昨今、著しいテクノロジーの進歩により、次から次へと新たな技術やサービスが実用化されています。それら最先端のテクノロジーについて理解していなければ、あっという間に時代に取り残されてしまうでしょう。
そうした現代社会において話題になっているのが「シンギュラリティ」です。
この記事を読むことで、
- シンギュラリティの意味がわかる
- シンギュラリティで起こる変化がわかる
- シンギュラリティがいつ起こるのかがわかる
ようになります。シンギュラリティはあなたが思っているよりも早く起きるかもしれません。ぜひ、シンギュラリティについて理解しておくことで、ビジネスへの対応の参考にしてみてください。
目次
シンギュラリティ(技術的特異点)とは何か?

シンギュラリティ(Singularity)とは、人工知能が人間の知能を超える時点や、それにより起こる社会や生活の変化を示す概念を指しています。
シンギュラリティは「特異点」という意味の英単語で、もともとは数学や物理などで主に用いられていました。ブラックホールも特異点の1つとされていますが、この記事で言及するシンギュラリティはテクノロジーが進歩し、人類の生活が一変する「技術的特異点」と呼ばれているものです。
シンギュラリティの概念はアメリカの数学者、ヴァーナー・ヴィンジ氏が広めたのをはじめとし、人工知能研究の世界的権威でもあるレイ・カーツワイル博士も2005年にシンギュラリティを提唱しています。日本では、2016年にソフトバンクの孫正義氏も言及しており、年々注目が集まっています。
カーツワイル氏はシンギュラリティが起こるのは2045年だとしており、その頃には人類の脳よりもAIの知能が勝っているとしています。これにより、人類しかできなかったことのほとんどがロボットや人工知能が行うようになり、人類のライフスタイルや社会は大きく変化するでしょう。
しかし、シンギュラリティによる影響は良いものばかりではなく、人類にとって驚異となりうる可能性もあると指摘されています。今、テクノロジーや技術は指数関数的な進歩を遂げており、シンギュラリティが起きたときには人類が制御できなくなるかもしれないのです。
今のところ、テクノロジーが進歩するスピードが遅くなることは考えられないため、将来的には医療や金融、情報通信、軍事にも応用されることが予想されています。そのとき、人間の知能を上回るAIをどのようにコントロールし、人々の幸福のためにどう利用するのかということを、今から議論していかなければなりません。
2045年説!?シンギュラリティはいつ起こる?

シンギュラリティはいつ起こるのでしょうか?
先程触れたとおり、シンギュラリティを広めた人工知能研究の第一人者、レイ・カーツワイル氏は「2029年には人工知能が人間と同等の知能になり、2045年にシンギュラリティが起こるだろう」としています。
さらに2030年代には、人間は常にクラウドと接続され、写真などを脳に直接送信できるようになり、記憶や思考のバックアップも可能になると予想しています。
なぜ、このようなことが可能になるのでしょうか? それは、人工知能が人間より賢くなることで、さらに優れた人工知能を開発できるようになるからです。その結果、人間は自分で何かを生み出したり開発したりする必要がなくなるとされています。これにより「人工知能が人類最後の発明」と言われているほどです。
2045年説以外の説も提唱されている
シンギュラリティが起こる時期は2045年以外にも、いくつか提唱されています。例えば2030年までには起こるとする説や、2040年とする説もあります。
2040年説を提唱しているのは、スチュアート・アームストロング氏で「人工知能は常に最良の振る舞いをするわけではない」と発言しており、人工知能が暴走したときに備えて緊急停止ボタンの必要性を主張しています。
2030年説を提唱しているのは、スーパーコンピューターを開発している齊藤元章氏や、神戸大学名誉教授の松田卓也氏です。彼らは2030年頃には、シンギュラリティの前のステップとされる「プレ・シンギュラリティ」が生じると考えています。
実際、レイ・カーツワイル氏が、「人類より優れた人工知能ができる」と予想しているのも2029年頃です。そして、その人工知能が自分よりも賢い人工知能を生み出すと予想されているのが2045年なのです。
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シンギュラリティによる社会への影響

シンギュラリティが起こると人類の生活や社会に大きな変化が生じるとされています。その具体的な変化が下記の3つです。
- 職業の代替による失業や新たな職業の創出
- ベーシックインカムの導入
- 臓器の代替や人体の改造
職業の代替による失業や新たな職業の創出
シンギュラリティで起きる変化の代表的な例が、人工知能に仕事が代替されることによる失業です。
実際、野村総合研究所がイギリスのオックスフォード大学、マイケル・オズボーン准教授との共同研究により、日本国内の600種類以上の職業についてロボットや人工知能に代替される確率を試算しています。
この研究の結果、2025年から2035年の間に、日本の労働人口のおよそ49%が就く職業が技術的には代替ができることが予想されているのです。この研究結果により、シンギュラリティで多くの失業者がでる可能性があると注目されました。
また、研究では芸術や考古学、哲学、神学など抽象的な概念を扱う学問や職業、または人の理解や説得、サービスなどが必要な職業は人工知能による代替は難しいことがわかっています。しかしその一方で、特別な知識やスキルが必要ない職業などについては、人工知能による代替がされやすいこともわかりました。
具体的には、下記のような職業は人工知能やロボットに代替されてなくなるとされています。
- 事務員
- 料理人
- ネイリスト
- スポーツの審判
- コンビニやカフェの従業員
- タクシーやトラックのドライバー
しかし、その一方で人工知能にはできない、人間だけの感性に頼った新たな職業が生まれる可能性もあります。シンギュラリティ後の人類には、人間よりも優れた知能をもつAIには生み出せない、独自の価値を提供するスキルが求められるでしょう。
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(参考:日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に│野村総合研究所)
ベーシックインカムの導入
続いての変化は、社会制度の変化です。
シンギュラリティにより多くの職業が失われるということは、人工知能が人間の仕事を代わりにやってくれるということでもあります。つまり、人類の多くは労働から解放される可能性があるのです。
その時、ベーシックインカムの導入が進むと考えられています。ベーシックインカムとは、すべての国民に無条件で一定の所得の支給をする制度のことです。
ベーシックインカムには下記のようなメリットがあります。
- 貧困問題や格差の解決
- 生活保護のような制度の管理コストの削減
- 多様性の維持・発展への貢献
しかし、労働意欲が低下するリスクや、その財源の確保といった課題もあり、容易に実現できる政策ではありません。
臓器の代替や人体の改造
シンギュラリティによって、私達の身体が大きく変わる可能性もあります。
具体的には、病気で使えなくなった臓器を人工臓器に入れ替えられるようになったり、脳がインターネットと接続できるようになるなどです。
不可能かと感じる方もいるかもしれませんが、すでに手にマイクロチップを埋め込む人が出てきたり、脳波で義手を動かすテクノロジーなどが実用化されつつあります。
発達した人工知能により、人間の脳や臓器の仕組みや働きを全て解明することができれば、さらに複雑な技術も実現できるでしょう。その結果、今では技術的に代替が不可能な臓器でも代替が可能になるはずです。
これにより、人間の身体や臓器は使えなくなったらその都度、付け替えていくようになり、最終的には不老不死になることも考えられています。今、社会問題になっている認知症でも、脳が健康なうちにデジタルコピーをしておくことで、健全なままの人格をデータとして保存できる時代がくるかもしれません。
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2030年に起きるプレ・シンギュラリティは

カーツワイル氏は2045年にシンギュラリティが起きるとしていますが、その前段階として社会が大きく変化することが予測されています。その社会の変化というのが、スーパーコンピューターの開発者であり、人工知能研究者でもある齊藤元章氏が提唱する「プレ・シンギュラリティ」です。
人類の能力よりAIという技術が上回るシンギュラリティは「技術的特異点」と呼ばれていますが、社会の仕組みが大きく変わる点を指すプレ・シンギュラリティは「社会的特異点」と呼ばれています。
プレ・シンギュラリティでは下記のような変化が起こるとされています。
経済や社会の変化
- 人類が働く必要のない社会になる
- お金がなくなり、生活に必要なものは無料で得られる
- エネルギー問題が解決され、無償提供される
- 戦争が起きなくなる(起こせないようになる)
人間の変化
- 人間の体内に細菌よりも小さいナノボットを入れて健康管理をする
- 仮想現実世界での生活が中心になる
- 人間が不老になり、若返りも可能になる
- 働く必要がなくなり、好きなことを自由にできる
おそらく、多くの人が不可能だと感じるのではないでしょうか?
しかし現在、すでにスーパーコンピューターの処理能力は飛躍的に高まっており、そこに人工知能が加わることで、革新的な技術開発が可能になるのです。その結果、2030年ごろには上記のような変化が生じ、プレ・シンギュラリティが起きるとされています。
例えば、日本のスーパーコンピューター「京」の計算能力は10ペタフロップスです。これは、70億人いる全人類が電卓を用いて、17日間、24時間計算し続けたとしても、京ならこれを1秒で済ませてしまうほどです。
このように、単純な計算能力だけでいえば人間を遥かに凌駕するスーパーコンピューターに人工知能が加わることで、我々の想像を絶するレベルの進化を実現できると考えられています。
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本当にシンギュラリティは実現する? しない?

ここまで、シンギュラリティによる社会の変化を見てきましたが、現時点ではおよそ実現するとは思えないことばかりです。そこで、シンギュラリティが実現する要因として挙げられている2つの法則を解説します。
- ムーアの法則
- 収穫加速の法則
それでは1つずつ解説します。
ムーアの法則
ムーアの法則とは、アメリカの物理学者で、半導体メーカー「インテル」の設立者でもあるゴードン・ムーア氏が提唱した法則です。法則の内容は「半導体回路の集積密度は1年半から2年で2倍になる」というもの。
この法則が正しいと仮定すると、半導体の処理能力は指数関数的に上昇し続けて、近い将来、人工知能が人類の能力を圧倒する時代が来ることはほぼ確実ということになります。
しかし実際、半導体の集積密度の向上は、その微細加工技術に依存しているため、現実的にはある程度限界があると言われています。ただ、ムーアの法則は半導体だけに適用されるものではなく、テクノロジー全般についても適用しようとする動きがあります。
この考え方を支持した一人が、カーツワイル氏です。彼はムーアの法則の適用範囲を広めて、あらゆる進化プロセスに当てはめました。その結果、新たに生まれたのが「収穫加速の法則」です。
収穫加速の法則
収穫加速の法則とは、カーツワイル氏が提唱した法則です。その内容は、新たな発明は他の発明とつながり、次に生まれる重要な発明の助けとなることで、その創造スピードが加速するというもの。
つまり、あるイノベーションにより、次のイノベーションが起きるまでの期間が短縮され、それが連続することでテクノロジーは直線ではなく指数関数的に発達していくという法則です。
この収穫加速の延長線上にシンギュラリティが起こるとしています。
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まとめ シンギュラリティに備えることが大切

シンギュラリティによる変化を聞くと、本当に起こるとも思えないようなことばかりですが、今から20年前、10年前のことを思い出してみてください。現在とはまるで違う世界だったはずです。
そう考えると、今から10年後、20年後もまた現在とはまるで異なる、想像もつかないような世界になっているでしょう。テクノロジーや社会は常に進化しており、たった10年ほどで世界が変わることは当然のことなのです。
重要なことは、ただ世界の変化を甘んじて受け入れるだけではなく、その変化に適応していくことです。シンギュラリティやプレ・シンギュラリティが起これば、今当たり前のように行っていることや価値観は、劇的に変化するでしょう。
そのような激しい変化が起きてからビジネスを考えていては、時代に取り残されてしまいます。
だからこそテクノロジーの進歩に合わせて、クラウドやIoT、ビッグデータの活用など、テクノロジーを使って今から変化に適応していくことが重要です。そこから、新たなイノベーションを生み出せるはずです。
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