭素社会」とは、地球温暖化を進めている二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする社会を指しています。
脱炭素という言葉からも二酸化炭素のイメージが強いかもしれませんが、温室効果ガスには下記のようなものがあります。
- 二酸化炭素
- フロンガス
- メタン
- 一酸化二窒素
なかでも問題視されているのが二酸化炭素です。
世界の平均気温を見ると1981年に比べて現在はおよそ0.95℃上がっているのですが、この上昇率と比例して地球上に存在する二酸化炭素濃度も上がっていることがわかっており、産業革命以前と比べておよそ40%も増えています。
このことから、地球温暖化に大きな影響を与える二酸化炭素をいかに減らすかが課題となっているのです。
また、二酸化炭素の排出を完全に無くすことはできないため、排出量を減らす努力をしつつ、出た二酸化炭素を回収し貯留することで「実質ゼロ」にすることを目指しています。
カーボンニュートラル=二酸化炭素の排出量と吸収量のバランスをとること
では一方で「カーボンニュートラル(Carbon neutral)」とはどのような意味なのでしょうか?
もともとは「植物や植物をもとにした燃料を使うことで二酸化炭素が排出されても、その植物が育つプロセスで二酸化炭素を吸収している。
ライフサイクル全体で考えると地球上の二酸化炭素濃度は上昇せず、二酸化炭素の排出量は実質ゼロとなる」という考え方を示していました。
しかし、近年では「二酸化炭素を増やしたり減らしたりしない性質」のことや、「二酸化炭素の排出量と吸収量が均衡している状態」を指すためにカーボンニュートラルという言葉が用いられるようになっています。
また、二酸化炭素の排出量を減らすことを目的とした再生可能エネルギーの活用や植林など、人の手による二酸化炭素削減の活動を指す場合もあります。
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近年のような盛り上がりや話題の広がりを見せる前から、地球温暖化を抑止するためにも脱炭素社会を目指す動きというのは存在していました。
代表的なものを挙げるなら、まず1992年に国連によって採択された「気候変動に関する国際連合枠組条約」が挙げられます。
京都議定書の採択
そして、この条約をもとに世界各国の代表者が集まり1997年に開かれた第3回気候変動枠組条約締約国会議では「京都議定書」が採択されました。これにより、温室効果ガスの排出量を減らす下記のような具体的な目標が決められたのです。
- 先進国全体で2008年から2012年の間に1990年の水準より5%削減する
- 目標削減率は日本が6%、アメリカが7%、EUが8%
一見、平等な数値のようにみえますが、実際は下記のような問題がありました。
- このとき既に日本は省エネルギーに注力して二酸化炭素排出を減らしていたため、他国に比べて削減コストが大きい
- 全世界のおよそ4分の1、先進国のおよそ4割の二酸化炭素排出量をアメリカが占めている
- 法的拘束力があるのは先進国だけ
したがって、京都議定書ではあまり効果がなかったと指摘されています。
パリ協定の採択
そこで、京都議定書の後継となったのが、2015年にフランスのパリで開かれた「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」で採択された「パリ協定」です。
パリ協定では下記の目標が定められました。
- 世界の平均気温上昇を1880年(産業革命以前)と比較して2℃~1.5℃に抑える努力をすること
- 21世紀後半には温室効果ガスの人為的な排出量を実質ゼロにすること
このパリ協定は2020年から本格的な運用がされるようになり、世界各国が2050年までにカーボンニュートラルを実現すると宣言し、脱炭素社会を目指す動きが活発化しています。
(参考:「京都議定書」とは│京都府)
(参考:地球温暖化対策に関する問題点と課題について│日本商工会議所)
(参考:2020年以降の枠組み:パリ協定│外務省)
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上記で、世界各国がカーボンニュートラルの実現を目指す理由が、京都議定書やパリ協定にあることがわかりました。
では、そもそもなぜ脱炭素社会を目指すのでしょうか? なぜそのような目標やルールをつくってまで、カーボンニュートラルを実現させたいのでしょうか?
その理由は、やはり地球温暖化にあります。
近年、世界のどこかで異常気象による水害や山火事、干ばつや熱波、豪雨など、100年に一度と呼ばれる規模の自然災害が頻繁に起こるようになりました。
これらの自然災害は地球温暖化が原因とされており、このまま進めば深刻な食糧不足や水不足、または予期せぬ出来事が起こることが予想されています。
これは決して他人事ではなく、日本においてもさまざまな影響を受けることが考えられており、人類のみならずすべての生物にとっても危機的な状況だと言えます。
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それでは、脱炭素社会やカーボンニュートラルの実現に向けて、世界各国はどのような目標を掲げているのでしょうか?
まずは日本から見ていきましょう。
日本の目標・方針
日本では、カーボンニュートラルの実現に向けて、政府が環境投資をする「グリーン社会の実現」という政策集を公開しています。
その内容は下記の通りです。
革新的なイノベーションの推進 | 2兆円の基金を創設し、次世代太陽電池、低コストの蓄電池、カーボンリサイクルなどイノベーションを目指す企業への支援をする。 |
エネルギー政策の推進 | 水素や洋上風力などの再生可能エネルギーを拡充し、送電線を増強する。デジタル技術によってダムの発電効率を高める。 |
脱炭素ライフサイクルへの転換 | 脱炭素社会に貢献する製品への買い替え・サービスの利用・ライフサイクルの選択など、地球温暖化対策となる選択をしていく取り組みを進める。 |
サステナブルファイナンスの推進 | 2050年カーボンニュートラルの実現のために、3,000兆円規模の内外の環境投資資金を呼び込む。 |
食品ロスの削減 | 食べられるのに捨てられる食品ロスの量を、2000年度と比較して2030年度に半分に減らし、国、地方公共団体、事業者、消費者などが連携し国民運動として取り組む。 |
(参考:グリーン社会の実現│首相官邸)
アメリカと中国の目標・方針
二酸化炭素排出量がトップレベルのアメリカ・中国は、以前まで地球温暖対策に積極的ではありませんでした。実際、トランプ大統領は2019年にパリ協定から離脱を表明しています。
しかし、バイデン大統領はアメリカをパリ協定へ復帰させ、2035年までに電力セクターで、そして2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにする目標を掲げています。
また、中国でも習近平国家主席が2020年9月に、「2060年までに実質ゼロを実現する」と表明しました。排出量が多いアメリカと中国がカーボンニュートラルへ舵を切ったことで、今後は更に脱炭素社会への動きが活発化することが予想されます。
イギリスの目標・方針
イギリスは2030年までに1990年と比較して68%の温室効果ガスの削減を、2050年までに80%の削減を目標としています。
また、ほぼすべての乗用車や小型トラックを、環境汚染や温室効果ガスを出さないエンジンやモーター、メカニズムのものに変えることや、森林面積を18万ha増加させることを目標としています。
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世界中で脱炭素社会やカーボンニュートラルを目指して新たな取り組みが行われています。
では、具体的にはどのような取り組みがあるのでしょうか?
ここでは、下記の3つを見ていきましょう。
- グリーンイノベーションの創発
- エネルギー源の変更・見直し
- ライフスタイルの変更・見直し
それでは1つずつ解説していきます。
グリーンイノベーションの創発
上記で解説した「グリーン社会の実現」にも「革新的なイノベーションの推進」が脱炭素社会への取り組みとして挙げられています。
例えば、近年ではガソリンで走る自動車から電気で走る自動車「EV」への転換が加速しています。
ガソリン車の排気ガスには温室効果ガスが含まれていますが、電気自動車では排気ガスがでません。EVはまだ技術発展の途中でもあるため、現在、世界中で開発が進んでいます。
しかし、ただガソリン車を電気自動車に替えるだけでは、根本的な地球温暖化対策にはなりません。なぜなら、電気自動車を製造する際や電気自動車のエネルギー源である電気を生み出す際に、多量の二酸化炭素を排出するからです。
したがって、このような問題を1つずつクリアしていけるようなイノベーションを、効率的に創出していく必要があります。
こうした社会の持続的な発展や地球温暖化の抑止につながるイノベーションは「グリーンイノベーション」と呼ばれています。
エネルギー源の変更・見直し
カーボンニュートラルにおいて避けては通れないのが「エネルギー源の変更・見直し」です。
日本では2019年度時点で、化石燃料を用いた火力発電が75.7%を占めていますが、温室効果ガスの排出を減らすためにも、再生可能エネルギーを増やしていくことが避けられません。
日本はエネルギー資源が少なく、化石燃料を輸入でまかなっている状況ですが、国内でもエネルギー源に関して、カーボンニュートラルを目指す動きが活発化しています。
例えば、バイオディーゼル燃料は日本でも開発や普及が進んでおり、熊本県の企業は家庭から出る使用済みの油を集めて、環境負荷が少ないバイオディーゼル燃料を作っています。
また、鉄鋼をつくる際には製鉄をするために熱が必要になりますが、このとき、石炭ではなく水素を用いることで製造過程で二酸化炭素が排出されない「ゼロカーボン・スチール」の開発も進んでいます。
ライフスタイルの変更・見直し
脱炭素社会に向けた活動は、なにも国や企業だけができることではありません。私たち一人ひとりのライフサイクルを見直し、変えていくことも重要です。実際、家庭から出る二酸化炭素も今より40%減らす必要があるとされています。
そのために私たちができることには、下記のようなものが挙げられるでしょう。
「食」に関すること | ・食べられるのに捨てられる「食品ロス」を減らす ・牛や豚などの肉をあまり食べない食生活 |
「住まい」に関すること | ・断熱性の高い家にする ・ZEH(ゼッチ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)への住み替え ・省エネルギーに特化した家電の使用 |
「移動」に関すること | ・電車やバスなどを使い、車は極力使わない ・エコカーやカーシェアリングの利用 ・出社せずに家で仕事をするテレワークの推進 |
脱炭素社会を目指すうえでの日本の課題
世界各国で脱炭素社会を目指す動きが加速し、日本においても「2050年カーボンニュートラル」を宣言しています。
しかし、下記のような課題もあるため、実現は容易ではありません。
- 二酸化炭素排出量が多い化石燃料がエネルギー源の8割以上を占めている
- 鉄鋼業による二酸化炭素排出
それでは1つずつ解説していきます。
8割を占める化石燃料
上記でも解説しましたが、日本のエネルギー産業は二酸化炭素排出量が多い化石燃料が8割以上を占めています。
そこで再生可能エネルギーを増やそうとしていますが、さまざまな問題や課題があり普及には至っていません。
鉄鋼業による二酸化炭素排出
日本において鉄鋼業は二酸化炭素排出量の1割を占めています。
製鉄の際にエネルギーが大量に必要になるため、二酸化炭素排出が増えてしまいます。
まとめ
ここまで、脱炭素に関してその概要や注目されている理由、目的などを解説しました。
社会の発展は産業や技術の発展とともにあり、それと同時に温室効果ガスの増加をはじめとする環境破壊にも大きな影響を与えてきました。
持続可能な社会のためにも、脱炭素を目指すことは必要不可欠です。企業として意識していくのはもちろん、個人の日々に暮らしの中でも取り入れていけるとよいでしょう。
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