研修を実施する際は、セミナー代だけでなく、従業員の宿泊費などさまざまな費用が発生します。
これらの費用は、一体どのような勘定科目で仕訳するべきなのでしょうか。
本記事では、研修の際の費用を経費計上できる「研修採用費」という勘定科目について深掘りしていきます。
ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
研修採用費とは何?
研修採用費は勘定科目の一つで、従業員の研修や教育にかかった費用を指します。
ただし法律上の明記が存在しないため、各企業によって勘定科目の取り扱いが異なるのが実態です。
一般的には、従業員のセミナー・講習会の参加の際に、経費計上できます。
また、オンラインレッスンや書籍購入の費用でも経費計上できる可能性が高いです。
なお、研修採用費と似た勘定科目に「研修費」と「採用教育費」が挙げられます。
研修費・採用教育費との違い
まず研修費に関しては、正直なところ、研修採用費との大きな違いはありません。
どちらも同じような勘定科目として使うことができます。
一方で採用教育費は、研修採用費とは異なるもののため、注意が必要です。
採用教育費は従業員の教育だけでなく、採用の際に発生する費用も経費計上できます。
そのため、研修採用費で計上できる費用は、基本的に採用教育費でも経費計上できます。
なお、研修採用費では、採用に関する費用を経費計上することはできません。
採用教育費に研修採用費も含まれる、というようなイメージです。
いずれの勘定科目も、一度仕訳したら、その後も同じ費用に関しては同じ勘定科目を利用するのがベターです。
研修採用費に含まれる経費
研修採用費に含まれる経費としては、以下の4つが挙げられます。
- 業務に直結するセミナー代
- セミナー参加のための宿泊費・交通費
- 研修イベントを開催するための会場費
- 研修講師の謝礼・交通費・宿泊費
それぞれ詳しくみていきましょう。
業務に直結するセミナー代
業務内容に直結するセミナーの費用は、研修採用費として経費計上が可能です。
ただし注意点として「業務内容に直結する」セミナーが対象となっている点が挙げられます。
もし業務内容に直結しないセミナーの場合は、研修採用費ではなく福利厚生費として経費計上するのが無難です。
例えばエンジニア職の従業員に対して、業務で利用するプログラミング言語の研修を実施する際の費用は、研修採用費で経費計上できるでしょう。
その一方で、海外進出する予定がないのに英会話教室を実施する場合は、研修採用費に経費計上しない方がいいです。
この場合は「スキルアップの福利厚生の一環」ということで、福利厚生費で経費計上した方が無難と言えます。
セミナー参加のための宿泊費・交通費
業務に直結するセミナー参加のための宿泊費・交通費も、研修採用費として経費計上可能です。
もちろん、これらの費用は「旅費交通費」として経費計上可能ではあります。
しかし使用目的が曖昧になりがちな旅費交通費よりも、研修のための費用だとわかる研修採用費の方が、税務上の観点からもわかりやすいでしょう。
とはいえ、これについては人によって感覚が異なるため、担当の税理士とよく相談しましょう。
また、セミナー参加のためにリゾートホテルに泊まったり、ファーストクラスの座席に乗ったりするのは経費として認められない可能性があります。
あくまでも常識の範囲内で経費計上しましょう。
研修イベントを開催するための会場費
研修イベントを開催するための会場費も、研修採用費として経費計上できます。
一口に研修と言っても、その開催方法は実にさまざまです。
オンライン開催の場合もあれば、実際に会場を押さえて大々的に開催する場合もあるでしょう。
特に、会場で研修イベントを開催する場合は、その会場費を研修採用費として計上可能です。
宿泊費や交通費と同様に研修採用費として計上した方が、使用目的が明確になります。
研修講師の謝礼・交通費・宿泊費
研修講師を外注する場合は、謝礼、交通費、宿泊費を研修採用費として経費計上可能です。
ただしこちらも、常識的な範囲で経費計上した方がいいでしょう。
リゾートホテルやファーストクラスを利用したり、謝礼が相場を遥かに上回るものだったりすると、経費計上が認められない場合があります。
研修採用費を経費計上できないケース
研修採用費を経費計上できないケースとしては、以下の3つが挙げられます。
- 業務に関係ない研修費用
- 常識的な範囲を超過している場合
- 著名講師の接待で発生した交際費
それぞれ詳しく解説していきます。
業務に関係ない研修費用
先ほども述べた通り、研修採用費とは「業務に直結する研修に関する費用」を指します。
そのため、業務に直結しない研修なのであれば、研修採用費として経費計上しない方がいいです。
一方で、業務に直結しない研修が、必ずしも経費計上できないわけでありません。
例えば自己啓発系のセミナーであれば、福利厚生費として経費計上できる可能性があります。
その一方で、自社とは全く関係ないセミナー(料理教室など)は、福利厚生費として経費計上しづらいでしょう。
ただし法律で明確に定められているわけではないので、この点に関しては税理士の方々と相談するのが良さそうです。
常識的な範囲を超過している場合
研修はあくまでも従業員を育成するための取り組みです。
この範囲をオーバーしている費用は、経費計上できません。
例えば従業員が研修のために高級ホテルに宿泊するのは、常識的な範囲を逸脱しているでしょう。
また、明らかに相場を大きく上回る謝礼を講師の方に支払うのも問題です。
これらの経費計上は、場合によっては脱税の疑いを持たれることがあります。
例えば高額な謝礼については「社内の人と謝礼を共有する」という想像ができなくもありません。
この場合は研修採用費に限らず、あらゆる勘定科目を持ってしても、経費計上しない方が賢明です。
著名講師の接待で発生した交際費
企業の研修となると、政治家経験や大企業の社長経験のある方を講師として招くことがあるかもしれません。
その際に発生した接待費用は、研修採用費として経費計上しない方が良いでしょう。
例えば、著名講師の弁当代や食事代の立て替えなどは、飲食費という形で研修採用費として経費計上可能だと考えられます。
その一方で、自社の役員を交えた飲み会などの接待は、一般的な食事と乖離しているため、交際費として判定した方がいいでしょう。
ただしこのケースも、法律で明確に定義されているわけではなく、あくまでも自社判断となります。
経理担当や税理士の方にしっかり確認しましょう。
研修採用費を経費計上する際のポイント
研修採用費を経費計上する際のポイントは以下の5つです。
- 勘定科目を統一する
- グレーゾーンを攻めない
- 前払費用の振替を忘れない
- 経費計上できない場合は給与になる
- 研修採用費に上限はない
それぞれ解説していきます。
勘定科目を統一する
研修採用費に近い勘定科目として研修費や採用教育費が挙げられます。
これらの勘定科目をごちゃごちゃにして仕訳してしまうと、非常にわかりづらい仕訳帳になってしまうため、一度使った勘定科目で統一することをおすすめします。
例えば研修と採用を明確に分けたいのであれば、研修採用費と採用教育費に分けるのが無難です。
一般的に、ホワイトな仕訳帳を作成したいのであれば、勘定科目を細かく分けた方がいいとされています。
また、最も悩ましいのは、旅費交通費などの他の勘定科目と被ってしまう点でしょう。
ただしこの場合も、使用目的に応じて勘定科目を統一すべきです。
これがごちゃごちゃになると、税務調査で指摘される可能性があります。
筆者がおすすめなのは、補助科目を利用することです。
補助科目を利用すれば「旅費交通費(研修目的)」というように、使用目的を追記できます。
少々手間がかかるかもしれませんが、こちらの方が健全です。
グレーゾーンを攻めない
研修採用費に限った話ではありませんが、グレーゾーンを攻めない方が無難です。
例えば自社に来訪した講師の方が、研修以外の目的で現地でたくさん遊んだ場合、その費用を経費計上するのはグレーゾーンに該当します。
また、講師の方に対する謝礼を現金で支給するのも、税務上の観点で非常に怪しい行為なので、可能な限り控えた方がいいでしょう。
銀行口座での振り込みを利用するのが無難です。
それに合わせて、講師の方に大量の謝礼を支給する場合も注意してください。
自社幹部と繋がっている場合は、横流しされる可能性があります。
とにかく、グレーゾーンを攻めるとあらゆる観点で怪しまれるので、税務調査が頻繁に実施されるようになります。
ホワイトな仕訳を心がけましょう。
前払費用の振替を忘れない
年度をまたぐほどの長期的な研修の場合は、前払費用の振替を忘れないようにしましょう。
脱税で最も多い事例の1つが、期ずれを利用した利益操作です。
税務署も年度をまたいだ取引については念入りに確認することが多いので、振替はホワイトな形で実施した方がいいでしょう。
経費計上できない場合は給与になる
もし研修採用費が税務上の観点で経費計上できない場合、従業員に対して「給与」という形で還元することになります。
この場合、給与が増えることで所得税の税率が変動する可能性があるので注意が必要です。
また「経費計上できない」という状況は、従業員とのトラブルになる可能性があります。
経費計上できるものとできないものを事前に明確にしておいた方がいいでしょう。
研修採用費に上限はない
研修採用費に上限は存在しません。どんなに高額なセミナー代でも、研修採用費として経費計上可能です。
また、設備投資のように資産として計上されることもなく、減価償却をする必要がありません。
ただし、見方を変えると、高額なセミナー代は脱税にも応用しやすいということです。
あらかじめ超高額なセミナー代を支給しておいて、利益操作し、来期で回収するというケースも十分に考えられます。
だからこそ、よりホワイトな仕訳を意識すべきでしょう。
従業員に研修採用費を負担させられるのか?
新入社員の研修や中堅社員のスキルアップなど、研修はさまざまな目的で実施されます。
一方で、従業員が主体的に研修に参加するケースも考えられます。
この場合でも、企業が研修採用費を全額負担しなければならないのでしょうか。
ここでは、研修採用費における負担割合について紹介していきます。
強制参加の場合は企業が全額負担する
まず、自社が設けた研修に従業員を強制参加させる場合は、企業が費用を全額負担するのが無難です。
また、従業員が研修を受けている間の賃金は、特別な理由がない限り、普段通りの賃金を支給します。
なお、企業側が強制を強いていなくても、社内の雰囲気などで事実上の強制となっている場合も、やはり企業が全額負担した方がいいでしょう。
任意参加の場合は従業員に負担させられる
強制参加ではなく任意参加の場合は、必ずしも企業が費用を全額負担する必要はありません。従業員に負担させることも可能です。
この際、どちらかが全額負担するのではなく、企業が費用を一部負担するということもできます。
この場合、あらかじめどのように費用を負担するのかを事前に決めておくのがいいでしょう。
できることなら、入社時点で明確にしておくのが好ましいです。
ここでもしトラブルになってしまうと、時間もお金も失われることになってしまいます。
全額企業負担は自社のアピールになる
一方で、研修に関する費用を全額企業負担することは、自社のアピールに繋がります。
例えば「英会話教室を企業が全額負担」すれば、キャリアアップに意欲的な人材が自社に応募してくるかもしれません。
実際に筆者も就職活動していた際は、キャリアアップのための研修を自由に受けられるかどうかを重視していました。
やはり、企業を成長させるためには、ヒトを成長させることが必要不可欠です。
もちろん、業務と全く関係のない研修を実施しても意味がありませんが、可能な限り研修の費用を負担した方が、人材育成に繋がっていくかもしれません。
まとめ
それでは本記事をまとめていきます。
- 研修採用費は勘定科目のひとつで、従業員の研修に関わる費用のことを指す
- セミナー代だけでなく、従業員の飲食費・宿泊費や、会場費も研修採用費として経費計上可能
- 研修に関する費用を経費計上する際は、使用目的に合わせて勘定科目を統一させた方がいい
研修に関する費用は、さまざまな勘定科目で経費計上することができます。本当に、解釈次第です。
そのため、自社の経理部の中でやりやすいやり方で経費計上するのがいいでしょう。
ただし、前年とは異なる勘定科目を利用することは避けた方がいいです。
どうしても勘定科目を変更したい場合は、税理士の方とよく相談するといいでしょう。