2018/09/06

お中元の風習にビジネスのコミュニケーションを学ぶ

夏の盛りに営業の外回りから会社に戻ると、上司が「冷蔵庫のなかにフルーツジュースがあるから飲んでいいぞ」と言いました。
事務所の冷蔵庫を開けると、果汁100%の缶ジュースがびっしり詰まっています。上司のおごりかと思ったらそうではなく、取引先企業からのお中元でした。

このようなシーンは、かつての日本の企業では当たり前の光景でした。「お世話になった印」として物品を贈るお中元は、ビジネス上の礼儀と考えられていたからです。
しかし暮のお歳暮も含め、こうした贈り物文化はすっかり衰退しました。

ところが、この古いビジネス慣行をじっくりながめると、コミュニケーション手段として有益な要素もあります。
お中元は発注元企業と受注先企業の間だけでなく、上司と部下の間の潤滑油にもなります。

 

トヨタは「コスト」と考えてやめたのだが…

 

まずは、なぜお中元文化が衰退したのかを考えてみましょう。
トヨタ自動車は2018年7月、取引先の企業に対し、トヨタの役員にお中元やお歳暮を贈らないよう要請しました[1]。取引先企業としては仕事をくれるトヨタの役員に日頃の感謝の気持ちをお中元に込めたいところですが、それがもうできなくなるのです。
トヨタの関係者はこの要請の真意を「原価低減を重視するため」と説明しています。
すなわち、お中元にかかる費用を減らすことで自動車を1円でも安くつくろうというわけです。
トヨタが部品メーカーに対して「お中元は要らないから、その代わり部品代を安くして」と要請しているようなもの――と言ったら言い過ぎでしょうか?

しかし少し視点を変えると、意外な事実が見えてきます。
コスト第一主義のトヨタでも、2017年の暮れのお歳暮までは、取引先から贈り物を受け取っていた、という事実です。
すなわち、それくらいお中元はビジネスシーンに大きな効果をもたらしている、ともいえるのではないでしょうか。

 

お中元はなぜ賄賂(わいろ)ではないのか

 

ビジネスシーンでのお中元は、仕事の受注者が、契約書に書かれてある金額以上のお金を発注者(クライアント)に支払うようなものです。
受注者が本来は支払わなくてもよいお金を負担するのはなぜでしょうか。ビジネスでのお中元には「通常ルールを逸脱した優遇」を求める要素を完全に消し去ることはできないので、どうしても「賄賂のにおい」がつきまといます。

賄賂は刑法上の罪です。公務員に職務に関係することで賄賂を渡したら、3年以下の懲役または250万円以下の罰金に処せられます。
また賄賂は、民間企業どうしでも罰せられます。会社法967条に「取締役や執行役などがその職務に関し、不正の請託を受けて財産上の利益を収受したときは、5年以下の懲役または500万円以下の罰金に処する」と定められています。

しかし、常識の範囲内のお中元の授受で逮捕されたという話は聞きません。お中元はなぜ賄賂ではないのでしょうか。
それは、捜査当局が賄賂と認定するには、「職務に関係する贈り物」であることを証明しなければならないからです。日頃の感謝や社会儀礼としての贈与であれば、賄賂と認定されないのです[2・3]。
つまり「賄賂のような要素」を完全に払しょくできなくても、お中元の品の金額が安い場合、日本では賄賂にならないのです。

 

発注元企業と受注先企業のコミュニケーションとお中元

 

ビジネスシーンでのお中元は、とてもユニークなしきたりといえます。例えば受注先企業が「仕事をくれたお礼」として発注元企業に、500ml缶ビール24本入り×5ケースのお中元を贈ったとします。そのコストは送料・消費税込みで30,895円となります[4]。
経済合理性を考えるのであれば、受注先企業はビールを贈るのではなく、受注金額を3万円安くしたほうが発注元企業に喜ばれそうな気がします。

 

ビールケースで顧客企業の宴席に参加できる

しかし、ビールケースは同額の値引きよりビジネス・コミュニケーションを深めることができるのです。

例えば、プロジェクトチームの仕事がひと段落したとき、社内の会議室で宴席が設けられたとします。このとき、そのプロジェクトに関わった取引先企業の担当者がビールケースを持って現れたら、「一緒に祝杯を挙げよう」と誘ってもらえて、宴席に加わることができます。

これがもし真夏であれば、取引先企業の担当者は「プロジェクトで仕事をもらったお礼」としてではなく、お中元としてビールを贈ることができるので自然です。

つまりお中元という風習が存在するお陰で、「お礼の品」の露骨さを薄めることができるのです。

 

先方の会社の社員全員に感謝の気持ちを伝えることができる

また、お中元という物品なら、顧客企業に対してではなく、顧客企業の社員に日頃の感謝を伝えることができます。ビールだけでなくジュースや冷たいスイーツを贈っても、社員に配布されるでしょう。それが「モノ」のいいところなのです。

例えばある営業パーソンが足しげく見込み客の工場長のところに通った結果、自社製品を新規に購入してもらえることになったとします。このとき工場長にお礼をすることも大切ですが、しかし自社製品を使ってくれるのは、現場の作業員たちです。

もし作業員たちが、自社製品は使い勝手が悪く、これまで使っていた別の会社の製品に戻してほしいと主張し始めたら、すぐに取引が中断してしまうかもしれません。
営業パーソンがお中元をきっかけにして工場内に入っていけば、現場の作業員のリーダーにお礼ができるだけでなく、自社製品のよさをPRすることができます。そのとき「何か不具合があったら自分が飛んできますから、携帯を鳴らしてください」と言えば、受注増を獲得できるかもしれません。

 

上司と部下のコミュニケーションとお中元

 

それでは次に、部下が上司にお中元を贈るメリットを考えてみましょう。

 

「上司へのお中元」は減っているからこそチャンス

ビジネスで人より先んじるには、ライバルがしていないことをする必要があります。朝日新聞が2018年初夏に行った調査によると、お中元を贈る人は6割ほどしかいませんでした[5]。
さらに贈り先では、多い順から親戚、兄弟、親、お世話になった人と続き、「上司」は最も少なかったのです。
だからいまこの時代に部下が上司にお中元を贈ると、インパクトがあります。

 

【事例】信念を持って上司にお中元を贈る同僚について思うこと

しかし上司にお中元を贈る人が少なくなっているのには、それなりに理由があります。
「そこまでして出世したいと思わない」
「上司にゴマをするような行為はみっともない」
「周囲が誰もやっていない」
そのように考えることはもっともなことです。
そこで、若手社員のお中元をめぐる葛藤事例をみてみましょう。

社会人1年目の田中さん(仮名、23歳)の母親(55歳)は、父親(夫)(57歳)の会社の関係者にこまめにお中元とお歳暮を贈る人です。田中さんは子供ながらに、父親が受け取るお中元・お歳暮より、母親が贈るお中元・お歳暮のほうがはるかに多いことを知っていて、「うちは損している」と思っていました。
一方で、贈答の品を選ぶときの母親の熱心な姿を見て、「古い考えの大人としては当然の行動なのだろう」とも感じていました。

大学を卒業していまの会社に入社した田中さんは、勤め始めてしばらくして母親から「お父さん関係のお中元を贈るときに、お前の上司さんへの分も一緒に贈ろうか」と言われました。
田中さんは、自分の会社には上司に物品を贈る風習はないような気がしたので、母親への返事は保留しました。
そして次の日、会社の先輩社員に(27歳)にそれとなく尋ねてみました。

その先輩は、田中さんに次のように言いました。
「うちの会社は虚礼廃止をうたっているので、部下が上司にお中元やお歳暮を贈らなくていいことになっている。だから普通にデパート経由でビールやサラダ油を贈ったら、上司のほうも戸惑うだろう。突き返されるかもしれない」
田中さんはこのとき、「面倒な風習がない会社でよかった」と思いました。
しかし先輩は話をこう続けたのです。

「でも俺は〇〇部長にだけは、お中元もお歳暮も贈っている。ただし、自分で贈答品を持って自宅にうかがって、渡している。自宅に行く日はきちんとアポを取って、奥さんも同席してもらっている」
田中さんは「なぜそのようなことをしているのですか」と質問しました。
「〇〇部長は俺が入社したときの直属の上司で、仕事をいちから教えてくれたんだ。心の底から感謝しているからだよ。だから俺は、毎年必ず違ったものを贈っている。俺がお中元を自宅に持っていくのは、部長のプライベートの時間に話を聞きたいからなんだよ。そういうときって、仕事の話だけじゃなく人生訓なども聞くことができるんだ。結局先方で高級なお酒を出してくれたり、豪華な料理でもてなしてくれるから、俺が渡している贈答品の金額より多くのお金を使わせてしまっているんだけどね」
田中さんは「なるほど」と感心してから、「私もそれを真似ていいですか」と尋ねました。
先輩はにっこり笑って「どうぞ」と答えました。

 

まとめ~お中元をどのようにビジネス・コミュニケーションに昇華させるか

 

田中さんの先輩のことを、ゴマすり人間という人はいないでしょう。それはその先輩が、お中元などの贈り物を、ビジネス・コミュニケーションに昇華しているからです。
古い風習であるお中元も、渡すタイミングや商品のチョイスを工夫したり、贈る相手を厳選したりすることで新しい風をビジネスシーンに吹かすことができるのです。

【識学からのお知らせ】
リーダーシップが育つロジカルなマネジメント手法を学んでみませんか?
<ご訪問 or Web会議で体験できます>
1800以上の企業が受講した「識学マスタートレーニング」を無料で体験しませんか?
今、お申込みいただくと『伸びる会社は「これ」をやらない!』書籍をプレゼント

識学マスタートレーニングとは、「部下が育たない」「組織が思ったように成長しない」「離職率が高く人材不足」など、 問題に直面している管理職の方へ「学びながら実践」いただき、組織内の問題を解決していくものです。
平均して3ヶ月ほどで「売上向上」「離職率の低減」など目に見える成果が上がっています。


お申込み・詳細は こちらお申し込みページをご覧ください

参照

[1]トヨタ役員らへの中元、歳暮自粛 取引先企業の負担軽減(産経ニュース)http://www.sankei.com/economy/news/180723/ecn1807230013-n1.html
[2]お歳暮のつもりが「賄賂」になる? 知っておくべき賄賂の話(弁護士、鈴木翔太)https://lmedia.jp/2014/12/01/58736/
[3]不正の請託 -実は民間企業にもある「収賄罪」とは(プレジデントオンライン)http://president.jp/articles/-/1658
[4]アサヒスーパードライ500ml缶×24本(アマゾン)
https://www.amazon.co.jp/dp/B0029Z92K8?psc=1&SubscriptionId=0571BBGTQZ5YYPEDSY02&tag=kakaku-subtag-22&ascsubtag=kakaku-pc-drink-22_B0029Z92K8_K0000661314_68c_21363bfb4a4f4056b357fced51c754ccd&linkCode=xm2&camp=2025&creative=165953&creativeASIN=B0029Z92K8&me=AN1VRQENFRJN5
[5]「お中元を贈る」は6割 「虚礼廃止」で変わる風習(朝日新聞)
https://www.asahi.com/relife/dokusha/voice/11552873