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事業報告書における開示事項の増大 〜 高まる企業の情報開示への期待 〜

事業報告書における開示事項の増大

 株式会社は、各事業年度の事業報告及びその附属明細書を作成しなければならないと定められています。作成した情報は開示する必要がありますが、計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、電磁的記録をもって作成することも可能です(会社法435条3項)。

また、そうして作製された事業報告をもとに、定時株主総会において事業の経過及び成果を報告しなければなりません(会社法435、438条)。

取締役会設置会社の場合には、取締役会決議にて承認された事業報告を、定時株主総会の招集の通知に際して、株主に対して提供する必要があります(会社法436、437条)。 

なお、株式公開している企業などが、定時株主総会決議の通知に伏している事業報告書は、会社の現状をわかりやすく解説するために会社が自主的に作成しているものです。

したがって、会社法で定められている事業報告とは内容・性質共に異なるという点に留意しておく必要があります。

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営業報告書から事業報告へ 〜会社法における事業報告の位置づけ〜

 2006年5月に施行された会社法及びその関連法令のもとで、旧商法において「営業報告書」と呼ばれていた書類は事業報告という書類に変更されました。この変更は、旧商法で用いられていた用語としての「営業」は、会社法となったことによって、すべて「事業」と置き換えられたことによるものです。

 2007年3月期分から、会社法に基づく新しい「事業報告」が作成されています。その後、会社法の改定によって変更はあったものの現在に至っています。

 旧商法において「営業報告書」は、財務諸表と並ぶ計算書類の一つと位置づけられいました。しかし、2006年5月会社法の下での「事業報告」は、計算に関連するものではないことから、計算書類とは別のものと位置づけられることとなっています。

 したがって、事業報告は、事業報告及びその附属明細書については監査役若しくは監査役会の監査対象ではあるものの、営業報告書とは違い計算書類ではないという位置づけにあることから、会計監査人の監査対象にはなっていません。

なぜ会社法は計算書類とは別に事業報告を求めるのか?

 会社法は財務諸表をはじめとする計算書類に加えて、事業報告を求めています。これらの書類の開示対象は、基本的には株主と会社債権者です。

 計算書類の作成基準においては、債権者の保護が企図されています。そのための情報開示は、会社の出資者(株主)に、会社の利益の分配可能額の有無を含む企業業績を示すとともに、株主の監督是正権を支える制度としての意義が認められています。

 会社に対して資金を提供する株主にとって、計算書類は、会社の利益の分配可能額にかかわる財務情報として極めて重要な意味を持っていますが、定量的な情報だけではなく、文章をはじめとした定性情報として会社の事業の状況を記載した事業報告が行われることによって、株主が株主権行使の意思決定に際して役立ちます。

 一方、会社債権者にとっても、取引にあたり相手方の信用調査を行うなど経営状態を確認し、自らの債権回収の可能性を判断することになりますが、そのためには財務関係および事業関係情報が必要です。

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事業報告書を作成するときの大前提

 事業報告書の作成にあたっては、以下で詳解する法定の記載事項が最低限の要請にすぎ

ないことを念頭に置いておくことが重要です。

 事業報告書の開示として求められているのは、あくまでも最低限の要請です。したがって、株主の理解と判断に資するためには、コスト・ベネフィット、企業機密等を考慮しながらも、当該会社の業種・業態に照らし、会社の概況又は会社の財産若しくは損益の状態を、正しくかつ簡潔明瞭に示すよう、創意・工夫に努めなければなりません。

 会社法施行規則では、事業報告のなかで記載すべき項目について定めているものの、具体的な様式やどのような文章を記載するかなど、実際に事業報告書を作成する詳細な内容については決められていません。

 事業報告書は、全て閲覧・謄写の対象となる重要な書類です。したがって、不要な個人情報等は記載しないよう、十分な配慮が必要となります。ただし、役員や社員の住所又は居所は法定記載事項ですので記載を省略することはできません。

会社法及び会社法施行規則の具体的な規定 

 全ての株式会社は原則的に、計算書類(財務諸表)、計算書類の附属明細書、事業報告、事業報告に係る附属明細書を作成しなければなりません。

 そして、事業報告書のなかで記載しなければならない記載事項に関しては、会社法施行規則118条以降で具体的に規定されています。

 事業報告の記載順序については、会社法施行規則の順序に合わせなくても良いものとされていますが、公開会社であるか否かや、事業報告作成会社の採用する機関設計により、事業報告の記載事項は異なるのが普通です。

 したがって、会社によって事業報告書に記載しなければならない事項は異なるという点には留意が必要です。

会社法施行規則

 会社法施行規則では、株式会社の形態を採用しているすべての会社に共通して記載すべき事項を118条で規定しています。基本的に、事業報告書では、計算書類ではわからない会社の定性的な情報(会社の事業内容、内部統制の状況、従業員に関する情報、役員に関する情報など)を株主に提供することが目的です。

 118条の規定以降で、公開会社(株式に譲渡制限を定めていない会社)における記載事項については会社法施行規則119条に、会計参与設置会社における記載事項については、会社法施行規則125条に、会計監査人設置会社における記載事項については、会社法施行規則126条に規定されています。

事業報告は株主総会における報告事項か?

企業の取締役は、事業報告の内容を定時株主総会に報告しなければならないと会社法438条3項で規定されています。したがって、事業報告は株主総会における報告事項となります。

中小企業にも事業報告の作成の必要がある?

 事業報告書は全ての株式会社に作成義務があります。したがって、中小企業であっても、株式会社という形態を採用していれば、事業報告書を作成しなければなりません。

 ただし、会社法で規定された大企業でなく、かつ、公開会社ではないような中小企業については、通常、会社の株式を経営者が保有しているというケースが多く、不特定多数の株主を招待して株主総会を開催することは稀です。事業報告書は株主のために開示する書類であるため、実務上、事業報告を行っている中小企業はあまりありません。

会社法施行規則118条

 会社法施行規則第118条において、事業報告は、「次に掲げる事項をその内容としなければならない」と規定されています。

  1. 株式会社の現況に関する事項 
  2. 株式に関する事項 
  3. 新株予約権等に関する事項
  4. 会社役員に関する事項 
  5. 会計監査人に関する事項
  6. 業務の適正を確保するための体制等の整備に関する事項
  7.  株式会社の支配に関する基本方針に関する事項
  8.  特定完全子会社に関する事項
  9. 親会社等との間の取引に関する事項
  10. 株式会社の状況に関する重要な事項

 なお、以下において会社法施行規則118条で規定されているそれぞれの項目の記載事項を紹介していきますが、この記載事項は、一般社団法人「日本経済団体連合会 経済法規委員会企画部会」が2016年に発表した『会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)』[https://www.keidanren.or.jp/policy/2021/024.pdf#page=9]に基づくものです。

第1項 当該株式会社の状況に関する重要な事項

 事業の経過及びその成果の項目には、事業の経過及びその成果について記載していくのが普通です。

①主要な事業内容

②主要な営業所、工場並びに使用人の状況

③主要な借入先、借入額

④当該事業年度の事業の経過及び成果

⑤重要な資金調達、設備投資の状況、及び合併、会社分割、事業譲渡等の状況

⑥直前3事業年度の財産及び損益の状況

⑦重要な親会社及び子会社の状況

⑧対処すべき課題

⑨その他会社の現況に関する重要な事項

 これらの全てを記載しなければならないということはありませんが、①主要な事業内容を記載する場合には、事業の経過及びその成果として、(1)事業報告作成会社をめぐる経済環境、(2)業界の状況、(3)その中での会社の生産、仕入れ及び販売等の状況、売上高、当期純損益等を記載するのが通例です。

 なお、会社の事業の部門が細かく分かれている場合には、部門別の売上高又は生産高等の状況を記載します。これは、株主にとって、事業の部門ごとの情報の方が意思決定に有用であると考えられているからです。ただし、部門別に区別することが困難である場合についてはこの限りではありません。

 そのほかにも、その事業年度において起こった重要な経営上の出来事、すなわち経営上の重要な契約の締結・解消、重要な研究開発活動、重要な固定資産の取得・処分等も、その重要性に応じた分量で記載していきます。

第2項 株式に関する事項

 この箇所には、自己株式を除く発行済株式総数に対する株式の保有割合の高い上位 10 名の株主につき、その氏名又は名称、持株数(種類株式発行会社については株式の種類及び種類ごとの数を含む)及び株式の保有割合を記載していきます。

第3項 新株予約権等に関する事項

 新株予約権等については、会社役員が「職務執行の対価として当該株式会社が交付した」新株予約権等を同末日時点において有している場合、役員の区分ごとに当該新株予約権等の内容の概要及び新株予約権等を有する者の人数をそれぞれ記載します。

第4項 会社役員に関する事項 

 公開会社においては、剰余金の配当等に関する決定が取締役会に授権されている場合があります。また、計算書類についても、会計監査人設置会社では、取締役会で原則承認されるものです。その場合、定時株主総会におい、会社役員が選定されることになります。

 そのため、株主に対して会社役員についての情報を適切に開示することが、株主の利益に資することになると考えられます。したがって、会社法では、会社役員に関する事項を事業報告のなかですることを求めています。

 ここでは、以下のような事項について開示が求められています。

4-1. 氏名 

4-2. 地位及び担当

4-3. 重要な兼職の状況

4-4. 辞任した会社役員又は解任された会社役員に関する事項

4-5. 財務及び会計に関する相当程度の知見

4-6. 常勤で監査を行う者の選定の有無及びその理由

4-7. 責任限定契約に関する事項

4-8. 補償契約に関する事項

4-9. 補償契約に基づく補償に関する事項

4-10. 役員等賠償責任保険契約に関する事項

4-11. 取締役、会計参与、監査役又は執行役ごとの報酬等の総額(業績連動報酬等、非金銭報酬等、それら以外の報酬等の総額)

4-12. 業績連動報酬等に関する事項

4-13. 非金銭報酬等に関する事項

4-14. 報酬等に関する定款の定め又は株主総会決議に関する事項

4-15. 各会社役員の報酬等の額又はその算定方法に係る決定方針に関する事項

4-16. 各会社役員の報酬等の額の決定の委任に関する事項

4-17. その他会社役員に関する重要な事項 

第5項 会計監査人に関する事項

 会計監査人設置会社の事業報告には、以下の事項を記載する必要があります(施規126条)。

①会計監査人の氏名または名称

②会計監査人の報酬等の額及び報酬等について監査役等の同意理由

③非監査業務の対価を支払っている場合には、非監査業務の内容

④会計監査人の解任又は不再任の決定の方針

⑤会計監査人が現に業務の停止の処分を受け、その停止期間を経過しない者であるときは、当該処分に係る事項

⑥会計監査人が過去2年間に業務の停止の処分を受けた者である場合における当該処分に係る事項のうち、当該株式会社が事業報告の内容とすることが適切であると判断した事項

⑦会計監査人と責任限定契約を締結している場合は、その概要

⑧会社が有報提出大会社である場合には、当該株式会社および子会社が支払う金銭その他財産上の利益の合計額、及び当該株式会社の会計監査人以外の公認会計士または監査法人が子会社の計算関係書類の監査を実施しているときは、その事実

⑨会計監査人が辞任又は解任された場合には、当該会計監査人の氏名又は名称、解任の理由、会計監査人の意見等

⑩剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定めがあるときは、取締役会に与えられた権限の行使に関する方針(施規126)

第6項 業務の適正を確保するための体制等の整備に関する事項

 大会社である取締役設置会社について、企業の経営者である取締役の職務の執行が、法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するための体制を決定しなければならないものと定められています(会社法348条第3項4号、会社法362条第4項6号、第5項)。

 この決定内容及び当該体制の運用状況の概要は、事業報告の第6項において記載しなければなりません(施規118条第2項)。

第7項 株式会社の支配に関する基本方針に関する事項

 株式会社の支配に関する基本方針の内容の概要については、特に規制があるわけではなく、定型もありません。したがって、各会社が基本方針として定めた内容をそのまま事業報告に記載することでも足りるとされています。

 重要な点は、買収防衛策に関する開示もここに含まれているということです(施規118条第3項)。したがって、企業が買収防衛策をどのように考えているのかを知りたい場合には、この第7項より確認することができます。

第8項 特定完全子会社に関する事項

 平成26年に施行された改正会社法によって、一定の要件の下で、親会社の株主が、子会社の取締役等の責任を追及することを認める制度(最終完全親会社等の株主による特定責任追及の訴えの制度、いわゆる「多重代表訴訟制度」)が新設されました(会社法第 847 条の 3 第1 項)。

 多重代表訴訟において、責任追及の対象となる子会社を明確にするために、特定完全子会社がある場合には、事業報告において以下を記載する必要があります(施規118条第4項)。

①特定完全子会社の名称及び住所

②株式会社及びその完全子会社等における当該特定完全子会社の株式の当該事業年度の末日における帳簿価額の合計額

③株式会社の当該事業年度に係る貸借対照表上の総資産額

第9項 親会社等との間の取引に関する事項

 親会社等との一定の利益相反取引のうち、事業年度に係る個別注記表において関連当事者取引注記を要するものについては、事業報告において以下を記載しなければなりません(施規118条第5項)。

①当該取引をするに当たり当該株式会社の利益を害さないように留意した事項(当該事項がない場合にあっては、その旨)

②当該取引が当該株式会社の利益を害さないかどうかについての当該株式会社の取締役会の判断及びその理由

③社外取締役を置く株式会社において②の取締役会の判断が社外取締役の意見と異なる場合には、その意見

第10項 株式会社の状況に関する重要な事項

 株式会社の状況に関する重要な事項については、特に具体的な事項は規定されているわけではありません。第9項までで記載しなかった情報で、株主にとって有用であると考えられる情報があれば、ここに記載します。

おわりに:

 事業報告書は、財務諸表をはじめとする計算書類によって提供される定量情報に加えて、定性情報を提供することを目的とした書類です。したがって、事業報告書に記載されている事項は、株主が株主総会において議決権を行使するに際して重要な拠りどころとなります。

 事業報告書による情報開示は非常に重要な意味を持っており、定量情報からはわからない事項に関する情報提供は、経営者の説明責任の一つとみなされています。事業報告書による情報開示は、高まる企業への情報開示要求に応えたものであり、企業はこの要求に対して適切に対応していかなければなりません。

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