ビジネスとスポーツ、それぞれの分野におけるリーダーシップには多くの共通項が見られます。従来のリーダーシップが限界に来ているといわれる現在、チームマネジメントの手法もアップデートが必要です。
ビジネスに限らず、スポーツ分野のマネジメントにも意識を向けることで、新たな気付きが得られることもあるでしょう。
本記事では、現代の企業に求められる新しいリーダーシップのあり方を、ビジネスとスポーツの両分野に共通する要素を交えて解説します。
目次
支配型のリーダーシップは限界に来ている
ビジネスの分野では、以前より上司がトップダウンで指示を出す支配型リーダーシップが限界に来ていると考えられていました。
そして、それはスポーツの分野でも同様です。スポーツチームは上下関係が厳しいというイメージもありますが、現在では監督、コーチ、選手の相互コミュニケーションが重視される傾向にあります。
支配型が時代に即さない理由
支配型リーダーシップが時代に即さないとされる理由は主に以下の2点です。
- メンバーが指示待ちになり、長期的な人材育成には向かない
- 新しい考えを取り入れにくく、時代の変化に対応できない
さらに、現代では価値観の多様化や対処すべき情報の多さなどから、リーダー1人が意思決定をするリスクも高まっています。また、カリスマ性によってチームを引っ張るという構図そのものが、自主性を重んじる若い世代には古い慣習として感じられるでしょう。
スポーツの分野においても、近年では支配型リーダーシップのリスクが強く懸念されています。実際に、指導者による支配的立場からのハラスメントや、指導者と選手のコミュニケーション不全が原因と思われるトラブルは後を絶ちません。
ビジネスとスポーツどちらの分野でも、近年において重視されているのはリーダーとメンバーの相互コミュニケーションです。
チームの成果を最大化するためにも、リーダーがメンバーを支配するのではなく、リーダーがメンバーの自主性を育むリーダーシップが求められています。
スポーツやビジネスで求められる新しいリーダーシップのタイプ
従来の支配型リーダーシップに代わり、現在ではリーダーとメンバーの相互コミュニケーションを重視したリーダーシップが主流です。このような新しいリーダーシップの形は、社員の働く姿勢や行動変容を促すことに貢献します。
ここでは、ビジネスやスポーツの現場で注目されているリーダーシップのスタイルを4つ解説します。
サーバントリーダーシップ
サーバントリーダーシップとは、リーダーがメンバーのサポート役を担うリーダーシップのあり方です。
従来の支配型リーダーシップではリーダーによるトップダウンの指示で目標の達成を目指すのに対し、サーバントリーダーシップでは、リーダーがメンバーに対して行う奉仕・支援活動を通じて、コミュニケーションやモチベーションアップ、個人とチーム全体の成果を高めることを目指します。
サーバントシーダーシップは、課題解決に時間がかかったり社員によってはマッチせず停滞を引き起こしたりするリスクがデメリットとして挙げられますが、将来的な個人の成長、チームの成長を見据えた場合は有効な手段です。
近年ではビジネス、スポーツ両分野でもサーバントリーダーシップが注目されています。
変革型リーダーシップ
変革型リーダーシップとは、リーダーがメンバーのマインドに働きかけて新たな価値観を提示し、行動の変容を促すリーダーシップのことです。
古い慣習から脱却し、チームや組織を大きく前進させなければならない場面では、変革型リーダーシップが有効と考えられています。
ここ数年、ビジネスとスポーツ両分野を取り巻く環境は、従来と比較にならない速さで変化してきました。時代の変化に取り残されないためには、企業もスポーツチームも変化する環境に柔軟に対応していかなければなりません。
組織を時代の変化に対応させるためには、メンバーが持つ古い固定観念の払拭が必要です。変革型リーダーシップでは、リーダーの明確なビジョンとそれを伝えるプレゼン能力、そして周囲を巻き込むコミュニケーション能力によってメンバーの意識改革を実行します。
オーセンティックリーダーシップ
オーセンティックリーダーシップとは、リーダー自身の考えや価値観に基づいて発揮されるリーダーシップのことです。オーセンティック(authentic)とは、日本語で「本物・真正・確実」などと訳されます。
他の誰かを真似るのではなく、自分らしさの中にスタイルを求めることが、オーセンティックリーダーシップの大きな特長です。
自分らしさには自身のウィークポイントも含まれます。リーダーがありのままの自分をさらけ出し、チームメンバーとの誠実なコミュニケーションを通じて信頼関係を築くことが、オーセンティックリーダーシップの本質です。
さまざまな情報が溢れ、価値観も多様化している現代社会において、リーダーの独断による意思決定には大きなリスクが伴います。
オーセンティックリーダーシップにより良好なチームワークを構築できていれば、メンバーが主体的にリーダーに協力するようになり、チームにとってより良い意思決定が下せるようになるでしょう。
セキュアベースリーダーシップ
セキュアベースリーダーシップとは、メンバーが失敗を恐れずにチャレンジできる環境を提供するリーダーシップのことです。この場合、リーダーが組織内における安全基地(セキュアベース)の役割を担います。
人を大きく成長させるのは成功体験ではなく失敗体験です。プロ野球の名監督として知られる故野村克也氏は、自書の中で「失敗と書いて『せいちょう』と読む」という名言を残しています。
ビジネスにおいてもスポーツにおいても、失敗から成長のきっかけをつかむことは珍しいことではありません。
しかし、失敗に対する不安を自身の精神力だけで払拭することは困難です。リーダーがリスクを保障すれば、失敗を恐れて消極的になってしまうメンバーでも積極的なチャレンジができるようになるでしょう。
スポーツとビジネスに共通するリーダーシップの要素
スポーツとビジネスは、どちらもリーダーシップによるチームマネジメントが成功を収めるためのポイントになります。
そして、分野は違ってもリーダーシップに対する考え方には共通する点も少なくありません。ここではスポーツとビジネスそれぞれのリーダーシップに共通する要素を解説します。
メンバーの適性や能力を正しく把握する
リーダーシップの基盤は、メンバーの適正や能力を正確に理解することです。メンバーの能力や個性を把握できていなければ、そのパフォーマンスを適切に引き出すことはできません。
リーダーが個々のメンバーの強みや弱みを理解し、人員配置や指示を行うことで、チームとしても成果を得やすくなります。
スポーツにおいては、監督やコーチが各選手の身体的・精神的特性を把握し、それぞれをチーム方針とすり合わせながら適切な練習メニューを組んだり、試合での起用方法を考えたりすることが一般的です。
ビジネスにおいても、メンバーのスキルや経験を正しく評価し、適切な役割分担を行うことでチーム全体のパフォーマンスが向上します。
適切な目標設定をする
目標設定はメンバーのモチベーションを高めるためにも重要な要素です。ここでは目標設定に関する有名な理論である、エドウィン・ロックの「目標設定理論」を紹介します。
ロックは「モチベーションを高めるためには目標設定が重要である」という考えのもと、目標設定とモチベーションには以下のような関連があると結論付けました。
- 課題遂行のためには目標設定が必要である
- 具体的かつ困難な目標を設定するほど、高いパフォーマンスを引き出せる
- 他人に決められた目標よりも、自分で決めた目標の方が高いパフォーマンスを発揮する
- 目標設定を有効活用するためには、目標コミットメント(目標を達成しようとする意志)が必要である
スポーツにおいては、「全国大会に出場する」「大会でベスト3に入る」といった具体的な目標設定を掲げているチームが多く見られます。しかし、実現性が低い目標では目標設定の意味を成しません。
選手のモチベーションを高めるためには、現状の実力から可能な限りの努力によって達成できる目標を掲げることが大切です。
また、ビジネスでは目標管理制度(MBO)が広く普及しています。目標管理制度では、上司が設定する目標以外にも、本人が自ら考えた目標を設定することが一般的です。
これは「自分で決めた目標の方が高いパフォーマンスを発揮する」とする目標設定理論に基づいています。
目標・結果にこだわる
リーダーに課せられる重大な使命は結果を出すことです。もちろん、チームの将来的な成長を考えた場合、結果に至るまでの過程も軽視することはできません。しかし、最終的なリーダーの評価やチームの評価を決めるのは結果です。
特にビジネスでは結果に対して厳しい評価が下されます。企業の多くは営利組織であり、厳しい競争社会の中で生き残るためにも、リーダーは常にチームのパフォーマンスを最大化する方法を考えなければなりません。
スポーツの場合、プロチームであればビジネスと同様に結果がチーム運営に大きな影響を及ぼします。営利団体である以上、やはり結果が全てです。なお、アマチュアスポーツでは「結果が全てではない」とする考え方もあるでしょう。
しかし、適度な目標設定とそれを達成するための努力を促すことで、スポーツ活動をより充実したものにできます。
メンバー(社員)を信頼する
リーダーシップで重要視される相互コミュニケーションを実践するためには、リーダーとメンバーの信頼関係が不可欠です。強い信頼関係はパフォーマンス向上にもつながります。
実際に現場で行動するのは、ビジネスであれば社員、スポーツであれば選手です。リーダーは、自分の思いのままメンバーを操るのではなく、お互いの信頼関係を築いた上でプレイヤーが活き活きと活動できる環境を提供しましょう。
さまざまなプレッシャーと向き合う
ビジネスにおいてもスポーツにおいても、リーダーにはあらゆる困難やさまざまなプレッシャーに対して冷静に対処する能力も求められます。
チームを運営する以上、全てのことが予定どおりに進むとは限りません。不測の事態により、想定した結果に至らず外部から非難されることもあるでしょう。
たとえ非難の声に晒されたとしても、リーダーには自らの信念を貫く強い意志が求められます。外部からのプレッシャーで簡単にチームの方針を変えてしまっては、メンバーとの信頼関係を築くことができないためです。
もちろん、ビジネスやプロスポーツは多くの利害関係者との関係の中で成り立っているため、外部の意見を簡単に無視することはできません。チーム方針と各方面への利害を調整し、チームを成功に導いていくこともリーダーの役割です。
状況にあわせて意思決定する
リーダーに状況判断能力が求められるのは、ビジネスもスポーツも同じです。リーダーは常に状況を見極め、その場面で適切な意思決定を行わなければなりません。
スポーツの試合では、そのときの状況や相手チームの戦術に応じてチームの戦略を臨機応変に変更する必要があります。また、状況によってはリーダーが指示を徹底した方が良い場面もあれば、選手の直感やひらめきに任せた方が良い場面もあるでしょう。
このような判断も含め、状況を冷静に分析して判断を下すことがリーダーの役割です。
同じくビジネスでも、リーダーが変動する市場や環境に合わせて戦略を調整し、成功への道を切り開くことが求められます。常にリーダーシップを発揮するためにも、普段からあらゆる状況を想定し、マネジメントの引き出しを増やしておきましょう。
リーダーシップに正解はない
ここまで現代のリーダーシップについて解説してきましたが、忘れてはならないことは「リーダーシップに絶対の正解はない」ということです。
リーダーシップは古くから研究が続けられており、その時代ごとに新たなリーダーシップのあり方が提唱されてきました。時代や環境が変われば、求められるリーダー像も変わるということです。
またリーダー本人の特性や、チームや組織が置かれている状況によっても適したリーダーシップは異なります。
記事の冒頭で支配型リーダーシップは時代に即さないと述べましたが、状況によってはトップダウンで強引に組織を引っ張ることが、状況の打開につながる場合もあるでしょう。
大事なことは、状況に合わせてリーダーシップを適切に使い分けることです。特定のスタイルにこだわり過ぎると、時代の変化に対応できずにチームが硬直してしまいます。リーダーシップへの理解を深め、状況に対して柔軟に対応できるスキルを磨いていきましょう。
スポーツやビジネスに欠かせない新しいリーダーシップを理解しよう
人々の価値観は時代とともに変化しており、それに伴って求められるリーダーシップも変化してきました。かつての常識が現在でも通用するとは限りません。組織やチームのリーダーは、現代の価値観に合わせて自身のリーダーシップをアップグレードしていきましょう。
また、スポーツとビジネスでは、分野は異なってもリーダーシップに対する考え方には共通点が多く見られます。リーダーシップに新たな視点が求められる現在、チーム運営に迷ったときは、他分野の指導者のリーダーシップを参考にするのも良いでしょう。
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