組織マネジメントとは、組織をスムーズに運営していくための管理方法のことですが、具体的に理解できているでしょうか?
会社経営をしたり、出世して部下を持ったりすると、組織の大きさを問わず、なんらかのマネジメントする立場になります。
そんなときにチームメンバーや部下のモチベーションを最大限に引き出せる手法や具体例が分かれば、会社の業績アップやさらなる出世にもつながるでしょう。
そこでこの記事では、
- 組織マネジメントの定義と必要性
- 組織マネジメントの手法である「ドラッカーのマネジメント理論」と「組織の7S」
- 組織マネジメントで成功した実例
などについて解説します。
この記事を読めば、組織マネジメントの定義から具体的な手法、成功事例まで理解し、実際に組織をマネジメントする際に活かすことができます。
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組織マネジメントとは?
組織マネジメントとは、経営者や上司など、組織の上の立場となる人が組織をスムーズに運営していくための管理方法のことです。
ここで言う「組織」とは、単なる集団ではなく、共通の目的を達成するために集合した集団を指します。
つまり、組織マネジメントとは、限りある経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を効率よく活用するために、組織に属するメンバーのパフォーマンスを最大限に発揮させるための活動のことです。
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組織マネジメントに注目が集まっている昨今ですが、その具体的な方法や考え方に難しさを感じ、行動できていない人が多いのが事実です。
上記の「自身がプレーヤーの時と比べて、ミドルマネジメント独自の仕事の難しさがあると思いますか?」という質問に対して、「ある」「少しはある」と回答している方が82.5%にも上っています。その理由として、以下のことが挙げられます。
【マネジメントに難しさを感じる理由】
- 計画の立て方が分からない
- 具体的な施策の立て方が分からない
- 最適な役割分担の振り方が分からない
そのため、考え方から行動に移せる方法を理解することが重要になります。
組織マネジメントの必要性
組織マネジメントは、会社や各部署などの集団で仕事をする場合に、メンバーのモチベーションをアップさせるために必要なことです。
ここでは、その必要性を3つ紹介します。
【組織マネジメントの必要性】
- 管理職の負担を減らせる
- 人材流出を防げる
- 企業競争力が強化できる
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部長や課長などの管理職が組織マネジメントをうまく使いこなせるようになれば、結果として管理職自身の負担を減らすことができます。
例えば、自分が統括する組織やチームの部下たちがそれぞれ仕事をしていたとしても、非効率に仕事をしている人がいるかもしれません。その場合、指示やフォローが必要になります。
しかし、的確な組織マネジメントを行うことで一人一人が自分で効率的に仕事をこなせるように成長していていけば、チーム全体のパフォーマンスが向上していきます。その結果、上司が指示を出すなどの手間が少なくなるため、管理職の負担を減らせるようになるのです。
必要性2 人材流出を防げる
組織マネジメントは、人材流出を防ぐ上でも必要になります。理由は、最近になって個人の働き方の価値観が変わってきているからです。
例えば、2019年に行われた「世界価値観調査」によると、以下のことが分かりました。
参考:電通総研と同志社大学、「世界価値観調査2019」日本結果を発表 | 電通総研
- 「仕事の重要度」が、「84.2%→80.0%」と低下
- 「働くことがあまり大切でなくなる」に賛成する意見が、「21.1%→42.6%」と倍増
つまり、仕事に対する重要度が低くなっていると同時に、働くことを大切に思う人が少なくなってきているのです。
そのため、人々の働くことに対する意識を尊重するようなマネジメントが求められます。もしそれを怠ると、「上司や職場からの理解が得られない」という理由で、退職や転職による人材流出が起こるかもしれません。
そうなると、人材育成のために費やした時間やお金が無駄になります。人材流出を防ぐためにも、正しい組織マネジメントが必要なのです。
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『上司の常識や当たり前』を理不尽に部下に押し付けていませんか?パワハラを避けるためのコミュニケーションの注意点や事例を解説必要性3 企業競争力が強化できる
少子高齢化やグローバル化が進んでいる現在、企業競争力を挙げることは重要なミッションとなっています。実際480社を対象にした調査結果では、8割の企業が「10 年後に向けて事業構造を「変える必要がある」」という回答があります。
これは現在の企業の多くが、「収益性向上」と「人材育成」に課題を抱えているのが原因であり、現状維持だけでは、これからの競争社会の中で企業が生き残れる可能性が低いことを意味しています。
そのため、組織マネジメントを効果的に実施することで、企業競争力を高める必要があるのです。
参考:日本企業の経営課題 2019 調査結果 | 一般社団法人日本能率協会
ドラッカーのマネジメント理論|組織マネジメントに必要な5つの能力
組織マネジメントを実践する前に、そもそも企業やチームをマネジメントするにはどんな要素、能力が必要なのでしょうか。
ドラッカーのマネジメント理論で紹介されている「組織マネジメントに必要な能力5つ」を通して、具体的に知っておきましょう。
【組織マネジメントに必要な5つの能力】
- 目標設定
- 組織能力
- 動機付け・コミュニケーション
- 評価
- 人材開発
全てできるのが理想ですが、最初はできそうなものから取り組んで行くのが良いでしょう。
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組織が向かうべき目標を設定します。この目標はチームレベルでも良いですが、できれば個人単位で行うようにしましょう。理由は、個人によって能力に差があるからです。
例えば、「今月の営業ノルマは、先月よりも20%アップする」という目標を立てたとしましょう。
もし経験豊富な営業担当者なら、具体的な方策を自分自身で練って達成できるかもしれません。しかし、経験が浅い新人などは、具体的な方策が自分自身で思い付かないため、目標達成が難しい可能性があります。
誤った目標設定はチームメンバーのモチベーションや成長に悪影響を及ぼすかもしれません。そのため、メンバーごとに目標を設定するのが理想と言えます。
能力2 組織能力
組織能力とは、目標達成に向けて必要な仕事を調査・分析し、チームメンバーの能力に応じて役割分担することです。
なぜなら、人には向き・不向きがあるからです。
例えば、営業部署で考えてみましょう。部署には、さまざまな人がいます。対面で営業することが得意な人もいれば、電話で商談をまとめる方が得意な人もいるでしょう。
そんな部下たちの向き・不向きを客観的に理解できているのは、直属の上司です。そのため、上司が部下の能力に応じて、適材適所に役割を与えることが組織マネジメントをうまく進めるコツとなります。
能力3 動機付け・コミュニケーション
動機付けやコミュニケーションは、組織マネジメントを行う上で重要な行動になります。
なぜなら、上司がチームの業務をうまく回すために、部下たちのモチベーションを高く保つ必要があるからです。
そのためには、部下たちと日頃からコミュニケーションをとって、どんなことで最高のパフォーマンスが出せるか、理解しておくことが大切になります。
また、部下たちへ理解が深まれば、どのような動機を示せば自分から能動的に動いてくれるかも理解できます。
コミュニケーションを通して彼らのモチベーションを上げることができれば、能動的に組織のために行動してくれるようになり、結果として組織全体の成果も上がることになります。
能力4 評価
上司は、チーム内のメンバーを正しく評価できる能力も必要です。
なぜなら、チーム内で誰が一番頑張って結果を残しているのか正しく評価できないと、部下のモチベーションが下がる原因になるからです。
例えば、営業成績でトップの成績を収めているメンバーがいたとします。そうであるにも関わらず、「遅くまで残業したり、休日出勤したりしていたから」という理由で他の人を高く評価するのはよくありません。そもそも残業をしている時点で、効率的に業務をこなしているとは言いがたいのです。
そのため、メンバーを正しく評価するためにも、どのように評価するのかという採点基準や採点結果を公開しましょう。そうすれば評価に平等性が生まれ、不満が出ることを防ぐことができます。
能力5 人材開発
人材開発も、組織マネジメントを行う上では重要な能力の一つです。なぜなら、人材が勝手に育っていくことは、ほとんどないからです。
誰にでも経験があると思いますが、会社に入って数ヶ月は、要領が分からない中で仕事をしていても、月日が経つにつれて自分で要領よく仕事を進めていけるようになるでしょう。それには、先輩からのアドバイスや上司からのフォローといったサポートが有効的だったはずです。
一人前に仕事が行えるレベルになるまで、人材を自ら教育するスタンスが求められます。
組織マネジメントの手法|「組織の7S」とは?
「組織の7S」とは、組織マネジメントを行うにあたって必要になる7つの要素と、それらの相互関係を示した手法のことです。これは、世界有数の戦略コンサルティングファームである「マッキンゼー・アンド・カンパニー」が提唱したものが始まりと言われています。
【組織の7S】
- 戦略(Strategy)
- 組織(Structure)
- システム(System)
- 価値観(Shared Value)
- スキル(Skill)
- 人材(Staff)
- スタイル(Style)
1~3は、「ハードの3S」と呼ばれ、具体的なプランがあれば効果が出るまで時間がかからないと言われています。
4~7は、「ソフトの4S」と呼ばれ、個人や組織の価値観が影響するため、変更しても効果が得られるまで時間がかかると言われています。
7S① 戦略(Strategy)
戦略(Strategy)とは、組織が目標を達成するために、どんな道筋で行っていくかを考えていくことです。これが定まっていないと、方法が曖昧となり、目標達成が難しくなります。
具体的には、以下のことを考えていきます。
【戦略(Strategy)で考えること】
- 組織の事業の方向性は?
- 他社と比較してどんな優位性を獲得するか?
- 課題の解決手段は?
例えば、「北海道で札幌ラーメンを食べる」という目標を設定したとします。それを実現するには、「どんな交通手段で行くか?」「いつ出発するか?」「お金はどれだけ用意すればいいか?」など、多くのことを決める必要があります。
これは組織でも同じことで、目標を達成するためにどんな準備が必要で、どんな方法でやるかなどの戦略を決める必要があるのです。
7S② 組織(Structure)
組織(Structure)とは、どんなチーム構成や組織形態にするかを考えることです。具体的には、以下のことを考えていきます。
【組織(Structure)で考えること】
- チームメンバーは誰にするか?
- 誰に何を担当させるか?
- 主従関係をどうするか?
組織の構造は、大きく分けて3つあります。
組織構造 | 特徴 |
①プロジェクト組織 | さまざまな専門知識を持った人たちがプロジェクト毎にチームを組み、それぞれのチームが独立して活動する組織構造。 |
②事業部制組織 | 事業毎に部署を分割し、それぞれ責任者がいる中で活動するピラミッド型の組織構造。 |
③機能別組織 | 同じスキルや専門知識を持ったメンバーだけでチームを組み、それぞれのチームの上に社長などのトップを据え置く組織構造。 |
自分が編成する部署やチームは、どんな形の組織構造にするか、前もって決めておきましょう。それによって集めるメンバーや、チーム方針なども異なります。
7S③ システム(System)
システム(System)とは、チームメンバーの能力を最大限に発揮できるようなルール作りをすることです。
ルールがなければ、チームは組織として機能できず、個人プレーに頼る原因となってしまいます。
具体的には、以下のことを考えていきます。
【システム(System)で考えること】
- 作業リスト
- マニュアル
- 問題対処&事例集
組織がまとまって動いて行くには、上記の資料が必要となります。また、知識やノウハウに乏しいメンバーが入ってきても、彼らを教育するようなシステムがあれば理想的です。
7S④ 価値観(Shared Value)
価値観(Shared Value)とは、チームが達成すべき目標に関して共有することです。これが不十分だと、チームでの目標達成が難しくなる可能性があります。
具体的には、以下のことを考えていきます。
【価値観(Shared Value)】
- 目標や行動指針は浸透しているか?
- いつまでに達成するか?
- 達成すると、どんな成果があるか?
コツとしては、できるだけわかりやすく具体的な目標を設定することと、その方向性や目的、時期、成果などの詳細を共有することです。
そうすれば、メンバーにも定着しやすくなり、目標達成の可能性が高まります。
7S⑤ スキル(Skill)
スキル(Skill)とは、他社に対して自社の競争力はどんなものかを考えることです。言い換えれば、自社の強みは何かを考えることになります。
例えば、以下のような実例が参考になります。
【スキル(Skill)の具体的】
- トヨタ自動車の「カンバン方式」による高い生産能力
- シャープの「高品質液晶パネル」のブランド化(亀山モデル)
- ソニーの「小型化技術」によるウォークマンの開発
自社で強みを作り出すのは難しいですが、これまでを振り返ることと他社との比較なども通して考えることで、他が追随できないような強みを作り出すことは可能です。
7S⑥ 人材(Staff)
人材(Staff)とは、組織に所属するメンバーの能力を本質的に理解するということです。人は外見やしゃべり方で、他人の能力を測ってしまうところがあります。
これは、人の上に立つ上司などによく見られる傾向ですが、実際には、それらで本質を測ることはできません。つまり、その人の能力を正しく理解するためには、人を上辺だけで判断するのではなく、本質を知る努力が必要なのです。
例えば、京セラの創業者である稲盛和夫氏は、定期的に社内でコンパを開いていました。自分の理念を話すとともに、社員にも自分の考えを稲盛氏や上司にしゃべらせることによって、社員の考えを理解できる場を設けていたのです。
組織メンバーの考え方を知るためには、メンバーが自分の考えを話せる環境を提供することが効果的と言えるでしょう。
7S⑦ スタイル(Style)
スタイル(Style)とは、職場環境や人材管理などを指します。これがうまく機能していないと、社員のモチベーションを維持するのは困難となります。
なぜなら、仕事をしている社員にとって会社は人生の内で大半を過ごす場所であり、その環境の良し悪しで会社への帰属意識や業務に対するモチベーションも左右されるからです。
【社員のモチベーションを維持するための方策】
- 席替えをして、上司が監視しているような配置をやめる
- 進捗状況の確認を最小限に抑える
- 社員が過不足なくこなせるレベルの業務を与える
社員のモチベーションを維持するためにも、上司が組織メンバーへ気持ちよく働いてもらえるように、環境をマネジメントすることが大切です。
組織マネジメントの成功事例
組織マネジメントを効果的に行うために、実際の成功事例を見てみましょう。
【組織マネジメントに取り組んで成功した事例】
- 花王
- 星野リゾート
成功事例1 花王
花王は時代の先取りをしたせいで、自らの首を絞める状況に陥りながらも、組織マネジメントによって切り抜けた事例があります。
当時の花王は、まだパソコンが一般的に普及していない時代から、生産管理にパソコンを導入するような先進的な企業でした。
しかし、パソコンの活用によって、生産管理部門から2,500人もの従業員が余る事態に。
そこで当時の社長である丸田芳郎氏が、自社のグループに新たにコンピューター会社や印刷会社を作り、そこへ余った社員を異動させ、雇用を維持しました。
新会社へ移った社員は、全てが新しい環境だったこともあり、そこで自分たちに何ができるか自ら考えたり、行動したりする土壌が育まれていったのです。
成功事例2 星野リゾート
星野リゾートの社長である星野佳路氏は、多額の負債に苦しんでいた老舗旅館「旧いづみ荘」を、組織マネジメントで復活させた事例があります。
当時の旧いづみ荘では、2005年頃に40億円もの負債を抱えており、従業員も危機感は感じていましたが、具体的な方策が見つからず、途方に暮れる日々だったようです。
そこで星野佳路氏は、以下の流れで旧いづみ荘を立て直しました。
【星野佳路氏の組織マネジメント】
- 現場スタッフから、日頃の業務で感じることを徹底的に聞き込み
- 「50代以上の女性からのリピート率が高い」と結論
- コンセプトを「50代以上の女性をターゲットとした温泉宿」に変更・明確化
- コンセプトを明確化したことにより、従業員のやる気もアップ
上記の組織マネジメントの結果、旧いづみ荘は客室稼働率が前年比10%増となるまでに回復しました。
この結果から、自社の強みを認識すること、それを活かした明確な目標設定と共有が重要だとわかります。
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企業の良し悪しは組織マネジメントで決まる
企業の良し悪しは、上に立つ人間が行う組織マネジメントで決まります。そもそも企業やチームなどの全体を把握しているのは、上に立つ人間であり、企業の業績やチームの活動に問題が発生しているなら、それを解決するのは同じく上に立つ人間の役目なのです。
問題を効率よく解決するためにも、ここで紹介した組織マネジメントの手法や事例を参考にしながら、解決策を考えてみましょう。
きっと、あなたが経営・所属する企業内に答えがあるはずです。
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