2020/04/03

部下の心を鷲掴みする「ワンダーウーマン」の人心掌握術とリーダーシップとは

「ワンダーウーマン」と聞くと、アメリカの心理学者であり、嘘発見器の発明者として有名な、ウィリアム・ムートン・マーストン博士原作の漫画(後に映画化)を連想する方が多いのではないでしょうか。
今回ご紹介するワンダーウーマンは、筆者の顧問先のニューハーフ敏腕社長の仮称ですが、彼女自身の生きざまや信念も、架空のスーパーヒーローであるワンダーウーマンと重なります。

筆者とワンダーウーマンとの出会いはちょうど10年前。当時はまだ、戸籍上「男性」だった彼女は、ニューハーフパブで働いていました。10代の頃、白衣の天使に憧れ、いくつもの看護学校を受験するも、性別と見た目のギャップによりことごとく不合格。結果、水商売の道へ進まざるを得ませんでした。

20代半ばに差し掛かった頃、それでも看護師の夢を捨てられずにいた彼女は、常連客から「ならば介護の仕事はどうだ?」と、思いもよらぬ提案を受けました。これが、夜の仕事から昼の仕事へと転身を遂げるきっかけとなった瞬間でした。

 

とにかく恩返しがしたくて

 

ニューハーフとして、過去に壮絶な体験を乗り越えてきた彼女が、それでも「介護」を通じて社会へ恩返しがしたいと思う裏には、ニューハーフたちの労働社会における安定した地位の確立を願っているからでした。「私をここまで生かしてくれた、日本の社会に恩返しがしたい。太陽を浴びながら胸を張って仕事ができる、そんな社会のパイオニアになりたい」と、熱く語った彼女は、まさにワンダーウーマンそのものでした。

ホステス業を経て、介護事業経営者となり、今では複数の介護事業所を展開するまでに至った成功の秘訣として、彼女自身の「人の懐に入り込む上手さ」というスキルがあります。部下への接し方、利用者への接し方、いずれをとっても「接客」の延長と考えていた彼女には、ホステス業から得た「顧客満足度を上げるコツ」があったのです。

 

本能的な顧客分析術

 

「若手ナンバーワンの座も、一年経てば後輩に奪われるのが常」とされる水商売の世界。「私の持ち味はなに?どうすればお客様が付いてくれるの?」そう自問自答し、導き出した方法は、「顧客のタイプや特徴を書き出し、それぞれに合わせた対応をすること」でした。

顧客の来店目的は様々で、個性や考え方もそれぞれ異なります。彼らをリピーターにするためには何が必要か、それは「もう一度会いたい」と思わせることでした。そのためにも、顧客のパーソナリティを分析し、ある程度パターン化し、自身で集めたデータ結果の統計に沿って対応をしました。

この話を聞いた時、思わず彼女に「DiSC理論、知ってたの?」と尋ねました。答えはもちろん「NO」でした。

 

DiSC理論とは

 

冒頭で登場した、ウィリアム・ムートン・マーストン(William Moulton Marston)博士が提唱した、人の行動特性を4つに分類し、それぞれの行動パターンや性格を分析したものが「DiSC理論」です。それぞれのタイプを理解することで、自分とは異なるタイプの相手との衝突を防ぎ、意思疎通を容易にすることができます。

以下が4つの分類です。

D(Dominance)・・・主導型
i(influence)・・・感化型
S(Steadiness)・・・安定型
C(conscientiousness)・・・慎重型

主な特徴として、主導型は「直接的で成果主義、意思が強く強引」、感化型は「社交的で楽観主義、熱意が強く活発」、安定型は「順応的で安定主義、忍耐強く協調性がある」、慎重型は「分析的で完璧主義、緻密で合理性を求める」という傾向にあります。

それぞれのタイプに対する対応の仕方を、業務での指示に置き換えてみると、

主導型
大きな仕事や高めの目標を設定し、細かな指示はせずに一任する。
改善意識が高いため、ミスについては自ら考えさせる。

感化型
プロジェクト等における本人への期待を伝え、モチベーションを上げさせる。
無関心を嫌うので、コミュニケーションを重視する。

安定型
詳細な作業工程を説明し、漠然とした指示や業務の丸投げをしない。
調和のとれた環境下で能力を発揮するので、相談体制を確保しておく。

慎重型
具体例やデータを基準に指示をし、業務の全体像や目的を明確に示す。
完璧主義の傾向にあるため、メリット・デメリットや合理性について疎かにしないようにする。

このようになります。それぞれの行動特性に合わせた対応をすることで、効率的な指示や指導が可能となり、部下の仕事に対する取り組み方も変わっていくはずです。

 

組織で本当に必要なリーダー像

 

業種や職種によって、指揮命令はトップダウンの方がスムーズな場合や、逆に、エンドユーザー目線が必要な場合はボトムアップで意見を吸い上げ検討する、など組織をまとめる上では、一概に、どの方法が部下の掌握に最適だとは言い切れません。

社長・上司と部下の関係性は、スポーツの世界における、監督・コーチと選手の関係に似ています。さらに、「経営とスポーツの共通点」においても似ている側面があり、どちらも「良い成績を出すために、いかに効率的な練習(作業)を行うか。そして、いかに的確に結果に結びつけるか」という点です。

スポーツメンタルコーチの鈴木颯人氏の著書「最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす」では、「トップダウンでもボトムアップでもない、新しいリーダーシップ」について紹介されています。年齢的にも肉体的にも限りのあるスポーツの世界で、選手に最大限の結果を出させるためには、いかに監督やコーチの「リーダーの役割の認識」が重要であるかが記されています。

”多くの人が「リーダーとはこうあるべき」という理想像を描き、指示命令して人を動かそうとして現実とのギャップに苦しんでいます”

この一文は、企業におけるリーダーたちに通じるものです。筆者の顧問先の社長面々も、経営戦略やマネジメントにとても長けているにも関わらず、従業員の離職率が高く、慢性的な労働者不足に悩まされている会社が多いのです。

経営者として優秀であることが、イコール部下から必要とされるリーダーではないとすれば、「本当に必要なリーダー」とはどういった人なのでしょうか。

 

自分とのギャップが相手との関係性に溝をつくる

 

過去に1万人以上のコーチや監督、アスリートたちにコーチングをしてきた鈴木氏は、

”人間関係の悩みの根本は「自分と相手との違い」にある”

と感じたそうです。

また、

”誰もが「自分が考えていることを相手も考えていて当然だ」と思い込みがちです。しかし、相手の真意を知らないまま(あるいは知ろうとせず)自分の考えを伝えることは、相手に関心がないのと同じこと”

”「ギャップとは個性」…そう捉えることができるリーダーは、メンバーの潜在能力を引き出すことができます一方で、ギャップを「違い」と捉えているリーダーにとって、メンバーの存在は大きなストレスにしかなりません。”

とも述べられています。

このように、鈴木氏が考える「スポーツ界におけるリーダー像」は、「企業におけるリーダー像」としても、ダイレクトに落とし込める部分が多いのではないでしょうか。

 

部下の「本音」から成長を引き出すには

 

前述のワンダーウーマンこと介護事業会社の社長は、人間関係が上手くいっていない部下の存在を知ると、個別に食事へ誘い、社員同士のトラブルの原因や仕事に対する本音を探ります。そしてトラブルの相手も含めてDiSC判断をします。そこには「お互いに考えるビジョンは同じなのに、なぜ伝わらないのだろう」という疑問の答えがあるからです。

また、衝突しやすいタイプ同士を別々のチームに分割したり、チームのリーダーを集めてDiSC理論を説明し、個々の属性に合わせた教育や指導をするよう努めました。
その結果、ここ数年の離職はほぼゼロでした。

離職率の高い介護業界において、ここまで円滑な人間関係を構築できたのは、社長自身の個人的な能力や人柄もありますが、なにより、部下と接する際に「どんな特徴の人で、どんな指導方法が一番伝わるのか」を分析し続けた結果だと、10年間ともに歩んできた筆者は確信しています。

 

おわりに

 

労働集約型産業に代表される、介護業、飲食業、建設業といった多くの労働力を必要とする業種にとって、労働者の成長は業績に直結します。また、労働者頼りとなる部分も大きいゆえ、相対的には優秀な人材(のタマゴ)が集まりやすい業種とも言えます。

メンタルコーチ鈴木氏の思うリーダーの役割とは、以下のものです。

リーダーの最終的なゴールは、「メンバー一人ひとりに自立してもらうこと」”

”命令なしでも活き活きと働くメンバーの姿を見て、リーダー自身のやる気も高まっていることでしょう”

部下一人ひとりが次に必要な作業を見つけ、行動を起こすことができれば、組織全体のパフォーマンスも自然と上がるということです。

もし、苦手な部下、すれ違い気味な部下がいる場合、行動パターンや性格を分析した上で、その人の土俵に立って言葉を伝えてみませんか。社内の雰囲気が変わり、業務効率もグンと上がるでしょう。