突然ですが、このようなことを感じてはいませんか?
- 「帰属意識とはどんなもの?」
- 「従業員エンゲージメントや従業員満足度とはどう違うの?」
- 「どうすれば帰属意識を高められる?」
昨今、従業員の帰属意識を高めようとする企業が増えてきています。
その理由は、ビジネス環境の複雑化や変化のスピードが速くなっており、先が見通せないVUCAの時代になっていることや、リモートワークの普及による社会的制約の増大により、従業員のマネジメントが難しくなってきていることが挙げられます。
本記事では、帰属意識の基本的な知識から、似ている概念との違い、高める方法などを解説していきます。
目次
帰属意識とは?
帰属意識とは、自分が特定の集団や組織に仲間として所属しているという意識や感覚のこと。もともとは心理学や精神分析学で使用されていた用語です。
帰属意識が高いと、企業に対して愛着や信頼感、一体感を感じやすくなります。自分は企業の一員であるという意識が強く、企業に貢献したいと感じるようになったり、解決すべき課題があれば自分ごととして捉えて主体的に取り組むようになったりします。
反対に、帰属意識が低いと企業の一員であるという感覚が薄れて、仕事に対するモチベーションも低下。
さらに組織のなかで自分の居場所を見つけられなくなって、同僚や上司とのコミュニケーションを避けてしまうケースも少なくありません。コミュニケーションが不足すると情報共有ができなくなり、業務の効率が落ちてしまいます。
仕事へのモチベーションがないため、自身の成長やキャリア形成に興味を持てず、最終的には辞めてしまうケースもあります。
そのため企業において従業員の帰属意識を高めることは、組織が成長するために重要であり、帰属意識を高めるための取り組みは必要不可欠といえるでしょう。
また企業だけではなく、自身が所属している部門や、企業が提供する商品やサービスなどに対する帰属意識も存在します。
帰属意識と似ている概念との違い
帰属意識と似ている概念に、下記の3つがあります。
- エンゲージメント
- 従業員満足度
- ロイヤリティー
これらはどのように異なるのでしょうか? それでは1つずつ解説していきます。
エンゲージメント
「エンゲージメント(Engagement)」とは、誓約や婚約、雇用といった意味をもつ言葉です。
ビジネスにおいては「従業員エンゲージメント」というように用いられます。従業員の組織に対する貢献意欲や信頼と、企業から社員への教育や福利厚生の提供なども含めた双方向の関係を指す言葉です。
一方で帰属意識とは、社員が企業に対して感じるものであり一方的な関係と言えます。
つまり、従業員エンゲージメントが高いということは、企業から社員に対して適切な支援が行われており、そして社員が自分が働く企業のことを誇りに思っており、企業のビジョンを実現するために仕事をしている状態を指しています。
したがって、企業は社員の帰属意識を向上させることも大切ですが、それと同時に社員に対して適切な支援や投資をしていかなければそれは実現できないでしょう。
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従業員満足度
従業員満足度とは、職場の環境や人間関係、働きがい、給与、福利厚生などの要素をもとに計測される従業員の満足度を指しています。英語では「Employee Satisfaction」といい、SEという略称で呼ばれることもあります。
従業員満足度が高ければ、社員は「この会社で働くことが楽しい」や「居心地が良い」と感じるようになり、結果的に従業員エンゲージメントや帰属意識も高まるでしょう。
つまり、帰属意識を高めるのであれば従業員満足度の向上は欠かせません。
ロイヤリティー
ロイヤリティーとは英語で「Loyalty」といい、「忠誠」や「忠義」という意味があります。企業においてロイヤリティーというと、従業員の企業に対する「忠誠心」や「愛社精神」と言い換えることができます。
ロイヤリティーが高ければ、従業員は組織の目標達成に向けて積極的に仕事に取り組むことで生産性が上がり、さらに離職率も下がるでしょう。
ロイヤリティーは従業員と企業との間には、「上下関係」や「主従関係」があり、下にいる従業員が上にいる企業にたいして献身的に貢献する、というのが前提となっています。
しかし一方で、帰属意識は企業と従業員との間には上下関係などはなく、この関係性そのものに違いがあります。
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帰属意識が「気持ち悪い」と言われるのはなぜか
近年、帰属意識は「気持ち悪い」「必要ない」と言われることが少なくありません。その理由は、時代が個を尊重しようという風潮になってきているからです。
企業への帰属意識を愛社精神と捉える人も多くいます。企業が帰属意識を持たせようとすることは、愛社精神を強要されていると感じてしまう従業員もいるでしょう。
すると帰属意識に対して嫌悪感を感じたり、従業員エンゲージメントが低下してしまったりします。企業意識を高めることは効果的ですが、強要をすることは避けましょう。
帰属意識を向上させることのメリットや効果
帰属意識を向上させることには下記のようなさまざまなメリットがあります。
- 離職率が下がり、従業員が定着する
- 団結力が高まり生産性が上がる
- 採用や教育にかかるコストの削減
それでは1つずつ解説していきます。
離職率が下がり、従業員が定着する
帰属意識が高まることで、企業への興味関心が増し、愛着心も生まれるため離職率が低下します。さらに、企業に長く努めてくれるようになれば企業への定着率も向上します
昨今は人手不足が深刻化しており、従業員が急に辞めてしまうとその穴を埋められずに仕事が進まなくなるケースが少なくありません。
しかし、帰属意識が高ければ人員の入れ替わりが減り安定的な業務が可能になるため、「この職場は働きやすい」と感じる従業員が増えていく好循環が生まれます。
団結力が高まり生産性が上がる
帰属意識が高い従業員が多い職場や企業では、組織の目標を達成するために従業員同士が協力するようになり、団結力が高まります。
また、帰属意識が高ければ一人ひとりが自分の役割やするべき仕事を認識し、自発的に動くようになります。さらに、個人的な感情で動くことが減り「会社に貢献したい」という気持ちをもって積極的に動けるようになるでしょう。
この結果、チームとしても個人としても生産性の向上が期待できます。
採用や教育にかかるコストの削減
帰属意識が低い企業では、離職率が高くなり従業員の採用や教育にかかるコストが大きくなってしまいます。一方で、帰属意識が高ければ、定着率が上がるため何度も採用や教育をする必要がなくなるため、その分だけコストの削減が可能です。
また、帰属意識が高い職場では採用する人材の質もあげられます。なぜなら、働いている従業員が「ここで働きたい」と感じているため、従業員の友人や知人を候補者とする「リファラル採用」が可能になるからです。
帰属意識が低いことのデメリットや効果
帰属意識が低いと、離職率の増加や生産性の低下など企業にさまざまなデメリットをもたらします。
1.離職率の増加
帰属意識が低いと離職率の増加が懸念されます。企業の一員であるという意識が薄れると、企業の理念やビジョンの共有が難しくなり、従業員の足並みが乱れてしまいます。さらにモチベーション低下の原因にも。
組織のなかに自分の居場所を見いだせずその組織に属することに価値を感じなくなれば、企業に愛着を持てなくなり、簡単に離職という選択肢を考えてしまうでしょう。その結果、離職率の増加を招きます。
2.生産性低下
業務遂行において帰属意識が低いと、業務やさまざまな企業の課題に対して自分事と捉えられません。自主性を持たずに業務をこなすだけになってしまうため、生産性の低下が起こる可能性があります。
企業へ貢献したいと思う気持ちも芽生えないため、企業の成長が難しくなるでしょう。
3.コミュニケーションの低下
帰属意識が低い人の特徴として、組織で一緒に働く人たちへの関心の低下が挙げられます。興味がない相手に対しては最低限のコミュニケーションで終わらせようとしたり、情報共有を怠ったりしてしまいがちです。これは生産性の低下にもつながります。
これから仲間と一緒に企業を盛り上げていきたいと思うこともないため、組織全体の士気が低下してしまうことも。企業が課題を抱えていても改善しようと考えることもなく、企業の成長が期待できなくなります。
4.既存従業員の負担の増加、採用・育成コストの増加
帰属意識が低い従業員が増えた結果、離職者が増加すると、離職者がそれまで従事していた業務を誰かが代わりに行わなければならないため、他の従業員の業務負担は増加します。あまりに負担が増えると、既存従業員のモチベーション低下の原因に。
また、企業は離職者の増加によって人員の補充が求められますが、採用や採用後の育成にはコストがかかるのもデメリットです。
帰属意識が低下する主な原因
帰属意識が低下してしまう主な原因は下記の3つです。
- 交流不足
- 終身雇用制度の崩壊
- 目的の共有不足
それでは1つずつ解説していきます。
交流不足
従業員と経営層、または部門と部門との間で交流が不足していると、従業員の帰属意識は下がっていきます。近年はコロナによるリモートワークが普及しているため、さらに交流が減りつつあるのが現状です。
直接の交流よりもオンラインのやり取りが増えていくと、何気ない雑談などができなくなり、帰属意識の低下が進んでいきます。
終身雇用制度の崩壊
日本において、これまで帰属意識の低下を防いできたのは終身雇用制度です。なぜなら「企業に入る=定年までその企業で仕事をする」という前提があったため、帰属意識が支えられてきました。
しかし、近年では終身雇用制度が崩壊しつつあり、一度入れば安泰だと言われていた大企業でも希望退職や早期退職を募るケースが少なくありません。終身雇用制度により「一度入れば安泰」という安心感のもとに貢献意欲が生まれていたので、それがなくなるとともに帰属意識も低下しています。
目的の共有不足
帰属意識において「自分の役割」や「自分がやるべきこと」を感じられることは重要です。しかし、企業の規模が大きくなるにつれて、企業のビジョンや方向性が曖昧になることや、目的が改定されることにより従業員が振り回されることで、帰属意識の低下につながることもあります。
また、自分が今取り掛かっている仕事が、企業にとってどんな意味や意義があるのかを感じられなくなることも、帰属意識の低下につながります。
帰属意識を高める6つの方法
従業員の帰属意識を高めるには、待遇や評価制度の改善、インナーブランディングの実施など6つの方法が考えられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.従業員の待遇改善
待遇改善は従業員の帰属意識を高めるために効果的です。例えば、福利厚生の充実が挙げられます。ただし、福利厚生が充実していることで有名な企業の制度や仕組みを、そのまま自社に持ってきても必ずしもマッチするとは限りません。
重要なのは自社の働き方や従業員に最適な福利厚生を整えることです。従業員から現状での課題や希望などを直接聞き取りをしてみるのも効果的でしょう。
その他、働き方についても見直す必要があります。ワーク・ライフ・バランスを重視した休暇の取得や時短勤務、テレワークの推進など、従業員が働きやすい環境を充実させるのもポイントです。
2.評価制度の改善
従業員の働きに対して正当な評価を行うことで、帰属意識の向上が期待できます。成果を出しても給与や労働条件に反映されなければ、モチベーションや生産性の低下を招きます。すると帰属意識も低くなるでしょう。
適切な評価は、従業員エンゲージメントを高め定着率を上げることにも貢献します。
3.インナーブランディングの実施
自社の従業員に向けたインナーブランディングも、帰属意識を高めることに有効です。
企業が大事にしている価値観やビジョンを社内に向けて広く発信し、共感してもらうことが大切。なぜなら企業のビジョンが浸透すれば、従業員は自分の業務がどのような意味や意義があるのかを実感できるようになるからです。
4.社内コミュニケーションの促進
近年はリモートワークが普及したことにより、直接やり取りするようなコミュニケーションが激減しています。しかし、帰属意識を高めるには社内コミュニケーションが重要です。
したがって、可能な限り従業員同士が雑談や気軽な会話を楽しめる機会や環境を用意するようにしましょう。
オフラインでできれば一番良いですが、コロナ禍の問題もあって難しい場合はオンラインでもなんらかの工夫をしてやり方を検討してみましょう。
また、現場の人間と経営層とのコミュニケーションを促進させることで、従業員は「企業の一員である」という認識を深めることが可能です。
5.業務・役割の明確化
帰属意識を高めるためには、自分の業務や役割を明確にして働く意味を認識することが大切です。なぜその業務や役割を行うのかを理解させることで、従業員は組織のなかに自分の居場所があることや自分の必要性を感じられ、帰属意識の向上が期待できるでしょう。
6.多様性を認める
従業員の心理的安全性を高めることも、帰属意識の向上につながります。企業のなかで性別、年齢、国籍を問わずありのままを受容してもらえると従業員が感じられれば、心理的安全性が高まります。
多様性を認められる環境の職場は、従業員が居心地が良く、モチベーションも維持できるので生産性も高められるでしょう。
その結果、帰属意識が向上します。
帰属意識の向上に成功した企業の事例紹介
サイボウズ:働き方の多様性を受容する制度を整備
グループウェアなどのソフトウェア開発で知られるサイボウズでは、離職率28%という定着率の低さが課題でした。そこで副業や在宅ワークの導入など多様な働き方を受容する制度を次々に新設して、帰属意識を高めることに成功しています。
2013年には「ワーク重視方」「ワークライフバランス型」「ライフ型」の3つから自分の働き方を選べる選択型人事制度を整備。
このような新しい取り組みは社外から高い評価を得て、企業ブランディングにつながり、さらにはインターナルブランディングとしても効果を発揮しました。結果として従業員の帰属意識が高まり、離職率は4%にまで低下しました。
オリエンタルランド:企業精神の浸透を徹底
オリエンタルランドにはアルバイトを含むたくさんの従業員がいますが、自チームのことに集中するあまり、他のチームとの連携意識が薄いことが課題でした。
そこでまずは、アルバイトも含むすべての従業員に対して顧客の幸せと従業員の幸せをどちらも追求することという企業精神を徹底して伝え、従業員同士の密な連携を目指しました。
また、立場にかかわらずアイデアを気軽に提案できる環境整備にも力を入れ、自主性を持った行動を取れるような環境作りを行っています。
その他、アルバイトであってもインセンティブがもらえる制度があったり、管理職を交えたコミュニケーションの場を設けたりと、帰属意識を高める取り組みを重ね、驚異の離職率0%という結果を残しています。
まとめ
この記事では帰属意識の基本的な意味から似た用語との違い、さらに帰属意識を高める方法などを解説しました。
社会を取り巻く環境の変化、終身雇用制度の崩壊、さらに働き方の多様化など、変化と多様性の時代となったことで個人の自由な働き方が実現されるようになった一方で、企業への帰属意識の低下は進んでいます。
しかし、生産性向上や従業員の定着には帰属意識の向上は非常に大きな意味を持ちます。
この記事を参考に、ぜひ一度自社の従業員の状態を把握し、その帰属意識向上のためにどういったことができるか、ご一考いただければ幸いです。