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グーグルのイノベーションとコトラーのマーケティング論の類似点

グーグルのイノベーションとコトラーのマーケティング論の類似点

グーグルには「X」という部署があり、ここでは「いかにイノベーションを生み出すか」だけを考えています。

インターネットの検索サービスで始まったグーグルが、まったくの異業種である自動運転車の開発で世界をリードしているのは、Xのイノベーション力のたまものです。

マーケティングの大家コトラーは、イノベーションを生み出すには、企業には「Aの人、Bの人、Cの人、Dの人、Eの人、Fの人」の6種類の人材が必要であると提唱しています。この「A-Fタイプ」論は、グーグルのイノベーションに通ずるところがあり、それは「組織的にイノベーションを生み出す」姿勢です。

グーグルの事例とコトラーの理論の2方向から「現代のイノベーション」を考察していきます。

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ネット検索企業が自動運転車企業になったのはイノベーションの力

ドライバーを必要としない自動運転車の開発競争が熾烈を極めています。それは自動運転車の競争が「自動車メーカーvs自動車メーカー」のみならず「自動車メーカーvsIT企業」でも起きているからです[1]。

自動運転車は道路に関するあらゆる情報を集める必要があるので、情報収集能力が高いインターネットを使う必要があります。そこにIT企業が参入する余地が生まれます。

しかしグーグルは自動運転車ビジネスに「参入している」というより「主導している」立場にあります。グーグルが公道で行った自動運転車の実験走行の距離は2018年3月までに800万メートルに達しました。これはどの自動車メーカーをも圧倒する数字です。

そして実力も自動車メーカーの自動運転車を上回ります。

グーグルがカリフォルニア州の交通当局に提出した資料によると、自動運転車の公道試験56.6万キロメートルのうち、ディスエンゲージメントした回数は63回でした。ディスエンゲージメントとは、走行中に自動運転システムを解除して人間の介入が必要になることです。

56.6万キロメートルを63回で割ると、8,984キロメートル/回です。

つまりグーグルの自動運転車は、8,984キロメートルに1回しかディスエンゲージメントを必要としなかったわけです。

「人の介入は8,984キロメートルに1回でよい」という数字には大きな価値があります。日本で「普通に」自動車を使う人の走行距離は年10,000キロメートルぐらいですので、いまグーグルの自動運転者が市販化されたら、運転者は年に1~2回しかハンドルを握らなくてよいことになります。

他の自動車メーカーがつくった自動運転車のディスエンゲージメントの回数は、GMが2,000キロメートルに1回、日産が300キロメートルに1回です[1])。

グーグルはインターネットの検索エンジンで「世界のIT企業」になりました。スマホのOSでも普及率で世界1位になっています[2]。

そこにさらに自動運転車分野でのトップランナーという冠が加わったわけです。

グーグルが3冠王を獲得できたのは、イノベーションを起こすのが上手な会社だからです。

イノベーション工房「X」の存在

先ほどから「グーグルが自動運転車を開発した」と紹介していますが、正確には自動運転車を開発しているのはウェイモ(WAYMO)という会社です。グーグルはアルファベットという持ち株会社をつくっているので、グーグルはアルファベットの傘下企業の1つです。ウェイモもアルファベットの傘下企業の1つです。

ただグーグルの共同創業者の1人であるラリー・ペイジ氏が、2018年現在のアルファベットのCEOなので「グーグル≒アルファベット」と考えていいでしょう。

そしてペイジ氏は、アルファベット内にイノベーション工房「X」という自身直轄の部署をつくりました。

Xの使命はムーンショット級のイノベーションを起こすことだけです。ムーンショットは1960年代に当時のアメリカ大統領だったジョン・F・ケネディが提唱した月ロケットの打ち上げ計画のことです。それが転じて、現代ではムーンショットは「困難で莫大な費用がかかる事業に取り組むこと」という意味で使われています。

ウェイモはXから生まれました[3]。
今風にいえば「Xからスピンアウトした」といったところです。

Xが世界トップレベルの自動運転車技術を生み出せたのは「独立」「スピード」「失敗」を重視しているからです。

グーグルは世界一成功している企業のひとつとはいえ、「無駄な開発」をすることは許されません。しかしイノベーションの多くは「無駄にみえる開発」から生まれることが珍しくありません。それでペイジ氏はXという独立した組織で「無駄にみえるけど必ず必要な開発」に取り組んだわけです。

仮に独立しない組織でイノベーション研究をさせると、本業に携わっている社員は「私たちが稼いだ資金で無駄な研究をしている」と考えるようになるでしょう。そうなるとイノベーションを研究している社員は居づらくなります。

例えば自動車メーカーのスバルがアイサイトという画期的な自動ブレーキシステムを開発しました。世間で話題になったのは2008年ごろですが、スバルは1980年代から自動ブレーキの開発を進めていました。30年近く普及するレベルに達しなかったことで、アイサイトの開発陣が社内で「肩身の狭い思いをした」ことは有名なエピソードです[3]。

話をXに戻します。

そしてXは開発スピードを重視するため、アイデアを出した社員にすぐに数十万円の資金と数週間の期間を与えて試作品をつくらせます。

――と、ここまでは普通の企業でも行っています。

ペイジ氏がユニークであるのは、失敗を奨励したことです。Xでは試作品で失敗すると上司から褒められます。あまりに素敵な失敗にはボーナスも出ます。

「イノベーション=(独立した環境での開発→スピーディな試作→失敗→学習)×繰り返し」が、グーグル式イノベーション生み出し術の方程式というわけです[4]。

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コトラーの「Aの人、Bの人、Cの人、Dの人、Eの人、Fの人」とは

コトラーの「コトラーのイノベーション・マーケティング」によると、企業などの組織がイノベーションを起こすにはAからFまでの6種類の人が必要です。それぞれの名称と役割は次のとおりです。

Aアクティベータ開始イノベーションを開始する人
Bブラウザ調査啓蒙、触発、解決に必要な情報を集める人
Cクリエータ着想コンセプトを練ってイノベーションを結実させる人
Dデベロッパ考案アイデアを発明に発展させ、解決策を出す人
Eエグゼキュータ実行市場に投入する人
Fファシリテータ後押しプロセスを効果的に進行させコストカットする人

この6人は順番に仕事をしていくことになります。つまりこういうことです。

・A→B:アクティベータがイノベーションの枠組みをブラウザに渡し
・B→C:ブラウザが適切な情報をクリエータに渡し
・C→D:クリエータがコンセプトをデベロッパに渡し
・D→E:デベロッパが解決策とマーケティングプランをエグゼキュータに渡し
・E:エグゼキュータが実行し
・F:ファシリテータが進行とコスト管理を行う

ここで注目したいのは、コトラーが考えるイノベーションは、「あまりに突拍子がないために凡人が理解できないアイデアを出し続ける『問題社員』を排除しなかった社長」といった成功物語で生み出されるものではない、ということです。

この「A-Fタイプ」論は、社内にA~Fの役割の人を配置することで、組織的かつ効率的にイノベーションを生み出していこう、という考え方です[5]。

組織、順番、繰り返し

「A-Fタイプ」論は、Xという独立組織をつくってイノベーションを生み出したグーグルと通じるものがあります。イノベーションは組織的に生み出していくものなのです。

またグーグルでは「独立した環境での開発→スピーディな試作→失敗→学習」という具合に順番と段階を重視していましたが、これも「Aな人→Bな人→Cな人→Dな人→Eな人→Fな人」と順繰りに進むコトラー流イノベーション術と似ています。

そしてコトラーとグーグルの2つのイノベーション論には、もう一つ似た点があります。それは「水平への展開」です。

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グーグルとコトラーの共通点は「水平への展開」

インターネット検索ビジネスはグーグルにとって、始業です。グーグルは検索機能を圧倒的に高めたことでネットユーザーを引き寄せるだけでなく、ネットユーザーを増やしていきました。グーグルは「グーグルを使えばネットは情報源になりうる」という新しい常識を生んだのです。

しかし検索エンジンはグーグルの発明品ではなく、米Yahoo!が最初につくったとされています。

また自動運転車にしても、グーグルがしていることは従来の自動車の価値を高めることです。

グーグルは、オリジナルがかすむくらい圧倒的な改良と便利さを加えることが上手な会社なのです。

そしてコトラーは「イノベーションを担うイノベーターが新たなアイデアを生み出すときになにが必要か」を考えたとき、垂直思考より水平思考のほうが優れていると説いています。

例えばシリアルメーカーであれば新しいシリアルを生み出そうとする(垂直思考)のではなく、シリアルを使って他にできることを考える(水平思考)ことが肝要だといいます。

カルビーがシリアルにドライフルーツや穀物を混ぜたフルグラをヒットさせたのは水平思考のたまものといえるでしょう。

また生活用品のユニ・チャームが生理用品の吸収体を応用して大人用オムツやペットシートをヒットさせたのも、ビジネスを水平に展開した成功例です。

グーグルがインターネットの検索サイトに地図機能や翻訳機能、さらに動画まで搭載したのも水平展開です。自動車からドライバーを取り除く発想も水平展開です。

そしてグーグルは自動運転技術だけではなく、世界3大自動車グループの一角を担うルノー・日産・三菱グループと2018年に技術提携をしました。その内容は、自動車のOSをグーグルのアンドロイドにすることです[6]。ルノー・日産・三菱の自動車には現在もOSを搭載しているので、この技術提携も水平展開です。

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まとめ~類似点は偶然ではないはず

グーグルほどの会社の幹部や社員であればコトラーの著書は当然読んでいるはずです。だからグーグルのビジネスモデルとコトラーの理論が類似しているのは偶然とはいえないでしょう。

しかしだからといって、グーグルがコトラーの著書を参考書にしてビジネスを組み立てていったとも思えません。またコトラーがグーグルの成長過程のみを参考にして理論をつくっているとも想像できません。

つまり世界最高のビジネスを展開しようとすると、世界最高のビジネス理論とおりになる、と考えたほうがよいのではないでしょうか。

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参照

[1]GMも圧倒する「グーグル」自動運転技術の脅威  https://toyokeizai.net/articles/-/211591
[2]AndroidとiOSの2強がスマホの9割占める、2012年Q4世界市場https://tech.nikkeibp.co.jp/it/article/NEWS/20130215/456467/
[3]【元祖ぶつからないクルマ】スバル・アイサイトの進化を追う https://www.webcartop.jp/2016/08/48766
[4]世界の企業から学ぶ「イノベーションの成功ポイント」https://dentsu-ho.com/articles/6055
[5]コトラーのイノベーション・マーケティングhttps://www.amazon.co.jp/%E3%82%B3%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%81%AE%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%B1%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0-%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%BC/dp/4798122343
[6]ルノー・日産自動車・三菱自動車、Googleと次世代インフォテインメントシステムで提携https://newsroom.nissan-global.com/releases/release-860852d7040eed420ffbaebb22094419-180918-02-j?lang=ja-JP
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35479800Y8A910C1TJ1000/

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