かつて出世は、ほとんどすべてのビジネスパーソンの絶対的な目標でした。出世することは名誉なことであり、出世しないことは落ちこぼれを意味していました。
しかし現代は、価値観の多様化やライフスタイルの変化により、出世を望まない人どころか、出世を否定的に考える人も現れ始めました。
出世してもメリットが少なく、責任が増えるだけだと考えるからです。
価値観の変化を否定することはできませんが、それでもなお出世を望まない人も、管理職になりたくないと考えるデメリットについては、知っておいたほうがいいかも知れません。
多くの企業では、ベテラン社員にはやはり、管理業務を務めてほしいと考える傾向があるからです。また、例えば、いつか会社員を辞めて起業やフリーランスになることを考えている人にとっては、管理職の仕事はマネージメントの訓練として、かけがえのない経験となるでしょう。
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目次
管理職になりたがらない人は相当いる
内閣府男女共同参画局によると、課長以上への昇進を希望している人は、男性一般従業員は5~6割、女性一般従業員は1割にとどまります[1]。
なぜこれほど、出世や管理職への昇進が敬遠されるようになったのでしょうか。
管理職になりたくない理由
管理職になりたくない理由は以下のとおりでした。
- 男性一般従業員(労働者300人以上企業):
1位「メリットがない(41.2%)」、2位「責任が重くなる(30.2%)」、3位「自分には能力がない(27.6%)」
- 女性一般従業員(労働者300人以上企業):
1位「仕事と家庭の両立が困難(40.0%)」、2位「責任が重くなる(30.4%)」、3位「自分には能力がない(26.0%)」
男性一般従業員の4割もの人が、管理職になることにメリットを感じていませんでした。これは不思議な現象といえます。なぜ管理職を経験したことがない人が、管理職にメリットがないことを知っているのでしょうか。
自身で管理職を経験してみたうえでメリットがないと感じるのではなく、管理職になる前から管理職への昇進を嫌がっているのです。自分の職場の管理職の働き方を観察して、メリットがないとみなしたのかも知れません。
男性も女性も、理由の2位は責任が重くなる、でした。「管理職=責任が重い」と考えているわけです。責任の重さというデメリットを負わされながら、男性はメリットがないと感じ、女性は家庭を犠牲にする価値はないと考えています。
そして男性も女性も、理由の3位は自分には管理職になる能力がない、でした。「管理職=高い能力が必要」と考えているわけです。
管理職になったあとに何があるのか
確かに現代は、管理職になるメリットを感じづらい時代ではあります。政府が強力に推し進める働き方改革は、労働の生産性を上げて労働者の労働時間を減らす内容です。生産性を上げるだけでも大変なことなのに、それを労働時間を減らしながら達成しなければなりません。この難事業に取り組むのは管理職です。
また、年功序列型賃金どころか終身雇用すら危うい現代において、出世して管理職になったあとに何があるのでしょうか。管理職になったからといって安定すら望めません。
そして様々なクラウドワーキングによって、起業もフリーランスになることも簡単になりました。管理職になって会社にしがみつく必要はありません。
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管理職にならないデメリットは多い
管理職になるデメリットについて考えれば考えるほど、管理職になることは損ばかりのような気がしてきます。では、本当に管理職になることはデメリットばかりなのでしょうか。
先ほど、管理職になりたくない人は「管理職=責任が重い」「管理職=高い能力が必要」と考えていることを確認しました。
管理職の仕事を遂行するのに、重い責任と高い能力が必要ということです。そしてこれは、管理職の仕事の価値の高さを意味しています。
つまり管理職にならないことの最大のデメリットは、価値の高い仕事ができないことであるといえるでしょう。
価値の高い仕事を任されないことが、ビジネスパーソンにとってどれほどの痛手になるのかみていきましょう。
年功報酬すら減らされる可能性がある
人事サービスのセレクションアンドバリエーションの代表取締役、平康慶浩氏は、日経スタイルへの寄稿文で、ビジネスパーソンの給与の額は、次の4つで構成されていると指摘しています[2][3]。
・成長報酬・市場報酬・相対報酬・年功報酬
成長報酬とは、成長した社員に支給されるお金です。
市場報酬は、収益性が高い市場でプレイしている社員へのお金です。
相対報酬は、能力が低い人より高い人のほうが給料が多くなる仕組みです。
年功報酬は、若い人より高年齢者のほうが給料が多くなる仕組みです。
管理職にならない選択をすると、理論上は年功報酬しかもらえなくなります。
なぜ管理職にならない人は、成長報酬がもらえないのでしょうか。それは、管理職になることが成長の評価の裏返しだからです。
なぜ市場報酬がもらえないのでしょうか。企業は、管理職を目指さないような成長志向がない社員を成長市場の担当にしないからです。
なぜ相対報酬がもらえないのでしょうか。企業は、管理職が務まらない能力の低い人に給料を支払いたくないと考えるからです。
そして年功報酬すら危うくなるでしょう。それは、企業が年功報酬を減らそうとしているからです。なぜ年齢が上がるだけで管理業務もこなせないのに給料だけ上がるのか、という疑問と不満は、経営者も若い社員も持っています。
つまり管理職にならないことは給料を減らすことを意味します。
平康氏は、報酬は企業から社員に宛てたメッセージであり、企業の価値観そのものであると指摘しています。年功序列型賃金(年功報酬)の額を減らすのは、企業が年功に価値を置いていない証拠であり、ビジネスパーソンはそれを会社からのメッセージであると考えるべきでしょう。報酬が減らされるということは、要らないといわれているのと同じです。
権限がない仕事を続けなければならない
管理職ではない者の仕事とは、権限がない仕事と言い換えることができます。ビジネスにおける権限とは、予算を決める権限、人材を割り当てる権限、事業計画を決定する権限、実行するか撤退するかの権限、再投資するかどうかの権限のことです。
管理職になることを拒んでいる人は、権限がある仕事の魅力と、ベテランになっても権限のない仕事をしなければならない悲哀を想像したことがあるでしょうか。
若いころは権限のない仕事でも「がむしゃら」に取り組むことができます。それはビジネスの最前線で闘うことが楽しいからです。上司から「私が責任を持つから、思い切って挑戦してきなさい」といわれれば気分も高揚します。がむしゃらに取り組んだ仕事で成果が出れば上司から褒められ、それも仕事の励みになります。
しかし、一般社員の仕事の成果は、管理職の成果になります。もちろんこれは、成果を横取りされているといっているわけではありません。
経営者は、高い成果を挙げているチームがあれば、必死に走り回った一般社員を褒めるとともに、そのチームを束ねた管理職を高く評価します。
なぜなら、優秀な一般社員は、せいぜい他の社員の2倍の成果を出すだけです。つまり優秀な一般社員の貢献度は「1×2」でしかありません。
ところが10人の一般社員の能力を2倍にした管理職の貢献度は「10×2」にもなります。
経営者が一般社員より管理職の給料を高く設定しているのはこのためです。
権限のない仕事は、やりがいを減らすことにもなるでしょう。
勢いや成果だけで仕事ができるのは40代前半くらいまでです。50歳が近くなると、自分のミッションや会社のミッションを考えるようになります。「自分の仕事は世の中をよくしているのだろうか」と考えるのです。
そのとき管理職になっていれば、ミッションを考えた仕事に変えていくことができます。その方針転換は、権限が大きいほど大胆に実施できます。
管理職にならないと自らプロジェクトを組み上げることすら叶いません。
起業やフリーランスの道を閉ざす
予算、人材、事業計画、事業、投資に関わることができる管理職は「プチ社長」と考えることができます。課長から次長、次長から部長へと、管理職の職位が上がるごとに本物の社長に近い動きをすることが求められます。
起業やフリーランスを目指している人にとって、社長の疑似体験ほど勉強になることはないでしょう。
管理職になれば、なぜ理不尽な人事を行うのか、なぜ無駄な投資を行うのか、がみえてきます。理不尽な人事も無駄な投資も、そうみえるだけで会社全体でみれば、または今後の経済動向を考えると、合理的な選択であることはよくあります。一般社員にはそれがみえません。なぜでしょうか。
管理職は一般社員の「上」に位置しますが、ビジネスの全体像は上からみないと見渡せないからです。
管理職の仕事は経営シミュレーションであり、起業やフリーランスを志す人はぜひとも経験しておきたいものです。
年下上司に使われるストレスは大きい
管理職にならないと、いずれ後輩が管理職に就きます。つまり管理職を拒否し続けると、年下上司を持つことになり、自分は年上部下になります。
これは大きなストレスを生むことになるでしょう。
年下の者は経験が浅く、洞察力が低く、決断があいまいで、見通しが甘いように、年上の者にはみえます。そのような者から仕事を指示され、仕事を否定されるのが、年下の上司の下で働くことです。
そして屈辱やストレスを受忍することだけがデメリットなのかと言えば、もちろんそれだけでは済みません。
年上部下が年下上司を苦手とする以上に、年下上司は年上部下を邪魔に感じます。
管理職は、自分の指示にしたがう者を部下に起きたがります。そのほうがストレスが小さいからです。管理職になると、自分のストレッサーを排除する権限を持ちます。
さらに、年下上司が年上部下から的確なアドバイスを得たとしても、あまり感謝しないでしょう。管理職としてのプライドを傷つけられたと感じる年下上司もいます。
管理職への就任を拒否し続けると、いつしか相当の年上部下になり、周囲から煙たがれる存在になってしまいます。
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まとめ 管理職になろう
出世によいイメージを持っていない人でも、管理職を目指しましょう。管理職にならないことのデメリットの多さは、管理職のメリットの大きさの裏返しです。
自分の上司を毎日みて「管理職は大変なだけ」「尊敬できる管理職がいない」と感じることがあったら、自分が管理職になって業務の効率化と生産性の向上を実現すればいいのです。
一般社員として感じている理不尽なことや不合理なことは、自分が管理職になれば改善できます。
それが達成できたとき「いい仕事ができた」と満足できます。そして満足できる仕事を続けていけば、いずれ経営を任されるかもしれません。独立開業の訓練にもなります。
利益の増大とミッションの遂行に価値を置くビジネスパーソンにとって、管理職にならない選択はあまり有望ではないと、考えてみるのはいかがでしょうか。
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参照
[1]女性は昇進を望まない?(内閣府男女共同参画局)
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h25/zentai/html/column/clm_06.html
[2]会社はどんな価値に給与を払う? 見極めるのが出世力(日経スタイル)
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO47468810Y9A710C1000000?channel=DF180320167068
[3]セレクションアンドバリエーション(セレクションアンドバリエーション)
http://www.sele-vari.co.jp/service.html