上場会社の経営者をはじめとする関係者は、ご自身が行う株取引はすべて監視されているという意識をもって、インサイダー取引規制を犯さないように細心の注意を払わなければなりません。
また、上場会社ではない会社の経営者の方も、経営者同士のネットワークなどを通じて他社の重要な情報を掴むことがあり得るので、同様にインサイダー取引規制に注意する必要があります。
今回は、金融商品取引法によって設けられているインサイダー取引規制の全体像を解説します。
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目次
インサイダー取引規制の対象者は?
インサイダー取引規制の対象者は、「会社関係者」「公開買付者等関係者」「第一次情報受領者」の3つに分類されます。
上場会社等の関係者(会社関係者)
1つ目の規制対象者は、上場会社等の内部者に当たる「会社関係者」です(金融商品取引法166条1項)。
具体的には、以下の者がインサイダー取引規制の対象となります。
・上場会社等の役員、代理人、使用人その他の従業者
・上場会社の株主、上場投資法人の投資主など
・上場会社等に対する法令に基づく権限を有する者
・上場会社の取引先
・上記のいずれかに該当する法人の役員、代理人、使用人その他の従業者
上記に該当する者が職務や権利の行使などに関して、「未公表の重要事実」を知った場合、インサイダー取引規制を意識して行動しなければなりません。
「未公表の重要事実」に当たるのは以下の3つです。
①決定事実
上場会社等の業務執行決定機関が、上場会社等の株価に影響を与えることが予想される、会社に関する一定の重要な事項を決定した事実をいいます。
(例)
新株発行、合併などの組織再編、業務提携など②発生事実
上場会社等について、その株価に影響を与えることが予想される、一定の重要な事象が発生した事実をいいます。
(例)
災害に起因する損害、業務上のミスによる損害、主要株主の移動など③決算情報
売上高・経常利益・純利益・配当などについて、直近の予想値と新たな予想値(または決算における値)の間に差異が生じた事実をいいます。
公開買付けをする会社の関係者(公開買付者等関係者)
2つ目の規制対象者は、公開買付けをする会社の内部者に当たる「公開買付者等関係者」です(金融商品取引法167条1項)。
公開買付けが行われる場合、それだけで株価の大幅な変動が予想されるため、「公開買付けの実施や中止に関する事実」そのものが、インサイダー取引の規制対象事実とされています。
公開買付者等関係者に当たる者は、以下のとおりです。
・公開買付者等(公開買付を行う者)の役員、代理人、使用人その他の従業者
・公開買付者等の株主、上場投資法人の投資主など
・公開買付者等に対する法令に基づく権限を有する者
・公開買付者等の取引先
・公開買付の対象となる上場株式等の発行者
・上記のいずれかに該当する法人の役員、代理人、使用人その他の従業者
会社関係者・公開買付者等関係者から対象事実を聞いた人(第一次情報受領者)
さらに、会社関係者・公開買付者等関係者等から、上記の各対象事実について直接伝達を受けた者(第一次情報受領者)についても、同様にインサイダー取引規制の対象となります(金融商品取引法166条3項、167条3項)。
第一次情報受領者が規制対象とされているのは、会社関係者や公開買付者等関係者が、自らの近親者などに抜け駆け的に利益を得させるなどの行為を防止するためです。
なお、第一次情報受領者から対象事実の伝達を受けた者(第二次情報受領者)以降は、インサイダー取引規制の対象外とされています。
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インサイダー取引規制による禁止行為は?
金融商品取引法上のインサイダー取引規制によって禁止されているのは、「対象となる有価証券の売買等」と、「一定の目的による対象事実の伝達行為」の2つです。
対象事実が公表される前に、対象有価証券の売買等をすること
未公表の重要事実を知った会社関係者・第一次情報受領者と、未公表の公開買付に関する事実を知った公開買付者等関係者・第一次情報受領者は、対象事実の公表前に以下の行為をすることが禁止されます(金融商品取引法166条1項、167条2項)。
・対象有価証券の売買、その他の有償の譲渡または譲受け
・対象有価証券の合併または分割による承継
・対象有価証券に係るデリバティブ取引
未公表の対象事実を、一定の目的をもって第三者に伝達すること
さらに、会社関係者・公開買付者等関係者については、以下のいずれかの目的をもって、未公表の重要事実または公開買付に関する事実を他人に伝達することが禁止されます(金融商品取引法167条の2第1項、第2項)。
・対象有価証券の売買等により、他人に利益を得させること
・対象有価証券の売買等により、他人の損失の発生を回避させること
インサイダー取引規制に違反した場合のペナルティは?
インサイダー取引規制に違反した場合のペナルティは、「刑事罰」と「課徴金納付命令」の2つがあります。
それぞれかなり重い内容になっているので、インサイダー取引規制違反には十分に注意しましょう。
刑事罰|5年以下の懲役・500万円以下の罰金(併科あり)
対象有価証券の売買等の禁止、および情報伝達規制のいずれについても、違反した場合には「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金」が科され、またはこれらが併科されます(金融商品取引法197条の2第13号~第15号)。
なお、情報伝達規制違反の場合は、伝達を受けた第一次情報受領者が、実際にインサイダー取引規制違反に当たる対象有価証券の売買等を行った場合に限り、刑事罰の対象となります。
法人にも両罰規定あり|5億円以下の罰金
法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者が、法人の財産に関してインサイダー取引規制違反を犯した場合には、行為者の処罰とともに、法人に対しても「5億円以下の罰金」が科されます(金融商品取引法207条1項2号)。
そのためマネジメントとしては、会社内部の人間によるインサイダー取引規制違反を防止するため、適切な社内対策を講ずることが重要です。
課徴金納付命令|利益の吐き出し
インサイダー取引規制違反に対しては、刑事罰とは別に、行政処分である「課徴金納付命令」が行われます(金融商品取引法175条1項、2項、175条の2第1項、第2項)。
課徴金の額は、原則としてインサイダー取引によって得た利益の全額です。
インサイダー取引規制違反を防止するための社内対策
マネジメントは、会社としての不祥事を防ぐため、社内でインサイダー取引規制違反が発生しないように細心の注意を払わなければなりません。
最終的には役員・従業員の良心に任せざるを得ない部分もありますが、会社として実施し得る社内対策の例としては、以下のものが挙げられます。
役員・従業員に誓約書を提出させる
役員・従業員が入社する際、インサイダー取引規制違反を犯さない旨、および違反によって会社に損害が生じた場合には、その損害を賠償する旨の誓約書を差し入れさせることが考えられます。
個別株取引を会社の承認制にする
金融機関などでは、役員・従業員が個別株の取引を行う場合には、申請のうえで会社の承認を得ることを義務付ける運用が一般的です。
一般の企業でも、役員・従業員によるインサイダー取引規制を厳密に防止しようとする場合には、個別株取引の承認制の導入を検討しましょう。
従業員研修でインサイダー取引の違法性を周知する
インサイダー取引規制の内容をよく知らないという役員・従業員もいるため、従業員に対するコンプライアンス研修の一環として、インサイダー取引規制の違法性を周知することも有効です。
定期的にコンプライアンス研修を実施することは、インサイダー取引規制に限らず、会社の業務全般に関するコンプライアンス意識を高めることにも繋がります。
まとめ
社内でインサイダー取引規制違反が発覚すると、レピュテーション・財務の両面において、会社が重大なダメージを被る事態になりかねません。
マネジメントとしては、自社に合わせた社内対策を適切に実施したうえで、インサイダー取引規制違反の発生を最大限防止するよう努めてください。
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