私は現在、フリーランスとして活動しています。つまり働けば収入が得られるし、働かなければ収入を得ることができないという状況です。
であるにもかかわらず、動画を観たり猫と遊んだりしてサボってしまうことがよくあります。もちろん、仕事を放った状態なので気分は決して良くありません。つまり、遊ぶなら仕事を終わらせてから存分に楽しんだ方が良いのです。
仕事をすることが最善の状況であってもなぜ怠けてしまうのでしょうか。
私は高等遊民ではないので働かなくては暮らしていけません。ちょっとのサボりが大きなビジネスチャンスを逃してしまう可能性だってあるのです。
そこで私は行動分析学という学問を学びんでいるので、サボる理由を行動分析学の面から考察し、状況の改善につなげていきたいと考えました。
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目次
怠けずに行動できるときの理由
行動分析学における私たちの行動原理は極めてシンプルです。
それは「直後にメリットが伴う行動には積極的になり、直後にデメリットが伴う行動には消極的になる」というものです[1]。
ここで言うメリットとは、物理的報酬や味覚・触覚など五感における好ましい刺激、もっとざっくり言えば「自分にとって都合の良い何か」です。
デメリットはその反対と考えてください。
たとえば、試しに入ってみたレストランで味やサービスに値段以上の価値を感じれば、今後も利用したいと考えます。反対に、好みに合わなかったり不快な思いをしたりした場合は、おそらく二度と行かないでしょう。
また、店内に入れば速やかに案内され、呼びかければホール係がすぐに駆けつけ、短時間で料理がテーブルに届くなら、そのお店はお気に入りになる可能性が高くなります。
「安い、早い、うまい!」は強烈なウリになるのはこのような理由からです。
「怠ける」はメリット、「仕事をする」はデメリット
この原理原則を自分の行動に当てはめて考えてみます。まず「仕事をする」という行動について。
この行動に伴うメリットは「仕事が終わる」という点だと考えられます。
私の今の状況で例えるなら、このコラムが書き上がることが該当します。ただ、このメリットが得られるのは数時間から数日の作業を経た後なので、行動の直後に伴うものではありません。
さらに、このメリットにたどり着くまでには画面とにらめっこしながら頭と指先を使い続けるという労力が必要となります。つまり、むしろ行動にデメリットが伴うことになるため非常に促されにくい類の活動と考えられるのです。
一方、「サボる」と言われる行動は、直後にメリットが伴うため強化されやすい性質を持っています。
クリック一つで動画を楽しめますし、部屋から出ればすぐに猫と戯れることができます。
ほとんど労力を使わずにメリットを得ることができるわけですね。
つまり「怠ける」とは、行動の原理原則で考えれば、「仕事をする」は直後にデメリットを伴う避けるべき行動であり、「怠ける」は直後にメリットを伴う好まれる行動ということになります。
「怠ける」の正体は祖先から引きついだ生きるコツ
では、なぜ私たち(少なくとも私)は目先の損得に左右されるのでしょうか。
その理由は、私たち人類の祖先が生き延びるために構築した行動原理だからです。明日をも知れぬ厳しい環境では、そこに食べ物や安全な場所がある場合、すぐに確保しなければ逃してしまうかもしれません。それらをまた獲得できる保証もないのです。
反対に、脅威が迫っている時はすぐに逃げないと生命の危機に陥る可能性があります。また、メリットを獲得する、あるいはデメリットから避ける必要のない状況では無駄に行動しない方が合理的です。
つまり怠けると私たちが呼称する行為は、祖先から私たちが引き継いだ極めて合理的かつ最善の行動選択なのです。
ただ、それが現代社会の一般的な規範と、その中で成長してきた私たちが考える「あるべき姿」と矛盾しているので苦しむことになるわけですね。
「怠けずに行動する作戦」を実行する
歴史的な考察を持ち出してまで「仕事はデメリット、怠けるはメリットである」と考えたところで、「じゃあ怠けてもしょうが無いよね」というわけにはいきません。
このコラムを書き上げなければ、次の仕事に取りかかることができないし、明日のご飯が心配で安心して眠りにつくことも難しいでしょう。
よって、この行動原理を踏まえながら怠けなくなる状況を作る必要があります。
怠けないようにするための考え方は基本的には単純で、直後に伴うデメリットをなるべく小さくしつつ、メリットをなるべく大きくすればいいわけです。
まずは、デメリットを小さくしてみます。先ほど仕事をするデメリットは頭と指先を使うことだと言いましたが、私は希代の天才でも疲れを知らないサイボーグでもないので、これらのデメリットをゼロにすることはできません。ただ、できるだけ小さくすることはできます。
方法の1つは、作業時間を細かく区切ることです。作業は長時間になるほど予測される労力も大きくなりますので、体はなかなか動いてくれません。「面倒くさいのは嫌!」と駄々をこねます。
ですので、短時間作業したら休憩し、また短時間作業するというルールを設定しました。
一単位あたりの作業時間を小さくすることで「それくらいだったらやるか」と行動を起こしてもらいやすくするためです。「部屋をまんべんなくきれいにしよう」と考えるとおっくうだけれど、「机の上だけ整理したら休憩できる」と考えたら気持ちが楽になるのと同じです。
だから、15分作業で5分休憩というサイクルを設定してみました。
「苦しいのは15分、その後にまた休憩できる」という状況をつくることで、仕事のデメリットを軽減したわけです。
結果、執筆を始めることができました。
15分でも集中すればけっこう長いものです。このルールは「ポモドーロ・テクニック」と呼ばれるもので、ご存じの方も多いのではないでしょうか[2]。
怠けないコツ『締切りを宣言する』
ポモドーロ・テクニックによって作業は少しずつ進んできたものの、進捗状況はあまりよろしくありません。少しのんびり進めてしまっているようです。あまり良くない状態なので、次の施策を実行します。メリットを大きくする方法を考えたわけです。
私がこのコラムを書き上げる際に選んだ方法は、締切りを宣言してしまうことでした。もちろん指定の締切り日があったのですが、それよりも早い日に提出すると連絡したのです。
具体的には、執筆を始めた日に「翌日に提出します」と宣言しました。こうすることで、早めに仕事をしないとまずい状況になります。
裏を返せば、仕事をすることで、その「まずい状況を避けることができる」メリットが生まれることになります。つまり、仕事が終わるというメリットの他に、締切りを破らなくて済むというメリットが付加されるよう状況をコントロールしたのです。
もちろん、このメリットは本来の締切りの直前でも生じるものです。夏休みの宿題と同じですね。
ただ、特に忙しいわけではなく、締切りまでに時間的余裕があって必要以上にじっくり取り組めてしまう場合は、自主的に締切りを早めるべきでしょう。
なぜなら、人は与えられた時間だけ作業を膨張させる性質を持つからです。
本来は1日で終えられる仕事でも1週間猶予があればその分仕事を引き延ばします。かといって、クオリティが7倍になるかといえばそうではなく、余計な考えごとをしたり無駄な装飾を施したりすることが大半です。
つまり、1日で終わる作業を7倍に引き延ばしているだけなのです。これは、「パーキンソンの法則」と呼ばれる現象ですが、できる限り陥りたくないものと言えるでしょう[3]。
余計な作業時間をぎゅっと凝縮すれば、他の仕事を進める時間とゆとりが生まれるからです。このような理由もあり、締切りを早めに宣言したわけです。
結果、本来の締切りよりも早い期間でこのコラムを脱稿することができました。これから猫と戯れてきます。
まとめ 怠けるを理解して、怠けない行動を
この話の前提とした「メリットを伴う行動を行い、デメリットを伴う行動を避ける」という行動原理は、文字にすれば至極当然のように感じられるかもしれません。しかし実際は、この原則を無視あるいは軽視している人が多いように思います。
根性、熱意、責任感、思いやりなどいわゆる「心」を行動の理由にしているのです。
このコラムを読んで「こんな小難しい理屈を持ち出して、自分の怠け癖を言い訳するな」と考える人さえいるかもしれません。多くの人が心を行動の原因と考えるのは、その方が美しい、尊いという一般認識が根付いているからでしょう。
実際、行動分析学は血が通っていない学問だと批判されることもあります。しかし、心を行動の原因にすると簡単に自己否定が可能となり、結果、公私に悪影響を及ぼしかねません。
今回の私のケースであれば、「こんな状況なのにサボってしまうのは、自分がどうしようもなく駄目な人間だからだ」と自己嫌悪に陥ってしまう可能性があるわけです。しかし、実際はそうではありません。行動する、あるいはしない理由は、あくまで環境にある。
この前提に立つことで、無駄に落ち込まなくなり、建設的な改善策を考えることができるようになるのです。
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参照
[1] 杉山尚子著「行動分析学入門-人の行動の思いがけない理由」集英社、2005年