インターネット・メディアの発達などにより、会社にとってコンプライアンスの重要性は年々増している状況です。
会社が持続可能な成長を続けていくためには、コンプライアンス意識を高めることが必須の要件になっていると言ってよいでしょう。
一度コンプライアンス違反が発生してしまうと、会社に対して重大なインパクトをもたらします。
世間からの信頼が失墜するのと同時に、事業を継続していくためには抜本的に事業の態勢を見直さざる事例は、枚挙に暇がありません。
そこでこの記事では、実際にあったコンプライアンス違反の事例に基づく仮想のケース・スタディを2つ取り上げます。
2つのケース・スタディにおいて、その原因・結果を分析して、コンプライアンス違反をいかにして回避すべきかということについての考察を試みます。
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目次
A社労働環境悪化事件
概要
全国チェーンで店舗を展開するA社では、マネジメントの意向により、店舗数の急速な拡大が進められていました。
一方で、店舗数の増加に対応する労働力の確保は満足に進められていませんでした。そのため、徐々に各店舗におけるオペレーションはひっ迫していきました。
特に深夜帯においてはワンオペ営業(店員が一人で店舗を切り盛りする状態)が常態化し、一般の社員やアルバイトですら「代わりがいない」状態になっていました。
こうした現場の状況について、マネジメントへは定例の取締役会における報告事項の一つとして伝えられていたに過ぎませんでした。
マネジメントは、労働者の状況よりも事業規模の拡大をより重要な課題として捉え、現場の状況の改善に取り組むことはありませんでした。
こうした状況は何とか社員とアルバイトの奮闘によりしばらく持ちこたえられていましたが、ついに限界を迎え、現場において重要な役割を担っていた社員とアルバイトが一斉に退職してしまいました。
事件の結果
人手不足に陥ったA社の現場のオペレーションは大混乱に陥り、A社はやむを得ず店舗の一時大量閉店と深夜営業の停止を決断しました。
事件の原因
A社の事件の主要な原因は、急速な事業規模拡大と人件費効率を追求するマネジメントの意思決定が、現場のオペレーションの実態と乖離していたことにあります。
事態が深刻化するまでマネジメント層の危機意識が生まれなかったのは、現場の状況についての取締役会への報告態勢が不十分であったことが一因となりました。
この事件の場合、問題を抱えているのは現場の一般社員・アルバイトという最も末端のレベルでした。
マネジメントが現場の状況を適切に吸い上げるためには、意識的に取締役会への報告態勢を整備しておく必要があったと言えるでしょう。
改善策
事件後、A社においては常勤監査役・社外取締役が設置され、コンプライアンス違反に対する監視体制が強化されました。
マネジメントの過度な事業拡大路線に対するブレーキとしての機能を果たすことを期待した体制の変更と言えるでしょう。
また、現場とマネジメントの間に、機動的に情報を吸い上げるための中間機構を設置し、現場とマネジメントの間のコミュニケーションの円滑化が図られました。
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B社期限切れ原材料使用事件
概要
B社は食品製造業を営む会社として長年にわたり堅調に成長を続けてきました。
ところが、B社の主力製品である食品の製造原材料について、消費期限切れのものが使用されていたことが判明しました。
さらに、一部商品の消費期限が、B社内で定めていた基準よりも延長して表示されていたことも判明しました。
これらの消費期限に関する偽装は、いずれも現場担当者の判断によって行われていました。
消費期限切れの原材料の使用については、原材料の消費期限切れは健康被害をもたらさないという現場担当者の経験則に基づいて、社内規程に反して行われたものでした。
一部商品の消費期限の延長については、本来であれば安全を期すために、科学的に判断される可食期間よりもやや短い期限を設定することとなっていました。
しかし、「あくまでも念のための設定なので、多少消費期限を延ばしても問題ない」と現場担当者が勝手に判断して消費期限を延ばしていたのです。
B社においては、食品の製造過程では現場担当者の経験と勘を尊重するような風土があり、マネジメントによる現場に対するモニタリング・レビューが機能しているとは言えない状況でした。
事件の結果
消費期限の偽装問題はマスコミにより連日報道され、B社は世間の信頼を失いました。
その結果、代表取締役の辞任および一定期間の生産・販売活動の自粛に追い込まれました。
事件の原因
B社の事件の主要な原因も、やはりマネジメントと現場レベルの認識・意識の乖離にあるといえるでしょう。
B社は伝統的な食品製造会社であり、現場で食品の製造を担当する社員には職人のような気質が残っていました。
そのような企業風土も影響してか、マネジメントとしても現場のことは現場任せで、現場のオペレーションの検証には積極的ではありませんでした。
その結果、マネジメントと生産現場の間でコミュニケーションが途絶し、マネジメントは消費期限偽装の問題を把握することができなかったと考えられます。
改善策
事件後、B社は社長直轄の部署として品質保証部門を設置し、品質管理についての現場の状況を監視させ、社長に直接報告させる体制を作りました。
また、現場レベルで形骸化していたマニュアル類を再整備し、現場の経験と勘に頼るのではなく、一定程度均一な製品を生産できるように現場のオペレーションを改革しました。
現場のコンプライアンス感覚を要請する
A社・B社の事例でもそうであったように、現場のオペレーションにおいてコンプライアンス違反が発生する例は非常に多く見られます。
よって、コンプライアンス違反は、第一義的には現場で防ぐように努めなければなりません。
そのためには社員教育を徹底して、現場担当者のコンプライアンス感覚を養成することが重要です。
B社の事例のようにマニュアル類の整備をすることも有効でしょう。
また、自社による社員教育だけでは限界があるという場合には、外部講師を招いたり、コンプライアンスに長けた人材を外部からヘッドハンティングにより招聘したりすることも考えられます。
マネジメント視点でのモニタリング&レビュー
A社、B社の両事例において共通していたのは、マネジメントの視点によるモニタリング・レビューの仕組みが機能していなかったという点です。
現場におけるコンプライアンス上の問題を是正するためには、現場のオペレーションをマネジメントが後から確認・検証するための仕組みが必要です。
最も重要なことは、マネジメントに対して適切に現場からの報告が上がってくる体制を整えておくことです。
A社、B社の事例のように、現場にとって相談しやすい中間的な部署を設置して、そこからマネジメントが現場の情報を吸い上げるということも有効でしょう。
また、マネジメント自体が利潤を追求するあまり足元のコンプライアンスをおろそかにしてしまう例もあります(A社の事例)。
マネジメントの暴走に対するブレーキ機構として、社外取締役・監査役を設置することも効果的と考えられます。
まとめ:現場とマネジメントの二段階でのコンプライアンス・チェック体制を整備
このように、コンプライアンス違反を回避するためには、
①現場とマネジメントのそれぞれにおいてコンプライアンス意識を高めること
②双方のコミュニケーションを緊密に行い、情報と意識の共有に努めること
が重要となります。
マネジメントの立場にある方は、ぜひ自社の状況を振り返ってみて、コンプライアンス違反のリスクを適切に抑えることができる体制になっているかを確認してみてください。
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