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どこまで行っても「組織あっての個人」
いま「フリーランスになって自由に働こう」「副業をやろう」「会社をうまく利用して、個人のスキルアップをしよう」という流れがあります。
「いまは個の時代だ」というメッセージは、至るところで耳にします。
ただ私はどこまでいっても「組織あっての個人」だと考えています。
会社員はどんなに優秀な人でも、外部からは「どこどこ社の誰々さん」というように所属する組織とセットで認識されていることがほとんどです。会社の看板、会社の力を「自分の力だ」と勘違いしている人もいますが、そういう人が下手に独立すると危険です。
個の力、個の存在だけで、生き抜いていける会社員はいないのです。
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人はコミュニティに貢献することで対価を得る
「会社に使われるのではなく、会社を使おう」という考え方をすすめている人もいます。
しかし、会社員であるなら「会社にうまく使われる」ことを意識するべきです。会社員は、会社から評価を得られないと本当は「死ぬ」存在です。そのことを認識しなければいけません。
ほぼすべての人は「組織やコミュニティに貢献できているかどうか」によって対価を獲得する存在です。よって「個人」と「組織」というように安易に分けてしまう考え方は危険なのです。
あくまで「組織の中の個人」「組織あっての個人」と認識しておかないと、それこそ「勘違い」になります。
さらに言えば、独立している人であっても、まったく「個人」で稼げるような人はいません。仮に「一人商店」であっても、自分なりのお客さんや関係者のコミュニティがないと仕事になりません。
独立して一人でやっていく。会社のトップとしてやっていく。それは市場からの評価をダイレクトに獲得する存在になるということです。それはより大きな「社会」というコミュニティに認められるというとても高度なことです。
会社員であれ、個人商店であれ、「コミュニティの一員として」成果を上げていかないといけない。そうしなければ、まわりからはどんどん「使えない」存在だと認識されていきます。
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「組織に頼るな」という大いなる勘違い
流行りのビジネス書を見ても「組織に頼るな」「会社に頼るな」ということが書いてあります。
「組織は最後まで面倒を見てくれない」「会社の利益よりも自分の利益を考えよ」といった論調も強まっています。自分で自分を評価して生きろ、といった話が多い。でも、それは「錯覚」なのです。
自分は今この瞬間、誰の評価を獲得しなければいけない存在なのか? その判断を間違えて生きると、死にます。
「独立して社会から評価を得る」仕組みも「組織の中で上司から評価を得る」仕組みも、本当は一緒です。唯一独立した場合「誰から評価を得るか」を選択できる存在に切り替わるので、自由になったように感じます。でも、その場合も「評価を得る」という仕組みは同じですし、難易度はもっと上がります。
会社においては、評価する人が誰かが決まっています。その相手に「何をもって自分を評価してくれますか?」と聞けば、たいてい教えてくれるでしょう。でも、市場が評価者になった場合は、マーケットに「自分は何で評価されますか?」と聞いても教えてくれないわけです。
「組織に頼るな」という言葉は、今組織で働いているサラリーマンに夢を見させ、勘違いさせるので、とても危険だと感じています。
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「終身雇用が崩れたから組織はいらない」という暴論
「個の時代」論者は「終身雇用や年功序列といった昔ながらの組織構造は崩壊した。だから組織にいる意味はない」というロジックを使います。
しかし、これには根本的な間違いがあります。
そもそも人間が集団をつくる理由は「集団でものごとを成したほうが、得られる成果が大きくなるから」です。「終身雇用や年功序列があるから」集団になっているわけではありません。「終身雇用や年功序列の組織じゃないといけない」という論理はそもそも成立しないのです。
集団だからこそできることがあります。
人は大きなものごとを動かしたり、大きな利益を獲得しようと思ったりしたときに「集団」になります。集団で大きな利益を獲得し、獲得した利益を分配する。そうすることで個々の人間が一人ずつ取り組むよりも、結果的に多くの利益、分配を獲得することができます。利益を最大化するための方法が「集団で動く」ということなのです。
集団のトップ、リーダーは組織を運営するスキルが必要です。一方で、その他のメンバーに必要なものは、やはり「集団の中でしっかりと利益に貢献し、自らの利益を最大化する能力」でしょう。
フリーランスを礼賛し、独立することがいいこととされ、集団を否定していくとどうなるでしょうか? 集団が全部崩壊して、全員が個人事業主になったらどうなるでしょうか? おそらく日本は世界でも最弱の国になってしまうでしょう。
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なぜ、人は組織をつくるのか?
「組織のメリットは仲間との結束感だ」という人もいます。もちろんそういう面もあるでしょうが、それは完全に補完的な利益です。仲間意識というようなものは、おまけです。
集団に属することで得られる第一のものは「個では獲得できないような利益」です。集団は大きな価値を世の中に提供することができます。だから「個では獲得できないような種類の利益」を獲得できるのです。
いくら「個人の時代だ」と言っても、結果として組織から離れてうまくいっている人は圧倒的少数です。
人間は集団をつくり、みんなで狩りをすることでマンモスも狩れるようになりました。小動物だけでなく、自分たちよりずっと大きいマンモスが狩れるようになった。じゃあ一人でマンモスを狩れるのかという話です。
それなのに、集団でいる理由が「終身雇用だ」「仲間意識だ」などというのは、根本的に間違っています。集団にならないと大きな成果が得られないことは、原始人でも気づいていたことなのです。
個人主義に見える人だって、ロケットをつくるとなれば大勢でつくるでしょう。組織を完全に否定してしまうと、ロケットも一人で作らなくてはならなくなります。そんなおかしな話はありません。
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「ティール組織」がうまくいくはずがない
なぜ「個人あっての会社」というものがもてはやされ始めたのでしょうか?
ひとつは、SNSなどで一般の人が力を持ち始めたからでしょう。これまで聞こえてこなかった多くの部下たちの声が可視化され、結束を始めたのです。
「個の時代」の盛り上がりとともに、一時期注目されたのが「ティール組織」というものです。
リーダーが不在でも、同じ情報を同じように聞けば、全メンバーが同じ質の最適な意思決定ができる。その前提に立っているのが「ティール組織」の大まかな考え方でしょう。
当然ながら、私はティール組織にはかなり否定的です。
ものすごく優秀な人間が数人で「ティール的」に動くことはできるかもしれません。しかし、多くの社員が集まって同じような動きをすることは絶対に不可能です。
組織の中でも立場によって優先事項は違ってきます。
たとえば、会社がつぶれたら社長は死にます。「死にます」というのは比喩ですが、少なくとも社員よりは直接的かつ大きな被害を受けることになります。一方、社員は会社がつぶれても死にません。それだけ立場の違いがあるのに同じ意思決定ができるわけがない。過去の経験もまったく違います。それなのに、同じ意思決定ができるわけがないのです。
ティール組織推進者は「情報の民主化」といったことを主張します。
昔はピラミッド階層で、いちばん上の人が情報をいちばん持っていたから従う意味があった。しかし今は情報が「民主化」されているから、みんなが意思決定者になってもうまくやっていけるはずだ、という主張です。
しかし戦争をイメージしてみてください。
兵士たちが同じ情報を得られたとしても、「俺はこっちがいい」、別の兵士は「あっちがいい」というように、それぞれが意思決定したらどうなるでしょうか? 誰が考えてもうまくいかないでしょう。
戦争が極端なら、スポーツをイメージしてもいい。
サッカーで「選手には情報を伝達しているので、監督もキャプテンも指示をせずにそれぞれで意思決定するように」と言ってもうまくいくはずがないのです。
リーダーが決めたルールに基づいて動く。だからうまくいくのです。
ティール組織のやり方でうまくいっているスポーツチームは聞いたことがないし、それで勝っているチームもないのではないでしょうか? どれだけ優秀な選手が集まっても、それだけでは勝てないのです。
小学生のサッカーのように、全員がボールに向かって走っていく場面を想像してください。大人はさすがにそこまではしませんが、個々のイマジネーションで戦うなどと言っていたら絶対に勝てません。
「キングダム」の世界で、もし全員がインカムをしていて同じ情報を獲得できたとして勝てるでしょうか? 勝てるイメージはないでしょう。誰が考えてもわかることなのに、なぜティールのような考え方が流行るのか、まったく理解できません。
「情報の民主化」などと言いますが、そもそも同じ情報を持っているわけがないのです。仮に同じ情報を持ったとしても、情報と掛け合わせるものがまったく違います。
感じる恐怖のレベルも違います。
私は社長なので、会社が伸びないことに対していちばん恐怖を感じる存在です。これに対して、社員はたとえば「自分の評価が下がるんじゃないか」とか「今、自分がのびのびと働けるかどうか」ということに恐怖を感じています。その2人に同じ意思決定ができるわけがないのです。
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まとめ そもそも人は一人では生きていけない
「個の時代」「個人を尊重する」「自由に働く」「組織に頼らない」……これらは耳障りのいい言葉です。
しかし、そもそも人は一人では生きていけない社会的な生きものです。
組織はあなたを縛り付けるために存在するわけではなく、利益を獲得するために存在するものです。流行りの言葉に惑わされて路頭に迷わないように気をつけてほしいものです。
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引用元:安藤広大/株式会社識学 代表取締役社長note「組織にルールを。」
https://note.com/kodaiando