2008年のリーマンショック以降、世界経済はニューノーマル(新常態)だと考えられています。実際、経済は長期停滞し、不確実性が増しており、現在の消費者価値は2000年代初頭と比較して変化しています。
企業には、時代の変化に応じてさまざまな経営課題が生じるため、今回は現在取り組むべき経営課題にどのようなものがあるか、10個の例を挙げて解説します。さらに、経営課題が生じる原因や背景、経営課題を考える前提についてもまとめていますので、記事を通じて経営課題の再発見にお役立てください。
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目次
経営課題が生じる原因と背景
経営課題が生じる原因は、大きく分けて下記の3つです。
- 不確実性の増加
- 働き方改革
- 消費者価値の変化
それでは1つずつ解説していきます。
不確実性の増加
現代は不確実性の時代と言われています。
一般社団法人日本能率協会が発表した資料によれば、経営課題として最も多いものは2年連続で「収益性向上」でした。さらに「自社の主要事業の5年後について、見通しがつかない」と回答した企業が7割に上りました。このように、多くの日本企業が経営環境を取り巻く不確実性を不安視しています。
不確実性の増加は2008年のリーマンショックで始まりました。リーマンショック後に世界経済は、長期停滞に入り「ニューノーマル」と呼ばれるようになります。ニューノーマルとは直訳すると「新常態」となり、「今まで異状だったことが通常になる事態」のことです。
働き方改革
経営課題が生じる2つ目の原因は、働き方改革による環境の変化です。
働き方改革は2018年に成立し、2019年から順次施行されており、長時間労働の是正や副業解禁などさまざまな変化がありました。これらの変化に対応するため、企業は従業員のニーズに合った職場環境を構築することが求められます。
さらに、日本能率協会が発表した資料によれば、3年後の課題として最も多いものは「人材の強化」で、これは現在も上位に入っています。また、「質的人材の不足」を挙げている企業は7割に及び、企業は常に優秀な人材の獲得や強化を目指していることがわかります。
消費者価値の変化
消費者価値の変化も経営課題を生み出す大きな原因の1つです。
2000年代と2010年代では消費者の価値観に大きな変化が生じています。安価で経済的な商品を好む傾向が減少し、ライフスタイルや価値観を重視した消費を好む傾向が高まっています。そのため、企業は消費者の多種多様な価値観やニーズに応じた商品を提供することが求められているのです。
さらに、インターネットの普及も消費者の価値観に影響を与えています。インターネットやスマートフォンの普及により、消費者は瞬時に必要な情報を探すことができるようになりました。これにより消費者は、ブランドや広告イメージではなく、より合理的に商品を選択するようになったのです。
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経営課題を考える前提
経営課題に取り組む前に、抑えておくべき3つのポイントについて解説していきます。
収益力の向上は経営課題?
「収益性の向上」は資本主義社会における企業のミッションであり、経営課題ではなく目的そのものだとする意見があります。
しかし、日本能率協会によれば現在または3年後の経営課題として「収益性向上」を挙げる経営者が数多く存在し、「現在の課題」では45%の経営者が収益性向上を挙げています。収益性の向上は毎年の調査で必ず上位に食い込んでおり、多くの経営者が関心を寄せる経営課題です。
このように、多くの経営者がが経営課題に挙げているので、収益性の向上は経営課題として考えて問題ありません。
独自性の追求はいいこと?
経営課題の解決策を考える際は、独自性にこだわるよりも「経営課題が解決されること」にフォーカスするべきですが、独自の解決策にこだわる企業も存在します。
しかし、経営課題は解決さえできれば良いので、解決方法やその手段については独自性・独創性は求められていません。独自性や独創性にこだわるあまり、普遍的な解決方法を見逃さないようにしましょう。
経営課題には選択と集中が必要
企業が持つ経営資源は限られているため、経営課題に取り組む際には「選択と集中」を行うべきです。
しかし、多くの企業は経営課題をひたすら列挙しようとします。
シェア拡大、製造コストの削減、間接部門の生産性向上、事業構造の再編、人事制度の刷新など例を挙げればきりがありません。したがって、経営課題に取り組む際は、課題を確実に解決するためにも、経営資源を有効かつ集中的に投下しましょう。経営資源が分散してしまうとどの経営課題の解決も中途半端になり、どれも解決できなくなってしまうかもしれません。
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経営課題の見つけ方
経営課題の見つけ方には下記の3つがあります。
- 見える化
- 戦略マップの活用
- 経営課題の発見能力育成
それでは1つずつ解説していきます。
「見える化」して見つけよう
経営課題を発見するためには「見える化」がもっとも近道となり、直感的、かつシンプルでわかりやすい状態にすることが重要です。見える化には以下のような目的があります。
- 個人の暗黙知を組織に共有する
- 個人の成果を見える化して現状を把握
- 業務プロセスを見える化して無駄を改善
- 顧客を見える化して売り上げをアップ
- 企業方針を見える化して組織を強化
見える化は主にグラフや図表を用いて、視覚的にわかりやすくするため、数値化、具体化が必要です。可視化することで、問題点に気がつきやすくなることや、全員に共有しやすくなる利点があります。
主に、下記の4つの要素を見える化すると効果的です。
- 経営資金
- 社員の成績
- 組織状況
- 業務フロー
それでは1つずつ解説していきます。
経営資金
お金の流れは、もっとも雄弁に企業の状態や課題を示します。
複雑なお金の流れや、企業内の財務状況を見える化することによって、売り上げや利益、一般管理費などのコスト面を詳細に把握・検討できます。コストがかかっている箇所や、その量、売り上げの発生源などの経営資金に関する項目を数値化することが重要です。これにより、経営状態を把握し、経営課題だけでなく自社の強みを発見できます。
また、黒字企業でも黒字倒産の危機に陥る可能性があるため、経営資金の見える化によって自社の状態をしっかりと把握しておきましょう。
社員の成績
社員の成績を見える化することで、活躍する社員と生産性が下がっている社員が明確になります。社員の成績が明確になれば、正当な評価を下せるようになることや、育成面での課題解決に役立つことがあります。どのチームやどの部署のマネジメントがスムーズか、明らかになるので、状況によって人員配置や組織図を変更するときの判断材料として有効です。
また、社員の成績を見える化する際は、できる限り定量化しましょう。公平で公正な判断が社員のモチベーションをアップさせます。
組織状況
組織内の状況を見える化すると、人員配置に、無駄や能力の偏りによる経営課題を見つけられます。従業員数の多い大企業では組織図を作成しているケースが多いですが、中小企業や従業員数の少ない企業は組織図を作っておらず、組織状況を把握できていないことがあります。
組織状況を把握するには、アンケートを含めた調査が有効です。たとえば、女性のキャリア形成の度合いや阻害要因を調査すれば、組織状況を把握して女性が活躍するための経営課題を見つけることができます。組織状況を調査するときは「得たい成果」と「目指す組織状態」をまずは具体化しておきましょう。
業務フロー
既存事業を継続する多くの企業では、過去の業務フローが定着してルーチン化しているため、習慣や不文律によって動いている部分が多く、複雑化しています。これらの業務フローを見える化することで業務効率の改善、社員育成、経営課題の発見に役立てることが可能です。
業務フローを見える化すると、新たな人材を採用したとき、教育コストを下げる効果も期待できます。したがって、業務フローを見える化し、職場全体で課題に取り組む環境を築くことが求められます。
戦略マップを活用
2つ目の経営課題の見つけ方は、目標とビジョンを実現するためのシナリオである「戦略マップ」の活用です。
戦略マップは、目標やビジョンを達成するために落とし込まれた、経営課題の因果関係や関連を図式化したものです。
戦略マップを活用する際は、バランススコアカードに「財務」「顧客」「業務プロセス」「学習と成長」の4つの視点で課題や施策を記します。この4つの視点で見つけだされた経営課題を改善することで、目標やビジョンの実現に役立ちます。シナリオが図式化されるので「どの経営課題をいつまでに達成すればいいのか」や「次の経営課題が何か」を段階的に組み立てられるのです。
課題発見能力の育成
経営課題を見つける3つ目の方法は、課題発見能力の育成です。
そもそも、経営課題が顕在化していれば既に何らかの対策が打たれているか、既に解決しているはずなので、潜在的な経営課題の発見が重要になります。したがって、大切になるのが経営課題の発見能力です。優れた経営者は、現場や組織が持つ問題点を経営課題と結びつけ、解決策を模索します。
経営課題の発見能力を育成するには環境が重要です。経営課題を発見して柔軟に議論できる環境が求められますし、課題を発見するための見える化も必須となります。このため、経営課題発見能力が育成されていれば、組織は自律的に発展していくでしょう。
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企業が抱える経営課題10選
企業が抱える経営課題が下記の10個です。
- 人材確保
- 人材育成
- 生産性向上
- 技術力・開発力強化
- ブランド力の向上
- 顧客満足度の向上
- コスト改善
- 営業力や販売力の強化
- 物流の効率化
- 事業基盤の再編
これら10個の経営課題は多くの企業で見られるものばかりなので、どのような課題があるのか要点を押さえておきましょう。
人材確保
人材は人財と書くこともある通り、財産であるため、人材の確保は企業にとってもっとも大切なことです。現代の少子高齢化が進んだ日本において、働き手の確保は年々ハードルが上がっています。人手不足解消にシニア世代や子育て世代の女性、外国人労働者の活用をしていかなければなりません。
新規人材の確保が難しい場合、雇用環境の改善により離職率を下げて、人材の流出を防ぐことが求められます。ワークライフバランスの見直しや週休3日制、経営理念の従業員との共有などを検討しましょう。
人材育成
人材育成においては下記のような課題が考えられます。
- 人材育成のための企業風土がない
- 明確な目標が設定されていない
- 研修を軽視しがち
- 人材育成の成果が評価されない
また、有望な人材を確保したとしても、自社に育成能力がなければ人も会社も成長しません。さらに、従業員が「将来のキャリアプランを描けない」と感じると、離職の可能性が高くなります。したがって、離職率の高い企業は人材育成の仕組み作りが急務です。
生産性向上
日本の労働生産性は、海外の先進国と比べて低く、日本企業にとって生産性の向上は大きな経営課題です。生産性は「生産性=アウトプット÷インプット」で求められますが、日本では効率化、合理化というインプットを少なくすることばかりが注目されがちです。。しかし、アウトプットを大きくすることでも生産性は向上します。
生産性向上のためには社員のスキルアップ、業務フローの改善、製造コストの削減、研究開発によるイノベーションなどさまざまな施策が考えられます。
技術力・開発力強化
シェア争いで他の企業との競争から1歩抜きん出るため、技術力・開発力を強化することは必須です。しかし、技術力や開発力の強化には人材と予算が欠かせません。したがって、人材の育成や人材の確保に経営資源を投入しましょう。さらに、技術力や開発力は一朝一夕には育たないので、辛抱強く育成する必要があります。
また、技術力や開発力は多くのノウハウに支えられているため、一旦、研究開発を中断してしまうとノウハウの継承が損なわれ、二度と元に戻らない危険性があります。このため、技術力や開発力の向上を図る際は、持続的に資源を投入し続けなければなりません。
ブランド力の向上
自社のブランド力を向上させることができれば、売り上げアップや収益向上が見込めます。ブランド力とは、商品やサービスを認識するための名称やロゴが持つ価値のことです。
たとえば、初めて手に取る商品でも、既知のブランドであればそれだけで安心感や信頼感を感じるられるように、ブランドは消費者に一定のイメージや影響を与えます。しかし、ブランド力の強化には高い技術力や開発力、自社製品のブランディング戦略など多くの要素が求められるため、一朝一夕では実現できません。
顧客満足度の向上
顧客を満足させるためのポイントは下記の3つです。
- やるべきことをやる
- 顧客のニーズや心情を調査から読み取る
- 顧客満足度の定義について共有する
簡単に言うと、顧客満足度を高めるには、顧客の期待値を超えることが必要です。顧客の期待値を超えるには顧客が期待する「当たり前のこと」を当たり前にしなければなりません。そして、、調査によって潜在的なニーズを読み取り、得られた結果を企業全体で共有することが求められます。
コスト改善
粗利は「売り上げ-原価」で求められます。収益性向上を目指すなら売り上げをアップさせるか、コストを削減するしか解決方法はありません。コストが削減できれば生産性が向上し、業績に好影響を及ぼすため、多くの企業がコストの改善に意欲的です。
コストを改善するためにはまず、どのようなコストがかかっているのか見える化しましょう。その上で削減できる箇所を発見して対処します。最近ではテレワークによるコスト削減効果が取り沙汰されており、テレワークのような新しい取り組みについても検討が必要になるでしょう。
営業力や販売力の強化
営業拠点や販売網は、シェア獲得の基盤です。営業力や販売力の強化は下記の3つの観点から取り組みましょう。
- 量的拡大
- 質的向上
- サポート体制
「量的拡大」とは、販売エリアの拡大や新規出店、営業パーソンの増員です。販売店舗数を増やすことは即、シェア拡大につながります。
次に、「質的向上」とは、1店舗あたりや販売スタッフ1人あたりの売上高アップです。営業では成績上位者の行動様式共有やチーム営業の促進が求められます。
そして、「サポート体制」は、営業スタッフが営業に専念できる環境作りです。こういった3つの側面から営業力と販売力を強化しましょう。
物流の効率化
物流の効率化もコスト改善に役立ちます。物流倉庫における入出庫作業の効率化や配送の迅速化をしていきましょう。さらに、最近では商品開発から生産、プロモーション、物流、販売までを一連の工程と見なしてパフォーマンスを最適化します。
これはSCM(サプライチェーンマネジメント)と呼ばれている手法です。
事業基盤の再編
グローバル競争が激しくなり、従来の事業基盤そのものが陳腐化するケースが目立ちます。したがって、事業基盤を大胆に見直し、ポートフォリオを組み直すことが求められます。
たとえば、アメリカに本拠地を置くウォルマートは、傘下の西友グループを売却しました。これは、日本市場からの撤退を視野に入れたものです。このように、競争や変化が激しい分野において、事業基盤そのものを見直すケースは決して珍しくありません。
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経営課題を解決する取り組み
経営課題に対する取り組み例を3つ紹介します。経営課題の解決方法はいくつものアプローチがあり、決して1つだけではありません。その中で自社にもっとも適切な解決方法を見つけだしましょう。
経営計画を立てて生産性向上
生産性を上げる方法の1つは、経営計画を作成することです。経営計画とは、自社が理想とするビジョンを実現させるための具体的な計画です。
経営計画には下記のような3つの効果があります。
- 社長やリーダーの質が高められること
- 会社が目的に向かって成長すること
- 会社に自動成長装置を埋め込めること
この3つの効果により生産性が向上し、強い経営基盤ができあがります。
評価プロセスの見直しで人材育成促進
人材育成の経営課題を解決するために、人事評価制度を見直すことも選択肢の1つです。人事評価制度の見直しは制度設計そのものの見直しと、評価プロセスの見直しという2つのポイントがあります。
評価プロセスには課題の明確化が必要不可欠です。どのような課題をクリアするか、事前にしっかりと設定しましょう。課題を共有することで人材の成長を促せます。
モバイルワークによる収益性向上
収益性向上を経営課題とする企業は、収益性が向上しない要因として、営業力や販売力の問題を抱えています。したがって、営業スタッフの生産性向上のためにサポート体制をしっかりと構築しましょう。その方法としては、営業以外の業務負担を軽減するモバイルワークが有効です。
ノートパソコンだけでなくスマートフォンやタブレットを活用して、報告業務の効率化を図り、情報共有を進めましょう。
質と量の両面から売り上げ・シェア拡大を達成
シェア拡大を目指すには、質と量の2つの観点から考える必要があります。
量による解決策は、販売店舗を増やすことや、営業スタッフを増員することです。マンパワーを高めることでシェアを拡大を目指します。
一方、質によるシェア拡大は1拠点あたり、1人あたりの売上高を向上させることです。たとえば、ベストプラクティス(成績優秀者の行動様式)を他の営業スタッフと共有させることや、生産性が高いチームがしている取り組みの見える化などを実施しましょう。
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まとめ 経営課題について
現代は不確実性が増し、消費者価値の変化が生じています。さらに、働き方改革で労働者の意識も変わってきました。そのような時代では、今までにないような多くの経営課題が発生します。経営課題を考える際は、経営資源が有限であることを忘れず、選択と集中によって経営課題に対処しましょう。
また、企業にとって一般的な経営課題を10個挙げました。代表的な経営課題を通じて自社を見直し、自社の経営課題を見つけだして対処することで、変化の激しい時代を乗り越えましょう。
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