今、OODAは、PDCAサイクルに代わる新しい業務改善の手法として注目を浴びています。
OODAループは、Observe(観察)、Orient(状況判断・方向づけ)、Decide(意思決定)、Act(行動)の頭文字を取ったものです。
PDCAは、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)というサイクルを回して業務を改善していこうというものです。
今回の記事ではOODAループの概要や、なぜそれが求められているのか、PDCAサイクルとはどう違うのかについて解説いたします。
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目次
OODAループとは
OODAループは、Observe(観察)、Orient(状況判断・方向づけ)、Decide(意思決定)、Act(行動)の頭文字を取ったものです。これをわかりやすく表現してみると、「みる」「わかる」「きめる」「うごく」になり、このループを回していくのがOODAループになります。
歴史のところで詳しく説明いたしますが、これはアメリカ空軍のパイロットによって提唱されたもので、それをビジネスの分野に押し広げたものになります。
それでは一つひとつのフェーズを詳しく見ていきましょう。「観察」の段階では、とにかく観察をして、状況を分析します。相手の行動をつぶさに見て出方を伺い、生のデータを収集していきます。
「状況判断・方向付け」のフェーズにおいては、生のデータを元に情勢認識を行い、状況判断を行なっていきます。それから「意思決定」の段階では、情勢認識を元に、どのような計画を実行していくのかを決めていきます。最後に「実行」の段階に移ります。ここでは「意思決定」のフェーズで決めた計画を行動に移します。
行動をすると、何らかの結果が返ってきます。今度はそれを再び「観察」することによって、ループを最初から始めていきます。これをぐるぐる繰り返すことによってOODAループが完成します。
重要になってくるのは「このループを素早く繰り返すことによって、相手の優位に立つ」ということです。ただ漫然と繰り返すのではなく、一つのフェーズを迅速に、かつ正確に進めていく必要があります。
OODAループの歴史
OODAループを考案し、提唱したのは、ジョン・ボイドというアメリカ空軍のパイロットです。彼は戦闘機に乗っていた人物ですが、戦争を経験後、空軍基地内の養成機関で主任教官になります。
そうした人物が考案したものであるため、OODAループも軍事的なメソッドとしてスタートしました。後に研究家によってスポーツやビジネスの分野で応用されるようになり、現在、PDCAサイクルに代わる新理論として注目を浴びています。
OODAループのメリット・デメリット
OODAループのメリットは、状況を分析してから意思決定と行動に移るため、非常に臨機応変な対応ができるということです。計画を練りにねって結局頓挫してしまうのを防げますし、刻一刻と移り変わる情勢に対応しやすくなります。
反対にOODAループのデメリットは、ループを個人で回すため、組織全体の統制がしづらくなるという点です。PDCAと比較すると、PDCAは皆が同じ計画を実行するのに対して、OODAは個人単位でループを回すものです。
OODAループを導入する際は、必ずビジョンの共有などを行うようにしましょう。しかしあくまでも個人の判断を尊重するものなので、無理やり組織の型にはめてしまうのも得策ではありません。
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OODAループの具体例
それでは例を用いて、OODAループがどのような流れで行われているのか、実際に確認していきましょう。
例えばAさんはハンバーガー屋さんを経営していたとします。そして今年の夏、ナスなどの夏野菜をふんだんに使った新商品の「なすバーガー」の販売を開始しました。注文したお客さんからの評判はよく、店内に設置しているアンケートにも「なすバーガーが美味しかったです」という多数の声が寄せられました。
【観察】
ここで第1ステップである「観察」のフェーズに入ります。「観察」フェーズではとにかく情報収集に努めます。何気ない情報を手掛かりから有効な戦略を取れる可能性があるからです。
さて新商品の「なすバーガー」ですが、食べたお客様の評判とは裏腹に、普段の新商品と比べて売上が50%以上ダウンしていました。「なすバーガー」は、新商品としては失敗作に当たります。ここでAさんは様々な情報を収集します。
- 「なすバーガー」は、普段の新商品と比べて売上が50%以上ダウンしていた
- 注文したお客様からの評判は良かった
- 競合他社も夏らしい新作で勝負に出ている
OODAループは、同じフェーズを何度も繰り返すことによって成功に近づけていきます。最初の段階であれこれ悩まずに、まずは情報収集から一つの仮説を作り出すことが重要です。
【状況判断・方向付け】
さて「観察」を終えたら、今度は「状況判断・方向付け」のフェーズになります。「観察」フェーズで収集した情報を元に仮説を立てていくのがこの段階です。自分の経験と情報をすり合わせることによって、一つの仮説を作っていきます。
Aさんは「売上が少ないのにも関わらず、お客様からの評判が良かった」という点から、「味には問題がないので、他の部分で求心力をつけるべき」という仮説を生み出しました。
具体的には「なすバーガーという名前はどうなのだろう?」ということや、「ナス以外にもたくさんの夏野菜が使われているので、そこをアピールポイントにしよう」ということです。
ここで仮説を立てることができたので、次に意思決定のフェーズに入っていきます。
【意思決定】
このステップでは、最終段階である「実行」に向けて何をするかを決定します。その際に、
- 自分や組織がどうなりたいか
- 選択肢のリストアップ
- 効果的と思えるものを選択
の段階を踏みつつ意思決定をしていきます。Aさんは「なすバーガー」の味には自信がありました。そこで「なすバーガー」という野暮な名前を「たっぷり夏野菜バーガー」に変更し、ナスだけではなく他の夏野菜にも焦点を当てる選択をしました。
【実行】
実行ステップでは、実際に意思決定の内容を実行していきます。Aさんは「バーガーの名前を変更する」という意思決定をしました。なので、ここでは実際に「なすバーガー」という名前を「たっぷり夏野菜バーガー」という名前に変更します。
ここで重要になってくるのが、「実行」ステップを通過すると、またすぐに最初の「観察」ステップがやってくるということです。この例で考えれば、「名前の変更」が売上に反映され、効果があったのかどうかを測定できます。
OODAループで重要なことは、一度だけで成功させようとせず、何度もループさせる前提で物事に取り組むことです。ひとつひとつの結果に一喜一憂せず、迅速にループを回していくことが成功への一番の近道になります。
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OODAループが今求められる理由
それではOODAループがなぜ求められているのかについて見ていきます。基本的には「ビジネス環境の変化」と「AIやインターネットの発展」に大別されます。
ビジネス環境の変化
一つめがビジネス環境の変化です。昨今のビジネス環境の変化は凄まじく、テクノロジーの進歩によって急激な変化が起こっています。代表的なのがスマホ決済市場の競争激化であり、QR決済サービスの競争は熾烈なものでした。
また既存の業界も、最新のデジタルテクノロジーに脅かされつつあります。例えば3Dプリンターは急速な勢いで製造業を脅かしていますし、Spotifyなどのサブスクリプション型サービスによって、CDが売れなくなっています。民泊サービスが台頭し、本は電子書籍に置き換わりつつあり、塾・予備校と競合するようにオンライン学習サービスが充実し始めています。
このように、今までの常識を打ち破る新サービスが次々と生み出されています。そしてそれを支えているのが現代テクノロジーです。この劇的なスピードについていくには、こちらも早急に対策をする必要があります。
OODAループのところでも触れていきましたが、OODAループは迅速にプロセスを回していくことによって、あらゆる状況に対して臨機応変に対応することができます。もはや「PDCAでは間に合わない」時代になったからこそ、OODAが価値あるものとして注目を浴びているのです。
AIの発展やインターネットの急速な発展
一つめの話題ともつながりますが、「AIの発展やインターネットの急速な発展」も、OODAループが注目を浴びる理由の一つです。AIはビッグデータを活用することによって、人間では到達し得ない速度と正確性を持って分析を行うことができます。
しばしば「AIは既存の仕事を駆逐していく」というような使い方がなされていますが、それだけAIが注目されているということです。AIによってデータの分析が容易になり、SNSなどの発展によって「生のデータ」が集めやすくなりました。
こうした背景も相まって、現在、OODAループが注目を浴びているのです。
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OODAループとPDCAサイクルの違い
ここまでOODAループについて見ていきました。ここで気になった方も多いかとは思いますが、そもそもOODAループは、「PDCAサイクル」と何が違うのでしょうか?本章ではOODAループとPDCAサイクルの違いについて簡単に見ていきます。
最初にことわっておきますが、OODAとPDCAはまったく異なる目的で開発され、現在でも異なる目的で使い分けられているものです。OODAループとPDCAサイクルの比較を行いますが、あくまでも「別ジャンル」のものと考えておきましょう。
一応PDCAサイクルをおさらいしておきますと、「計画」「実行」「評価」「改善」のサイクルを回していくことによって、継続的な業務改善を促すものです。OODAループと同じように、最後のステップからまた最初のステップに戻り、循環するような構造になっています。
意外と知られていないことですが、PDCAサイクルは工場の生産性改善のためのフレームワークであり、「いかに低いコストで進め、高い生産性を発揮するか」という課題に対して運用されるものです。つまりそもそも「工程が明確になっていること」を前提に業務改善をするメソッドなので、そういう意味ではOODAループとまったく異なります。
OODAループはむしろ「工程が定まっておらず不確定な状況」を前提として、そこから情報収集をすることによって仮説を立てるものです。そのプロセスを迅速に繰り返していくことに効果があり、どちらかと言えば「明確な工程のないもの」に効果があります。
まとめるとPDCAサイクルは「どのように」業務改善をしていくかというフレームワークであり、OODAループは「何を」していくかを考えるフレームワークなので、両者の使い所は微妙に異なってくるのです。
次の章では、実際にOODAとPDCAをどう使い分けるべきか、という点に焦点を当てていきたいと思います。
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OODAループとPDCAサイクルの使い分け
それでは前章の内容をもとに、OODAループとPDCAサイクルの使い分けについて見ていこうと思います。具体的には「OODAループが適しているのはどんな時?」「PDCAが適しているのはどんな時?」という風に進めていきます。
重要になってくる点は、「OODAループは不確定な状況において真価を発揮する」ということと「PDCAサイクルは確定的な状況・工程が明確化している状況において真価を発揮する」ということです。
OODAループが適している場合
OODAループは先ほども触れたように、「刻一刻と変わっていく状況に対して臨機応変に対応できるメソッドであり、不確定なシチュエーションに対応するためのフレームワーク」です。PDCAが「計画を立てて実行する」のに対して、OODAは「状況を見てとりあえずやってみよう」の精神です。
具体的には「先が読めない状態」でOODAループが輝くことになります。「先が読めない」からこそ、生のデータを収集しつつ仮説を積み重ねていく必要があり、実行の試行回数を稼げるのです。PDCAの場合は計画に時間を取られたり、計画を共有することに手間がかかってしまうので、「瞬発性」が求められる場面には向いていません。
先ほどのハンバーガー店の例のように、「不定形の課題に対処する」場面においてはOODAが便利です。たとえば「新作の売上を改善するにはどうしたらいいか」というところから、「お昼ご飯には何を食べればいいか」という日常の些細な問題にまで適用できるのです。
PDCAが適している場合
逆にPDCAが適しているのは、「工程が明確であり、継続的に業務改善をしていく必要がある状況」においてです。PDCAは既存のプロセスを「どのように」変えていくかというフレームワークであり、こうした「継続性」「持続性」が求められる場面においては、OODAよりもPDCAサイクルの方が合っています。
先ほども触れたように、OODAループには「組織をまとめることが難しい」というデメリットがあります。その分PDCAは「計画」を共有し、一丸となって業務改善をしていくものなので、比較的統制がしやすいフレームワークになっています。
先ほどもご紹介したように、工場における生産性向上や業務改善など(つまり「工場の生産性をどのように上げていけばいいか?という課題」)に関しては、PDCAサイクルを回すのが便利です。
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OODAループを学ぶ方法
最後にOODAループを学ぶ方法についてまとめていきます。基本的には
- 「書籍で学ぶ」
- 「研修で学ぶ」
- 「日々の仕事を通じて学ぶ」
の3点です。書籍で理論的なことを学びつつ、研修・日常業務などの経験でさらに学習を深めていくのが効果的でしょう。
書籍で学ぶ
一人でもできる手っ取り早い方法が「書籍で学ぶ」ということです。紙の本でも電子書籍でも、OODAを学ぶ方法はたくさんあります。書籍で学習するメリットは「自分のペースで学習を進められる」点と「網羅的に学習できるという」点です。
自分のペースで学習を進められれば、つまずいたところをしっかりと見直し、知識をアップデートしていくことができます。また網羅的に、いわゆる「広く浅く」学んでおくことは、初学者にとってとても重要なことです。
例えばダイヤモンド社から出ている、入江仁之著『OODAループ思考入門 日本人のための世界最速思考マニュアル』は、初学者におすすめの書籍として知られています。他にもチェット・リチャーズ著『OODA LOOP』(東洋経済新報社)などの名著を合わせて読んでおくと良いでしょう。
研修を通じて学ぶ
「研修を通じて学ぶ」というのもOODAループの学習に効果的です。研修の良いところは、書籍と同じようにある程度の網羅性が担保されており、なおかつ実際の作業を通してやるので定着しやすいところです。
研修は座学のものからワークショップ型のものまであり、主体性を育てるのに利用できます。面白いところで言えば「サバイバルゲーム研修」というものがあり、「サバイバルゲーム」を通してOODAループを学んでいきます。
OODAループが海軍のパイロットによって提唱されたという話を覚えていますでしょうか。まさに戦争を検証することを研修として実施し、「どうすれば勝てるのか」を徹底的に考えます。
日々の仕事を通じて学ぶ
日々の仕事を通じて学ぶのも効果的でしょう。そもそもOODAは業務の中で無意識的にできるようになるのが理想です。書籍を読む場合と違って、日々の経験から学んでいくので、学習の深度はかなり高くなってきます。
しっかりとOODAループを回しているという意識を持ちながら業務にあたるだけでも、仕事のパフォーマンスや成長具合はまったく違ってきます。普段の業務からしっかりとOODAを意識して取り組みましょう。
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まとめ OODAループを日々の業務に活かそう
ここまでOODAについて眺めてきました。
OODAループは手法を理解するだけにとどまらず、実際に行動に移してみなければ意味がありません。書籍で学ぶことはとても重要ですが、頭で考えているだけでは何もしていないのと同じです。
そのためには日々の業務からしっかりとOODAを意識し、それを回している感覚を忘れないことが重要です。メリット・デメリットなどを理解した上で、ぜひ日々の業務改善に活かしていきましょう。
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