コンプライアンスを遵守する経営 〜 高まる監査役会への期待 〜

はじめに: 監査役会の役割は拡大している

 監査役会は監査人によって構成される組織で、その目的は企業経営者や取締役会を監査することです。監査人は組織の持続可能性など、企業経営に欠かせない重要な問題を扱います。また、監査人は財務上のリスクや財務諸表だけでなく、組織の評判や成長、環境への影響、従業員への対応など、より広範な問題を検討しなければなりません。

 

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監査役会を構成する監査役の役割

 監査人は、組織の成功を支援する役割を担っており、経営者や取締役会を監査することだけが役割ではありません。企業経営を軌道に乗せるために設計されたシステムやプロセスが、どの程度機能しているかを評価して企業経営者に伝えることも役割の一つです。そして、必要に応じて改善するためのコンサルティングも行います。

 従来、監査役や監査役会は、経営者や取締役会を監視する役割を担っていました。しかし近年では、監視する役割を担うだけではなく、経営者や取締役会のコンサルタントとしての役割も担うようになっています。

企業組織のなかでの監査役会の位置づけ

 監査役会は、経営者や取締役会から独立したコーポレートガバナンス強化のための専門機関として設置されるものであり、監査人は取締役会に出席して意見を述べることができます。ただし、監査役は取締役会において議決権(代表取締役の選任・解任権を含む)はありません。

 特に、日本の監査役会制度は、世界的に普及している英米型一層式モデル(経営者 vs 監査人)や、ドイツに代表される垂直型二層式モデル(経営者 vs 取締役会・監査人)とも異なっています。取締役会と監査役会が並列する独自のガバナンス構造(経営者 vs 取締役会・監査人)に立脚しているのが日本の監査役会制度です。

 つまり、日本の監査制度は、業務執行に対する監視・監督が取締役会と監査役会の双方に対してなされ、かつ監査役会は取締役会に対しても監視・監督機能を持つというとうことになります。

会社法上の監査役会の規定

 会社法第328条では、大会社と公開会社でない大会社に分けて、監査役会の設置を義務付けています。監査役会は、経営者や取締役会と独立した立場にあり、経営陣に対して効果的な財務統制システムを構築し、遵守するように求めることが可能です。

 なお、ここで言う大会社とは、「資本金が5億円以上、又は負債総額が200億円以上の会社」のことです。

会社法の具体的な規定

 会社法では、監査役会を置かなければならない旨が下記のように規定されています。

① 大会社(公開会社でないもの、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役会及び会計監査人を置かなければならない。

② 公開会社でない大会社は、会計監査人を置かなければならない。

 ①については規定からもわかるとおり、公開会社である大会社は監査役会を設置する義務があります。ただし、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社である場合には、この限りではありません。

 監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社である場合には、監査役会に変わる組織である監査等委員会と指名委員会等があることから、監査役会を設置せずとも問題ないということになっています。

 ②について、非公開会社である大会社の場合には、会計監査人を必ず設置しなければなりません。

なぜ監査人ではなく監査役会なのか?

 企業経営が複雑化するにつれて、一人ひとりの監査人だけで経営者や取締役会を監視することは難しくなっていきます。したがって、監査人ではなく監査役会の必要性が叫ばれるようになりました。

 監査役「会」とあるように、監査役会は合議体である以上、監査役会には監査役を複数人置く必要があると会社法上規定されているのです。監査役は、株主総会の決議によって選任されます(会社法329条1項)。株主は取締役会に企業経営の役割を移譲するのと同様に、経営者や取締役会を監視する役割を監査役会に移譲しており、監査役会はその期待に応えなければなりません。

大会社における監査役会制度の概要

 大会社では、

  • 複数監査役制度
  • 社外監査役制度
  • 常勤監査役制度
  • 監査役会制度

が施行されています。

複数監査役制度が採用されているため、会社法では監査役会の人数は3人以上でなければならないと定められています(会社法335条3項)。

 また、社外監査役制度が採用されているので、監査役のうち半数以上は社外監査役でなければなりません。

 社外監査役を務めるためには、経営者や取締役会を牽制するために、会社と利害関係にない者である必要があります。

「利害関係にない」とは、社外監査役に任命される以前に、

  • 会社
  • その子会社の取締役
  • 執行役
  • 支配人
  • その他の使用人

になったことのない人物でなければならないということです。

 そして、監査の実効性を確保するために、監査役の互選によって、常勤監査役を定めなければならず、監査役の全員をもって監査役会を組織することが義務付けられています。

監査役会の役割

 監査役会は企業内に設置された、経営の意思決定プロセスやコーポレートガバナンスの有効性を監視する部門です。したがって、経営の意思決定プロセスの複雑性が高く、そのプロセスで失敗やコーポレート・ガバナンスの違反が起こりやすい大規模な組織において、監査役会は特に必要な組織となります。

 監査役会は企業の内部統制システムの堅牢性を証明することが必要な、株式公開企業では特に必要となる存在です。監査役会に所属する監査人には、下記のような仕事があります。

  • 不正の発見
  • 内部統制の評価
  • 法規制の遵守
  • 意思決定プロセスの管理
  • コーポレートガバナンスの有効性プロセス評価
  • リスク評価
  • 会社資産の保護

監査役会の独立性

 監査役会は、取締役会または取締役に監査結果を報告するのが理想的です。そうすることで、監査部門は経営陣からの独立性を保つことができ、経営陣に関連する問題を調査し、その結果を取締役会に報告することができます。

 この独立性は、監査役会が会社の運営には直接関与できないことを意味しています。なぜなら、もし監査役会が会社の運営に直接関与してしまえば、監査役会の独立性が損なわれてしまうからです。

監査役会の具体的な仕事内容

 監査役会は通常、リスクの高い分野に焦点を当てて監査作業をスケジュールし、その他の検査は、取締役会の指示、または部門マネージャーの要請に応じて実施されます。

 調査対象となる部門には、監査役会が監査手続を行うために必要となるすべての文書を集めるよう、事前に通知を行います。また、不正が疑われるような場合には、事前の告知なしに監査役会が当該部門を訪れ、犯人を特定することもあるのです。

 このような監査役会と呼ばれる手続きを行うことが、監査役会の主な仕事内容となります。つまり、単に経営者が行うビジネスを監視して問題点を指摘することだけが仕事ではありません。それだけではなく、監査役会は会社の運営に付加価値を与える内部コンサルティング部門としても機能します。

 取締役会は、業務改善のための機会を与え、組織内の変化を促進するのです。

経営者や取締役会に対する報告要求・調査

 監査役会の構成員である監査役は「いつでも経営者に対して事業の報告を求め、また会社の業務・財産の状況を調査することができる」と会社法で規定されています。また監査役会は、内部統制を改善するための実行可能な項目を管理者に提供することで、企業内の意思決定を改善します。

 当然ですが経営者は、会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見した場合には、監査役からの要求がない場合でも、直ちに監査役会にその事実を報告しなければなりません。また監査役は、一定の要件のもとで子会社に対しても報告を要求し、その業務・財産の状況を調査する権限を持っているのです。

 経営陣は、監査人が財務諸表をレビューする前に、社内の欠陥や非効率性を特定するために内部監査を活用することができます。

 なお、監査役会が行う監査(調査を含む)に要した費用は、会社が負担しなければなりません。

取締役の違法行為の阻止

 取締役会において、違法または著しく不当な決議がなされることを防止するために、監査役会は、取締役会のすべての会合に出席する必要があります。そして、必要な場合には、取締役会で意見を述べなければなりません。

 さらに、監査役会を構成する監査人は取締役会の場に限らず、取締役の不正行為またはそのおそれ、法令・定款違反または著しく不当な事実があると認めた場合には、遅滞なく取締役会に報告することが義務付けられています。また、必要であれば、取締役会の招集を求め、または自ら招集する権限を持っているのです。

 監査役会を構成する監査役には、さらに強力な権限が会社法上与えられています。決議または法令・定款違反の行為を防止または是正することが、取締役会においてできなかった場合でも取締役が株主総会に提出する議案・書類に法令・定款違反または著しい不当性があれば、株主総会にその調査の結果を報告することが可能です。

 そのうえ、取締役の法令・定款違反の行為の結果、会社に著しい損害が生じるおそれがある場合には、取締役に対してその差止めの請求をすることもできます。

リスクの管理状況の評価 

 監査役会の目的は、基本的に組織のリスクマネジメントの状況を評価することにあります。あくまでも、リスクマネジメンの体制を企業内に構築することは、経営者や取締役会の責任であり、監査役会はその評価をするのが主な仕事です。

 また、すべての組織は下記のような様々なリスクを抱えています。

  • 顧客への不適切な対応による組織の評判へのリスク
  • 健康と安全に関するリスク
  • サプライヤーの失敗によるリスク
  • 市場の失敗に伴うリスク
  • サイバーセキュリティのリスク
  • 財務上のリスク

このようなリスクに対して、適切に管理できるような仕組みがあるかどうかをチェックするのが監査役会です。

 組織が成功するには、これらのリスクを競合他社よりも効果的に管理し、またステークホルダーの求めに応じた管理をしなければなりません。

 監査役会は、リスクがどれだけうまく管理されているかを評価するために、組織のあらゆる部分のリスク管理プロセス、内部統制システム、コーポレート・ガバナンス・プロセスの質を評価し、これを直接かつ独立して最上級の経営陣に報告します。

内部統制の改善に向けた経営陣の支援

 監査役会はリスク管理に関する知識を持っているため、コンサルタントとしてアドバイスをしたり、組織の実務を改善する触媒としての役割を果たすことができます。

 たとえば、ラインマネージャーが特定の責任分野について懸念している場合、監査役会や監査人と協力することで改善点を見出すことが可能です。

 また、大規模な新規プロジェクトを実施する場合、監査役会はプロジェクトのリスクが明確に特定・評価され、そのリスクを管理するための措置が取られていることを確認できます。そうすることで、企業経営における無駄な投資を避けられるのです。

会社・取締役間の訴訟

 会社・取締役間の訴訟が起きた場合には、監査役が会社を代表しなければなりません。したがって、会社が取締役を訴えるかどうかの判断も、監査役にその権限があるということになります。また、取締役に対する株主からの提訴請求を受けるのも監査役です。

 監査役には、株主代表訴訟が提起された際に、会社が被告取締役側に補助参加することについての同意権が与えられているなど、取締役の責任軽減に関する同意権が与えられています。

会計監査

 会計監査とは、計算書類およびその附属明細書を監査することを意味します。

 大会社かつ公開会社では、公認会計士または監査法人を会計監査人として選任しなければなりません。会計監査人は株主総会で選任されますが、取締役会による選任議案には監査役会の同意が必要で、また監査役会は選任議案の提案権を有する権限を持つと定められています。

 大会社では、会計監査は第1次的には会計監査人が実施し、その監査報告は監査役会と取締役会に提出されるのです。

 監査役は、会計監査人の監査の方法・結果の相当性を判断しますが、もし相当でないと認めた場合は、自ら監査したうえでその結果について監査報告に記載します。

 なお、会計監査人は取締役の職務遂行に関し、不正行為や法令・定款違反の重大な事実を発見した場合には、遅滞なくそれを監査役会に報告しなければなりません。また、監査役は、必要であれば会計監査人に報告を求める権限を持っています。

監査役会の現代的意義

 監査役会は、重要なリスクが評価されたことを経営陣に報告し、改善が必要な箇所を明らかにすることで、経営陣や取締役会がステークホルダーのために組織を効果的に管理していることを証明するのに役立ちます。このことは、監査役会の役割が「リスクに基づく客観的な保証、助言、洞察を提供することにより、組織の価値を高め、保護すること」であるという端的な説明が可能です。

 したがって監査役会は、経営陣、非経営陣、外部監査人とともに、組織のトップレベルのガバナンスにおいて重要な役割を果たしています。

組織内のコントロールシステムを評価し管理者に助言する 

 末端の従業員から管理者までの全員が内部統制に関わっているため、リスク管理の評価における監査役会の役割は多様です。監査役会の仕事には、組織のトーンとリスク管理文化の評価から、内部統制の評価と報告までが含まれます。

リスクの評価

 組織が直面しているリスクを特定し、そのリスクが効果的に管理されない場合、目標の達成にどのような影響を及ぼすのかを理解することは、経営者の仕事の一つです。経営者は組織がどの程度のリスクに耐えられるかを理解し、限界を超えないように、コントロールやその他の安全策を実施します。

 したがって、監査役会の手法は、統制をベースとした事後的な手法から、リスクをベースとした事後的な手法へと変化しています。これにより、監査役会は将来起こりうる懸念や機会を予測し、保証を提供しなければなりません。

オペレーションの分析と情報の確認

 企業が経営上の目標を達成し、貴重な組織資源を管理するには、システム・プロセス・人材が必要です。

 監査役会は、ラインマネージャーと緊密に連携して業務をレビューし、その結果を報告することで、その仕組みの有効性を評価して報告します。また、監査役会は、組織の戦略的目標や事業部門に精通していなければならず、組織の各部分の業務が全体像の中でどのように位置づけられるかを明確に理解していなければなりません。

他の機関との連携を通じた監査の実効性の確保

 リスクが効果的に管理されていることを経営陣や取締役会に保証することは、監査役会に与えられた独占的な領域ではありません。同様の役割を果たす保証者としては、他にも下記のようなものが存在します。

  • リスクマネジメントの専門家
  • コンプライアンス・オフィサー
  • 不正調査員、品質管理者
  • セキュリティの専門家

 「監査役会は経営陣から独立し、リスクの報告と管理の方法について客観的で偏りのない意見を述べることができる」という点が上記の保証機関と監査役会との違いです。

 監査役会の経営陣からの独立性は、監査委員会の委員長への機能的な報告ラインと、最上級の経営者への管理的な報告ラインによって達成されています。

 監査役会が他の保証提供者と建設的に協力して、取締役会に参加した監査役が、組織のリスク管理がどれだけうまくいっているかについて、意見を述べるために必要なすべての保証を受けられるようにしなければなりません。

また、保証の提供における重複やギャップを回避することで、利用可能な保証リソースを最適化することも監査役会の重要な役割です。

組織的な監査 

 さらに、チームワークと効果的な職場関係の構築は監査役会の重要な特徴です。他の職業と同様に、監査役会にも独自のスキルがあり、独自の資格、技術基準、実践規範があります。これらはすべて、監査役会の専門機関であるChartered Institute of Internal Auditorsを通じて提供されています。

また、公認監査役会人協会は、世界的な監査役会人協会(Institute of Internal Auditors)の加盟団体として、英国とアイルランドで国際専門業務フレームワーク(IPPF)を推進しており、ここでの監査役会人は、世界的に合意された基本原則と基準の下で業務を行っているのです。

 会計士の財務スキルは非常に有用ですが、監査役として効果的な仕事をするためには、高レベルの技術的な監査役会のスキルと知識を持っていなければなりません。また、効果的なコミュニケーション能力や優れたプロジェクトマネージャー、分析力、優れた交渉力も求められます。

おわりに:

 監査役会は、監査役会を構成員とする監査人が、組織的に内部監査を実行するために組織された機関です。

 日本において、大会社に該当する企業は、監査役会の設置義務があります。会社法で監査役会の設置義務があるのも、企業が大規模化するにつれて、企業経営の複雑生が増大しているからです。

 監査役会は、そうした複雑化している企業の経営プロセスを効率的かつ有効に監査するために存在しています。近年ではその役割も増えており、経営者や取締役会を監査することを専門とするだけではなく、求められた場合には意見を表明することもあります。