インポスター症候群とは、正しい自己評価が行えなくなっている心理傾向です。
自分の力で何かを成し遂げ、高い評価を受けた場合でも、自分はそのような評価に値しないと過小評価してしまう人は、インポスター症候群かも知れません。
有能な社員に「自信を持って働いてほしい」と願う企業では、インポスター症候群に関する正しい知識を持ち、しっかりと向き合う柔軟な対応が求められます。
そこで今回は、インポスター症候群の特徴や陥る原因はもちろん、克服する方法やおすすめの対応について詳しく解説していきます。
目次
インポスター症候群とは
インポスター症候群とは、能力があり、周りから認められているにもかかわらず「自分は詐欺師」「成功に値する人間ではない」という自己否定的な考え方を持つことです。別名、ペテン師(詐欺師)症候群とも呼ばれています。
インポスター症候群に陥ると、自分の実力や成功を認めることができず、能力があるように周りを欺いているような感情に襲われるため、仕事に対する意欲が出てきません。
特に社会的に成功した女性に多く見られる傾向があります。
以下のように、期待している有能な人材が、存分に力を発揮できない精神状態となるため、企業にとっては看過できないものとなっています。
- 管理職を打診しても断られる
- 必要以上に謙遜して積極性がない
- 新しいことにチャレンジして貰えない
放置していると「急に仕事を辞めてしまう」「うつ傾向が強くなってしまう」という事態にまで発展しかねません。
インポスター症候群の4つの特徴
インポスター症候群は社会的に成功した人に多くみられ、男女共に陥ることはありますが、日本では特に女性がなりやすいとされています。
症状には軽度のものから深刻なものまであり、ひどい場合だと仕事に支障をきたしかねません。周りにインポスター症候群の人はいないか、どの程度の状態まで進んでいるかを把握するためにも、以下で説明する特徴を押さえておきましょう。
また、自身がインポスター症候群になる可能性も考えられますので、注意してみてください。
1. チャレンジしない
インポスター症候群に陥ると、失敗を極端に恐れる傾向があります。
そのため初めてのことには自らチャレンジせず、上司から「君なら大丈夫だから」と背中を押されても、前向きに捉えられません。新しい仕事を任されても、引き受けられないこともあります。
失敗の言い訳を用意しながら進めていくため、仕事で本来の力を発揮できずに終わってしまい、さらに積極性を失ってしまうという悪循環に陥るケースもあります。
2. 実力を隠す
インポスター症候群の人は、自分のことを「仕事ができないのに高い評価を得ている詐欺師」だと思い込んでいます。本当の能力が知られると落胆されるとまで考えているため、どれほど自分が出来ない人間かというアピールを行いがちです。
深刻なケースでは、実力は十分あるにもかかわらず、自分には不可能だと思い込んでいるために失敗し、業務に支障をきたす場合もあります。
3. 成功を恐れる
インポスター症候群は、成功して周りの評価が変化していくことから生まれます。
したがって、また成功すると周りの評価が変わってしまったり、嫌われたりするのではないかと考えてしまいます。失敗も成功もしないように、目立たない存在に徹する傾向も強いです。
4. 女性に多い
海外ではインポスター症候群に男女の差はそれほどないと言われていますが、日本では女性が多い傾向にあります。
背景には、 近年増えた女性の社会進出に、企業や環境が追い付いていないことが挙げられます。 また、管理職に女性を登用するのは企業イメージのためではないかという思いからくることもあるでしょう。
日本でも女性の社会進出が進みつつあるとはいえ、現状では、まだまだ海外との差はあると言わざるを得ません。
インポスター症候群に陥りやすい人の3つのタイプ
インポスター症候群になる人は、以下のような性格の持ち主に多くみられます。
- 完璧主義者
- 周りの空気を読める人
- 働き過ぎてしまう人
仕事に完璧を求めて、働き過ぎてしまうような優秀な人材が陥りやすいと言えるかも知れません。3つのタイプについて、それぞれ説明していきます。
1. 完璧主義者
完璧主義者は仕事に対するプレッシャーを必要以上に感じ、インポスター症候群に陥る人もいます。
優秀な人材なだけに、人から褒められたり、期待されたりといったことがプレッシャーとなります。完璧主義者であるがゆえに、すべての期待に応えることができず、自分には実力がないという考えから抜け出せなくなってしまいます。
2. 周りの空気を読める人
周りの空気を読める人は、他人の感情の変化を敏感に察知します。
失敗すると落胆されると考え、 成功しても嫌われるのではないかと、他人の気持ちを気にしてしまいます。
そこから、自分が変わらなければ、嫌われることもないという考えに至り、インポスター症候群となるケースも多いです。
3. 働き過ぎてしまう人
働き過ぎてしまう人は、気を張り詰めて仕事をしているため、1つの失敗でインポスター症候群になる場合があります。
仕事に集中している時は良いですが、ふと気づいたときに自分の評価が予想以上に上がっていると、プレッシャーを感じてしまうのかもしれません。
頑張っている人は、普段は人から褒められることも多いです。しかし、うまくいかなくなったときに、自分の実力を疑い始めるのです。そこからインポスター症候群になるなど、真面目で優秀な人が直面しやすい問題です。
インポスター症候群を克服する5つの方法
自身がインポスター症候群かもしれないと思っても、落ち込む必要はありません。
働いた経験がある人なら、誰もがなる可能性のあるものだからです。実際に、インポスター症候群かもしれないと感じたことのある人も多くいます。
もしも自分がインポスター症候群かもしれないと感じたら、以下の克服方法を試してみてください。また、予防策として普段から心掛けておくのも良いでしょう。
1. 自分の感情を表に出す
日本人の特徴でもある感情表現が苦手という部分が、インポスター症候群を悪化させることがあります。
- 自分の思いを人に話す
- サポートを求める
- やれると思ったことは口にだしてみる
- ポジティブなことを言う
これらのように、自分の気持ちを少しでも人と共有できれば、改善に繋がります。できる範囲で感情を表に出すように心掛けましょう。
2. 与えられた目の前の仕事に集中する
インポスター症候群の人は、まだ起きていないことに対して心配しすぎる傾向にあります。
将来を見据えることは大切ですが、ネガティブな感情にとらわれすぎると、現在にも未来にも良い影響を与えません。
仕事でもプライベートでも同じことが言えるので、目の前の課題に精一杯取り組んで、1つ1つ課題をクリアしていきましょう。
3. 褒められたときは否定せずに受け入れる
謙遜することが美学とされてきた日本人は、褒められても否定する人が多いです。
謙虚に振舞うことで、無意識に自分を過小評価し、ネガティブな思考に偏ってしまう場合もあります。自分に対して「どうせ」「ただの」といった、マイナスの言葉を使わないように意識してみてください。
褒められたら素直に受け止めるだけでも、徐々にインポスター症候群は改善されていくでしょう。
4. 自分自身を甘えさせる
インポスター症候群になる人は、完璧を求めすぎてムリをする人が多いです。
自分自身の理想と、自信を持てない現状とのギャップに悩まされ、恐怖に押しつぶされそうになってしまいます。
また、他人にも同じように完璧を求めてしまうと、トラブルに発展するケースもあるでしょう。
完璧を求めすぎずに目標を1段階下げてみると、プレッシャーから解放されて、心にゆとりができてきます。
5. クリアできる目標を立ててできたら褒める
インポスター症候群の人は、普段からネガティブな感情にとらわれがちです。
職場でもプライベートでも、自分を卑下することが癖となっているのかも知れません。
なんでも構いませんので、普段から自分を褒めることを習慣付けておくと、ポジティブな思考へ変わりやすいです。簡単な目標を設定し、クリアしたら褒めるという行為を繰り返し行いましょう。
目標設定の例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 今日は英単語を1つ覚える
- 営業メールを10件送る
- 今日はおやつを1種類にセーブする
- 午前は机の片付けをする
- 午後は散歩をする
まずは簡単な目標をたて、できた自分を褒めてあげましょう。
毎日行うことが重要で、課題は徐々に難しいものに変えていくと、より効果的になります。
インポスター症候群の人への接し方や対応方法を3つ紹介
インポスター症候群の人に対して適切な対応を行うと、症状が改善されたり悪化を防いだりできます。
大切なことは、日頃から職場を観察し、インポスター症候群の人に早めに気付いてあげる事です。
そして発見した時に、適切な対応が取れるかどうかで、その後が大きく変わってきます。
ここでは、インポスター症候群の人への対応方法を3つ紹介していきます。
1. 相手を肯定する
インポスター症候群の人は自分に自信がなく、卑屈になっている場合が多いです。
そのため相手を肯定することが重要ですが、必要以上に持ち上げると逆にプレッシャーになってしまうので注意しましょう。
自然と相手を肯定していれば、徐々に自信を取り戻すかも知れません。
難しいと感じる人は「相手の意見を否定しない」という点を意識するだけで、随分変わるはずです。
慣れてきたら、相手の良い部分を「あれ良かったよね」などとフィードバックしてあげることもおすすめです。
2. 1対1での対話を心掛ける
インポスター症候群の人は、周りからの目を気にする傾向にあるので、仕事の結果や評価を伝えるときは、1対1で行いましょう。
人に聞かれる心配のない状況であるだけで、本心を話しやすくなります。このときのコツは聞き役に徹することです。こちらから意見を押し付けることはせず、相手の意見を聞くことが重要です。
その人だけ特別に1対1の時間を設けるのではなく、会社全体で取り組むと自然な形となり、より効果が見込めます。近年では週1回や月1回など、定期的に実施している企業が増えています。
3. 能力に見合った業務を与える
インポスター症候群の人は、過度の称賛や評価を嫌います。いずれ訪れる失敗への恐怖が強いからです。
実力に見合った仕事を与え、成功体験を積み上げることで、徐々に自信を取り戻していくことでしょう。
まとめ
インポスター症候群は、実績や能力があるにもかかわらず、自身の力を肯定できず、ネガティブになってしまう状態を言います。優秀な人や完璧主義者が陥りやすいため、職場でインポスター症候群の人がいないか、常に気を配る必要があります。
また、自身にインポスター症候群の傾向があるなら、まずは小さな目標達成を褒めることから始めてみてはいかがでしょうか。