近年、テレワークやフレックス制、時短勤務など、日本企業において多様で柔軟な働き方が広がっています。一方、以前にも増して、従業員にとっての働く意味やあり方が、問われるようにもなってきており、ワークエンゲージメントの重要性がますます高まっています。
最近よく耳にするようになったワークエンゲージメントとは一体どのようなものでしょうか。本記事では、ワークエンゲージメントの定義、必要とされている理由、ワークエンゲージメント向上が高い効果を生んでいる企業の事例を紹介します。
ワークエンゲージメントを高めることは、顧客満足や業績の向上にもつながります。より良い組織を目指すなら、ぜひ参考にしてください。
目次
ワークエンゲージメントとは
まずはワークエンゲージメントの基礎として、ワークエンゲージメントを高めるための基本的な考え方を、お伝えします。
ワークエンゲージメントの意味
ワークエンゲージメントは、誇りとやりがいを持って、いきいきと仕事に取り組むポジティブな心理状態を指します。オランダ・ユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ教授によって、提唱された概念です。
エンゲージメントは、特定の対象や出来ごと・個人・行動などに対する一時的な状態ではありません。仕事に対する、持続的で全般的な感情を指します。比較しやすい尺度として世界中で広く活用されており、厚生労働省が公開した2019年の労働経済白書でも紹介されました。
(参考:厚生労働省『平成30年度版労働経済の分析 コラム2-5ワーク・エンゲイジメントが労働者の健康・仕事のパフォーマンス等へ与える影響』)
ワークエンゲージメントの構成要素
ワークエンゲージメントとは、以下の3つの要素で構成されています。
- 仕事から活力を得ていきいきとしている(活力)
- 仕事に誇りややりがいを感じている(熱意)
- 仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)
ワークエンゲージメントを高めるためには、すべての要素を充実させる必要があります。各要素がどのような状態を意味するのか、順番に見ていきましょう。
活力(Vigor)
以下のような状態であれば、「活力(Vigor)」の要素が充実しているといえます。
- 仕事に取り組むエネルギーが高い
- 立ち直る回復力がある
- 仕事に対する惜しみない努力をいとわない
- 困難な課題に直面した時の粘り強さがある
- 仕事や課題に積極的に取り組む
熱意(Dedication)
以下の状態が、熱意(Dedication)のある状態です。
- 仕事に意味を見出せる
- 仕事に強い関心を持って熱中できる
- 誇りを持って挑戦しようという意欲がある
没頭(Absorption)
没頭(Absorption)している状態とは、以下のような状態を指します。
- 仕事にのめり込んでいる時に、幸福感や時間が早く過ぎる感覚がある
- 仕事が終わっても、仕事から離れがたい
ワークエンゲージメントと間違えられやすいビジネス用語
ワークエンゲージメントと意味を混同されやすいビジネス用語に、以下のものが挙げられます。
- ワーカホリズム
- バーンアウト
- 職務満足度
- 従業員エンゲージメント
順番に見ていきましょう。
ワーカホリズム
ワーカホリズムは、職を失うことに対する不安を回避するために、仕事をしなければならない状態のことを指します。一方、純粋に楽しいと感じながら仕事に取り組める状態が、ワークエンゲージメントです。
ワークエンゲージメントとワーカホリズムは、仕事中の活動水準が高い点で共通しています。しかし、仕事に対して抱く感情の点で異なります。ワークエンゲージメントでは仕事にポジティブな感情を寄せているのに対し、ワーカホリズムは仕事に対してネガティブな感覚を持つことが特徴です。
バーンアウト
バーンアウトは、仕事に対して過度にエネルギーを費やしていた人が、急に意欲・関心を失ってしまう状態を指します。期待する結果が得られなかった不満と疲労感から、やる気をなくしてしまうパターンです。
バーンアウトは活動意欲が下がり、仕事に対して否定的・ネガティブな感覚を持つことから、ワークエンゲージメントとは対極にあります。
職務満足感
職務満足感とは、自分の仕事に対してポジティブな感覚が生じている状態です。ワークエンゲージメントも職務満足感も、仕事に対して肯定的・ポジティブな感覚を持っているのが共通点です。しかし、職務満足感は仕事に対するマインドは高いですが業務に没頭しているわけではないので、活動水準が低い点でワークエンゲージメントとは異なります。
また、職務満足感は仕事そのものに対する考えや感情を指すのに対し、ワークエンゲージメントは仕事に取り組んでいるときの自身の感情を指す点でも違いがあります。
従業員エンゲージメント
従業員エンゲージメントとは、従業員が会社に対して抱く愛着のことです。会社への帰属意識やビジョンに対する共感・貢献意欲・職務満足などさまざまな概念を含み、明確な定義づけはありません。「従業員と会社のつながりに関する、いろいろな良いこと」というニュアンスで、使われることが多いです。
従業員エンゲージメントが高い会社では、従業員は会社に貢献するために、意欲的に仕事に取り組みます。労働生産性も高まり、企業全体の業績向上が見込めるでしょう。
世界から見たワークエンゲージメント
ワークエンゲージメントには、世界的に共通する特徴がいくつかあります。例えば、一般的には年齢が上がるほど、ワークエンゲージメントは高まります。なぜなら、エンゲージメントを高める要素である組織内での裁量や信頼関係、個人が抱える目的を達成するための自信や困難に立ち向かうための柔軟性・ストレス耐性などは、キャリアを経るほど蓄積されるからです。
共通点が多い一方で、国や文化による違いもあります。なかでも日本は、他国と比較するとワークエンゲージが低いことが特徴です。
ワークエンゲージメントを測定する3つの方法
ワークエンゲージメントを高めるには、まず現状について把握するところから始めます。ワークエンゲージメントは、決まった複数の質問による回答で測定できます。ワークエンゲージメントを把握する方法は以下の3つです。
- UWES
- MBI-GS
- OLBI
UWES (Utrecht Work Engagement Scales)
UWESは、ワークエンゲージメントの高さを直接的に測る方法です。ワークエンゲージメントを測定するために、世界中で広く使われています。「熱意・没頭・活力」の3要素の度合いを、17項目の質問を通して確かめます。
MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)
MBI-GSはワークエンゲージメントそのものではなく、対極に位置するバーンアウトを測定する方法です。具体的には従業員に対し「消耗感(疲労感)・冷笑的態度(シニシズム)・職務効力感」の3つの尺度に関する16項目の質問をし、回答により測定します。スコアが低いほど、ワークエンゲージメントが高いことを意味します。
OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)
MBI-GSと同様に、バーンアウトを測定することで、エンゲージメントを測るのがOLBIです。「疲弊・離脱」の2つのネガティブな要素を質問することで、測定します。OLBIにおける測定結果が低いことは、ワークエンゲージメントが高い状態を指します。
ワークエンゲージメント向上による3つのメリット
本項では、ワークエンゲージメントが向上した場合の、主なメリットを見ていきましょう。
- 良好なメンタルヘルス
- パフォーマンス向上につながる
- 離職の低下
以上のメリットを、順番に解説します。
良好なメンタルヘルス
ワークエンゲージメントを高めると心の健康が保たれ、ストレスが発生しにくくなります。同時にストレスからの回復力を養い、良好なメンタルヘルスの維持が見込めるでしょう。結果としてモチベーションの高い従業員が増え、組織の活性化につながります。
ストレスの発生そのものを予防する効果があるので、企業全体をストレスに強い組織へと変えられます。また、モチベーションの高い人材が育ちやすい企業文化が醸成できます。
パフォーマンス向上につながる
ワークエンゲージメントが高くなれば、積極的に自分のスキルを高める従業員が増えるでしょう。最新技術や経営技術、外国語といった、自己啓発が期待できます。
仕事に役立つ技術や知識を身に付けた従業員は、質の高いパフォーマンスを発揮するだけではありません。自分の可能性を広げるために、困難な業務にも挑戦するようになるので、企業の生産性や業績は向上します。また創造性も増し、新しい発想も出やすくなります。社員同士が良い影響を与え合い、組織全体が活性化し、顧客満足度の上昇にもつながるでしょう。
離職の低下
ワークエンゲージメントを高めることで、離職率が低下する効果が期待できます。従業員は仕事にやりがいを感じ、所属する組織に対してポジティブな考え方になれば、自然と離職率は低下するでしょう。
離職率の低下は、長期的な人材育成が実現しやすく、採用コストや教育コストを抑えることにもつながります。厚生労働省は調査によって、新入社員の入社3年後の定着率や従業員の離職率は、ワークエンゲージメントスコアと相関関係にあることを示しました。ワークエンゲージメントスコアが高い企業では従業員の定着率が高く、スコアが低い企業では離職率が高い傾向にあります。
ワークエンゲージメントを高めるために
ワークエンゲージメントを向上させる方法には、個人の資源・仕事の資源の両方を充実させることがポイントです。それぞれの方法について説明します。
個人の資源の充実
個人の資源の充実とは、心理的ストレスを軽減して、モチベーションをアップさせることです。個人の資源には、結果を出すための自信を指す自己効力感や自尊心、ポジティブ思考などが挙げられます。
個人の資源を充実させるための手段として、ジョブ・クラフティングが効果的です。ジョブ・クラフティングとは、従業員が仕事を「やらされている」ではなく「自らやっている」と主体的にとらえ直し、やりがいが持てるよう促すことです。
仕事の資源の充実
仕事の資源の充実とは、従業員が抱える仕事量的や仕事に対する精神的な負担を軽減し、モチベーションを高めることです。仕事の資源を充実させるためには、上司のフィードバックやサポート、仕事の裁量権を与える、人手不足の解消や人材育成など、従業員の負担を軽減する取り組みが求められます。仕事の資源が充実するほど、ワークエンゲージメントも高まります。
仕事の資源・個人の資源へのアプローチには密接な関係性があるので、ワークエンゲージメントの向上を望むなら仕事・個人の両方からバランスの良いアプローチが必要です。
ワークエンゲージメントの取り組み事例
高いワークエンゲージメントを誇る企業の例として、「働きがいのある企業ランキング」で例年高い評価を受けている株式会社コンカーの例と、従業員満足による業績向上を維持し続けている株式会社オリエンタルランドの事例を紹介します。
株式会社コンカーの事例
「働きがいのある会社ランキング」は専門機関GPTWにより、日本を含む世界約60ヵ国で従業員意識調査を実施・調査し、毎年を発表されています。株式会社コンカーは2022年度の「日本における働きがいのある会社」ランキングにて、5年連続で1位を獲得し、8年連続でベストカンパニー賞を受賞しました。
2021年から2022年はコロナ禍により、日本中の企業でリモートワークが推奨・実施されていました。同社はリモートワーク下でも従業員のモチベーションや生産性を維持し、エンゲージメントを強化したことが評価されています。同社は従業員の働きがいやエンゲージメントの強化を目的に、以下のような施策を企画・実施しました。
・社長主催のオンライン会議「絆ミーティング」
対面での会話が減ることでのコミュニケーション不足や、孤独感を感じることを防ぐため、隔週で30分間のオンラインミーティングを社長自らが主催。
・Work From Anywhere
従業員がそれぞれの事情に合わせて、自宅やオフィス以外の場所からでも柔軟に働ける環境を整備。その結果、ワーケーションや遠隔地への移住が可能になりました。
(参考:GPTW『2022年版 日本における「働きがいのある会社」ランキング ベスト100』)
(参考:株式会社コンカー『コンカー、「働きがいのある会社」ランキング(中規模部門)にて5年連続で1位を獲得、8年連続でベストカンパニー賞を受賞』)
株式会社オリエンタルランド
人気テーマパークを運営する同社は、従業員満足に重きをおいて、さまざまな施策により高いエンゲージメントを維持しています。従業員の評価指標を3個に絞ることで、従業員がなんのために頑張るのかをわかりやすくしたり、すべての従業員が商品やサービスに関する提案を気軽にできる「I have アイデア」を導入したりしています。
また、「ファイブスター・プログラム」と呼ばれるシステムの導入により、従業員が来場者に素晴らしい行動をした際に、上司からその場でファイブスターカードが手渡されます。良かった点をその場で認められることで、従業員のエンゲージメント向上につながり、結果として顧客満足度がいっそう高まる、プラスのスパイラルを生み出しています。
(参考:OLC GROUP『企業風土とES(従業員満足)』)
まとめ
ワークエンゲージメントの向上は働き方が多様化・複雑化する現代において、従業員がやりがいを感じながら生産性高く働き、顧客の満足にもつながります。
ワークエンゲージメントを向上させるためには、企業側が職場環境や仕組みを整えることが重要です。ぜひワークエンゲージメントを日頃から意識し、従業員が健康的で長く働ける環境作りに取り組んでみてはいかがでしょうか。