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「仕事が好きではなく」「職場はたのしくない」という人物であっても、成果をあげてもらうことはできる。

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社員に好かれたい社長の話

社員のモチベーションをどうやって上げるか、日々苦労している経営者、管理職は多い。

 

例えば以前、「社員がもう少し成果に対して意欲的にうごいてくれればねぇ」と悩む経営者にお会いした。

そのため彼は、月一回の社内交流会、要は飲み会を設け、その場で「エース社員」に仕事の楽しさを語ってもらおうと画策しているそうだ。

「そうして、社内の雰囲気が良くなればいいと思っているだけどね。」

と、経営者は言う。

 

ところが、一人の部下が反対した。

「社長がどうしても、というならやりますが、気乗りしません。」

経営者は怪訝な顔をした。

「なぜ?」

彼は言った。

「飲み会が嫌いな人も多いです。また、飲みは好きな人でもわざわざ「仕事を好きになれ」と説教されにいくのは嫌でしょう。」

「そういう社員の態度が、私は嫌なんだが、なんとか直す方法はないかね。」

「人が何をどう思うかは、こちらが決められません。」

 

確かに、こう言うワンマンで長くやってきた組織の経営者は全能感を持っていることも多く、「人の心」を望む方向に仕向けることができると思っている人も多いのだ。

さらに悪いことに「社員に好かれたい」と思う社長は、よけいに「雰囲気を良くする」ことに熱心なので、社員に「好かれたい」という弱みを見透かされていることにも気づかない。

 

こうして、小さなほころびが徐々に大きなほころびに至り、会社は崩壊していく。

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社員のモチベーションはコントロールできない

経営者は、社員のモチベーションを気にする必要はまったくない。

というと聞こえは悪いが、要するに他人の心を操作しようという試みは、無駄だということだ。

 

どうせやれないことは、最初からやらないほうがいい。

もとインテルのCEOである、アンドリュー・グローブはそのことを明確に述べている。

マネジャーはどうやって部下にやる気を起こさせるか。
一般的に、このことばには、何かを他人にさせるというような含みがある。だが、私にはそういうことができるとは思えない。
モチベーションなるものは人間の内部から発するものだからである。

 

したがって、マネジャーにできることは、もともと動機づけのある人が活躍できる環境をつくることだけとなる。
より良いモチベーションというのはとりも直さず業績が良くなることであって態度や気持ちの変化ではないのであり、部下が「自分はやる気が起きた」などということにはなんの意味もない。

大切なのは、環境が変わったために〝業績(遂行行動)〟が良くなるか悪くなるかである。

引用:ハイ・アウトプット・マネジメント アンドリュー・グローブ 日経BP社

そもそも「モチベーション」という言葉がビジネスの現場で多用されるのは、心理学者のダグラス・マグレガーが「内発的動機づけ」に基づいて仕事をさせるべき、という説を唱えたことを基礎においていることが多い。

 

しかし、これらの説はピーター・ドラッカーを始めとした多くの学者からの批判を集めており、マグレガー自身もそれを認めている。

人間はそれほど単純ではなく、同一の人物であっても異なるシチュエーションでは弱くなったり、やる気を失ったりする生き物だ。

例えば会社で何もなくとも、プライベートで親が病気になったり、恋人に振られたりすることだって、仕事に対するやる気を損なう可能性がある。

 

人の心理状態を様々な施策でコントロールし、仕事への意欲を高めようとすることそのものに、根本的な欠陥が含まれていると言ってよいだろう。

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モチベーションがなくても、成果はあがる。

そして何より、「仕事が好きではなく」「職場はたのしくない」という人物であっても、成果を挙げることはできる。

 

例えば、私は以前、保険の代理店に訪問したことがあった。

その会社は社員は10名程度、ほとんどが「おばちゃん」だった。

 

彼女たちの意欲が高いかと言うと、そんなことはなかった。

なにせほぼ毎日「仕事するの嫌やわー」「週末が待ち遠しいわー」と言っているのだ。

 

だが、彼女たちは実によく働き、成果を出した。

決して離職率は低くはなかったが、代理店の成績、顧客満足度は、全国でも有数のレベルで、表彰もされていた。

 

私は何が彼女たちを駆り立てるのか、聞いた。

すると、その代理店のおばちゃんの一人は言った。

「仕事は嫌だけど、お金をもらってるんだから、きちんとしなきゃ。」

 

さらにおばちゃんたちを束ねるマネジャーは、おばちゃんたちが現場で成果を上げることができるよう、徹底的に教育を施し、営業用資料を準備し、行動管理を行っていた。

 

私は即座に理解した。

仕事が好きかどうかや、意欲があるかどうかと、成果が上がるかどうかはあまり関係ないのだ。

要は、会社の仕組みの問題であったのだ。

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モチベーションを上げるのではなく、仕組み(=ビジネスモデル、教育、ツール)を作り、成果をあげさせる。

結局の所、経営陣ができることは、モチベーションを外から与えようと画策するのではなく、社員が評価される基準を伝えて、それを達成できるように手助けをすることだ。

 

そして、評価の高い人に会社が与えることができ、かつ個人にとって価値があるものは、給料や地位、ときに成長といった、仕事の成果とは切り離せないものばかりである。

実際、モチベーションの本質は「仕事で成果を出し、評価が高くなれば、本人の意欲も向上する」

という誠にわかりやすい話なのである。

 

ではなぜ、「意欲が高くなれば、仕事で成果が出る」と逆の構図にこだわる経営者が多いのだろうか。

 

それはおそらく、その経営者が構築しているビジネスモデルが貧弱だからだ。

単純に言えば、「気合と根性」で成果をあげさせようとするから、「意欲が高くない」とダメなのである。

そして、そういう会社に限って、ビジネスモデルも、ツールも、教育もプアなのだ。

 

経営者は「社員のモチベーションをあげよう」などと考える前に、「社員の成果をあげよう」と感じなければならず、ビジネスモデルやツール構築、そして評価基準をつくることに、手抜きをしてはいけない。

逆に社員の立場からすれば、貧弱なビジネスモデルで教育もツールも無い会社であって、ひたすら「はたらきがい」や「意欲」を強調する会社は、間違いなくブラックであって、一刻も早く辞めるべき職場なのである。

 

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