生産性向上を目指す公益財団法人「日本生産性本部」が調査・発表している「労働生産性の国際比較2021」によると、日本の時間当たり労働生産性は49.5ドル(5,086円)。
これは、G7(主要先進7カ国)のなかで最下位でした。
また、2019年4月1日から順次施行されている働き方改革法では、「長時間労働の是正」というテーマがあります。
つまり、企業の存続・成長のためには、これまでより短い時間でこれまで以上の成果を出さなければならないため、生産性を上げることが必須となるのです。
こうした課題をクリアするためには、従業員一人ひとりがモチベーション高く仕事に取り組む必要があります。
そのためにできることの一つとして、オフィス環境を改善して生産性向上を目指すことが挙げられます。
そこで本記事では、生産性を向上させるオフィス環境の作り方や、生産性とオフィス環境の関係を解説していきます。
(参考:労働生産性の国際比較丨公益財団法人 日本生産性本部)
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オフィス環境によって生産性は向上するのか?
「生産性が高いオフィス環境」と聞いてイメージするのは、GoogleやAppleといったIT企業のような、自由で雑多な雰囲気のオフィスかもしれません。
実際、Googleのオフィスではサッカーやバスケットボールができたり、ロッククライミング用の壁が併設されています。
ここまでオフィス環境を変える必要はないかもしれませんが、そもそもオフィス環境と生産性は関係があるのでしょうか?
一般社団法人日本オフィス家具協会の調査によると、「オフィス環境の善し悪しは仕事の成果をあげることに影響するか」「仕事に対するモチベーションに影響するか」という質問に対しておよそ70%の人が「そう思う」「ややそう思う」と回答していることがわかりました。
(参考:「オフィスワーカーから見た、オフィス環境ニーズのトレンド」丨一般社団法人 日本オフィス家具協会)
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上記の調査をもとに考えると、オフィス環境が悪いと仕事の成果に悪影響を及ぼしたり、仕事に対するモチベーションが下がる危険性があるということです。
雑然としたオフィスの場合、下記の3つのムダが発生してしまいます。
- モノを探す時間
- ムダなスペース
- ムダなミス
いちいち必要なモノを探すのにムダな時間がかかっていれば、それだけ生産性は低下します。
また、仕事に集中していたのにモノを探すために集中状態が中断されてしまうと、再び集中するためには時間が必要になります。
さらに、オフィスの賃料を支払っていると考えると、オフィス物品が雑然と置かれてムダなスペースが生じている場合、そのムダなスペースのためにも賃料を支払っていることになるのです。
それよりも整理整頓をすることで新たなスペースを確保し、有効活用することで生産性向上を図るべきでしょう。
オフィス環境を変えることで生産性が向上する理由
オフィス環境を変えることで生産性が向上する理由は下記の3つです。
- 従業員の業務効率が向上する
- 従業員の体調管理が可能になる
- 優秀な人材の獲得につながる
それでは一つずつ解説していきます。
従業員の業務効率が向上する
オフィス環境を改善することで上記で挙げた「3つのムダ」を無くすことができれば、その分だけ業務効率が上がります。
整理されたオフィス環境であればモノを探す時間もなくなり、集中している状態を維持したまま仕事を続けられます。また、不要なオフィス物品や書類をきちんと処分していれば、ムダなミスが生じる可能性も減るでしょう。
しかし、従業員の仕事にオフィス環境が最適化していなければ、従業員が最大限のパフォーマンスを発揮できません。
したがって、まずは自社のオフィス環境が、従業員が仕事をするにあたって最適なものかどうかを確認しましょう。
従業員の体調管理が可能になる
企業は従業員一人ひとりに支えられています。その従業員の体調が悪ければ生産性も下がるでしょう。したがって、企業にとって従業員の体調を管理することは欠かせません。
そこで、下記のようにオフィス環境を改善することによって、従業員の健康増進を図ることが重要になります。
- 空調や換気を適切に行う
- 適切な照明を用いる
- 防音対策をする
オフィス環境にありがちなのが、「夏は冷房で寒く、冬は暖房で乾燥する」といったことです。こうした空調管理は、人の自律神経を狂わせてしまうため従業員のパフォーマンスが低下してしまうのです。
人のパフォーマンスは微細な体調変化によっても大きく上下することがわかっているため、常に快適な環境を整えることが求められます。
優秀な人材の獲得につながる
誰にとっても働きやすいオフィス環境であれば、そこで働きたいと考える人が増えます。
人手不足が深刻化するなかで、オフィス環境を整えることは人材確保の手段として効果的です。
就活生は仕事内容や待遇だけではなく、オフィス環境も重視して企業を選んでいるため、オフィス環境の改善はこれから欠かせない要素となるでしょう。
また、昨今は介護や子育てと仕事を両立したり、フリーランスとして自由に働く人、また副業をする人などが増えており、働き方が多様化しています。
こうした多様化する働き方に対応できるような、柔軟性の高いオフィス環境を整えることも重要です。
多様な働き方に対応していれば、今後の人材確保や定着率の向上につながるでしょう。
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なぜアップルではオフィスの「断捨離」をするのか生産性向上につながるオフィス環境に変えるためのポイント
オフィス環境の改善は、
- スペース
- レイアウト
- オフィス家具
の3つの要素をどのように組み合わせるかによって決まります。
日本オフィス家具協会の調査によると、従業員がオフィス環境に求める快適さには下記のようなポイントを求めているとなっています。
- 気軽にコミュニケーションができるように工夫されていること
- 集中して仕事ができるように工夫されていること
- 会議やミーティングができるスペースが確保されていること
- 心身をリフレッシュできる空間が用意されていること
- 自分の身体に合ったデスクやチェアが用意されていること
従業員が必要とする快適なオフィス環境を整えるには、上記のようなポイントを意識しながらスペースやレイアウト、そしてオフィス家具を配することが求められます。
「スペース」を考えたオフィス環境
まず、「スペース」において従業員が求めるオフィス環境を整えるポイントを見ていきましょう。
執務室は従業員が主に仕事をする空間であるため、執務室の環境が悪ければ生産性も低下してしまうはずです。
したがって、執務室においては、従業員一人ひとりの執務スペースが十分に確保されているかどうかが意識するべきポイントとなります。
一方で、執務室以外で重要なスペースとなるのがリフレッシュスペースです。
一般的に人の集中力は最大でも90分、短ければ45分しかもたないとされています。したがって、長時間働き続けると生産性が低下するため、定期的に休憩できる空間が必要です。
実際に、オーストラリア・フリンダース大学の研究では、10分間の仮眠でもパフォーマンスが改善することがわかっています。
従業員が適切にリフレッシュできる空間を作ることも、生産性向上に効果的なのです。
「レイアウト」を考えたオフィス環境
オフィス環境において狭さを感じないレイアウトは重要です。
なぜなら、オフィス内で移動をする際に狭い通路を通ったり、日常的に他の人のデスクやチェアに接触するような狭さでは、お互いにとってストレスとなるためです。
このようなストレス下では高いパフォーマンスを発揮することはできません。したがって、デスクはゆとりをもって配置する必要があるでしょう。
また、フリーアドレス制のワークスペースを設置することも効果的です。フリーアドレスとは、従業員が特定の席を持たず、自由に好きな席で仕事ができる制度です。
フリーアドレス制によって普段は関わることがない人とのコミュニケーションが発生し、新たなアイデアが生まれたり、普段とは違う場所で仕事をすることで気分転換になるというメリットがあります。
しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大する昨今では、感染対策をしっかりとすることが重要です。
「ツール」を考えたオフィス環境
近年、人間工学に基づいたデスクやチェアが人気を集めています。
チェアやデスクは1日中使うものであるため、それが自分の体に合っていなければ少しずつ疲労が溜まっていき、集中力や効率に大きく影響します。
したがって、長時間座っていても疲れにくいチェアを選ぶことが重要です。
また、昨今では「座りすぎ」の健康被害が注目されているため、スタンディングデスクを導入する企業も増えています。立っている状態であれば血流が改善され、脳への酸素供給が促されるため、集中力の向上につながります。
さらに昇降機能が付いているスタンディングデスクであれば、従業員一人ひとりが自分にあった最適な高さで仕事に取り組むことが可能です。
生産性が向上しないオフィス環境の共通点
そもそも、どんなオフィス環境が「生産性が向上しないオフィス環境」なのでしょうか。それには、下記のような共通点があります。
- 物音や話し声が聞こえる
- 換気や空調が不適切
それでは一つずつ解説していきます。
物音や話し声が聞こえる
仕事中に物音や話し声が聞こえる環境では、仕事に集中することは難しいでしょう。
隣から電話の声やタイピングの音がひっきりなしに聞こえていると、気になってストレスを感じる人もいます。
さらに、近年では顧客との打ち合わせや社内会議をリモートで行うことも増えてきているため、音が漏れることがないように対策する必要があるでしょう、
換気や空調が不適切
室内の二酸化炭素濃度が集中力やパフォーマンスに悪影響を与えることが、実験によって明らかになっています。
二酸化炭素濃度が高すぎると人は集中できなくなるため、二酸化炭素濃度を下げるためにも換気をしっかり行う必要があります。
また、室温についても男性は23℃前後、女性は25~26℃ほどが最も集中しやすいということがわかっているため、換気や空調の調節などを通して、可能な限り空気と室温を適切な数値に近づけましょう。
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戦時中の「スパイの罠」と「日本の生産性が低い理由」が一致しすぎて驚かされる話「オフィスで生産性向上」はウソだった?
ここまでオフィス環境を整えることで生産性を向上させる方法について解説してきました。
確かに、狭くて空調が効いていない劣悪なオフィス環境よりも、広くて空調が効いている快適なオフィス環境のほうが生産性は向上するでしょう。
しかし、近年は新型コロナウイルスの感染拡大によってリモートワークが普及し、オフィスで働く企業が減りつつあります。そこで疑問になるのが、「本当にオフィスで仕事をすることが生産性や創造性の向上につながるか?」という点です。
実は、「オフィスのほうが生産性・創造性が向上する」という主張は、研究によって裏付けられているわけではありません。
開放的なオフィスは逆効果?
JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOは、リモートワークについて「自然にアイデアが湧き出ることはなく、企業カルチャーにもよくない」と発言しています。
では、オフィスなら良いのかと言うと、オフィスが創造性や生産性の向上につながるという証拠はほとんどありません。
むしろこれまでの研究では、一般的に良いものとされているような開放的な造りのオフィスは、コミュニケーションにマイナスの影響を与える可能性があることがわかっています。
ハーバード大学のイーサン・バーンスタイン氏が2019年に行った調査では、半個室型から仕切りのない開放的なオフィスに変えた場合、社員が顔を合わせて交流することが7割減ったことがわかりました。
オフィス内のコミュニケーションにより生産性が高まるのはウソ?
さらに、2021年6月23日のニューヨーク・タイムズによると、バーンスタイン氏はオフィスでの従業員同士のコミュニケーションは、組織に役立つことを示すデータはほとんどないとしています。
もし、オフィス環境の改善以外で生産性を高めたいのであれば、こちらの記事で生産性の意味や種類、そして生産性を向上させる方法について解説しているので、よろしければ参考にしてみてはいかがでしょうか。
参考:生産性とは?意味と定義、計算方法までをわかりやすく解説
まとめ
ここまでオフィス環境を改善することで生産性の向上につなげる方法などをみてきました。
人手不足が深刻化するなかで、生産性を向上させることが喫緊の課題となっていますが、オフィス環境は従業員のパフォーマンスに大きな影響を及ぼす可能性があります。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によってリモートワークに切り替える企業も増えており、オフィスの在り方や働き方について根本的に考え直すきっかけとなりました。
何にせよ、オフィス環境を改善することは目的ではなく手段であり、その目的は生産性を向上させることです。目的と手段を逆転させてしまわないことが重要でしょう。
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